わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十五回
*************** **************
「ねえ、ウナ。あの金星の『ママ』というのは、なんであんなに、意地が悪いのかな?」
パルくんからそう聞かれてしまうと、ウナとしては、なかなかよい回答が思いつかないのだった。
「さあ。たぶんお年を取って、色々な事が気に入らなくなっちゃったのよ。」
「ふうん。それは、気の毒だね。」
「え? ああ、うん。そうだね。」
「慰めてあげなくっちゃいけないね。」
「はあ?どうやって?」
「そうだなあ。ぼくがお話に行って見ようか?」
「まさか。『ママ』はビュリアさんの言うことにも反発してるんだから、見も知らないパルくんのお話を聞くと思う?」
「それは、わからないよ。やって見なくっちゃ。」
「はあ。第一、どうやってママに接触できるのかもわからないし。それは危険すぎるからね。」
「大丈夫だよ。ぼくは、なんとなく自信があるんだ。ねえ、ウナ、ビュリアさんに話してみてよ。」
「はあ? いやそう言われましても、ビュリアさんは雲の上のそのまた遥かな彼方の方ですからね。」
「でも、マヤコさんは、ビュリアさんを知ってるんでしょう?」
「それは、そうらしいけれど。」
「ぼくを探し出すのに、ビュリアさんの後押しがあったように聞いたよ。」
「確かに、そういう指示は出してくださったようだけども、それはちょっと意味合いが違うのよ。」
「どう違うの?」
「えと、つまり、個人的なつながりじゃあなくて、何と言うかな、ビュリア様のお立場からくるものだからね。」
「ふうん。大人は立場で仕事をするんだなあ。でも、助けてくれた恩人なんだから、お返ししなくっちゃあいけないだろう?ね。ウナ。」
「ううん・・・・。まあ、そうなんですが・・・・で、も、相手は普通の人間じゃあないからね、なんというか、怪物と言うか・・・、まあ、そういう方だからね。」
そう言いながらも、自分も十分怪物だよな、と、ウナは思ってはいた。
マヤコは、ちょっと席を外していたのだが、この話の終わりごろには戻ってきた。
「うん? どうしたのかな? パル君。」
温泉地球のゆったりとしたロビーのソファーに腰かけながら、マヤコは尋ねた。
「うん、ぼくね、金星の『ママ』に会ってみたいなあって、ウナに話してたんだ。」
「もう、パル君は・・・・。自分が説得するとか言って。困ってしまって・・・」
「はあああ。なるほど。」
マヤコは肯いた。
「すごいねえ~~。パル君。良い考えだとは思うけれど、相手がちょっとクセモノ過ぎるかなあ。」
「でしょう!・・・」
「ふん。確かにねエ。食べられちゃうかもしれないしなあ。」
「ぼくは、やせてるから、美味しくないよ。」
「まあねえ、たっぷり食べさせてくれて、それから、という事もあるかも。」
「それでは、経費の無駄使いだよ。ぼくに食べさせるんだったら、まず自分で食べた方が効率的でしょ?偉い人って、だいたいそうなんじゃないの?」
「そりゃあ、まあ、そうだ。」
マヤコがあっさりと、同意した。
「でも、『ママ』が何を食べてるんだか、これまで、考えたこともなかったよ。」
そうした会話も、アニーは残らずチェックしていた。
大概のものは、ヘレナの悪口であろうが、ビューナスを賛美するものであろうが、反体制的であろうがそうでもなさそうであろうが、ほったらかしにしている。
つまり基本的には一切介入しないのが、アニーの役割である。
しかし、大きなテロ事件になりそうな場合とか、逆な意味で、なんだか面白そうな場合に、アニー独自の判断でヘレナに報告したりもする。
アニー自身の機嫌が良くなければ、大事な事でも、時にほったらかしにもするけれど。
しかし、このパルくんの話は、アニーの気をそそった。
そこで、ヘレナにこの話を伝えたのである。
『ふううん。パル君かあ。確かに、ちょっと実力を試してみたい気はするんだなあ。』
『おや、もう目を付けていたんですか。』
『まあね。並の子じゃあないわよ。』
相変わらず質問攻めにされながら、一方でヘレナはアニーとこうした会話をしていたのだった。
「この、『ママ』に対する対策は、どうするのかね?」
ブル先生が相変わらず噛みついていた。
「ああ、ブル先生は指名しておりません。」
カタクリニウク議長が、統制に苦労している。
「冗談じゃない。地球に移住する人々にとっては、この『ママ』の言う『大量絶滅』は大問題ですよ。」
会場内がざわめいている。
「はい、あなた。」
議長は、一人の青年を指名した。
それは、ソーだったのである。
「生物種の大量絶滅は、実は、過去に金星でもありました。火星でもあったのです。しかも同じ時期にですよ。『ママ』はそのことを知っていて、言っているのですよ。大量絶滅の原因は、いくつか挙げられてはいるのですが、しかし、その一つの原因による大量絶滅が、周期的に起こってきたことは確かなのです。それが、なんだったのか? 実は火星人も金星人も経験しているし、その記録もあった。しかし、ブリューリと女王が、その記録と記憶を消去したのです。それは、二千六百万年ごとに太陽系に接近する太陽の伴星が原因だったのです。その星は、間もなく太陽系に帰ってきます。女王も、ビューナスも、そのことをよく知っていたが、公表はしていなかった。また、ダレルさんや、リリカ首相も当然知っていたのです。ぼくは、この会議中に、タイミングを見ながらこのお話をする許可をダレルさんからいただきました。『ママ』は、そのことを利用しようとしている。それが真実だと思います。だから、先ほどの『ママ』の脅しを、あまりに気にする必要はない。ただし、逆に、この星に対する対策は、作っておく必要があります。」
またまた、会場内が大幅に沸騰していた。
「いったい、それは何時ですかあ~~?!」
「はっきり言いましょう!」
あっちこっちで、そうした声が飛び交っていた。
「ああ、どなたが説明するのですかな?」
議長が事務局の方を向きながら尋ねた。
「ダレルさんかな?」
ダレルが手を挙げていた。
『ああ、出ちゃいましたよ。その話しが。』
『まあ、ダレルさんも、ここで、言うつもりだったわけよ。いいタイミングだったじゃない。ママの顔が今見たいところね。』
『しかしですねえ、あの太陽の伴星は、実のところを言えば・・・』
『ストップ、ストップ。それは秘密です。ママに知られちゃまずいもの。』
『聞こえませんよ。』
『まあね。』
*************** ***************
*************** ***************
「やましんさあん、ハピー・ニュー・イアー!!」
幸子さんと、第一・第二王女様、それに弘志君と正晴君と武君が、尋ねてきました。
「やあ、あけましておめでとうございます。」
「ほら、やっぱり一人でいる。」
幸子さんが言いました。
「奥さんは?」
「いましたよ。午前中は。実家にでも行ってるんでしょう。」
「まあまあ、ほらお寿司持ってきました。」
第一王女様が言いました。
「お饅頭も、いっぱい。」
幸子さんが大きな箱を持って来ていました。
「お邪魔しまーす。」
これは、また大騒ぎになることは間違いありません。
ただし、ぼく以外の人には、姿が見えないんですけれどね。
「太陽のバンセイって言うのはなんですか?」
幸子さんが、お饅頭をいっぱいくわえながら言いました。
「それはね、デヴィッド・ロープさんと、J・セプコスキさんという偉い学者さんが発表した論文でね、地球上の生物の大量絶滅が、周期的に起こっていると考えられる、という説なのよ。その原因が、太陽の兄弟星で、かなり小さめの赤色矮星らしき星によって引き起こされているというの。ただ、まだその星の実際の観測は成功していない。その星は太陽の周りを2600万年かけて回っているというの。今丁度、一番遠いところにいて、1300万年後にはまた近くに帰ってくると。すると再び大量絶滅が起こると。でも、一方で、いますでに大量絶滅時代に入っているという話もあるし、正しいかどうかは、まだ証明されていない。それを、やましんさんは本で読んだと、こういう訳よ。ね。」
第一王女様が説明してくれました。
「まあ、そうです。このお話の中で、実際にその状況を見ていたのは、女王さまだけということです。」
「ふうん。そうなんだ。やましんさんの頭の中は、実は空っぽなのに、本だけは多少は読んでるんですよね。発想は貧弱なのに。」
「う・・・まあ、多少は。抜き読みが多いですが。」
「つまみ食いですか。幸子が得意な。」
「はあ、まあ、そうですね。学生時代からそうでした。」
「幸子さん、やましんさんは落ち込んでるから、あまり刺激すると危ないよ。動かなくなるんだから。」
これは、弘志君です。
「大丈夫です。けっこう、あまり感じて無いんだから。」
「はあ、相手が幸子さんだからですよ・・・・・。」
「まあ、そうね。でも、昔からナイーブな割に、鈍感だったことは確かね。」
第二王女様です。
「実はね、大昔の構想では、僕が主役だったんだ。いつの間にか弘子姉さんが主役に踊り出てしまったんだ。」
弘志くんが、けっして言ってはならない事をすっぱ抜きました。
「ふうん。そう言えば、わたくしも途中からお姉さまが分裂して、できたんですよ。」
「あああ、言っちゃった。」
正晴君が言いました。
「ぼくはね、ある映画が元で、弘子さんの恋人役として作られたんです。やましんさんが小学生の頃だな。」
「そうそう、そんなこと考えていたんだ。実は、ぼくは恋敵だったりしてたんだ・・・」
武君です。
「おいおい、それは少し違うような気がするけれどなあ・・・・どっちが先だったっけかなあ・・・」
弘子さんが笑っています。実は、彼女こそ、すべての始まりなのですが。
その映画は『山の子のうた』という題名だったと思います。
『ぼくらの街は川っぷち』とか『牛飼いのヨーデル』『牧場の朝』とか、大好きな歌が満載でしたね。
その後テレビで一度見たっきり、その映画の姿は消えてしまいましたが。
死ぬまでに、もう一回見たいな。
ぼくの生まれた町からは、両岸に工場が立ち並ぶ長~い『湾』が、まるで川のように流れているのが見えました。
お風呂をたくまきの匂い、子供たちを呼ぶお母さんたちの声。
戦争から、まだあまり長くはたっていない時期ですが、地震、台風などの自然災害や事故は沢山あったけど、街は大方、平和でした。
テレビがあるお家は、まだまだまばらで、我が家は導入が早い方でした。(信頼性がまだ低く、買ったとたんに壊れたらしくて、別のメーカーさんにすぐ交換されたとか。)毎晩のように、長屋のご近所の方が集まって、大相撲やプロレスを皆で見ていました。
ぼくはテレビは見ないで、お客さんばっかり見て騒いでいたとか。
家に電話はなくて、携帯電話なんて、まだ『SF』や『映画』の中だけでした。アニメの主人公が持っていた腕時計型の通信機が、ぼくらの憧れでした。
それでも、それからしばらくして、あの『万博』が始まりました。
ここから、『SF』は現実に、どんどん置き換わってゆきました。
これを実現させた人たちは、実際まるで神さまのような方ですよね。
こんな思い出話は、深夜を過ぎても早朝まで続いておりました。
ただ、思い出話ができる相手も、周囲には奥様のほかには、幸子さんたちしか、いなくなりました。
*******************************




