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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十七回


「ウナ、あんた、その体でずっといられるのかい?」

 マヤコが尋ねた。

「さあ・・・あたしの体に似せて作った、作り物だけど、使用期限は特に無いとか、言われた。」

「見た感じは、全然違わないけど。」

「うん。子供に会って、どう言われるかがすごく不安。いっしょに居られるのだったら・・・、でもこの体は歳も取らないし、けがもしない。いいんだか、悪いんだか・・・いつか子供は、なんかおかしいと言うでしょう。それが怖いの。」

「独り立ちするまで、見てあげられたらいいんじゃない?」

「まあ。でも、この先どうなるのか、まったくわからない。」

「ビュリアさんの王国に、一緒に行こうよ。」

「それも、言われたの。」

「それって、誰から?」

「体に入れてくれた、不思議なお医者様。名前も分からない。」

「ふうん・・・」

「でも、子供が納得するなら、一緒に行ってもいいと思う。」

「どっちにしても、そうしようよ。それから、また考えたらいいよ。」

「そうね、まあ・・・・・」

 ウナの目の焦点は、少し定かではなかった。


 **********   **********


 会議二日目。

 今日は、まる1日時間がある。

 もちろん、その『焦点』はビュリアの証言であることは言うまでもない。

 そこで、夜が明けるころから、もう多くの人たちが集まり始めていたのである。

「ビュリア、まだ来ないのか?」

 ダレルがリリカに尋ねた。

「まだのようですよ。」

「くそ、無理やりでも、一緒に引っ張って来るべきだったな。ちょっと女将さんに聞いて見てもらえないかな。逃げられたら大ごとだ。」

「はいはい。」


 当人は、温泉地球でゆったりとババヌッキ茶をすすっていた。

「ほら、あなた、もう行かなければ。」

 女将さんが、けしかけていた。

「少しお待ちいただくくらいで、ちょうどよいのです。」

「もう、大スターみたいなこと言って。魔女のセリフじゃないよ。」

「はいはい。わかりました。行ってまいりましょう、お母様。」

「はい。ああ電話だ・・・・『はいはい。・・・・ああ、そうなんですよ。ここにおりましてちょっとお化粧に手間取って。はいはい。すぐ行かせますから、はいー。』ほら、リリカさんが、まだかって、言ってきた。」

「大方、ダレル君がけしかけたのよ。大体お化粧なんかしてないわ。すぐばれちゃうじゃないの。」

「ほら、パッパッぱあっと、やって行きなさい。あんたきちんとやれば、それなりに美人に見えるんだから。」

「元々、美人です。はいはい。じゃあ行きます。」

「ガンバッといで!」

 女将さんも、午後には証言に呼ばれている。



 ようやく、ビュリアが会場にやって来た頃、会議はすでに始まっていて、空間スクリーンの中では、急遽リリカ(本体)が証言に立っていた。

「おお、より難しい方を先に出しましたか。まあ、いいんじゃないかしら。どういうお話をするのか、とても興味深いですわね。」



「これはこれは、ビュリア様。お席にご案内いたします。」

 案内に立ったのは、キャニアだった。

「あなたは出番ないの?」

「まあ、私は小者ですもの。」

「いえいえ、なかなか。」

 ビュリアは一番前の席に案内された。

 会場内が少しざわついたので、リリカは話を中断させた。

「ども・・・」

 そう言いながら、ビュリアは席に着いた。

 左隣りにいたのは、なんと『片目のジニー』だった。

「あら、あなたも呼ばれた?」

「まあ。そうなんだよな。」

「ふうん・・・じゃあこっちは?」

「さあね。誰も来ないけど。」

「はああ。」


 リリカは、少しビュリアを睨みながら、話しを再開した。

「わたくしの生い立ちの概略は、そんなところです。さて、女王様は常に私のそばにいらっしゃいました。私は感応者ですから、随時女王様に洗脳されておりましたことは当然です。これは金星の方々には少し理解しがたいことかもしれませんが、そんなにショッキングな事ではありません。むしろ楽なのです。自分がすべきことの方向性が、大概いつもきちんと示されて行くのですから、行動の悩みは大幅に少なくなるのです。しかも自分の仕事には自信が持てますから、困惑することもまずありません。後悔も、ほとんどしません。しても、すぐに女王様が迷いを取り除いてくださるのですからね。ただし、今は違います。非常に後悔しております。それは、まず最大の後悔は・・・、人を食べ続けたことです。」

 会場内がざわざわッとした。

 火星人たちの多くが下を向いたり、苦しそうにあえいだりしていたが、逆に凛としている人たちもいた。

 金星人は、このあたりもまた、元々注目していたところだった。


 リリカは、火星人の同胞に対する食人の罪について、あっさり認めたわけだ。

「これは、元々はブリューリによって強制されたことでした。女王様はそこに無理やり協力させられたのだと思います。それはブリューリは人間に取りついて、意のままに動かす力があるからなのです。この共食いとも言うべき習慣は、遥かな過去から続いてきました。ブリューリが火星文明に介入してきたのは2億年から1億5千万年前の間だと思いますが、はっきりした年代が、実はまだ確定できません。それは、昨日もお話がありましたが、ブリューリが故意に過去を消去し書き直して行ったからです。もちろん女王様はきちんとご存知だったのでしょうけれど。だから、私やダレルさんが直接知っていることは、ほんの最近の少しだけのことです。ちなみに、ダレルさんは不感応者であり、人を食べることを事実上拒否しておられました。わたくしは、女王様のご命令とは言え、彼に無理やり人を食べさせました。」

 またざわめきが起こった。

「それは、ほんの少しだけです。しかし、ダレルさんの罪ではありません。多くの火星人のうち、少数の支配者層は、確かにブリューリのせいとは言え、こうして永く罪を犯して来ましたが、罪の意識さえ持ってはいなかったのです。しかも、合法的な行為でさえありました。私はそれでも、罪は罪だと思っています。」


『ふうん・・・・・まあ、正直なところではあるんだろうな。ブルさんは、そこんところの自分の話は、うまいこと避けていたがね。』

 ダレルは思った。

「ブリューリ退治のお話は、ダレルさんがなさいました。あまりあえて加えることもありません。それで、少し問題のあるお話です。かなり個人的な事もありますが、『青い絆』との関りのことです。」

『おいおい、それは言わない方がいい。あえて話す必要はない。やめとけよ。』

 ダレルは思った。それで、介入をした。

「ああ、お話し中すみません。どうやら、ビュリアさんがお見えになったようです。本来この時間はビュリアさんのものです。ビュリアさんは『青い絆』の幹部でした。リリカさんには席に戻っていただいて、そこはビュリアさんから先に証言していただきたいのですが、議長いかがでしょうか?」

「ああ、うん。いいでしょう、時間の問題もある。では、副議長は下がっていただいて結構です。苦しいお話をしていただきましたが、あとで追加をしていただくやもしれない。議長判断です。では、ビュリアさんどうぞ。」

「あらあら、面白そうだったのにな・・・」

 ぶつくさ独り言を言いながら、ビュリアは壇上に上がった。


 **********   **********


 一人のまだ幼い少年が、アブラシオの部屋から連れ出された。

 引率役の女性と男性ふたりが付き添っている。

「さて、これから地球に降りるぞー!」

 男の方が言った。

「地球って、まだ人はいないんでしょう?」

 男の子が尋ねた。

「うん。そうさ。でもね、今日はいっぱい火星人や金星人たちが集まってるんだ。」

「お祭り?」

「まあ、そうだね。お祭りさ。」

「なんで?」

「まあ、新しい世界の門出だから。」

「カドデって、なに?」

「家を出て、旅に出る事だよ。火星人と金星人は、故郷の家を失ったんだ。だからみんな旅に出るんだ。」

「ふうん。あなた方も?」

「そう。みんなそうなの。君だって、そうでしょう?」

 女性の方が言った。

「まあねえ。でも、ぼくはどうして、地球に行くの?」

「お母様が、お待ちだからよ。」

「え?お母様。ウナの事?」

「ああ、そうだけど。お母さんの事、『ウナ』って呼ぶの?」

「うん。だって、顔は知らないし、名前だけは聞いてるから。」

「ああ、そうか。ほら、これが写真だよ。」

 少年は、ちらっと見ただけだった。

「知ってる。」

 彼はぶつッと言った。

「はい?」

「写真は持ってるんだ。一枚だけ。もっと若いころのだけど。」

「じゃあ、顔は知ってるんだ。」

「まあね。でも、最近のは見たことないし。だって人は歳をとるから。」

「ううん・・・そうなのかあ。でも、お母様は、まだお若いからそんなには違っていないわよね。」

「あなたがたは、ウナに会ったの?」

「いえ、そうじゃないけどね。」

「ふうん・・・」

 『やりにくいガキだなあ』、と二人とも思いながら、しかしこう言った。

「もうちょっと時間がある。ババヌッキジュース飲むかい?」

「うん!ぜひ!」

「よしよし。じゃあ、ちょっと『喫茶』に行くか。」

 アブラシオの中には、なんでもある。

 二人は、やれやれと思いながら少年と共に『喫茶大宇宙魔女さん』に入った。


 **********   **********


 一方で、そのウナは落ち着かなかった。

 夕べまでは、いや明け方までは、わりと平静だったのだが、マヤコがはたから見ていても、なんとなく気の毒なくらい、そわそわし始めていた。

「大丈夫だよ。きっとちゃんと来るさ。」

「うん。そう。そうよね。なんだか、会いたくないっとか、言いそうな気がして。」

「まあ、心配するのは当然だけどさ。ビュリアさんのする事なんだから、間違いなんてないさ。会いたくないなら、こんな予定なんか組まないよ。」

 ちょっと言い過ぎたかなあ、と心配しながらマヤコはウナを見つめた。

 しかし、ウナには余裕がない。

「ええ、うん。わかってる。大丈夫。あの、マヤコさん一緒に来てくれる?」

「ああ、そりゃあ行くさ。」

「よかった。」


 親子の対面は、お昼時間に設定されていた。

 昼食も一緒にする予定で、決裂さえしなければ、そのままウナに引き渡されることになる。

 二人の保護担当者は、しばらくはこの親子を援護する計画にもなっていた。

 ビュリア(女王)は、万全の対策を取るようにと、指示を出していたのだ。

 長い長い午前中だった。


 ************   ************




 

















 




























































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