わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第二回
ビュリアの「教会」は、のちにタルレジャ王国となる列島の、ふたつの本島のうちの北島に着陸していた。
ここを拠点として、「タル・レジャ教団」は発展して行くことになる。
ビュリアに取りついている「それ」本体にとっても、ここは地球の終末まで、絶対に欠かせない場所となるわけだった。
それは、火星に於ける王宮の、ある「場所」と同じ意味を持っていた。
ダレルはかつて、母親に連れられて、その場所の入口まで行ったわけだ。
ビュリアにしても、あまり悠長には言っていられない、門外不出の理由があったわけなのだが。
「教会」から外に出たダレルとリリカ(本体)は、上空に巨大な物体が降りてくるのを発見した。
「『アブラシオ』さんじゃない!」
リリカ(本体)が言った。
「『さん』はいらないだろう?」
「でも、まるで生き物だもの。アーニーさんと同じよ。」
「はあ、そうですかねえ・・・」
ダレルが気のない返事をした。
しかし、二人ともすぐに気が付いた。
「なんだか、すごく大きくなってるわね。」
「ああ、太ったのさ。人の積み過ぎだろう。」
「でも、ありえないでしょう?」
「まあね。しかし、ことビュリアに関する限りは、『あり得ない』はないと、思うよ。このところ特にね。」
「ふう~ん。なんか悟ったのかしら?」
「いや、呆れてるだけだよ。」
アブラシオは、二人が見上げている間にも、どんどんと降下し、短い海峡の向こうに見えている別の島の上空に落ち着いた。
しかし、半分からこっちは、この「教会」が立つ島の側に掛かっている。
まだ、何もない広大な土地が広がっている。
その突端の、海に落ちる場所は、はるか遠い将来、有名な観光地になるところだった。
後ろから、ビュリアが声をかけてきた。
「あなたがた、さっさといなくなるから。まだ話があったのに・・・・。」
「ほう、そりゃあ失礼しました。あれのことですか?」
「そうそう。それもある。今、あの「南島」・・・と勝手に呼んでいますが、に到着した皆さん方は、このあとこの島で、新しい国を作ることになります。北も南も、同じ国に統合させることが前提だけれども、その歩みは違ったものにするつもりです。「北島」・・つまりこちら側は、教会領といいますか、「タル・レジャ教」の拠点になります。一定の宗教上のお約束を立て、それに従って生活していただきますが、生活自体は「教団」が保証します。
南島では、住民の皆さんが、全てを話し合いで決め、自分たちで努力して生きて行っていただきます。もしリーダーが必要なら、自分たちで選んでもらいます。ただ、最初の「スタンプ」はサービスで押してあげるのが、まあ礼儀でしょう。そのための人選は、一応いたしました。これは、まあ、まだ(案)ですよ。まあ、ボランティアのような方々ですね。 報酬は、当面「なし」ですが、永遠に残る最初の指導者たちです。幸いこの土地は、かなり、上手に選んでありますので・・・仕組みとかの詳細は、秘密ですけど・・・生活するのは比較的楽なはずです。暑さは少し厳しいけれど、手に負えない寒さはまず来ません。いざと言う時は手助けもいたします。例えば、誰かが征服しようと軍事攻撃して来るとか・・・ね。」
「『ね』。ってなんだよ?」
「ま、ふふふふふ・・・ただし、まだここから地球上に広がることは、当分禁止です。それは強制的にでも、守っていただきます。わたくしが、地球人と交わってよいと宣言するまでは。相当長い期間になるでしょう。で、そこで相談なのです。私が当初指名したい指導者の方々は、このリストにあります。これ、『メモ』ですからね。」
「なになに、『地球、かっこ南島、首相=「アラン・パユ・ニコラニデス」。副首相=「カイ・ガイクンダ」あの、情報局長か?まてよ、あんたの父親だろうが? 同副首相=『ガヤ・カタクリニウス』これって、金星の元情報局長か? 喧嘩するだろう?」
「プロよ。ま、先をどうぞ。」
「ええと、『安全管理相=カシャ・カウ』・・・カシャか、こいつは実は火星出身だよな。『科学文化相=ブル博士』ふんふん。『教育相=ジュアル博士。まあ・・な。住民総代表=マヤコ』・・・マヤコって。誰?」
「まあ、いいから。先どうぞ」
「ふん。大統領・・・空席?」
「そう、そこは皆さんで決めてください、ということね。」
「ふうん。『北島、国王=未定???国王は未定ね・・なんだこれ。タルレジャ教、教母様・・『ママ』(ただし予定)?? 第一王女兼、第一の巫女=不肖ビュリア。侍従長=未定』未定も多いな。しかし、『ママ』って誰だ?国王って、何?」
「それはもう、金星の『ママ』よ。」
「え?!」
二人は同時に驚いた。
「『ママ』はね、遠い遠い昔、もう、今はどこにあるのかもよくわからない、ある太陽系で、わたくしの『ママ』だった人なの。この宇宙で、最初の『ママ』だった人よ。その精神だけ、残ってもらってた。この太陽系が形成されて、最初の金星文明を起こす際に、金星のすべてを管理する『ママ』になってもらった。本人も希望したし。でも、約束したのよ。次は人間に戻してあげると、ね。でも、あの様子では、すぐには無理。少しお仕置きも必要だしね。」
「金星も、火星も滅ぼした、犯人じゃないか?そりゃあ、同意しかねる。いくらなんでも。まあ、大体「教母様」と言うのが、何なのか、分からないが。」
ダレルが抗議した。まあ、それが当然だと、やはりよくはわからないものの、リリカもそう考えた。
「私も、ちょっとどうかと・・・誰も認めないでしょう。」
「秘密よ、秘密。『教母様』は、タルレジャ教の最高指導者よ。ただし、権力はあるけども、実力はない。」
「あなたの、操り人形?」
「まあ、そこまでは言わないわ。でもね、『ママ』が背負ってしまった大きな傷を、多くの地球人たちの役に立つ方向に昇華させてくれたら、良い『教母様』になれる気がするのね。それに、「恨み」「呪い」は権力者にとって、最も恐ろしいモノのひとつだからね。本人は気にしなくても周りの噂になればやりにくいことこの上ない。『ママ』は侮れない力を持っているわ。奉って、災いを防ぐのは常道よ。」
「そりゃあ、太古の時代の話だ。感心できない。法治国家の対応じゃない。お仕置きって言うのは、なんなんだ?」
「いい、『ダレルちゃん』。ここは、太古の地球なの。何もない、ね。法律だってまだない。魔法は力なり、なのよ。お仕置きは、まあ、あの状態のままで当分置いておくことかな。」
「『ちゃん』じゃないだろう!」
「まあ、私たちは、金星にも、また地球においても、権限がないですから。何も言えませんが、当分と言うのはどのくらいなのですか?」
リリカ(本体)が、親子(?)喧嘩の再開の間に入った。
「まあ、そうね。ざっと10万年くらいね。」
「10万年? 禁固10万年と言う事ですか?」
「平たく言えばそういう事ね。で、国王は、文字通りの国王だけれど、これはあくまで王国統合の『シンボル』なの。権力は通常時には与えないつもりです。国王は、ビュリアが身を引く時までに決まればよい。で、これを、見てください。」
ビュリアは、もうひとつの「メモ」を差し出して、リリカ(本体)に渡した。
「まあ、暫定的なもので、あくまで内部のことですが・・・」
「ええと・・・・・『全地球安全管理支援者』=ダレル火星副首相兼『将軍』??? 『全地球総安全管理支援者』=リリカ火星首相??・・・何でしょうか?これ」
「まあね、あなた達の立場を、明確化してあげたの、肩書みたいなものよ。中身はよく相談しなさい。これで、あなたたちの地球支配は、一応完成した訳よ。表向きはあくまで、『支援』であって、『支配』とは違うけれど。」
「なんか、やはり、ばかな!だろう。」
「そうかな? いい、地球の新しい住民には、このことを当然布告する。まあ、いつまで持つかは分からないけれども、これを大前提に、地球の移住者には安全に生活してもらうし、リーダーにもなってもらう。だって、ここにはまったく、まともな防衛力もないのよ。火星の力が、地球を守るの。名目上、支配するんじゃない。地球のリーダーにはこれが権威になるし、ある種の保険になるわ。あなた方にとっては、口出しする理由にもなる。まあ、百年か二百年か、そのくらいは持つでしょう。後の事は考えなさい。それを『たたきダイ』にして、このあと話し合いを、よくしなさいな。補佐する人たちは、また、決めたらいい。南島の指導者については、気に入らなければ、変えてもらってもいいわよ。まあ、あなたがたお二人は、宇宙滅亡までは、永遠に死なないことが前提だけど。マヤコさんは、個人的な面識は作っていないけれど、アニーさんの情報では、ああ、アーニー改めアニーさんなのね。アニーさん、おすすめの民間人よ。それと、そう、ただし、教会と王宮には口出ししないで。そのうち、また仕組みは考えるけれど、今はね。あなた方は、『アブラシオ』さんが、大陸まで乗せて行ってあげる。必要なら、それなりのパフォーマンスをしてもらってもいいわよ。まず『超豪華温泉旅館「地球」』まで送ってあげる。あとは。女将さんに相談しなさいね。まあ、お二人にはこの先、火星を担う責任があるから、そこは、うまくやりなさい。ビュリアが生きてるうちは、援助はしっかりやるけど、その先はあなた方がここの人たちとよく相談するなりして、がんばりなさい。いずれ時期を見て、地球の皆さんに任せて、一旦手を引くのが望ましいな。その後、だいぶん未来になって、時期が来たら、地球侵略なりお互い協力するなりして、火星再興をするのも、認めたげるわ。その時は、またわたくしから合図する。」
「これは、でも、なんとなく、プチ恐怖独裁政治の始まりような気がするぞ・・・大昔にあんたが火星でやってた通りの。」
「あら、それは違う。ただの伝説に惑わされてはいけないわ。わたくしは、ブリューリが来る前は、確かに、君主制ではあったけれど、民主主義を実践していたし、独裁なんかしていなかった。ブリューリが勝手に過去の歴史を、後から都合の良いようにねじ曲げただけ。それが真実なのよ。残念ながら、証拠をほとんど、分離した別のわたくしが、命令されて消してしまったし、いまさらそれを持ち出しても、滅んだものは帰って来ないしね。でも、地球はこれからだものね。まあ、これからの皆さんの、やり方次第ね。可能な限り、こちらからは、口は出さないつもりだけど、わたくしは、当分ここでがんばる。助けが必要なら、言いなさい。地球の皆さまにも、当然そう言うしね。新しい地球人が生まれてきたら、そこはまたみんなで相談しましょう。焦る必要もないし。ああ、それと、ほら・・・」
ビュリアは、北島の端っこの、今は何もないが、結構広大な土地を指さした。
「土地はちゃんと確保した。あそこに、王宮は降ろすわ。これからは、『タル・レジャ王国』の王宮として使う。もともとあれも、女王の私有物なんだから。職員は、基本的に受け入れてあげる。拒否する人には、他の道もちゃんと用意してあげますわ。」
「火星のシンボルだ。財産だよ。」
「あら、新しいのを地下に作ってあげたじゃない。しかも、無償でね。地上には当分住めないしね。」
「む・・・・財政的な問題がある。」
「そうね。でも、火星は当面壊滅した。財政も一旦崩壊。ひっくり返ったんだから、仕方がない。でも、地下都市の運営については、支援するわ。それなりの予算も確保してある。まあ、経済はなんとか後から付いて来るわ。お金が常に、人間の行為の先にあったわけでも無い。価値観だって、この先どうなるかわからないでしょう? そうは言っても、どうしても必要な部分は、当分は、わたくしが富を生み出すしかないわね。火星や、宇宙海賊との取引とかもね。これも、とても大切になるわよ。大丈夫よ。火星から頼まれたら、ちゃんと応援するし、まあ、あとからしっかり儲けさせてもらうから、当面はただで応援してあげる。地球人が、お金が必要になるのは、かなり先のことだしね。火星の帳簿は、データを、地下にもちゃんと置いてきたわ。それにアニーさんがきちんと管理して握っているから、もしも必要ならば、相談しなさい。」
「まあ・・・確かに、あなたの支援は当面絶対に必要です。」
りりカがそう言った。かなり強めに。
「ええ、大きな責任もあるからね。」
「それは、当然そうだ。しかし、火星や金星の二の舞もまっぴらだ。」
「わかってる。だから、まあ、まずは、『ホテル』を何とかしておいでなさいな。ここには時間だけは、いっぱいあるわ。有り余るくらいに。でも、それだって、アッという間だけどね。」
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