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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第十九回


 警部「2051」は、「温泉地球」の、美しくも、広い広い大浴場に現れた。

 旅館の説明を繰り返せば、この大浴場も、女王様が夢で見たという「ジャッポーン」という未知の世界の様式に基づいて作られている。

 しかし、時々訪れる、金星からの旅行者などは、たいていこう述べる。

「これは、金星の温泉様式に、独自の解釈を加えたものだが、デザインの窃用だろう。」と。

 とはいえ、金星の文明そのものが、もとはと言えば、女王様に発したのだということは、あまり考慮されていない。

 それでも、誰でも、こう付け加えずにはいられなかったが。

「でも・・・すごい。」

 

 ところが、浴室内に、警部「2051」の姿は見当たらなかった。

 その代わりに、直径5メートルにも及ぶような、真っ青な玉が、ぷかぷかと中空に浮かんでいた。

 想像してみていただきたい。

 あなたが、有名な温泉に行って、「温泉!るんるん」と言いながら、脱衣場で服を脱ぎ、大浴場の扉を開けてみたら、そこに直系5メートルの真っ青な玉がふわりと浮かんでいたら、どうしますか?

「あ、ども。」

 と、言いながら、そのまま全く気にせずに中に入れたら、あなたはもう、いつでも宇宙旅行ができるだろう。

 幸い、警部「2051」以外には、今のところ、他の生き物の姿は見当たらなかったが。

 

 実は、警部「2051」は、部下たちから送られてくる、膨大なデータの処理に忙しかったのだ。

 つまり、温泉の中にあっても、(多分)彼は仕事をしていたのである。


 ひと段落ついた警部の作り出す、巨大な玉は、やがてくるくるっと回りながら、人類の姿に落ち着いていった。


「いやあ、いい湯だなあ!最高。極楽極楽!」

 いったい何十億年かぶりかに温泉につかったらしい警部「2051」は、ご機嫌であった。

  

 しかし、そこにほんの僅かタイミングが遅れて入ってきた人物があった。

 カタクリニウクである。

 すでに、巨大な玉ではなくなっているが、真っ青な、透き通るような体の人物が、先に温泉につかっていたら、これもまた、結構な問題であろう。

 しかしながら、さすがにカタクリニウクは、まったく気にしなかった。

 彼は、生粋の金星人である。

 このタイプの温泉入浴の作法は、知り尽くしている。

 先に、しっかり体を清めてから、カタクリニウクは広大な浴槽に入った。

 彼にとっては、ここはまあ、なじみの場所である。

 『ホテル』のほうの温泉も、もちろん良いが、立場上、内緒ではあるものの、「温泉地球」のほうが、彼は好きだった。

 「温泉」が『好き』、だったという事もあったが、女将さんの方が『大好き』だったという事情もある。

 そりゃあまあ、システマチックでビジネスライクの『ホテル』より、肌あたりが良いのは当然と言えば当然だったが。

「いい湯ですなあ、ときに失礼ながら、ああたは、どうした方ですか?さっき、議長さんをなさっていたでしょう?さぞ、有名な方のようですな。」

 警部「2051」が尋ねた。(絶対、知らないはずはなかったが。)


 まあ、カタクリニウクを見知らないということは、金星の上級階層の「人」ではないらしいな、と思いながらカタクリニウクは機嫌よく答えた。

「いやあ、今は、引退した、彷徨える老人ですよ。昔は、金星の情報局に勤めていましたがなあ。そうした身分なんかは、引退したらお終いですからな。はははははは。で、あなたは?」

「いやいや、あたしゃ、警察官なんですよ。ただし、遥か彼方の銀河のね。だから、この宇宙では、アナタと同じ、彷徨える老いぼれですな。何の権限もない。」

「はあ、なるほど。このあたりの方ではないと思ったがね。でも、ご旅行ですかな?」

「いやあ、人探しなんです。もっとも、もう生きちゃあいないでしょうが。これも一応公務ですがねぇ。命令した側自体は、とっくの昔に滅亡してるでしょうなあ。もう、なんの連絡も付かないしね。ははは。」

「そりゃあまた、豪勢な話ですなあ。あなた、そうしたら、急ぐのですかな?どこかに行くとか。」

「いやあ、あてはないです。ただね、この太陽系で、もしかしたら、見つかりそうな予感なんですなあ。」

「そりゃあ素晴らしい。もし見つかったら、その先は?」

「そりゃあ、一応結果報告を送って・・・といっても受け取る存在はないでしょがねえ。それで終了ですな。故郷の宇宙の残骸を探しに戻るとか、ま、考えますよ、これからね。でも、まだ見つかった訳じゃあないからねぇ。結局見つからなかったら、また次の宇宙に向け、出発ですな。」

「ふうん。急ぐのですか?」

「いやねぇ、まあ、正直なところ、時間なんかあってないようなものですなあ。あたしゃね、当分死なないようだし。」

「よかったら、しばらく、この星に留まって見ませんか?」

「いやねぇ、そうしようかとも、思うんですがなあ。まあ、捜査の進展次第ですなあ。」

「ああ、ぼくは、カタクリニウクです。よろしく。」

「あたしゃ、警部「2051」と申します。明日も会議なんざんしょう?」

「いやあ、そうなんですなあ。ちょっと、手こずりそうです。」

「聞かせていただきますよ。じゃ、また。」


 警部「2051」は、「ぼちゃっ」♪ という、気持ちの良い音を立てながら、浴槽から上がった。



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