わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十八回
白と青のウジャヤラ・ダニロに乗った『惑星探索』隊は、いよいよその謎の惑星の軌道に到達した。
真っ青な海が全体の5分の一程度を占めている。大気は現在の金星よりもはるかに地球に近くて、あまり細工しなくても、十分生活できそうだ。太陽からの有害な放射も見られない。
「これはまた、天国のような惑星ですなあ。」
局長が感嘆している。
「甘いものには気を付けろ、ですぞ。」
マズルカ指令が嫌味を言った。
「あなたは糖尿病だからね。」
「おほん。まあ、そうですなあ。北極地方と南極地方は、これは寒すぎですな。人間には住めそうにない。しかし、この赤道付近の準大陸はいいですよ。開発は必要だが、資源もありますぞお~。北側は冬はちょっと寒そうですが、変化があって面白いでしょうな。植物もたくさんあるが、詳しい事は降りて見なければ。」
「探査機を、まず降ろしましょう。」
「了解。小型探査機発射させます。」
「生物は?」
「ここからでは、確認できませんが、おっと、待ってくださいよ、これはなんだろう。」
「何か?」
局長が身を乗り出した。
「これは、FM波ですな。90MHZ、あたりに何か感じました。追いかけますよ。強い電波じゃアない。地方のFM放送局程度です。この大陸の、ずっと北側の方ですな。」
ウジャヤラ・ダニロは自由自在に惑星の上を動くことができる。
「この下ですが、降りますか?これは人工的な信号でしょうなあ。ということは、住民がいるという事で、FM放送なんかしているんだったら、飛行機くらいは持ってるでしょう。ミサイルとかも。」
「探査機を先に降ろして。」
局長が指示した。
「了解、了解。現在探査機、大気圏内に入って降下中。もう少し・・・お空の中に出ますよ。はい映像が来ます。」
山が見える。
深い山だ。しかし、海岸線も見えているぞ・・・
特に、飛行機が飛んできたり攻撃を受けたりはしていない。
「レーダーの照射とかもないですね。もっと下がります。おっと、FM波が急に強くなりました。出します。なんだこれは・・・。音楽ですな・・・」
金星人の耳には、何ともなじみのない、『音楽らしき』ものだ。
数人が歌っているらしいが、聞いたことのない言葉だ。
しかも、その歌の線がずれずれで、必ずしも協和していない。
音がぶつかり合ったり、逃げあったりしている。
その間に、太鼓を叩くような音も混じるが、金星のような『ドドーン』と鳴り響くものではない。
『かぽ。かぽ。・・・・・・・』と、小さくつぶやくだけだ。
『ぽろろん』、という、ハープのような音もするが、旋律にはならない。
「いやあ、なんとも、気長な音楽ですなあ。これが音楽ならば。」
「まあ、しかし、ここには先住民がいる。しかも、我々に向けて放送してきてるんだよ。」
局長が言った。
「なんで、我々に・・・なんですかな?」
「急に、電波の出力が強くなったのならば、我々に向けてやってるんだろう。レーダじゃないならば、望遠鏡で見てるのかもしれないな。」
「そうですか?そんなことがあるかな。まさか、歓迎のセレモニーですか?」
「あ、ほら、あそこ見たまえ、あそこだ。街があるじゃないか。」
「うわ。びっくしだ。本当だ。電波の発信地は、まさにあそこですなあ。」
「ふうん。こりゃあ大変だ。呼び掛けて見給え。」
「ふうん。もう少し調べましょうよ。」
「いやいや、敵意が無い事を、まずは伝えよう。客観的にだ。そういうプログラムでしょう?」
「確かに。じゃあ、接触プログラム発動します。」
『私共には、敵意はアリマセン。こちらから攻撃することはありません。これは攻撃ではありません。』
同じ内容を、金星人が知っている、あらゆる言語、文字、映像で表現したもの、数字、データで表現したものを送信している。
10分続けた。
「何か来たか?」
「いえ。相変わらずあの音楽だけです。これは、受信していないのではないかと・・・あるいは、すでに滅亡したとか・・・探査機が町の上空1000メートルにまで降りましたが、異常なし。街に生命体なし。これは、遅く来過ぎたかもしれないですね。でも・・・・こりゃあ、奇麗だな。全く使われたような様子がない。おかしいですね。新築そのままだな。」
「探査機を街の中にまで降ろしますよ。」
「うん。やってみよう。」
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「これは、まさにぴかぴかだな。」
「すごいですなあ。この街は。火星の首都も真っ青だ。しかも、人っ子一人いないときている。」
「他の探査機は?」
「もう一か所、街を見つけましたが、状況は同じです。瓜二つですが、一点だけ違いがありました。」
「ほう?どんな?」
局長が興味深そうに尋ねた。
「屋根の色です。ここは全体的に青系の色。もう一か所はピンク系。」
「はあ・・・どのくらいの人数受け入れできそうなのかな。」
「そこは、まだ調査しなくては。」
音楽の放送が止まった。
「あ、止まったぞ。」
「ええ?」
局長と、指令は、次に何が来るのかを聞き入った。
長い長い時間だった。
『皆さま、ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします。』
火星標準語と、金星標準語、それから両星の、他の代表的な言語が流れた。それから、聞いたことのない見たこともない言語が続いた。
「うわ。なんなんだ、これは。」
『ここは、あなた方の星です。ご自由にお使いください。住宅設備も、その他のものも、すべてそうです。
ただし、ここは全く汚染されていないピュアな環境です。汚さないでください。この星と、備え付けの施設の内容をデータとしてお送りいたします。よく確認し、よく話し合って、正しく、美しくお使いください。ここの環境が維持できるかどうかは、あなた方の英知と努力に掛かっております。期限はありません。最後の責任を取るのも、あなた方です。困ったことが起こったら、可能な範囲でお助けいたします。わたくしは、中央セレモニーホールの地下室におります。では、ご健闘を祈ります。』
その声は終わったが、データはどんどん送信されて来ていた。
「大変だ。ものすごいデータ量だ。『ウジャヤラ・ダニロ』が満載になりますよ。」
「まずは、ブリアニデス様に報告入れよう。それからだ。」
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パル君と番頭さんは、応接室内に、しずしずと入って行った。
しかし、パル君の顔は、何か希望に満ち溢れた表情になっている。
その顔を見て、ウナの心は、はっきりと決まった。
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