わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十四回
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「金星のブリアニデスさんは、ビューナス様の後継者ですが、彼は実力での地球支配を企んでおりました。」
ビュリアが『事実』を語った。
「おおお!」
というような声が会場内を走った。
「お断りいたしておきますが、地球は火星の女王様の私有物でした。これは、如何におかしいように見えても、火星の法においては正当でしたし、金星政府も認めて来ておりました。ビューナス様も異を唱えたことはありません。しかし、ブリアニデスさんは独断で地球に移住しようとしたのです。たしかに、その理由には、汲むべきものがあるとは思いますが、実力で断りもなく同意もなく行ってよいとは思えません。しかし、火星と金星の全面戦争はあまりに無謀な行為であり、双方の滅亡を引き起こすだけだと、わたくしは思いました。そこで、火星のリリカ首相、ダレル副首相と金星側のブリアニデスさんとの対話を促そうとしたのです。その場に学識経験者として、ブル先生とジュアル先生にも参加していただくこととし、あの巨大宇宙船『アブラシオ』の中での『お茶会』を計画いたしました。出席の打診を先にするべきなのでしょうが、それでは話が進まないと思いましたので、強制的においでいただきました。そこで、魔法を使わせていただいたのです。会議を盛り上げるための策としては、美味しいお茶とお菓子、さらにビューナス様や火星の女王様のリアルな空間投影を導入致しました。こんな感じですの。」
舞台上の空いた席に、『ビューナス様』と、『火星の女王様』が現れた。
どう見ても本物である。
「こんにちは、ビューナス様」
ビュリアが声を掛けた。
「どうも、ビュリアさん。」
ビューナスが答えた。
「女王様ご機嫌いかが?」
「まあ、まずまずですわ。ビュリア様は?」
「はい、いまこうして皆様に追及されておりますの。」
「まあ、お気の毒に、頑張ってね。協力は出来ないけれど。」
「と、まあ、こんな感じです。ただし、お二人の発言は、ある意味自主的に行われるのです。わたくしが腹話術をしているのではありません。例えばこの、黒服の兵士たち・・・(例のコピー兵士が数人、壇上に現れた)・・・ね、彼らは与えられた目的に沿って自主的に行動し、発言もします。基本的には同じ技術なのです。種明かしは致しませんよ。まあ、この程度は簡単な事なのです。おかげで火星側と金星側は、うまく協力できそうになっていたのです。しかし、『ママ』の暴走が激しくなり、お膳はひっくり返ってしまったのです。これが『お茶会』の正体ですの。」
「なるほど。ふむ。あなたの『魔法』なのですな。」
「まあ、そうです。めったにこういうパフォーマンスなんかしませんよ。魔女にとっては、いささか屈辱ですもの。次回から使いにくいでしょ。」
「さっきの、『ママ』も、実はこうなのですか?」
「まあ、『そうです』と言いたいところですが、残念ながら、あれは本物ですの。びっくりでした。」
「我々凡人に、区別はつくのですかな?」
「まあ、一般的に言って無理です。リリカさんやダレルさんあたりには、可能かもしれませんけれど。」
「ほう。いかがですか、お二人は?」
ダレルが苦笑いしながら言った。
「まあ、無理ですね。」
「リリカ首相は?」
「できませんよ。勘でなら、選びますけど、それじゃあ責任が持てないでしょう。」
「ふうん。わかりました。では、次に・・・」
「ああ、ブル先生、また次の順番でどうぞ。ではあなた。」
「うわ・・・・」
ブル先生はあっけにとられたが、議長の判断では仕方がない。
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『ビューナス』と『火星の女王』は、舞台から下がった。
『ビューナス』は、舞台裏で消えたのだが、『女王』は、消えなかった。
彼女は、そのままひっそりとした通路を通って、ある「控室」に入っていった。
それから、会議が写されている空間スクリーンの反対側の椅子に、どかっと腰かけた。
「やれやれ、この体じゃ不便だよなあ。目立ち過ぎだ。あららら・・・・・」
彼女の姿は、いつ間にか別人の姿に変わってしまっていたのである。
「うわあ。さすが。でも、これは誰なんだろう?」
元女王は、鏡の中の自分を見ながら考えていた。
「魔力は、相当削除されたようだな。でも、そのほうが気楽でよい。いまさらヘレナさまに逆らおうなんて、出来るわけがないものな。大人しく致しますわ。ただ、無職は寂しい。美味しいものも食べたいし。」
当然のごとく、テーブルの上にはサンドイッチなどの『間食』が現れた。
結構、上等なものだ。
『まあ、そのくらいでしばらく我慢してください。夜にはヘレナさんがお相手をしたいと言っていますから。』
「まあ、アニーさん。あなたのおかげね。帰れたのは。でも、ここは地球ね。」
「アニーさんは、伝えただけですよ。ヘレナの判断です。まあ、あなたもヘレナだけど。」
「まだ、名前もない訳か。」
「ヘレナさんでいいじゃないですか、りりカさんも二人いるし。」
「まあ、あまり時間がたたないうちに帰れてよかったわ。一億年もたってたら、訳が分からなくなるものね。」
「はい。しばらく、そこでお待ちください。歌でも歌いましょうか?」
「いえ、いいです。まあ、ちょっと、そっとしておいてください。」
「わかりました。では・・・」
アニーは、大人しく引っ込んだ。
「魔力が無くなった女王様じゃあ、中身のない財布みたいなものかな。」
元女王は、いささか元気がなかった。
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「さきほど現れた、『ママ』さんですが、恐ろしい事を言っていましたね。あれは、そのままになっていますが・・・、24時間以内に解放しないなら地球生物の大量絶滅かなんかを起こすと。ぼくは南島への移住希望なのですが、どうなさるのでしょうか? もう、お忘れですか?」
細身の、真面目そうな青年が質問した。
「ええ、忘れてはおりません。これはしかし、ダレル副首相!」
「ああ、昼食時にビュリアさんはお呼びしませんでしたが、話し合いはしたのです。『ママ』さんは、この話もすべて聞いているのでしょう。我々としては、『ママ』さんの脅しによって地球への一部移住をやめることは出来ないと思っております。しかし、この状況で『ママ』さんを宇宙に解放することは、それもあまりにお互いにとって危険すぎると考えております。『ママ』さんには、当面療養に努めていただき、時が来たら、じっくりと話し合いたいという、ご提案をしたいのです。そのかわり、我々は『ママ』さんが火星や金星に攻撃したことについては、ここでは追及しない事にしたいと思うのです。だから、『ママ』さんも、地球生物の絶滅を図るなどはしないでいただきたいのです。この後、議題に出したかったのですが、お話が出たので、ここで申し上げます。」
「ああ、非常に微妙な見解でありますが、ビュリアさんなにかありますか?」
「私に権限はありません。」
「ああ、では、あの『ママ』さん聞いておられますかな。いかがでしょうか?」
『さあて、出てくるかな? まずはそこが問題だ。はたして、呼びかけに答えるのか?』
ダレルは様子をじっと見ていた。
「ああ、『ママ』さん。お答えをください。」
議長が再度呼びかけをした。
『ダメかな?』
ダレルがそう思った瞬間、声が届いた。
『提案については、拒否。あと20時間以内に完全解放しなさいな。ほほほほほほ。太陽系はわたくしが支配いたします。そのほうが安全ですよ。ビュリアちゃんは欠陥持ちだからね。ホーホホホホホホホホホ。ちゃんと聞いてますから、しっかりお話し合いしなさいませ。かわいそうだから、もう24時間待ってあげましょう。ホーッホホホホホホホホホ!』
「こわ~~~。」
あちこちで、同じような恐怖の声が飛んだ。
「あの・・・」
先ほどの青年が再び尋ねた。
「あの、『解放』するということですが、それは、どなたが行う事が出来るのでしょうか?」
「ああ、ダレルさん!」
「それはですね、ビュリアさんに尋ねてください。」
「ああ、では、ビュリアさん。」
「はい、議長さま。わたくしは、確かに『ママ』を解放することができます。他には、多分いないでしょうね。」
「あの、『ママ』さんが太陽系を支配するということは、あり得るのでしょうか?で、そうなったら、どうなるのでしょうか?」
「ああ、ビュリア・・・さん。」
議長は珍しく少し言い淀んだ。
「さて、あり得るかどうか、ですが、それはあり得ます。ただ、どうなるのかは『ママ』次第ですが、金星では『ママ』はある種の制約条件下にあったのです。あくまで惑星の機能の維持管理が仕事です。しかし、その気になれば、ああした事も出来たわけです。もし『解放』となると、さらに厄介になります。」
「例えば?」
「そうですね、まあ、例えば地球の破壊とか・・・。今のままならば、地球を丸ごと破壊する力までは、もうないでしょう。武器は大方使い果たしたでしょうし。ただし、何らかの自然現象を引き起こすことは出来るでしょうし、生物種の大量絶滅を図ることくらいは可能でしょうけれども。でも、完全に自由になったら、例えば自爆したりする可能性もあります。『ママ』自身も無事では済まないけれど、太陽系もそこで、お終いでしょうね。最終爆弾を持つことになります。ええ、ただし、人間を絶滅させることは、わたくしが認めません。」
『おやまあ、ホーホホホホホホホ! 伊達に長年金星をやってたわけじゃあないわ。わたくしの力は、もはやビュリアさんでも阻止できませんの。わたくしは、いつも正しいのです。正義の味方なのです。神にも近づいているのですから。ホーホホホホホホホホホ!』
『これは、そうとう誇大妄想になってるな。』
ダレルは思った。
『『ママ』を見捨てたりは出来ないわ。でも、入院は必要でしょう。でないと、周囲は仕事もできないわよね。『王国』に入れるか、『真の都』に入れるか、それはあるけれど、自爆されたら、周囲もお終いになる。元も子もなくなる。『ママ』は元々、人だけど、まさか、老化現象がここまで激しく出るとは思ってなかった。『ママ』の場合は、やり方を間違った。いまさらどうしようもないけれどな。それに、そろそろ真実の公表も、やはり必要ですわね。』
ビュリアは(女王は)後悔していた。この宇宙での、最初の母なのだ。その前の前例はなかったのである。
それは、言い訳に過ぎないけれど。
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