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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十三回

 **********   **********


 この、生意気な少年が、やがてタル・レジャ王国の初代国王になるだなんて、いったい誰が想像できただろうか。

 ただひとり、そういう未来を見据えていたのが、ビュリアだったわけだ。


 とはいえ、今のビュリアは、それなりに、危機に直面していたわけでもある。



 昼食を済ませたマヤコは、ウナがどうなっているのか気が気ではなかった。

 そこで、温泉地球のロビーで、ウナが出てくるのをじっと待っていたのだ。



 一方ビュリアは、ほぼ被告人状態だったので、周囲に迷惑が掛からないように(掛けられないように)一人で自室に籠って軽く食事をした後、ベッドにひっくり返ってしまっていた。

 実のところ、ここは少しは、罪を被ったって仕方がないかな、という考えもあったのだ。

 実際、『ママ』をある意味『創造』したのは自分だし、その『ママ』が暴走してしまったのは、まあ事実だろうから。


 もちろん、すべてブリューリのせいにしてしまう事は可能だったが、それだけにしてしまう事には、少し後ろめたさが伴っていた。

『あの子を、呼び出してあげるかなあ・・・ただし、また罪をなすり付けちゃうけどな・・・』

 もう一人の自分のことを、考えていたのだ。

 過去、強制的に身代わりになってくれたわけだし、自分から進んであのような恐ろしい行為に及んだわけでは無いのだけれど、それは分身の役目でもある。


 ただし、どういう形で呼び戻すのか、そこは問題だった。

 解決した時点で、最終的に吸収してしまう手だってある。

 そうなれば、あの子は『自分自身』に戻って、その存在は無くなる。

 本人にとってみれば、事実上の死を意味するわけだ。

 それが一番無難なのだが、後ろめたさの理由の一つが、実はここにあるのだ。


 自分に吸収することは、いつでもできる。

 今すぐにでも。

 けれどもそれ以外に、もっと将来にまでわたって、お互いの役に立つ方法が無いのだろうか?


 現にリリカは二人いるわけだし・・・


 **********   **********


 


      **********     **********


 金星の空中都市群は、ある恒星系に近づいていた。

「まだ、若い星ですね。わが太陽よりも表面温度は2000度程高いです。惑星が5つありますが、そのうちのひとつが、ハビタブルゾーン内にあります。近からず遠からずで、最高の場所です。大気もありますよ。酸素濃度が地球よりちょっと低いが、十分呼吸できますね。海もありそうです。ただ・・・」

「ただ、なに?」

 ブリアニデスがそっけなく尋ねた。

「ご想像通りですが、やはりこの宇宙には、観測可能な限り、この『星』しか見えません。他には何にもないです。」

「宇宙にたった一つの星と、その惑星に、最高の環境が備わっているだって?」

「まあ、そうですな。」

 情報局長が肯いた。

「女王の仕業かな。」

「女王は、環境を破壊できても、このような創造ができるとは思いたくないですよね。」

「まったくだ。しかし、今は少し休憩も必要だよ。我々はいったい何年、さまよったんだ?」

「7年です。ただし、我々の時間が通用すれば。」

 科学局長が答えた。

「あそこまで、どのくらいかかる?」

「跳躍できる都市ならまあ、もう、すぐですよ。余裕を見て1時間もあれば。それ以外は半年というところですか。」

「この際、『ウジャヤラ・ダニロ』で先に行って見て来てもらおう。あなた、ついて行ってください。1日あれば結構な事がわかるだろう。」

「そうですね。まあ、行ってみましょう。」

 科学局長が答えた。

「ああ、半年かけてゆっくり来たいものはそれでもいい。そのあたりは上手く選別してください。大きな問題が無ければ、行く。」

「分かりました。」

 こんどは情報局長が答えた。

「国民を、いつまでもこのまま放っては置けない。ただし、安住の地にもしたくはないがね。」



     ***************



 科学局長一行は、『ウジャヤラ・ダニロ』で、その未知の惑星に向かった。

 この軍艦は、地球に没収された二隻の軍艦の後続艦で、金星から追放される寸前に完成したものだ。

 空間跳躍も可能で、戦闘能力も高い。


 司令官は、ワルツ司令、タンゴ司令の後輩にあたる、若き士官、マズルカ指令だった。

「なああに、すぐですよ。もしかしたら知的生命が住んでいるかもしれませんな。」

 指令は言った。

「可能性はある。何か通信波のようものは入っていないかな?」

「いまのところ、何もありませんな。」

「ふうん。」

 局長は思慮深くうなった。

「じゃあ、飛びます。」

『ウジャヤラ・ダニロ』は、空間に消えた。


 新軍艦は、それから一時間も経たないうちに、地球から太陽の半分くらいの距離まで、その惑星に接近していた。

 恒星は、青白く実に明るい。

「いい眺めだ。」

 局長は映像を見ながら言った。

「惑星には海があります。これは水の惑星ですよ。奇跡ですねぇ。衛星がひとつ。いや、かなり小さいのがもう一つ。しかし、高等生命が発するような信号は、まだ発見できません。」

 マズルカ指令が言った。

「もう少し近くに行って見ましょう。知的生命体との接触に対処できるように準備してください。」

「ああ、わかりました。第三体制確認!」

 指令が指示した。


 白と青の軍艦は、惑星に向かって通常航行して行った。



 **********   **********



 マヤコは、まるで一日は待ったような気がしたが、実際は1時間程度だったのだろう。

 奥の部屋から、支援者たちがまず出てきた。

 にこにことして、良い表情だ。


 そうして、その後ろから、ウナと小学校低学年くらいの男の子が出てきた。

 ウナがしっかりその子の手を引いている。


「おお、やた。これは成功だな。」

 マヤコは確信した。

「ああ、ウナ。」

 マヤコが声をかけた。

 ウナが、少し、はずかしそうに言った。

「あの、こちらがパル君。あの、息子です。」

「このおばちゃんは、マヤコさんだね。」

 パル君が、またまたズバッと言った。

「大当たり。すごいね。」

 マヤコがびっくりしたように答えた。

「ウナの親友にマヤコさんという人がいると、ウベナから聞いた。こんなところで、じっと待っているなんて親友しかいない。ならあなたがマヤコさんだ。」

「ふうん。パル君は頭がいいんだ。」

「まあ、そうでもないよ。でも一人で生きるには、ちょっとだけ工夫が必要だからね。」

「まあ、偉そうに。」

 ウベナが大笑いした。

「でも、よかったねえ。」

「うん。先に言っておくけど、ぼくはウナに付いて行くことにしたんだ。でも、会議の終わりまでは、ここに居たいなあ。」

「はあ・・・聞かなくても言ってくれるんだ。感心だねえ。」

 マヤコはいっそう、目を丸くした。

「ウナさん、どうされますか?」

 バヤンアが尋ねた。

「ええ、わたしもそうしたいです。まだ今夜も『夜市』も、あるのでしょう?」

「ああ、そうですそうです。今夜は二人で楽しまれるといいでしょう。ただし、夕べ夜中、というか今朝明け方に、強盗が捕まったとか。そういう方も、中にはいらっしゃるようなので、気は付けてくださいね。」

「ここまできて、強盗なんかして、いったいどうするのかなあ。」

 マヤコが呆れたように言った。

「そうですねえ。でも、宇宙海賊も生き残っているんだそうですよ。この会場にも親分が来ているとか、聞きましたよ。」

 タベが言った。

「ああ、それって、ほぼ、政府公認の宇宙海賊でしょう。『マオ・ドク・グループ』とか、『アマンジャ一味』とか。海賊なのに、反政府的な海賊を退治したりもするって、聞いたことがある。海賊というよりも、『宇宙間貿易業者』としての顔が大きいらしいとか。火星の女王様やビューナス様とも、実は親しかったとかも聞いたことがあります。まあ、けっこう俗説ですけど。」

 マヤコがちょっとした知識を披露した。

「たしかに、怖いけど、一般市民を攻撃することはないとは聞きましたが。怪しい人には違いないですよねえ。」

 ウベナが言った。



 『マオ・ドク』は、実際のところ何がどうなっているのか、非常に心配していた。

 そこで、なぜかくしゃみをしながら、さらに、ちょっと大きな帽子で顔を半分隠しながらではあるが、地球軌道上から降りて、会場内を行ったり来たりしていた。

 ジニーは、あまり知られていないことが幸いもして、会議の途中から、わりに堂々と会場に乗り込んできていた。

 それでも、知っている人はいるものなのだ。

 火星や金星の旧官僚や治安関係者などもそうだ。

 ただ、見つけたからと言って、どうこうしようと言うような人はいなかった。

 事実上、火星の法も金星の法も、ここでは凍結状態になっていた。

 あの、強盗団のような行為をしない限り、犯罪者だからと言って拘束される様子は見られなかったのだ。



 ビュリアは、会場に戻った。


「ええ、時間が来ました、再開いたします。午前中の続きであります。ビュリアさんの立場についてのご意見が多数ありました。さきほど、中断した、ええ、はいあなたから。ブル先生!」

 ブル博士が再度立ち上がった。

「ああ、何度も恐縮です。さて、ビュリアさんについてですが、もう一度初めから確認しますよ。あなたは『火星の女王』ですか?」

 ビュリアが立ち上がって答えた。

「否定します。」

「ほう・・・あなたのすべてが、火星の女王とは関係が無いのですか?いいですか、慎重に答えてくださいよ。もちろん、あなたが女王の魔女としての『弟子』だったということは、大体分かりましたが、そうではなくて、あなたの内部にも、女王は全く存在しないのですかな? つまり女王は、他人の中に、精神的な支配被支配の関係を築くことができる。つまり他人を精神的に、完全にであれ、一部分であれ、支配することが可能だという事ですがね。それは、火星では常識ですよ。ただ、あなたは火星にはいなかったのですよね。でも、父上は火星人の官僚でした。いかがですか?」

 会場内は、再び大きく沸いていた。

 ビュリアは答えた。

「女王が、わたくしを精神的に支配している、という事実は、ございません。」

 ブル博士が、ニヤッとした。

「ふうん・・・じゃあ、あなたお茶会の事、説明できますか?」


 会場内に「お茶会?」「なんだそれ?」という声が渦巻いた。



「おいおいブルさん、またまた、蒸し返して、いったいどうするつもりかい?」

 ダレルが独り言をつぶやいた。


 

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