わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第十七回
女将さんは、久しぶりに大忙しとなった。
マヤコが、かつての部下だったことがわかり、今夜は女将さんも含めての大パーティーということになっていた。
本当は、他のお客様はお断りとしたかったのだが、突然舞い込んだ「宇宙警察」さんに、女将さんは俄然興味を抱いた。
まあ、「勘」といえばそうなのだが、これが危険な方の勘だった可能性も、相当に高かったのだが。
そこで、警部「2051」には、本来今日は予約のお客様でいっぱいであること、女将もそちらのパーティーに出るので、あまりお構いできない事を条件として、少し割引料金で受け入れるという話になった。
「いやねえ。もうそれで、大成功ですよ。まさか、あなた、温泉に入れるなんて、あたしゃ、考えてなかったんですがねぇ、技術的な考察をしたところ、人体を構築することが可能な事が分かりましてねえ。いやあ、幸運でした。」
ということだったのだ。ただし・・・
「いやあ、ほんのちょっとだけでいいんですがね、女将さんに、お話をお伺いしたいんですなあ。ちょっとで、いいんで。先日、ビュリアさんにもお伺いしたんですがねぇ。あとは温泉で。」
「はあ・・・まあ、よろしゅうござんすわ。ただし、時々答えないかもしれないけど。」
「はいー。それはもう。この太陽系は、「協定」にも入っていないので、強制はできないんですよ。」
「はあ・・・」
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「ねえ、あんた、あの刑事さんに、何、しゃべったのさ?」
女将さんは、ビュリアに尋ねた。
『それがねえ、あの方は、大昔に行方不明になった、仲間の刑事さんを探しているんですって。で、この太陽系で、その方の痕跡を発見したらしいのよ。それがなんと、「ブリューリ」の細胞と一致しちゃったんだなあ。」
「はあ?ブリューリさんは、太古の時代には、刑事さんだったって訳かい?」
「まあ、そういうことね。」
「あんた、それ知ってたのかい?」
「まさか、いや、そんな暇無かったもの。もう、すぐに襲ってきたから、逃げた。体を奪われそうになったから、分離させて逃げた。」
「まあ、しっぽキリして、自分の一部を、犠牲にしたわけかい?ひどいねえ!」
「でも、そうでもしないと、わたくしが怪物になっておりましたもの。」
「まあ、ねえ。そうだねえ。で、その通りを話したわけだね。」
「そうそう、で、その後火星や金星で何があったかも、ざっとね。でも、向こうもよく、もう調べていましたわ。」
「あんたのこと、怪しんでないのかい?」
「わたくしのような『魔女』は、いくらでもいたんですって、その世界には。だからねえ、そっちの方が、すっごく興味があったの。私はいったい何なのか、尋ねてみた訳よ。」
「ほう?で?」
「よく似てはいるけれど、その『魔女』たちには、もともとは肉体があった。つまり、わたくしと、同じじゃやないってことね。」
「そりゃあ、残念。」
「でも、この先も、考えてみて下さるって。ずーっとね。また二億年から三億年後の間くらいに、このあたりに帰ってくるから、寄りますってさ。いったい、地球はどうなっているんだか?」
「ほう。そうかい、でもあたしに何を聞きたいんだろう?」
「さあね。まあ、お任せしますわ。お母様に。」
「ふうん・・・・・」
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「・・・と言う経過であります。このような事態になった事は、冒頭にも申し上げましたように、本当に残念で仕方がございません。長くなりました。では、これで。」
ダレルは、壇上から降りた。
カタクリニウク議長が発言した。
「ええ、では、ご質問をとしたいところですが、時間が無くなりました。続きは明日にいたしましょう。皆様お疲れのことでしょう。今夜は、遊び過ぎないように、適度にお過ごしください。ここは、観光地ではありません。ホテル周辺から一歩でも離れると、危険な生物も多いとのことです。けっして、夜間、ホテルの柵の外には出ないようにお願いいたします。ええ、事務局からありますか?」
再び、ダレルが説明に立った。
「はい、あの、『超豪華温泉旅館「地球」』にご宿泊の方は、渡り廊下を通って、正面玄関から入ってチェックインしてください、「地球ホテル」にご宿泊の方が多いと思いますが、30分後と60分後と、さらに90分後と120分後に連絡バスが出ます。またそれ以後も、深夜2時まで30分おきに、双方から臨時連絡バスが出ます。最終便にはどうか遅れないようにご注意ください。また、チェックインは必ずしてください。双方を行き来してくださって構いません。所要時間は約30分です。また、この間に、深夜12時半までは「温泉地球」と「ホテル地球」での短時間入浴コースがご利用になれます。こちらは会議開催中は特別に無料だそうです。ただし、人数制限がありますので、温泉の指示に従ってくださいとのことでありますが、ぼくが思いますに、どちらも巨大な温泉なので、まず入れると思います。あな、その場所で宿泊の方は、それぞれのホテル、温泉で確認してください。また双方とも、売店で会議開催中は、特別セールをするんだそうですので、お立ちよりくださいとのこと。この周囲の出店は深夜1時までとのことです。それから「地球ホテル」の周囲にも、深夜1時まで、各種出店や屋台が出るそうです。どちらも完全防備するので、大丈夫ですが、肉食獣が覗きに来るだろうとのことで、スリルがあるかもしれません。それから、ゴミは絶対にポイ捨てしないで、所定の回収箱に入れてください。宇宙船などで宿泊の方は、気を付けてお帰りください。明朝は8時半開始ですが、会場は8時にカギを開けます。それから、これは、絶対のお願いとのことで、危険な動物たちもいっぱいなので、どうぞ、柵から外には、絶対出ようと試みないでください。もしも出たら、命の保証はないです。人間のお味を、地球の肉食獣が知ってしまうと、後始末が大変とのことなので、絶対に食べられないでください。ええ、以上ですが、双方に案内所がありますので、何かございましたら、そちらにどうぞ。」
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こういう場合には、たいがいバカな計画をするものが現れることが、お決まりになっている。
しかし、それを、大酒を飲んでフラフラ出てゆくような遊びでは無くて、なんらかの「秘密の意図」に基づいて行おうとする連中は、さらに、やっかいである。
この『大会』の場に置いても、そうした、迷惑な計画が進行しようとしていた。
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マヤコは、ホテルのフロントにやってきた。
会議中は、隅っこの方で大人しく聞いていたマヤコであった。
「あの、パーティ-って、どちらですか?」
「ああ、マヤコさん、お部屋までお迎えに行こうと思っていたのですよ。じゃあご案内しますので、こちらにどうぞ。」
番頭さんが、カウンターから出て案内に立った。
番頭さんの羽織っている粋な羽織の裏には、大きな丸の中に、見たことがない文字か、マークかが入っている。
「番頭さんの、この後ろ側のマークは何ですか?」
「ああ、これですね、いやあ、分からないんですよ。なんだか最近模様替えになって、急に女将さんが、これが良いって言いだして。出所はどうも、ビュリアさんらしいですよ。でも、さらにそのもとの情報は、リリカ首相から出たらしいと聞きました。なんでも、どこやらのお土産で買ってきた着物の裏にあったマークらしいんですがね。」
「はあ、意味の分からない物を使うかしら、普通?」
「まあ、女将さんは、モノ好きですから。カッコいい!と思ったようです。それに、誰に聞いても意味は解らないそうですから。問題ないんでしょう。でもね、実は、以前一泊だけした風変わりなお客さん、有名人らしいんですがね、がいらっしゃって、その方がそっとぼくに教えてくれまして、『絶対内緒よっ』てね。まあ個人情報なので、誰かとは言いませんが。」
「はああ・・・・面白いわあ、で、なんて言う意味?」
「何でも、『温泉』と言う言葉の、一部分なんだそうです。」
「どこのことば?」
「ないしょだそうですよ。」
「はあ・・・・宇宙のどこかの星かも。」
「ぼくも、そう思いましたよ。なんか、宇宙の放浪者っぽい感じの方でしたからねえ。芸人らしいですが。」
「はあ・・・旅館は面白いですねえ。」
「ええ、面白いです。特にここは、ね。」
「女将さんが面白いですか?」
「ええ、そりゃあもう、一緒に仕事してて、退屈することはないですね。」
「いいことですよ。そりゃあ。」
「まあね・・ああ、ここが会場ですよ。」
「まあ、こじんまりして、良い感じ。」
「はい、人数は多くないですからね。お席は決まっています。あちらにどうぞ。」
「はいはい。」
マヤコは言われたとおりの席に、大人しく収まった。
まだ、他の人は誰も来てはいなかったが。
「なんか、ビックりする人も来るとか言ってたけど、誰なんだろうなあ?」
番頭さんが、お茶を持ってきてくれた。
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