わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十五回
それから1時間くらいたったころ、あの恐怖の部屋から、クンダルとモラリーが転がり出てきた。
「くそ、もう少し丁寧に扱え!ケガまでさせやがって!傷害罪だ!」
クンダルがわめいた。
「あんたを撃ったんは、あんたさんのお仲間です。勘違いはしないでほしいす。我は、その治療をしてあげたのだから、むしろ感謝してほしいす。なんせ人の住居に不法侵入して、強盗を働こうとしたんでありますぞよす。」
右手に巨大な包丁、左手にはノコギリを抱えた大男が言った。
盗賊たちの手に、銃はもはやなかった。
「くそ。よく言うぜ、じゃあ、あの人間はなんだよ。え?あの宝の山はなんだよ?あんたも、相当な「わる」じゃないか?どこから盗んだ?」
「ほほほほほ。ばかにしないでほしいよす。あれはね、実際よく出来てるだろうす?しかしあれは人間の複製なんだよす。心のない複写なんだもなす。それに、宝石が人の家の中にあったって、あんたたちの関知することじゃあないす。さあ、出て行くんだよす。あそこから。」
先ほどと同じように、大きな出口が開いている。
「くそ。ばかやろう、俺の機械を返せ、ここまで苦労したんだ。少しは分け前を出せ!」
「ぶあっかやろうさんだす!あの、ちゃちなおもちゃは、他の三人が持ってったよす。さあ、早く出て行け、じゃないと、頭と胴体が分割になるよす!」
二人は叩き出された。
叩き出した本人は、椅子に腰かけて、あのステーキを試食し始めた。
「これは・・・ちょっと癖が強いねえす。このままではお出しできないすなす。」
一方、叩き出された、その、二人の目の前に、一人の女性が現れていた。
看護師さんの様な姿をしている。
「まあ、あなたがたどうしたのですか? おけがをなさっていますね。」
後ろを見れば、もう入口などなかった。
延々と広がる広大な野原だけだ。
「いや、あの、大したことはない。」
急に現れた女性に声を掛けられたせいで、クンダルも多少面食らっている。
「それは、あまり上等な手当てとは言えません。よく消毒して、もう一回やり直しましょう。どうぞ、こちらへ。」
「は?」
「診療所に参りましょう。」
「は、そんあものがあるのか?」
「なんでもございます。望む物はすべて。」
「ほう?」
泥棒の習性が、頭をもたげた。
ふたりは、その楚々とした動きの女性について行った。
下心、満載だったが。
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先に逃げ出した三人は、はてもない荒野を歩いていた。
「こりゃあ、もうお終いかな。」
パフが言った。
「ばかもん。弱気が最大の敵だ。常に心を強く持て。」
悪人にしては、まともなアドバイスをダニーがした。
「しかし、これでは、水も食糧も手に入りませんぜ。」
「じゃあ、言ってみよう。水をください!食料も下さい!」
目の前にレストランが現れた。
「すばらしい!。なんという世界だ。」
「しかし、金ないっす。」
レフが言った。
「ふんふん・・・・・」
ダニーのポケットには、宝石が詰まっていたのである。
「ああ、ずるいであります。」
「ばーか。持ってない方がおかしい。」
パフのポケットにも、ごろごろとした「もの」が入っている。
実は、レフも隠してはいたのだが。
レストランは、きわめてまともであった。
いや、たぶん、まともであった。
「いらっしゃいませ。お三人様ですね、どうぞ。奥の席に。」
先客が何人かいる。
「どうやら、無人の荒野と言うわけでもないんだ。」
ダニーがつぶやいた。
しかし、地球上には「ホテル」と「パレス」と「温泉地球」以外にはこうした施設はないということを、ダニーはすっかり失念していた。
良いテーブルである。
椅子も、なかなか高級感がある。
ちょっと自分たちの格好が、いかにも強盗っぽい感じがするのだが。
「メニューでございます。どうぞ。お決まりになりましたら、この鈴でお呼びください。」
「ああ、わかった。」
三人はメニューを眺めた。
「ここはいったいどこなんだろうな。」
パフが言った。
「あの、怪人はなんだったんだろうな。」
レフが言った。
「他のふたりは、ステーキになっちまったんだろうな。お前、喰いたかったんだろう?」
パフがレフに尋ねた。
「いやあ・・・うん。」
「バカ野郎、罰当たりめ。ふん。このマークはなんだろうか?」
うまそうな料理の写真が並んでいるが・・・
各商品の価格欄に、宝石のようなマークがある。
ひとつのものも、ふたつのものもある。
注釈を見れば『*宝石でのお支払い承ります。厳密に鑑定し、計算いたします。ただし、盗品かどうかの鑑定も併せて行います。ご了承ください。』
「バカ野郎さんだ。帰ろう。」
三人は、何も言わずにさっさと店を出た。
特にクレームはなかったので、まあ良かったのだろう。
しかし、困ったことに、店はすぐに消えてしまい、果てしない荒野だけが残った。
「幻覚かなあ。」
レフが言った。
「いやあ、ほら。」
パフの手には、メニューが握られていた。
「君、それは泥棒だよ。」
レフがあっさりと言った。
「じゃあ返すさ。ほら返すよ!」
パフが、空中にメニューを放り投げた。
メニューは消えた。
「気味が悪いぜ。」
ダニーがそう言ったが、ようやく気が付いて叫んだ。
「俺たちは、元の世界に帰りたいんだ!」
しかし、それには反応がなかったのだ。
「くそ。バカにしやがって。」
「しかし、腹はすくし、喉も乾いてきた。何だかやけに熱い。」
パフとレフが言い合った。
「ああ、気温が高くなってきてるんだ。」
「見ろよ!」
「・・・砂漠だ。」
周囲は、草原から灼熱の砂漠に変わってしまっていた。
恐ろしく暑い。
なにやら、竜巻のようなものが、向こうから迫って来る。
「うわあ・・・なんという熱風だ。中心が来たら、体が焼けるぞ。」
「ひえー、シェルター出してくれー!」
なんとなく危なっかしい感じの、それでもコンクリート製の丸い建物が地下からせりあがってきた。
ドアはない。一か所通路が開いている。内部は地下に向かって少し下がっているようだ。
三人は飛び込んだ。
砂漠の竜巻は、もう、すぐそこまで来ていた。
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「どうぞ、中に。」
クンダルとモラリーは、真っ白な、華奢ではあるが二階建ての建物に案内されていた。
『病 院』
と書かれた看板が張り付いているが、名前がない。
「おい、ここは、大丈夫か?」
モラリーが言った。
「いやあ。しかし、なあ、足がやたら痛いんだ。」
クンダルが顔をしかめている。
「この際、診てもらおうぜ。」
たしかに、彼の包帯を巻かれた、仲間に銃撃された足が、はでに腫れ上がっていたのだ。
「そりゃあ、まずいな。」
二人は、病院の内に入った。
連れてきた女性の姿は、もう、見えなくなっていたが。
『受付』があった。
「どうぞ、どうなさいましたか?」
受付の眼鏡をかけた女性が言った。
「あしが・・・・」
彼女は、デスク越しにクンダルの足を覗き込んだ。
「おおお。それはまた、痛そうですね。わかりました。このペーパーにご記入ください。なにか保険関係の証書とかお持ちですか?」
「いや、ない。」
「わかりました。請求は現金もしくは『金目のもの』となりますが。」
「宝石なら、ある。」
「わかりました。結構です。では、待合でしばらくお待ちください。で、あなたは、診察のご希望はないですか?この先、当分病院はないですが?最近、『宇宙脳炎』が蔓延しております。予防注射もここなら可能ですよ。」
「危ないのか?」
「まあ、ここに半年もいれば、90%の方が感染します。仲介する「虫」も多いですから。死亡率は、約95%です。予防注射をしていれば、もし発症しても、死亡することはまずありません。」
「そりやあ・・・頼むよ。二人とも。で、いいかな?」
モラリーが確認した。
「ああ・・」
「わかりました。正しいご判断ですわ。」
「しあし、痛みがひどくなってきたんだ・・・」
「大変。そこの大型ソファーで横になっていてくださって結構です。ちょっと重症の方が先に来ていまして、少しお待ちください。」
看護師さんが二人、待合を高速で走り去った。
さっきの人もいたようだ。
周囲には、他の患者は見えないが・・・
やがて、ストレッチャーに乗った人物が運ばれてきた。呼吸装置やら、多数の点滴やらが、一杯ぶら下がっている。
体中が、赤や黒に焼けただれている。
「おい、ありゃあ、ダニーじゃないか?」
「らしき・・・」
それが走り去る後ろ姿を見ながら、モラリーがつぶやいた。
「クンダルさん。どうぞ。ああ、車いす出しますね。」
クンダルは、診察室に運ばれて行った。
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