わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第三十回
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「ええ、時間が迫ってますので、ご質問はあとひとつで、お願いします。」
議長が言った。
「はい、質問。」
ブル教授が手を上げたが、もう一人女性が挙手していた。
「ああ、ブルさんはまだいくらでも機会があるでしょう。はい、あなた、どうぞ。」
ブル先生がジュアル先生を見ながら苦笑いした。
「はい、あの、『金星のママ』を証言者として、呼べないのですか?」
「はい、ええと、これはダレルさん。」
「はい、ああ、これはですね、壊れてしまっているという事で、召喚は難しいだろうと、思うのですが。」
ビュリアが肯いている。
しかし、その時だった。
『ほほほほほほほ。はい、皆さまお待たせしました。わたくしが『ママ』ですよ。』
大きな声が会場中に響いた。
空間スクリーンには、はっきりはしないが、ぼんやり状態の女性らしき巨大な顔が浮かび上がった。
『うわ、出た! これでおしまいか・・・アニーさん、返事しなさい!』
ビュリアが意識の中で呼び掛けた。
しかし、アニーは、返事をしなかった。
『こら、返事しなさい!!あなた、何やってるの、『ママ』が出て来てるじゃない。』
『もっか、恐喝されています。回答不能。』
『あらららら、やられたか。ううん、迂闊であったか。』
『ほほほほほほほ。出てきてあげましたよ。さあ、何でも聞きなさい! 女王とビュリアさんの悪口ならば、いくらでも言いますよ。ほほほほほほ! 』
席に座って後ろ側にのけぞっていたブル教授が、突然きちんと座り直して手を上げた。
「議長! 重要な証人が現れましたぞ。時間の確保を提案いたします。」
議長は、リリカと協議し、リリカはダレルに耳打ちした。
「わかりました、認めましょう。ただし、まず私からです。ああ、あなたは本物の『ママ』ですかな?」
『まあ、失礼な。カタクリニウクさん。あなたが、まだおむつをしていた頃からよく知っております。あなたの右足首の甲には、十字の傷がある。これは、あなたのお父上が付けたものですが、原因は夫婦げんかでした。その喧嘩の理由と言うのが、お父上が浮気をしていると言う事が発覚したもので、その相手と言うのが、なんと・・・』
「ああ、わかりました。もういいです。ええ、では、ご質問を。」
「はい、質問。」
ブル先生である。
「ああ、ブルさん。」
「今の話は興味がありますな・・・しかしまあ、それは置いておいて、では、ビュリアさんと女王は同一ですか?」
『ほほほほほ。まさか。女王は目にも見えず、手にも取れない「もの」とさえ言えない「もの」だよ。まああたしの思うところ、相当に多くの次元を抱えているが、その数さえ不明なのさ。人知の及ばない何かであって、手に負える相手じゃない。もっとも本人さえ自分が何だか知らないらしいけれどね。まあ、それが唯一の弱点だね。ビュリアは、女王から多くの技術や記憶や知識をもらってるが、本物じゃあない。』
「ふうん。あなたは、ビュリアさんが言う様に、火星と金星の文明を破壊しましたか。」
『ほほほほほほ。その通り。」
「なぜそのような事を!」
「あたしを無視し続けたから。それだけ。ほほほほほほほほ!いいこと、ビュリアさん、すぐにあたしを解放しなさい。あなたの『母』なんだよ。そこの『女将』とは、母は母でも格が違うんだから。」
「『ママ』無茶苦茶言わないでください。あなたを作ったのは、女王様ですよ。」
ビュリアが、話しに介入した。
『ほほほほほほほ。まあ、あなた達の常識とは違ってね、あたしは『よくない魔女』だから。まあ、24時間以内に、あたしを宇宙に解放しなさい。でなければ、まもなく、地球上の全生命の大部分を絶滅させる。』
「冗談じゃないわ。『ママ』、あなたの新しい道は、以前女王様が提案したでしょう?でも、その状態では無理ね。とても無理よ。それに絶滅なんかしない。必ず復活させるわ。』
『ほほほほほほ、大絶滅は定期的に行ってさしあげるわ。方法は、まだ秘密だよね。見てらっしゃい。ほほほっほほほほほほ!』
「あの、『ママ』さま、あなたは人間ですか?」
ブル先生は、珍しく押され気味ながら、そう尋ねた。
『元、人間。ブルさん。あなたはあたしに味方しなさい。それがあなたの運命。カタクリちゃんも、そうだよ。いいかい、女王は不滅だ。もし、女王の支配から真に解放されたければ、女王が、この宇宙までは手が届かない場所に追放するしかない。そのお手本を、ダレルさんが見せたでしょう。まあ、あれは、そもそも完全ではなかったけれどね。しかし、女王はかなりショックを受けたのだよ。初めての経験だったからねえ。人間に、あそこまで追い詰められたのはね。でも、女王は本来感情など持たないのさ。』
「じゃあ、今は女王はどこにいるのですか?」
『ふん。この宇宙の、そこにもここにもいるのだよ。それが女王なのさ。ほほほほほほほほほ。さあ、時間はどんどん過ぎ行くよ。ビュリアちゃん?わかってますか?』
「『ママ』は、治療が必要なの。大人しくしていなさい。」
『おーほほほほほほほほほほ! 女王のはしくれが、ケンタウリで泣いている。あたしは彼女と同盟するんだよ。さあ、ビュリア、早く解放しなさい!まったは、なし!』
「拒否!」
『ほほほほほほほほ、後悔するよ。じゃあね。バイバイ』
「ああああ、待ってください。まだ質問者がいっぱいありますよ!!」
議長が叫んだ。
『ほほほほほほほ、もう、ビュリアさんで十分よ。ほほほほほほほっほ。」
会衆は、みなあっけに取られていた。
『あああ、いやはや、アニー、あなた何脅かされてたの?』
『ああ、こちらアニー。あの、三時間以内に解放しなければ、地球にミサイルを撃ち込むとか・・・でも、それは、とりあえず、今は止めた!と言ってきました。でも、いつでもやれるんだからねっ!ビュリアにそう言っときなさい! です。はい。』
『はあ、大量絶滅を引き起こす気は大有りだな。嫌がらせよね。絶対こわれてるわ。明らかな、老人性認知症の症状よ。ものすごく攻撃的になってるわ。』
『あのう、ならば、話し合手になってあげなければならないでしょう。』
『ふうん。まあとりあえず、あなたよくお相手しなさい。治療に努めなさい。封印しなさい。』
『封印は破られましたから、もう、だめですよ。そりゃあ、そう努力はしますがね、あなたの『やさしさ』が欲しいのですよ。『ママ』は。』
『いやあ、分からないでもないけどね、すでに正しく判断ができなくなってるもの。』
『あの、提案ですが、マムル先生に相談してみては?』
『あのかたは、人間専門ですよ。でも『愛』と『誠実さ』が常に信念の中央を占める人だからな、まあ、聞いてみましょう。』
『はい。』
「でもね、アニーさん。あなた分かってらっしゃるかしら?あれで『ママ』は、わたくしを、助けに入ったつもりなのよ。』
『え?』
『つまり、『女王』とわたくしを、区分した訳なのよ。』
『おおー! なるほど。』
『まあ、壊れてるんだか、どうなのかなあ。ただし、大量絶滅に関しては、やる気ね。』
『いやあ、まさか!?』
『いいえ、あれは本気ね。『ママ』が本気で始めたら、まず止められない。何する気だろう?ミサイルだけとも思えない。あなた、よく考えなさい。』
『ふうん・・・。』
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警部2051は、興味深くこのやり取りを聞いていた。
『ふうん。あの『ママ』に、やはり、も一度話を聞きたいな。しかし、ならば女王の本体は、いったいどこにいるんだろう。『どこにでもいる』か。非常に哲学的だがね。でも、僕が話しかけても、返事はしてくれないがね。これも、女王かい?』
警部は考えながら、目の前の空気を掴もうとした。
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三人は、いよいよ小型艇で地球上に降り立った。
「ほお、ここが、地球かあ!」
少年が感心して周囲を見回している。
少しだけ高い場所なので、パノラマ的な景色が素晴らしい。
金星人の子供の知能は、成長が早い。
体はまだ小さくて、精神的には未熟だが、すでに、後世の地球の高校生くらいの知的レベルを持っている。
「さあ、行こうかな。もう、ここが『温泉地球』の屋上飛行場だからね。君のママは、ここで待ってる。」
彼らはエレベーターに向かって歩いた。
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