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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十六回

 クンダルは、診察室に入った。

 優しそうな、女性の医師である。

「こんにちは、ジュウリと言います。どうぞ。」

 クンダルは大男で、本来愛想はよくない。

 しかし、痛みは少し和らいでいた。

「一時的な痛みだったかもしれないよ。先生。」

「まあ、見せてください、そこに横になって。」

「ううん・・・」

 あまり見せたくはなかった。

 しかし、受付で聞いた話も大いに気にはなる。

 先のことが全く分からない。

 おそらく、この医者を責めれば、何か解決法が分かるかもしれない。

 クンダルは、とりあえずベッドに横になった。

「はあ、これは銃創ですね。映画でも撮りましたか?」

「はあ・・・いや、そういうわけでは。」

「そう。おや?」

「いたあ!そこそこ、痛いですよ。」

「ここは?」

「いや、さっぱり。」

「はあ・・・ちょっと検査しますよ。」

 医師の前に、何かの操作卓がせりあがってきた。

「放射線は使いません。ちょっと閉鎖しますね。」

 ベッドの向こうから、するするっと大きなフードが被さった。

「おおお・・・」

 内側の、やや金属質の三日月形の物体がクンダルの上下を回った。


「ふうん・・・・あなたの右足、もう自分の足ではなくなっていますね。」

「はあ?」

「言いにくいですが、あなたは、いわゆる「レジェンド」の住居に勝手に侵入してしまったのではないですか?彼は、普段は調理師さんの様な恰好をしています。大きな体で、四角い感じです。家の中には等身大の人間とか、手とか足とかがあって、体中が宝石で覆われています。で、彼は、予約のない侵入者があると、相手に呪いをかけます。そうすると、その人間のからだを、離れたところから食べてしまうことができるのです。食べ終わったところは、自然に作り物の体に置き換わります。でも見た目は本物とそっくりなんですがね。やがて心臓を食べられてしまえば、それでおしまいです。最終的には、あなたにそっくりな、お人形さんが残ります。」

「ばかな。なんだよ、それは、あんた、あいつとグルなのか。」

「いえいえ、グルと言う事はないですよ。ただし、まあ、あえて言えば同僚かな・・・。どちらも、地獄の女王様に仕えていますからね。」

「地獄の女王様?なんだそりゃあ?」

「地獄の支配者です。さっき痛かったところは、人工の体と本物の体の境目。どうしても痛みが出ます。痛くなかったのは、もう自分の体ではなくなったところ。」

「おわ!! なんだこの違和感。さっきもあった。」

「ああ、反対の足が食べられましたね。」

「冗談じゃない。何とかしろよ。あんた医者なんだろう?」

「はい。医者です。ケガも病気も、直せないもの以外はすべて直せます。」

「?????」

「しかし、『呪い』は、診療科目外です。まあそれでも、もし、あなたが、助かりたいと望むなら、あなたの場合は、まだ方法が一つだけあります。お金を支払う事です。」

「お金?」

「そうです。まあ、お金でなくても、貴金属でもOKです。彼はそうしたものが大好きなのですから。あなた、宝石類を盗みましたか?」

「ええ?いや、ううん、いや、少しだけ。ケガの治療費だ。」

「ああ、なるほど、まあ、名目はともかくも、その場合は、盗んだものの三倍返しになります。」

「はあ?ばかな。」

「でも、それで命が助かるのです。安いものです。あなた、金星人?」

「まあな、だから、何もかも無くなっちまった。生活のためには仕方がないんだ。」

「なるほど。でも、金星人の強盗さんは、宇宙船を持ってる様な、よほどの大手の宇宙海賊さん以外は、大方は金星上にはお宝を埋められないので、裏業者を通じて、火星の衛星上にストックしている場合が多いと聞きます。違いますか?」

「ううっむ。いくらだ?いくらなら、いい?」

「ああ、では、レジェンドに聞いてみましょう。まあ、知り合いと言えばそうなので。」

 先生は、机の上の小型の機械を操作した。

 すぐに反応があって、レシートが印刷された。

「はい、どうぞ、ただし、治療費は別途いただきますよ。」

「なんだこれは、無茶な。これじゃあ、金欠になってしまうじゃあないか。」

「分割払いも可能ですよ。十分だけ返事を待つと言ってきています。どうしますか?」

 クンダルは、まだ状況を甘く見ていた。

 自分にできない事はないくらいに考えていた。

「あのな、先生。俺を甘く見ちゃあいけないぜ。いいか、その『でじぇんど』、とか言う悪に言って、ばかな事は止めさせろよな。でないと、あんたも首が飛ぶぜ。」

 クンダルは、先生の首にナイフを突きつけた。

 しかし、そのナイフは、アッと言ううまに、おもちゃのナイフに早変わりしてしまった。

「あああ、なんだ、あんたも魔法使いか!」

「その意思なしと、判断いたしました。」

 先生は、さっさと機械のボタンを一つ押した。


 クンダルの体は、動きを停止した。

 心臓あたりを、ステーキに、されたらしい。

「ばかね。ちょっとしばらくそこに置いといてください。」

 先生は、それからこう、付け加えた。

「あの、双子のお二人をお呼びくださいますか?それと、もう一人の方も。」


 三人は、同じ部屋から呼び出された。

「まあ、これはよくない事だけれど、ご覧になりましたか?」

 三人は肯いた。

「あなたがたは、どうしますか?」

 パフとレフが顔を見合わせて、動かなくなったクンダルを見ながら言った。

「おれたちは、今回初めてこいつから誘われたんだ。お宝のありかなんて知らないし、まだ分け前ももらってない。ああ、いや、すこし持ってきたが・・・」

 二人は、隠しポケットの中の宝石を出した。

「なるほど。素直な方たちです。あなたは?」

 ダニーは、クンダル以上に、人間と言うものを信用していなかった。

 とはいえ、命は惜しい。

「隠し場所は、知ってる。俺のものじゃあないが、それを言えばいいんだな。」

「あなたの隠し場所もですよ。ほら、これだけ支払えるの?ああ、これ全員分だけどね。一人だけ助けるのなら、五分の一ですよ。誰が助かるか、協議しますか?ああすみません、一人消えたから、その四分の一ですね。」

 先生は、さっきのレシートを見せた。

「無茶だ。俺のを足したって、到底無理だ。なんでクンダルの分も入るんだ。」

「全体責任ですからね。ああ、でも足りない分は、今後のローンでも、今回は特別良いと言ってきてます。少し汲むべき事情があるとレジェンドも判断した様です。実際、火星と金星の文明崩壊という、大きな事態があったのですから。もし、支払いを約束なさるのならば、あの大やけどの方のお命も助けましょう。」

「あの、先生・・」

 パフが尋ねた。

「なんですか?」

「ここは、『地獄』だと言ったよね、あんた。じゃあ、死んだらどうなるの?」

「まあ、さっきの方の精神は、すでに地獄の受付に回っているでしょう。あなたがたも、永遠に地獄の責め苦を受けることになりますね。それはもう、すさまじいものです。私も、見せてもらいましたが。いやもう・・・・・」

 先生は、そこで黙った。

「あんたは、何なんだよ?」

 ダニーが大きな声で言った。

「わたくしは、まあ、生きながら地獄に勤務しているということですね。ここは、地獄と言っても、そのエントランス地区です。生きたままの人間も、ちょっとした間違いで、時たま通ります。あなた達のようにね。まあ、入口までは、歩くと遠いが、死んだら受付はすぐです。たぶん。」

「おれたちは、この先働いて返すから、何とかしてほしい。」

 レフが言った。

「わかりました、あなたはどうするの?因みに、地上に帰ったら、女王様に逮捕はされる。きっとね。でも、きちんと仕事はさせてもらえるし・・・、それに、あなた達の、あの状況ではちょっと、私も女王様がどうなさるのかは、何ともわからないけどね。こんな風に、なりたい?」

「いや・・・。」

「そう、まあ治療費は、あなたがたの宝石でいいです。全部出しなさい。」

「そんな、横取りだ!!」

「手数料と諸費用を引いて、あとは、レジェンドに帰します。」

「あの、あの怪人は、何なんですか?」

 パフが下手に尋ねた。

「まあ、地獄の秘密の出入り口の番人ですね。あんなところ、開けようとする人がいるなんて、女王様も考えなかったのでしょうね。」

「女王様って、誰なんだ?」

 ダニーが尋ねた。

「それは、秘密ですね。というか、私も良くは解りません。女王様の姿は、一定ではないので。さあ、どうしますか。きちんと清算しますか?」

 全員、肯いた。

「わかりました、じゃあ、あのやけどの方がよくなったら、帰っていただきます。おしまい!」


 **********   **********


「いやあ、先生久しぶりに大忙しだったようですよ。」

 アニーが報告した。

「まあ、あそこの時間は、あっても、ないようなものだしね。でもね、地獄の在り方については、これから大きく変革させるわ。入口も、やがては世界中に作るの。「お池」がいいかなと思うの。地球上でも、きっと気の毒な子供たちが出てくるでしょうから、そのための場所も作るわ。」

「それって、『地獄』ですか?」

「まあ、『複合的総合施設』だからな。それに行き場のなくなった火星人や金星人の職場にもなるし。」

「はあ、まあ、なるほど・・・。」


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