わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十九回
会衆にしてみれば、ビュリアの姿を直に見る事が出来る機会と言うものは、もう二度とないかもしれない。
ビュリアが女王そのものかもしれないと考える人も、まだそれなりに沢山存在していたし、そのものではなくても、大いにつながりがあるという考えは、実は正解だったことも明らかになったわけだ。
しかし、民衆にとっては、そのことはある種の恐怖でもあった。
だから、質問はしてみたいけれど、あとで罰でも当たったら大変だという気持ちも、ぬぐい去ることはできなかった。
それでも、やはりそう簡単には解放してくれるはずもなかったのである。
「ああ、そこの女性の方、どうぞ。」
カタクリニウク議長が指名した。
「はい。あの、新しい王国には、『タル・レジャ教』の信者以外は入れないのでしょうか?つまり移住を希望するなら、信者になる必要があるのでしょうか。」
「ええ、これはビュリアさんですな。」
議長が指名した。
「お答えします。実はそうでした。本来、その通りの考えだったのです。」
「あの、それは、差別ですよね。火星人の考え方は、よくわからないけれど。」
会場内が、ざわざわっとした。
「差別するつもりなどは、もともとありません。この王国は火星と金星文明が崩壊するという事態の、はるか以前から計画していたものでした。どちらかと言えば、権力から差別されていた方たちに、新しい道を作るということが、その大きな目的のひとつだったのです。今回のような悲劇がなければ・・・その場合には、このように何もない辺鄙な地球の小さな集団に対して、そのようなご指摘は、多分出なかったことでしょう。しかし・・・今の状況にあって、そのままの考えで通すことには、無理があることも理解できます。そこで、わたくしは、次のようにすることに決めたのです。すなわち、王国となる島は、二つに分かれております。そこで、片方の大きい方の島は、元々の考え方通り、信者の方のみとし、もう片方には、それ以外の方の移住も受け入れるべきだと決めました。しかし、いくらでも無制限に、という訳にはゆきません。それでは、誰も生き残れなくなります。そこで失礼ながら希望者の方の中から、選考をさせていただきます。定員は発表いたしません。また選考基準も公表しません。生活環境は、決していいとは言えません。すべて自分たちで、何もないところから、築かなければなりません。お店もなく、遊び場もありません。病気やけがに対する対策は一応作りますが、当初は十分ではないでしょう。自治政府も作ります。その閣僚の方々はこの会議後に、住民となるみなさんで決定します。希望の受付自体はすでに始めております。この会場内とホテル、温泉地球と宇宙船アブラシオの中に受付を作りましたので、どうぞお申し込みください。なお、『大島』の方は、宗教的な決まりに従って生活していただきますし、それなりの支援も致します。『小島』の方は、新政府にお任せし、依頼がない限り、わたくしは一切介入いたしません。経済活動も自由です。もちろん緊急時は別ですよ。大災害とか、そういう場合ですね。急造ですが、新しいパンフも作って本日用意いたしました。ご活用ください。」
「ああ、いかがですか?」
「何となく納得しにくいです。どちらにも、どのような人も受け入れるべきではないですか?」
「あなたのお考えが間違いとは言いません。しかし、私の家に、誰を入れるのか入れないのかを決めるのは、本来わたくしの判断によるものです。ただ、かなりの部分には、あなたと同じ考えを取り入れているのです。それに、これは始まりであって、最後ではありません。未来のことは、住民の方が随時考えて行くことでしょう。しかし、『大島』に関しては、私の考えを通すつもりでおります。」
「いかがですかな?」
「はい、まあ、いいです。パンフも見て、よく考えます。」
「はい、質問。」
「ああ、ブル先生どうぞ。手短によろしく。」
「はいはい。ええ、あなたは、『不死』なのですか?」
「ビュリアさん!」
「はい。いいえ。今のところ違います。」
「『不死化』という処置は、どう言うものなのですか?」
「ああ、ビュリアさん。」
「はい、これはまず第一に、女王様が行っていた処置だと思われます。詳細はリリカ様が一番よくご存じなのでしょう。女王様が必要と判断した人に対して、肉体的に『死』という現象が起こらないように魔力で処置されていたのだと思いますが、『私ビュリア自身』には、そのような力はございません。」
「じゃあ、リリカさんお答えください。」
ブル先生が喰いついた。
「あああ、リリカ首相。」
「はい。まず、基本的なところは、ビュリアさんのおっしゃる通りです。その判断はすべて女王様が行うもので、他の人は介入できません。」
「ええ、いかが?ブル先生。」
「ええ、これは大問題なのですよ。人の命の平等性が問われているのです。不死化されているのが誰と誰なのか、明らかにしてください。」
「ああ、リリカ首相。」
「はい。それはできません。個人情報の保護に抵触いたします。」
「いやいや、いいですかな、永遠の命をもらった人は誰なのか?つまり女王の寵愛を受けていたのは誰なのか?すなわち、女王の責任を分担していたのは誰なのか。責任追及問題の解決に、非常に重要な事実でありますぞ。」
「リリカ首相!」
「はい、そえでも回答は出来ません。」
「じゃあ、・・・・」
「ああ、ブル先生。」
「失礼・・・じゃあ、聞きます、あなたはどうなのですか?」
「リリカ首相。」
「はい、私は、不死です。」
ざわざわざわッ、とした。
「当然だよなあ。」
と言う声も多かった。
「ダレルさんはどうなの?」
「ああ、勝手に言わないでください先生。」
ダレルが手を上げた。
「はい、ダレル副首相。」
「ぼくは拒否したが、強制的に不死化されました。」
「はい。」
「ブルさん。」
「首相は公表しないが、個人が申し出ることは構わないということですな。」
「リリカ首相。」
「まあ、そうですね。阻止は出来ませんから。」
「じゃあ、連判状でも作って、自分は不死だと名乗り出てもらって下さい。」
「ああ、ダレル副首相。」
ダレルが手を上げていた。
「りりカさんだよ、リリカさん。」
ブル先生が騒いだ。
「ダレル副首相。」
議長はしかし、曲げなかった。
「あのですね、それはいくらなんでも、個人のプライバシーに介入しすぎですから、応じられません。」
「はい、質問。」
「ああ、ブルさん他の方もお待ちですからよろしく。」
「はいはい。ええ、時間が少し経てば、たちどころにわかるのですよ。早めに公表しておいた方が、結局は良いのではないかとぼくは思います。ぜひ、各自で考えて、自主的に実行してください。では、女王が、その意思で『不死化』させていた。と・・・今は、その技術は誰もお持ちではないのか?」
「リリカ首相。」
「はい。そのような魔法の技術を持つ個人がいるとは、『聞いて』おりません。」
「ああ、はい、ではそこの方。どうぞ。赤のシャツの男性の方。」
議長はブル先生の質問を、一旦打ち切った。
「すみません。ぼくは一文無しです。おまけに火星の普通人でした。それでも、この先どこに行くにしても無料で保護されるのですか?火星人も、金星人も、平等に。」
「はい、ダレル副首相。」
「当面は、その通りです。今のところ支援期間の限定はしていません。ただし永遠にという訳ではないと思いますし、仕事に就く努力は求めます。多くの方が自立生活できると判断可能になるまでは、援助自体は継続したい。その組織やお約束事は、この後構築しますが、当面は火星政府が行います。仕事の創設、技術の付与、就職、保健衛生の管理、やることは沢山あります。」
「ええ、いかが?」
「資金はあるのですか?」
「ダレルさん。」
「さて、問題はそこです。大体経済活動と言うものが、崩壊してしまいましたからね。まあ、はっきり言って、誰も確信はないのです。でも、やるしかない。みなさんの協力だけが頼りなのです。他に答えようがないのです。しかし、知恵を集めて、火星と金星人類の存続を図ります。」
「はい、いいですか。では、あなた・・・・・」
質問は延々と続いた。
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「じゃあ、いいかな、お腹は大丈夫かしら?」
「うん。満足。」
「はあ。でも、これから地球に行くんだよ。お母さんに会ったら、どう言うか決めてるのかしら?」
「いや。まず、相手の反応を見る。僕をきちんと保護し、生活する意思と力があるかどうかを確認するんだ。その試験にパスしたら、付いて行く。」
「まあ、しっかりした子ね。いいわ、分かった。」
「よし、じゃあ、降りるよ。ママ!カードで『つけ』。」
「はいはい。毎度ありがとうございます。」
三人は席を立った。
お昼も近くなって来て。『喫茶大宇宙魔女さん』は、ますます繁盛していたのである。
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