わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第ニ十二回
ニコラニデスは、かなり居心地が良くなさそうだった。
百戦錬磨のカタクリニウクは、かつての自分の立場とか、役割とか、やった事とか、そうしたものはともかくとして、現在の自分を信じる能力がある。ついでに交渉力と言うか、生き残る技と言うか、そうしたもにのも長けている。
若いニコラニデスは、「青い絆」での自分を、ビューナスの子供という自分を、とてもじゃないけれど、清算できないでいる。
「あなた、金星だけでなく、アダモスや、カシャの事を気にしてるんでしょ。」
ビュリアが声をかけていた。
「まさか・・・・」
「ふうん、強がりだけはある訳か。」
「ぼくは、あんたみたいな、偉い魔法使いじゃあない。まだ人間なんだ。」
「あらあ、失礼な。わたくしだって、人間ですわ。」
ビュリアは、テーブルの上のニコラニデスの手を握った。
「いいですか?ニコちゃん。あなたには才能がある。あなたは、わたくしのことを化け物扱いするけれど、あなただって、結構ミュータント。みんなには、まだ内緒だけどね。あなたはものすごい美女にもなれる。ママの管理も一定程度可能だったんだから、そんなこと出来るのは、あなただけよ。この先、『ママ』の管理はどうしたって必要になる。わたくしがいつもお相手できるわけじゃあない。それに、あなたには目覚めていない能力がある。」
「ばかな。」
「おばかさんなことね。いいわ、そのうち、しっかり『身をもって』レッスンしてあげるわ。いずれにしても、あなたには、ぜひ、タルレジャ王国の初代首相になっていただきたいのです。まあ、はっきり言えば、あなたには逃げられない運命よ。もし、金星や、ビューナスや、アダモスさんや、カシャさんやアンナさんのことを思って悩むのなら、彼らのためにも、この運命を遂行しなさい。それに、みんなそれぞれ、自分の道をもうしっかり進んでいる。アダモスさんは、アブラシオの中に残っているけれど、プロキシマ移住団のリーダーとして、太陽系を離れるの。もう二度と帰っては来ないでしょう。ただし、また会えなくもないわ。少し、未来にね。その時和解すればいい。カシャさんは、ここに来てもらおうと思ったけど、結局本人たちが、どうしても了承しなかった。まあ、彼は彼で、わだかまりがあるんでしょう。彼には、本人の希望もあって、冥王星系を任せる。アンナさんにもね。彼らとは、遠からず会うことになる。いい?カタクリニウクさんが抱えている過去の問題は、実際巨大なものですよ。それでも、こうした危機の場合にはその能力が買われているわけ。だけど、リスクも大きいのよ。それに比べたら、あなたには、あまり負うべき責任がなかった。皮肉じゃない。そこがあなたの大きな利点なの。過去の負の得点が少ないわけよ。自信持ちなさいって。うじうじとまるで『「やましん」の腐ったの』みたいで、良くないよ。」
「は?なんです、それ。」
「ああ、これは、まあ、火星の、古いことわざなのよ。『やまを信ぜず、このまま、腐り行くかな、ならばやまを信じて、さらに登らん。されば新しい世も開かれよう。』火星で初めてオリンポス山に登頂した人の言葉とかよ。もうだめ、ここで死ぬ、という時の。何かの障害に出くわして、うじうじしてるのを、火星ではさっきみたいに言うの。ほら、楽しくお話しに行きましょう。マヤコさんを見習おうよ。お互いにね。」
「なんか、うそっぽいなあ・・・・・」
「ほら、ほら。」
ビュリアは、ニコラニデスを、カタクリニウクたちのところに引っ張って行った。
「おお、来た来た! ビュリアさんとの話は、片付きましたかな。」
「え?片付いたと言うか、まだこれからと言うか・・・」
「それでよいのです。さて、みなさん、この先会議の中で今後の地球の態勢についての説明が必要になります。まあ、同意されない向きもあろうが、ぼくはビュリアさんと話したうえで、新しい「タルレジャ王国」、つまり当面地球に作る唯一の国ですが、の首相として、ニコラニデスさんを推薦したいのです。
「おおー!」
マヤコが言った。
「そうして、副首相に、ガイクンダさん。科学相にブル博士、教育相にジュアル博士を推したいのです。あと大統領は、まだ推薦者を決めていない。本当は、カシャさんに入閣してほしいと思ったが、拒否されてしまった。それから、あなた、マヤコさん!」
「はあ?」
「あなたにも、政府の閣僚になってもらいたいのです。」
「はあ、はあ?」
「ははは。まあこれは、ぼくの妄想ですよ。しかし、ビュリアさんの同意は頂いています。ビュリアさんは、地球の所有者です。異論はあったが、この法的な根拠は、まだ崩れていないとぼくは判断しています。残念ながらであってさえも、彼女には特権があるわけですな。しかし、ビュリアさんは、宗教的な権限しか求めず、政治には原則介入しないというのです。」
「そんな、無茶苦茶ですよ。バイトの警備員をダイジンだなんて。」
「まあ、そこが面白いところよ。マヤコさん。この人事案の、ひとつの「骨」なんだから。」
「は?ホネ?」
「ああ、まあ、ポイント、かな。金星風に言えば。」
「はあ・・・・でも、出来るわけがないよ!」
「大丈夫。ちゃんとお勉強はしてもらうから。」
「お勉強嫌い!」
「まあまあ、でもね、人生で一度くらいは、猛勉強しなさい。一度でいいからね。」
「ははは、まあ心配なんか要りません。僕だって大学なんて行ってないんだから。ははは。」
「カタちゃんは、どうやって偉くなったの?」
いつの間にか話しに入ってきていた女将さんが尋ねた。
「まあ、いつの間にいたの?」
ビュリアがいぶかしく言った。
「ふんふん。」
「いやあ、あまり詳細に聞かれると困るんだなあ。まあ、はっきり言って、ビューナス様に特攻したのさ。殺されるか、試されるか、どっちかのね。昔のことで、今は通用しない手だ。」
「はったりだった?」
また女将さんだ。
「まあ、自信はあったと言えば、あったけれども、相手が相手だからなあ。まあ、九分九厘命はないと思った。」
「まあ、あなただけでしょうね。きっと。生き延びられたのは。」
ビュリアが言った。
「百人投げの伝説は、そこから出たのですか?」
「まあ、そうでしょうなあ。実際は153人、投げた。全員銃を持ってた。」
「持ってただけ?」
「まさか、銃弾の嵐ですよ。」
「まさかあ! ありえににくいわあ!」
「ぶ!マヤコさん、それ変!」
『ぎゃははははははははははは!!』
全員が大笑いとなった。
「まあ、種も仕掛けもあったが、それは秘密です。」
「ふうん・・・もしかして、デラベラリ先生あたりが味方してたわけかな・・」
ビュリアが勘ぐった。
向こう側で、親分とジニーとで話し込んでいたデラベラリ先生が、くしゃみをしている。
「まあ、そのあたりは、記憶があいまいでね。」
「政治家さんは、スグに記憶や記録が曖昧になるんですよね。都合よく。」
マヤコが皮肉った。
「まあ、あなたもそうなるさ。」
「いいえ!絶対にならない!」
「よし、政府に入ると公言した訳だ!」
「ああ、カタちゃんずるーい!!」
「ぎゃははははははは!!!」
宴会は延々と続いたが、結局のところ、時間はきちんと過ぎて行くものだ。
そう言うものなのだ。
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そこで、まだ一部で大騒ぎが続いてはいたが、外の店舗の営業は終了し、人々は名残惜しそうに、各自の居場所に引き上げて行った。
午前二時。これから外で活動する予定のご一行様が、そろそろと現れた。
特殊なスクーターに乗っているが、これは特別製のものだ。
周囲にバリアーが張られていて、外からは内部が見えない。
各種の探知機、レーダー、カメラ・・・すべてに、何も映らない。
「よし、壁を超える。ちょいちょいさ・・・」
ホテルの敷地内から外に出るゲートや、周囲の壁は、厳重に監視されていて、ロボットの監視員もいる。
ロボットだったのが、間違いだった。
泥棒たちにとっては、人間であっても、十分対処は可能だが、相手は多少痛い目に合うことにはなる。
警報装置が少し高級品でやっかいだったが、まあ、そこは何とかなった。
スクーター二台は、ほいほいと外に出た。
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