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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十二回


 ドアが開かれた。

 バヤンアは、ウナに進路を譲った。

 ウナは、少しうつむき加減になりながら、部屋の中に入って、それから顔をしっかりと上げた。そこには確かにあの少年が存在していた。


 少年は、ドアが開いて行くのを眺めていた。

 二人いる。

 一人が脇にどいた。

 そうして、体の小さな可愛らしい女性が入ってきた。


 最初はちょっと下を向いていたが、部屋に入るときちっと顔を上げてくれた。

 第一関門、何とかパス!

 写真で見ていたよりも美人だ!

 第二関門、パス。

 声が聴きたい!

 どんな声? ソプラノ? アルト? それ以外?


「いらっしゃいませ。どうぞこちらに。」

 少年の付添の女性が招いた。

「失礼いたします。」

 ウナがしゃべった。

『おお、広域のアルト。でも声は小さい。でっかすぎるよりはましかな。』

 ウナと、バヤンアは並んでソファに腰かけた。

 濃いグレーの肌をしたバヤンアは、にこやかな表情をずっと崩さない。

「こんにちは、では、まず自己紹介にしましょう。わたしは、ウベナ。彼はタベです。」

「よろしく。」

「で、私はバヤンアです。さて、どうぞ・・・」

「あの、ウナです。」

「はいどうぞ、あなた。」

「ああ、僕はパル。」

「はい、どうも。で、無事に、ご挨拶は済みましたね。あ、お食事が来ましたねえ。」

 女将さん特製の、豪華な昼食が運ばれてきた。

 パルには、金星の子供用に考えらえた、特製の『お子様ランチ』がやってきた。

 金星人の子供は、プライドが高い。

 見た目も大切なのだ。

「おわー、すごい。これは『施設』の昼ご飯の、五倍程度はすごいなあ。」

「ふうん。なら施設のご飯って、そう悪くはなかったんだな。あたしなんか、お昼はしょっちゅう、パンだけだもの。」

 ウベナが言った。

「まあ、大人の女性はそれでいいのよ。太るからね。」

 バヤンアが付け加えた。

「でも、二人ともなかなか素敵だけどね。」

「うわあ、パル君って、お世辞も出来るんだ。」

 皆が大笑いしたが、パルは自分で言っておきながら、全然乗らなかった。

 パルは、それでも、『いただきます』をして、食べ始めた。

「いかが? パル君。」

「ああ、なかなかいい。スパイスの使い方が上手と思う。少し火星風なところもあるかな。」

「え? 火星の料理も知ってるの?」

「まあね。施設の料理長は火星人だったから。」

「へ~。」

「ねえ、ウナさんって、何のお仕事してるの?」

 パルは、あっさりと言ってのけた。

「ああ、あの、今は失業中です。この前までは、ええと、機械とかの修理の仕事をしてました。」

「うん。今は失業中の方が普通だから、そこは問題ないよ。機械ってどんな種類の機械なの?」

「ああ、大体は宇宙船・・・かな。」

「へえ! 技術者?」

「いえ、そうじゃない。単純労働。」

「そう。でも、すごいな。どこの会社だったの?」

「ええと、ビューナス様の会社だけど・・・その後は、ブリアニデスさんがお継ぎになったの。『スーパー・スペース・超空間ワールド』で、展示されてる宇宙船とか衛星とかを掃除したり修理してたから。」

「ええ!あの、超空間ワールド!? 行きたかったけどなあ。あそこは結構入場料が高いんだ。それでも、施設から皆で行く予定にはなってたんだ。その前に、無くなっちゃったけどね。第九惑星のシュミレーションが、ものすごく期待値高くって、おしかったなあ!」

 ウナは、どきっとした。

 とは言え、心臓が高鳴ったりはしないけれども。

「でも、行かなくてよかったわ。」

 ウナは、ぽろりと、そう言った

 みんなが、ウナを見た。

 『光人間』のプロジェクトは、絶対秘密事項だ。

「なんで?」

 パルが不思議そうに尋ねてきた。

「まあ、期待値ほどじゃなかったからです。」

「ふうん。まあ、毎日、見てたんだったら、飽きちゃうかもな。でも、一回でいいから見たかったんだ。ぼく。」

「ああ、それは、そうですよね。」

 ウナは、一生けん命で同意した。

「ウナさんは、預金とかあるの?」

 食べかけていたお肉の料理を、ウナは思わずのどに詰まらせそうになった。

「預金?」

「そうだよ、だって、もし僕を養育する気だったら、必要でしょう?」

 皆が目を見張る中で、バヤンアが助け舟を出した。

「まあ、ウナさんには確かに預金はあったと確認しているわ。でも、金星の銀行も預金会社も、みんないなくなっちゃったでしょう。」

「そうだよなあ。火星には?」

「ああ、火星には、無いの。」

「そうなのかあ。」

「でもね、ウナさんの場合は、地球に新しくできる『タル・レジャ王国』が全面的に支援してくれる約束が出来ているの。私たちの組織も、もちろんそう。」

「あの、ビュリアさんっていう、魔法使いの作る国だね。」

「よく、ご存じですこと。」

 ウベナが感心して見せた。

「まあ、会議の中継は、全部じゃないけど、わりと見てたからね。ウナさんは、『タル・レジャ教徒』なの?」

「いいえ、そうじゃあないの。」

「ふうん。でも、支援してくれるの?信者以外は、全部自分たちでやるって、言ってたよ。あの、おばさん。」

 ビュリアを『おばさん』と言い切ったのは、パルだけに違いない。

「ああ、せめて、『お姉さん』くらいにしておきなさい。」

 ウベナが、こちらも、あっさりと言い切った。

「ああ、わかったよ。だから、信者ではない人たちの面倒は、見ないようなことを言ってたでしょう?」

「そうね。でも、ウナさんの場合は、少し『特例』なんだよ。」

 タベが言った。

「トクレイ?」

「そう。」

「例外って、ことかな?」

「おお、まあそう言う事だなあ。君、すごいね。」

「でも、特例の人が周囲にいると、他の人にいじめられない?」

「ううん。そこの細かいことまでは、まだ確認できてないなあ。」

 タベは、パルを相手に、少し詰まってしまった。

「あのね、たぶんあなた方は、大きい島の方に住むことになると思う。当面はね。」

 ウベナが、そう答えた。

 これは、事実そうなるだろうと、ウベナは聞かされていたのだ。

「信者の人の島?」

「そうね。」

「ふうん・・・微妙・・・」

「あら、どうして?」

「ぼく、宗教って、あんまり興味ないんだ。」

「ああ、あるほどね。でも、強制したりはしないと聞いているわ。でも、やっぱり心配ならば、もうひとつの島の方にできないか、確認してあげてもいいわよ。」

「ううん、だから、結局のところは、まあ微妙なんだよなあ。じゃあ、ウナ決めて。」

「え?」

「ウナが決めたらいい。」

「あ、あの、それって・・?」

 バヤンアが、きちんと確認しようとした。

「うん。いいよ、ぼく、ウナに付いて行くからさ。まあ、預金が無くても、これまで、それなりに真面目に仕事もしていて、しかも、あのビュリアが保証人みたいな感じなら、条件としては悪くない。他の子たちには、かえってちょっと悪い気もするけど。この際、仕方ないさ。」

「はあ・・・。ええ、あの、ウナさんは?」

「あの、え、そりゃあ、もちろん。同意いたします。はい。当然。それはもう、絶対に。」

「わかりました。じゃあ、このお話は、無事、成立ですね。」


 感動的な親子の対面、という感じにはならなかったが、しかし、結果だけから言えば、事実そうなったのである。


 **********   **********


 結局、『ママ』はそのまま消えてしまった。

 おかげで、ビュリアは解放してもらえなくなってしまったのだ。

「ああ、もう、昼過ぎました。この際、1時間、休憩といたします。ビュリアさんには、お気の毒ですが、ちょっと皆さんが納得しないので、午後もお願いいたします。いいですね?」

「まあ、仕方ないです、あれでは・・・・・」

 カタクリニウク議長は宣言した。

「では、休憩です。」

 大幅に、会場内はざわついた。


「おいおい、まあ自業自得とは言え、ちょっと気の毒かな。」

 ダレルがリリカにささやいた。

「はあ・・・まあ、助けに入ったんだか、かき混ぜたんだか。」

「そりゃあ『ママ』が、実在していて、ちゃんと人の言葉で予定外の介入をしてきたんだ。で、あっさり消えてしまった。それじゃあ、済まないよなあ。どう見ても、誰が考えたって、火星と金星を滅ぼした、『真犯人』だから、あのまま、逃がしたくないよ。誰だってね。で、その、身柄の確保を実行できそうな人物と言えば、もう、ビュリアしか、いないんだものな。」

「あなたも、ヒトゴトじゃないわ。」

「君もだよ。君がちゃんと落としどころを告げてやらなきゃ、これは、終わらないよ。」

「うん。そうね。確かに・・・ね。」


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