わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十六回
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「皆さんご心配なのは、よくわかります。今ソー君が言ってくれたように、かなり多くの恒星は、連星構造になっていることが多いのです。それぞれが、お互いの重心を中心に回っています。暗い方が伴星と呼ばれます。我らが太陽さんにも、暗い相方がいたわけですが、2600万年周期で回りあっています。円ではなくて長が~い楕円です。この星が、太陽系の外縁部に接近してくると、そこにある大量の星のかけらを刺激して、彼らは太陽に向かって落ちてくるようになります。それが2600万年周期で起こるのです。太陽系からすれば、そう長い時間でもないですが、人間の現実社会にとっては、ほぼ無視していてよい時間でした。過去大きな被害があったにもかかわらず、女王とその支配者であるブリューリは、この問題は長く秘密にしていました。でも再び、その時が近づいてきています。ただし、大部分の皆さん方個人が、影響を受ける時間の範囲ではありません。まだ100年とか200年というような事ではありません。でも、そうは言っても、10000年よりは、もっと近くなってきました。とは言え、個々の小惑星の動きを今から明確に予測するのは、まだ出来る段階でもありません。それでも、そろそろ子孫の為に準備しなくてはならない時期には来ているのです。ぼくはこの情報を、『あるデータ』から発見しました。その出どころを、いまお知らせすることは、安全保障上出来ませんが、その星の正体や場所は、かつての火星人はよく知っていましたが、その後忘れられてしまいました。とても暗い星で見えにくいのですが、でも、今ならば、もう半月以内には、再発見します。本当はすでにしていたはずなんですが、今回のごたごたで延び延びになっておりました。再発見後には、観測装置を飛ばすこともできるでしょう。新しい情報は、必ず、お知らせいたします。」
『あらっら、ヘレナが教えたのではないんですか?』
アニーが質問してきた。
『いええ。そうじゃないわ。』
『じゃああ、誰が教えたのですか?『ママ』ですか?』
『たぶん違う。まあ、推測だけれども、あの地球の未来から来た、ジャヌアンさんでしょうね。彼女が何らかのデータを持ってきていた。それを、何かの方法でダレルちゃんに渡した。そんなところじゃないかな。』
『ふうん。』
『で、あなたの計算では実際のところ、どうなんですか?』
『現在の地球の生物体系は、確かに9500年後には、周期的な大絶滅事件に出会う可能性が高いでしょう。99%に達する種が絶滅するでしょう。しかし、これは太陽の伴星による、自然の絶滅事件だけでは今回は留まらないと予測されます。もっと人為的な超災害がいくつか発生するでしょう。』
『もしかして、空中都市かな?それと、『ママ』か。』
『はい。その通り。あなたが異次元に放り出したはずの大量の「空中都市」のうち、未来のあなたが構築する未完成の「空間トンネル」に落っこちてしまった都市のうちのふたつが、ちょうどそのころ、異次元トンネルから地球上に陥落して、大爆発します。住民を救う時間を確保するとすれば、衝突は避けられません。助けられるのは、ほんの一瞬ですよ。100万分の一秒だけです。アニーはその瞬間を狙って、空中都市の住民約1500万人を救出することは可能ですが、衝突の阻止は出来ません。その瞬間以外に住民の救出は出来ないです。あなたは出来ますか?』
『そりゃあ、まだないものは、まだ助けられないわね。とはいっても、その『大予言』クラスの情報は、いったい何処から来たの?』
『さあ、勝手にデータが入っていましたからねえ。』
『はあ・・・それも、ジャヌアンさんがやったわけか。わたくしは、その時、誰も、何も助けなかった。そういうわけだな。そこをしっかりと、アピールしたかったんだ。』
『ややこしいですねえ。アニーには侵入された感覚はないですよ。』
『そうでしょうとも。まあ、その時、他にも何かが起こるという訳よね。わたくしが必死になるような。』
『そのデータも、アリマセン。しかし、この二つだけでは、99%という数字は行き過ぎに思います。残りが『ママ』と、もしかしてへレナが言う、さらに何か、なんだと推測されます。空中都市とママが無ければ、絶滅率はもっと下がるでしょう。』
『まあ、そうでしょうねえ。どうせあの子の策略でしょうから。未来を変えようとしている。いや、過去かな。』
『どうしますか?』
『さあてと・・・・どうしようかなあ? ここは伴星を、一挙に消しますか。』
『またまた、あそこにはだって、あなたの大切なものが詰まっている。あれを消去したら、あなたの故郷探しはさらに大幅に困難になるでしょう。』
『場所を換えるだけよ。』
『どこにですか? あれは『真の都』には向かないですよ。精神じゃあないですからね。もし軌道を変えたら、太陽にも影響が出ますし、未来が変わります。あらら・・・そこを狙ってますか?』
『ふうん。まあ冗談よ。忘れて。『自然には直接には手を出さない』。これ、わたくしのポリシーだものね。それより、空中都市の方だな。それと、『ママ』。これが一番手っ取り早い。』
『はい・・・大丈夫かなあ・・・・・』
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「ねえ、マヤコさん、ビュリアさんに頼んでみてよ。」
「だめ。やはり危険すぎ。もしパル君がいなくなったら、ウナはどうすればいいの?」
マヤコは、二人のやり取りを眺めていた。
「ふうん。でもね、パル君。これはやはり、ウナが言う通り、あまりに危険すぎる。というか、まったく見通しが立たない。『ママ』という存在は、元は人間だったとしても、今はもう人間じゃないようだし、それに相当危険な精神状態になってる。『ママ』に今必要なのは、お医者さんよ。」
「でもね、『ママ』は多分、愛しいものがいなくなってしまって、困ってるんだよ。」
「『愛しいもの』?」
「そうさ。もとはきっとビュリアさん、とかだったんだ。でも、みんな大人になって、自分のところから離れてしまったんだ。『ママ』は、さびしいんだよ。」
「でも、パル君がいなくなったら、ウナが寂しくって病気になってしまうわよ。」
マヤコが諭した。
「ううん・・・それは、『超ビッグ・顔面カウンター』だなあ。」
火星の人気アニメの主人公が、相方の女性にガツンとやられた時によく使うセリフである。
「そういう事よ。」
そこに、女将さんがやって来たのであった。
かなり、浮かない顔をしている。
「あら、女将さん、どうなさいましたか?」
マヤコが心配そうに尋ねた。
「ええ、それがねえ・・・・ちょっとお二人にお話があるんだけれど・・・パル君、少し番頭さんと遊んでてくれないかなあ。」
女将さんの後ろから、もうすぐ笑顔が爆発してしまいそうな、番頭さんの顔が覗いていた。
「うん、いいよ。」
三人は、応接室に入って行った。
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「なんだか、正月早々、危ないニュースが多いですね。」
正晴君がジュースを飲みながら言いました。
「自信過剰と、はったり過剰は、喧嘩の『即席麺』ですよ。」
「ぶ! 面白い! お饅頭一個分!」
幸子さんが、お酒ぱっくを、ひねりつぶしながら言いました。
「でもね、どこでも大方の人たちは、本当に皆、真面目に言ってるの。そこが難しい。問題は、親分たちがどこまで、真摯に冷静に判断や説得ができるかですわ、よ。」
第二王女様が言いました。
「第二王女様は、これで意外と怖いのですよ。第三王女様は、さらに怖いのよね。」
第一王女様がおっしゃいました。
「あなたがたは、お互いにけん制し合う。それは良い事ですよ。ブレーキを踏む人がいなくなったら、政治も行政も会社も個人も、ちょっと怖いですよ。」
「こらあ、おまえらだけで楽しむなあ!!」
なだれ込んできたのは、なんと第三王女様ではありませんか。
「あらまあ、あなたまさか酔ってるの?」
第一王女様が追求しました。
「まさか、まだお酒は飲めませぬ。ババヌッキジュースだけです。わらわは、健全なのです。」
「まああ、それは、まあけっこうなこと。なんか怪しいな・・・」
第二王女様がつぶやきました。
「お二人とも、王国では解禁ですが、日本ではまだ、飲めませぬぞ!」
「はいはい。でも三人とも来てしまって、いいのかな?」
「かまわぬであろう。じじに任せてきた。それよりは、やましんさまが、おかわいそうじゃ。」
「ありがとう。ううう・・・・・・・でも、もうお正月も終わりですよ。みなさんそれぞれ、今年も頑張ってください。ただし、平和に平和に、もひとつ平和に。よろしくお願いしますね。喧嘩の『即席麺』に陥らないように。おたがいテーブルを囲んで、良く煮て、焼いて、ほぐして、仲良くしてくださいね。喧嘩は見ているだけで、悲しいですから。」
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