わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第十八回
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マヤコはパーティーそのものは大好きだけれど、一番目に到着して一人でじっと待つのは苦手である。
「なんだか、会場がまだ結構盛り上がっているみたいですね。」
番頭さんが気にして、声をかけて来てくれた。
「ダレルさんあたりも、マスコミとかに捕まっていて、まだ動けないようです。でも、新聞社も雑誌社も、みんな潰れちゃったのに、熱心なものですなあ。」
「どこかに、誰か、まとめる人が残っているんでしょうか? まあ、紙にするわけでも無いでしょうから、情報を出すこと自体はまだ可能なんですね。」
「まあ、『自動編集衛星』とかもまだ稼働しているようだし、ここには電源もあるし、『配信衛星』も生きてるようですから、1000年かそこらは、仕事ができるんでしょう。」
「ふうん。でも、その後はどうなるのでしょうか?」
番頭さんは答えた。
「さて、『番頭マニュアル』にはない問題ですよね。でも、想像するに、科学文明は一旦解消して、地球自体の超古代に戻るんじゃあないですか? 一部の例外地域・・・つまり『タルレジャ王国』ですけど・・・以外は。後の人たちは、王国に移るか、宇宙に戻るんでしょう。地球の本当の歴史は、そのあたりから始まるのかもしれないですねえ。」
「ここは、どうなるのでしょうか?」
「さあてねえ。お客様がいる間は営業するでしょうけれどねえ。女将さんの考えでは、適当な時期に『王国』に移転しようかなあ、でも、やはり秘境として、当分ここがいいかなあ・・・とかいう感じですよ。」
「はあ。」
「でも、深刻なのは『ホテル』ですよね。金星文明が崩壊した。当初の考えでは空中都市は生き残るだろうと思っていたから、営業は当分できると踏んでいたのに、お客様も、金星の『主システム』も、みんな無くなっちゃったから、もうすでに虫の息ですよ。まあ、ぼくが想像するに、女将さんが買い取るんじゃないかと・・・・・。」
「女将さんは、やはり大金持ちですか?」
「まあ、女将さんがと言うよりも、ビュリアさんですよね。」
「ああ・・・そこらへんは、よくわかんないですねえ。」
「法律上では、火星の女王様が、地球自体をビュリアさんに譲渡しました。しかし、ここは議論が噴出するでしょう?女王様は、事実上廃位ですし。現にダレルさんは反対しているようだし。」
「なんか、私たちには別世界のような。」
「いえいえ、あなたは、だって『タルレジャ王国』の大臣候補ですよ。そんなコト、なんて、言ってられなくなりますよ。きっと。」
「またまたあ。女将さんも番頭さんも、からかってばっかしい!」
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そんな世間話をしている最中に、やっと女将さんが帰ってきた。
「まあまあ、ごめんなさい。ちょっと立ち話やら、ありましてねえ。マヤコさん、ごめんなさいねえ。お待たせしてしまって。もうすぐだから。で、準備はいかがかしら? 番頭さん?」
「はいはい。もうお客様がいらっしゃるだけです。」
「おお、さすが!もう、ぼちぼち到着すると思いますよ。・・・ほら来た!」
「ああ、じゃあちょっと、お出迎いと行きますか、マヤコさん、ゆっくりお茶でも飲んでてくださいね、すぐに、嫌でも賑やかになりますよ。」
番頭さんと女将さんは、玄関に向かって走っていった。
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最初に来たのは、なんと、真っ青な透き通る様な肉体を抱えた宇宙人だった。
「ああ、お邪魔しますよ。あたしは、連絡しました、宇宙警察の『2051』といいます。」
「まあまあ、刑事さん。いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました。どうぞ。お荷物は?」
「ああ、これだけですから。」
警部「2051」は、ポケットから四角い小さな箱を取り出して見せた。
「着替えとかも、全部ここに入ってますですよ。」
「まあ、なんと合理的な事。さあさあ、おあがりくださいませ。お部屋にご案内いたしましょう。まずは宿帳にご記入を。」
「ああ、はいはい。いやあ、こういう所業をするのは、何十億年ぶりかですなあ。いやあ、いいなあ。」
「まあまあ、それはそれは、字をお書きになりますか、それとも電子署名で?」
床の中から、記入台と宿帳が上がってきた。
「ああ、「念書」でゆきます。」
豪華な、インクを使ったペンにも、素朴なタッチペンにも触らなかったし、何もまったく動かなかったが、宿帳には、何やらの文字が浮かび上がっていた。
「よろしいですかな?」
「はいはい。結構でございます。確認いたしました。これは、アンドロメダ宇宙方面の「共通文字第三種」でございますね。」
「さすが! この太陽系では、まだ認知されていないかも、とは思いましたが。さすがは「この旅館」ですなあ。」
「まあ、「女王様」がお持ちだった、ありったけの文字情報が入っておりますから。そうそう、ここは「女王様」の所有でしたものですから。」
「女王様は、どこからいらっしゃったのですかな?」
「それは、誰も知りませんのよ。まったく分からないのです。」
「でしょうなあ。」
警部「2051」は、意味深に答えた。
「では、どうぞ、お部屋に。」
番頭さんが、案内に立った。
「ああ、ども。」
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「女将さんの昔の知り合いの歓迎パーティーに、なんでぼくらが呼ばれるんだろう?」
ダレルがぼやいた。
彼は、パーティ-は嫌いである。
母親から、各種のパーティ-を強制されてきたことからくる、トラウマのような感じらしい。
最近の「お茶会」も引っかかっている。
「それはもう、「マヤコさん」と引き合わせるためでしょう。新しい地球の王国の大臣候補ですもの。」
リリカ(本体)が答えた。
「ふうん。そう言われれば、合理的ですな。」
「そうよ。私たちは、生まれて以来、王宮と言う環境が当たり前になっている。新しい王国の大臣候補者だって、どっちかといえば、特殊なコミュニティーの出身者が中心よ。火星にはね「庶民」という階層が存在しなかった。でも、金星には分厚い庶民層があった。でも、ジュアル博士は、代々金星の有名な学者の家系だし、「庶民派」とか勝手に自任していたブル先生だって、実は火星王家の家系でしょう。特筆すべきは、カタクリニウクさんは、貧困層から這い上がった傑物だということね。その彼が、マヤコさんを高く買った。」
「ふうん。」
「でもね、今夜、マヤコさんを品定めするような目で見てはダメですよ。彼女は、政治なんてまったく関係のない世界にいた。才能はあっても、すべてはこれから、素直な人柄を感じてみればそれでいいのよ。それ以上求めたり、政治的な見解を聞いたりしてはだめですよ。」
「えらく、学校の先生みたいだな。」
「首相としての、訓示です。」
「はいはい。で、カタクリニウクも来るのか?」
「どうかな、マヤコさんがやりにくいだろうと言ってらっしゃったみたい。でも、女将さんは来て欲しかったようだった。仲良しらしい。」
「ふん。来ないのが正解。楽しくなくなるよな。爆弾の固まりみたいな人だ。」
「まあ、それで生き残ったのだからね。あのビューナスの最側近まで行った、並の人じゃあないわ。でも、人の事よりも、今夜は、いい?スマイルよ、スマイル。ほら、にこっとして。だめよ、それじゃあ、気持ち悪いわ。」
「はい、すしょう閣下殿。」
「舌、噛んでるわよ。ハイ到着。」
「まあまあ、首相閣下様に、副首相閣下様。よくおいでくださいました。どうぞ。」
女将さんが、二人を出迎えた。
「まずは、宿帳から・・・・あら!」
「やあ、女将さん!」
後ろから大きな声がした。爆弾のような声だ。
「あっらああ! カタちゃんじゃないの。大きくなったわねエ。」
「ははは、お腹ばかりね。ははははは!」
カタクリニウク議長だった。
ダレルが知るところ、この男に、こんな笑顔が存在していたなどと、いったい誰が想像できただろうか?
最終爆弾が、爆発直前に、最後の最高の笑顔をして見せたようなものだと、ダレルは思った。
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警部「2051」は、自室に案内された。
「これは、なんと、ものすごい部屋ですな。ああ、庭がまた、すごいですなあ。」
警部は、お世辞ではなく、感嘆した様子だった。
「まあ、火星にも、このような趣向のお部屋は、見当たらなかったようですから。」
「ほう・・・素晴らしい。どこの様式ですかな?」
「これは、女王様が、かつて夢の中で体験された世界にあった情景を、現実のものにしたという、まことに不可思議な世界のものです。「ジャッポン」という世界だったそうです。しかし、美しいでしょう?」
「いやあ、まったく。「おとぎの国」か、もしくは「あの世」ですか!」
「いやあ、「あの世」ではないでしょうけれども。」
「すばらしいですなあ、今夜は「あの世」で過ごせるわけですか。」
「まあ、そうですね。それで、喜んでいただければ、最高にうれしゅうございますが。夜間は照明も入ります。幻想的な世界をお楽しみいただけるかと思います。」
「いやいや、来た甲斐があるというものですよ。」
「ところで、「2051」さま、お風呂に先にお入りになりますか。それとも、女将さんにお話があるとかでしたが・・・」
「ああ、女将さんは、お出迎えでお忙しいようですな。お風呂にさせてもらいましょうか。まったく、遥かに久しぶりですからなあ。」
「わかりました。では、再度ご案内が参ります。こちらが「温泉セット」でございます。よろしければ、記念にお持ち帰りいただいてけっこうでございます。」
「ああ、ありがとう。」
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