わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第二十回
「温泉、ルンルン! 楽しいなあ♪」
警部2051は、おお昔に、遥か彼方の銀河で流行ったコマーシャルソングを歌いながら、廊下を浮かぶように歩いてきた。
「まあ、ご機嫌ですこと。」
パ-ティー会場に向かって、さささっと歩いてきた女将さんとすれ違たのだ。
女将さんの後には、女性が一人付いてきていた。
「ああ、女将さん、お話お伺いするの、明日にしましょう。」
「ええ、結構ですよ。」
「ああ、ここの温泉ってのあ、何回入ってもいいのですか?」
「ええ、お昼の10時から15時までは管理タイムで閉まってますが、それ以外はいつでも、何回でもどうぞ。」
「おおすばらしい。じゃあ、また・・・・『絶景かなあ、絶景かなあ、殿それは、電柱でござるぞ~ ♪』」
「???」
女将さんは、警部の後姿を、不思議そうに見送った。
「なにか、よい事があったと見える、ふうん・・・ 」
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女将さんがパーティ-会場に姿を現すと、盛大な拍手が起こった。
あのダレルも、気のない拍手をとりあえず行っている。
リリカが二人いる。
これは、異常事態と言ってよいことだ。絶対、秘密なはずだから。
しかし、そう思ってよく見ると、一人はお面を被っているらしい。
お面の下も、実は同じ顔だという推測を、誰と誰がするだろうか。
カタクリニウクも、満面の笑みである。
マヤコは、困惑しながらも、カタクリニウクの隣で拍手している。
海賊片目のジニーとマオ・ドク、それにデラベラリ先生がいる。
ブル博士とジュアル博士がいる。
ニコラニデス。
そうして、あの火星の情報局長にして、ビュリアの父、つまり女将さんの元夫、カイ・ガイクンダが来ているではないか。
ババヌッキ社長夫妻と子供さんもいる。
リリカの隣には、ビュリアがいる。
「みなさん、お待たせいたしました。始めますよ!」
「おー!」
という声が上がった。
「その前に、もうおひとり、参加してくださることになりました。どうぞ。」
体の小さな女性が、ゆっくりと会場に入ってきた。
「ウ・ナ!」
マヤコが叫んだ。
何だかよくわからないなあ、と言う感じの「おおおお」という、”ささやかな”どよめきがあった。
「あなたは、マヤコさんのお隣です。」
女将さんが案内した。
「うな。うな。本当にウナ?」
ウナは、小さくうなずいた。
「やったあ!」
マヤコは、ウナを抱きしめた。
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訳の分からない空間に入り込んでしまった金星の空中都市群は、見たこともない星が、少しだけ輝く未知の宇宙空間で停止していた。
空中都市自体が放つ美しい光は、お互いにはっきりと見えている。
「これは、どこでしょうかなあ?」
情報局長がつぶやいた。
「それを調べるのが君の役目だろう。」
ブリアニデスが皮肉った。
「まあ、そうなんですけれど。お手上げですよ。コンピューターも降参しました。」
「我々が生きていられるんだから、絶対に理解できる。あきらめないで、なんとかしてほしい。」
「ええ、そうですが・・・しかし、このまま彷徨い続けるわけにもゆかないでしょう。」
「星の密度が低すぎるんじゃないか?」
「ええ、相当古い宇宙のようですね。未来に飛んだのかもしれないと思いましたが、それでは我々の宇宙の将来と一致しません。」
「別の宇宙?まさか。」
「おそらくそうですよ。」
「そりゃあ、不可能だろう。ぼくらの常識では。」
「そうですがね。まあ、私は科学者じゃあない。いま、先生方が必死に探ってますが・・・」
「ふうん。動くのは、まだ待とう。見えてる星の情報も欲しい。」
「ええ、観測はしてますよ。高精度宇宙望遠鏡も使っています。何か見つかるでしょう、きっとね。」
「通信はないのかい?」
「今のところ、自分たち以外では何もないですね。火星側にもまったく通信不能です。」
「ふうん。墓場の宇宙かな。なんとか脱出しなくちゃあ。入れたんだ。出られるさ。どんな映画もそうなっている。」
「まあ、映画ならそうです。火星時間で3時間以内には脱出できますよ。」
「ここでもそうだよ。きっと。」
「まあね。でも、例の『次元誘導弾』は、こう言う場所でも追いかけて来そうでしょう?」
「そうだね。確かに。」
「でも、来ていない。」
「ああ、つまり?」
「異次元とかじゃあない。やはり、別の宇宙でしょう。なんの因果関係もない。跳躍しても、元には戻れない。」
「だから、そんなところに来るわけがない・・・・」
「いやいや・・・」
「あの、お話し中すみません・・・・」
「おお、デンチュウナ博士!」
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「どうやら、お話がかみ合わないようですね。」
デンチュウナ博士が楽しそうに言った。
「そうなんですよ、先生、素人にゃ、どうにもならないです。」
ブリアニデスがあきらめ顔で言った。
「いやいや、そんなことはないです。だれもこんな事態に出会ったものはいない。わかる訳がないのです。まあ、例の次元誘導弾ですが、あれは、確かに宇宙空間を跳躍してる時にでも、追いかけてくるわけです。まあ、太陽系でこの跳躍ができる宇宙船を持っていたのは、金星と、海賊アマンジャだけです。火星でさえ持っていなかったと聞いています。しかも、自分たちで開発したのではない。アマンジャがどこからか買い付けてきたものを、ビューナス様が大金を払って買ったのです。肝心の部分は、自分たちには修理も出来ない。半年おきに、謎の人物が現れて点検していたという。しかし、壊れたという話も聞かない。これもおかしな話だ。いったい誰を想定してそんな事したのか。聞いておられますか? または、その売った相手というのが、いったい誰なのか?」
「いや、正直聞いていないのです。そこに、関与していたのは、ビューナス様とカタクリニウク局長だけだと聞いています。ぼくは、完全に蚊帳の外ですよ。」
ブリアニデスが答えた。
「なるほど。しかし、跳躍すると言っても、空間をねじ曲げて近道するのです。別の宇宙に行くわけではない。」
「やっぱり、ここは別の宇宙ですか?」
現情報局長が言った。
「まあ、急がないようにしましょう。」
「はあ・・・」
「突飛な話ですが、私はね、鍵は、やっぱり女王様なのだと思うのです。」
局長が、そう言われて不思議そうに尋ねた。
「女王様・・・ですか、でも、どう、からむのですか?」
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「うわあ、ウナ、ほんとに生きてるの?」
「まあ、生きているらしいです。」
「でも、あの時・・・・」
マヤコは突っ込みかけていたが、女将さんの声が響いた。
「では、まあ積りに積もるお話があるでしょうけれど、パーティー開始のコメントと乾杯を、カタちゃんから、ええ、今日は無礼講ですから、いただきましょう。カタちゃんどうぞ!」
カタクリニウクが立ち上がった。
「ええ、カタちゃんであります。」
『おわーっ!』と、声が上がった。
「ええ、今日のパーティーは、女将さんが元職場の仲間と、たまたま再会したことに、便乗したパーティーであります。まあ、こんな時期です。不謹慎と言われるかもしれないが、たまにはこういう事もあってよいでしょう。じゃあ、これから続くであろう厳しい審判と、それを乗り越えて、みなさんとすべての生き残った人々に、明るい未来が訪れるように祈って、『乾杯!』」
「カンパーイ!!」
大盛り上がりの中、非常に重要なパーティーが始まった。
ここに居る人々の多くが、タルレジャ王国の、初代閣僚となるのだから。
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