わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十四回
「くっそ、バケモノめ!」
モラリーは自分を搦めとっている金属製らしき「腕」を銃で撃ったが効き目はない。
残りの三人も、その「腕」やら、怪しい白衣の人物やらを銃撃した。
顔はあるが、大きなマスクをしていて人相は全く分からない。
銃弾は、当たってはいるものの、はじき返されている。
一発がクンダルの足に当たってしまった。
しかし、本人はまったく反応しない。
「ちきしょう。危なくってかなわん。」
ダニーが銃撃しながら言った。
べつの腕が伸びて来て、モラリーに何かの注射をした。
モラリーは、すぐにのびてしまった。
「退却だ!退却。」
ダニーとパフ・レフは部屋から外に出て、ドアを閉めた。
そうして、大広間の中にあった机や椅子や、美しい食器が収まっていた戸棚などをドアの前に積み上げた。
「他の出口を探そう!」
「ないよ。カベしか見えない。」
パフが言った。
「クンダルの機械がある。」
「効かないと思う。」
レフが言った。
「やって見なきゃ、わかんないだろう!」
ダニーは、クンダルが残していた例の「何でも開けてしまう」装置を壁にくっつけて、クンダルがやっていたようにスイッチを押した。
「動いたぞ。」
確かに、機械は作動している。
数字や文字が高速で走り回った。
「あのふたり、どうなるんだ?」
パフが尋ねた。
「知る訳が無いだろうが!くそ! ここはだめか。場所を変えよう。」
レフは、あっちこっち壁を叩いて回っている。
それを見たパフは、床を調べて回った。
「だめだ、開かない。」
ダニーは、今度は床に装置を置いてやってみている。
もう、ほとんど、でたらめ状態だった。
やがて、レフは床に座り込んで言った。
「トイレに行きたいな。腹も減ったしな・・・大きなステーキ喰いたいよ。」
すると、壁の一か所に、ふわっとドアが浮かび上がったのだ。
「なんだ、これは?」
レフは、立ち上がってふらふらとドアの前に行き、そうして開けた。
「これは、お手洗いだよ。」
「お前、さっき言ったよな。」
「ああ、確かに、それらしきを、言ったかな・・・。」
「それだ!『外に出たい、開けてくれよ!』」
ダニーが叫んだ。
途端に、大きな出口が開いた。
同時に、あの積み上げた家具が、次次にふわっと浮きあがって、元の場所に戻って行く。
そうして、あの白衣の怪人が食堂で使われるような平らなカートを押し出して現れた。
その上には、豪華なステーキが乗っかっていた。
「おわ!ステーキだ!」
「ばか、逃げるぞ!ほら、こっちだ。」
「トイレが先!」
「ばかやろう!」
ダニーとパフは、少し精神的に混乱気味のレフを無理やり引っ張り、開いた出口から転がるように外に出た。
三人が出たとたんに、その出口は閉じた。
「なんだ、ここは? いったい・・・・」
広大な草原地帯が広がっていた。
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マヤコは、ウナと一緒に自室に戻った。
さっきまでの大騒ぎが、嘘のように静かだ。
「はあ、やれやれ。座ろうよ。」
マヤコは、窓際のゆったりとした木で出来た椅子に座った。
ウナも、その前側に腰かけた。
「今夜は、もう徹夜かなあ。気付けのババヌッキ茶でも入れようか。たしか、ポットがあった。」
マヤコはお茶を入れた。
「ほらよ。まったく、ウナが現れたから、びっくりした。」
ウナは、静かにうなづいた。
「この体は、たぶん偽物。」
そう、ウナがつぶやいた。
「え?」
「理屈なんか分からない。でも、きっとそう。」
「光人間になったから?」
ウナは、また、うなずいた。
「でも、実体がある。影じゃあないよ。」
「そう、お茶も飲める。でも味は、よくわからない。」
「はあ・・・・・」
「あたしたちは、森にいた。火星とは違う種類の木の森。たくさんの元人間がいた。ヨオコもババルオナもいたと思う。」
「思う?」
「そう。はっきり区別はつかないから。「光」と言っても、光る「もの」はないの。」
「ふうん。なんかよく、分からないけど・・あんた、また消えちゃったりしないでね。」
「さあ・・・それは解らない。でも、ビュリアさんから言われているの。あたしの子供が見つかったって。会わせてあげるって、明日。」
「それは、すっごく、良かったじゃない!」
「うん。信じられないくらいに、良かった。でも・・」
「でも?」
「少し怖い。しばらく会ってないし、顔だって覚えてないかも・・・」
「いくつ?」
「四歳。」
「微妙な年齢なんだね。男の子?」
「うん。」
「・・・大丈夫さ。あんたにビュリアさんが付いてるなら。」
「うん・・・・・」
マヤコは、詳しい「いきさつ」なんか知らなかったし、あえて聞くこともしなかった。
ウナは、じっと、まだ暗い外を見つめていた。
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警部2051は、睡眠をとるいう、必要性がなかった。
そこで、これまでに得た情報を分解し、張り合わせ、組み合わせ、また分解し、と作業を続けて来ていた。
彼の親友が、この太陽系に、さらに火星に来ていたことは、間違いが無かった。
そうして、そこで終焉を迎えたらしいという事も。
まだ確定ではないが、現地時間で言えば、恐らく1億年から2億年程前には、やってきていたと思われる。しかし、警部自身にとっては、あまりこの時間は意味がない。
さらに、ごく、本当につい最近までこの太陽系内にいた。
最後の形跡は、第九惑星の大気中にあった。
小さな細胞だが、間違いはない。
「しかしだ、この変貌は何を意味しているのか?」
友人のDNAには間違いが無いようだ。しかし、怪しげな変化がみられる。
「この太陽系の生物だって、我々だって、同じ宇宙の産物には違いがない。しかし、なにやら観察されたことのない変化がある。コンピューターはお手上げ状態。心霊現象かな?まさかね。いや、宇宙人のしわざか?つまり、火星人とかの。それにしちゃあ、まだ発展途上だったようだしな。別の宇宙の生物が関与したとか。なら、あのビュリアさんとか・・・。ううん。あいつ、もしかして、あの美女と関係を持ったか。いやいや、それじゃまるで出来損ないのファンタジー小説か、超D級SF映画だ。ビュリアさんは実在の火星人だからね。中身の問題は別として。もとい。何億年か前に、あいつはやって来た。この宇宙に。そこで、何かがあった。あいつはそれまでの自分ではない何かに変貌した。原因はまだ解らない。しかし、第九惑星はかなり怪しい。あいつは、この宇宙の生物を、人間も含めて食べるようになった。その形質は、いわば伝染するらしい。火星の女王様と言われた存在も、その影響によって同類を食料にするようになった。そのような社会を意図的に構築した。長い間それは維持されたが、つい先ごろ、ダレルさんとリリカさんによって、あいつは駆逐されてしまった。遺体は、おそらく第九惑星の奥に沈んだ。か・・・どこか変かな? 調査によれば、あいつがこの太陽系にやって来る前の状況は、実際まだほんど分かってはいない。しかし、その当時には、食人の習慣はなかったとされている。実は非常に平和な世界だった可能性が高い。『ブリューリ様』が、その生活様式を持ち込んだ、とされている資料もあった。『超能力』を使って、火星人を支配したらしき記録も見受けられた。あいつには、確かに昔からそうした能力が実際にあった。それは事実なんだ。しかし、なんであの『正義の味方の固まり』みたいなやつが、そんな化け物になったのか?そこが、わからないな。」
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『どうも、警部2051さんは、色々な資料をあさり出したようですね。燃え尽きた火星の地下からも、古い本を大量に掘り出しました。』
「どうせ、あなたが隠したんでしょう?アニーさん。」
『まあ、はい。いやあ、見つかるなんて思ってないですからねえ。でも、指示したのはあなたです。ヘレナさん。』
「そうでしょうとも。で、何を考えてるの?」
『いやあ、それが、例の大きな玉の中にこもっちゃってて、分かりません。』
「はあ。まあいいわ。そのうち分かるよ。」
『そうですよね。』
「で、強盗さんたちは?」
『二人は、勝手に入ったものだから「あいつ」が処理してしまいましたよ。かなり、まずかったようですねえ。残りは別世界に躍り出て、探検中です。もうちょっと、上手く言えばいいものを。』
「ふうん。あせったのよ。」
『助けますか?』
「まあ、不法侵入だもの。火星の法にのっとって、全員しばらくそこで保護ね。」
『火星の法は、もう効果ないと思いますが。』
「まだ、正式に廃止されてないわよ。」
『滅亡したら終わりですよ。』
「はいはい。まあ、わたくしが指示するまで、そうしなさい。」
『ああ、了解です。』
・・・『いやあ、太陽系ができた時に、かなりいい加減にアーニーさんを作ったもんだから、相変わらずおとぼけは直らないなあ・・・まあ、そこがまた、魅力なんですがね。』
ヘレナはぼやいた。
もう、朝が近い。
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