わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第十三 回
タンゴ司令は、続けた。
「さて、ワルツ司令殿は言わなかった、そう、言わなかったように思ったが、怪物ブリューリと、怪物女王と、海賊が消えてしまった後、宇宙空間を小さな物体が火星方面に飛んでゆくのを、わが艦は捉えておりました。それがなんだったのかは、分からなかったのですが、非常に高速で飛び去った。追いかけることは不可能ではないが、事実上困難であり、おとりかもしれないので、無理はしなかったのであります。いずれあの場所にいた誰かが、脱出したわけですな。さらに、もう一つ、同じくらいの物体が、飛び出していたことも、これは後から確認できた。ところが、こいつはすぐに宇宙空間から消えてしまっていたのです。空間跳躍したのか、他の現象なのかも、分からないが。そうしたことがありました。つまり、あの第九惑星近辺で、通常の事では考えられないような現象が多数起こっていたという事です。」
ダレルが口をはさんだ。
「ああ、質問は後と言われていますが、ちょっと失礼。今、第九惑星近辺では、通常じゃない現象が多数起こっていたとおっしゃる。では、その第九惑星の軌道上に、金星の宇宙ステーションがありましたか?」
「ふん。ああ、そうですな。確かにありました。」
「第九惑星では、火星・金星条約で、お互いに話し合いをして、合意をしなければ、そうした行為は出来ないはずです。では、そこでは、いったい何が行われていたのですか?先ほど、ワルツ氏は、「進化の極限を極める」ような実験だったというようなお話をされましたね。具体的には、なんだったのですか?」
「それは、ごく一部の人しか知らないことです。ビューナス様や、ブリアニデス様クラスでないとね。我々のレベルでは、具体的な内容は、知らされていなかったのであります。」
「はあ、そうですか。いいでしょう。あなたには話しにくいのでしょうからね。この会場には、第九惑星で実際にお仕事をしていた方がいらっしゃるので、あとでゆっくりお伺いいたしましょう。それは『光の人間』の問題です。ご存知の方もあろうけれど、まだ一般には公開されていないと思いますからね。そうして、その責任者は議長閣下であられたことも、先ほどわかりましたから。ああ、どうも失礼しました。」
会場内が、再びざわめいた。
タンゴ司令は、いささか、戸惑っていたようだった。
「ああ。ええ、なんでしたかな。そうそう、非常に奇妙な事が起こっていたのであります。で、あの『白い巨人』の中で起こった事は、まあワルツ司令の話のとおりであります。しかし、我々二人の後ろに回り込んでいたのは、間違いなく、踊り子のジャヌアンでした。そこは、私は、きちんと見ていたのですから。つまり我々を卒倒させたのは、彼女です。誰が命令したのかは、推測しかないが、ダレル氏でありましょう。」
また、ざわざわとする中で、ダレルは右手を激しく横に振って否定していたが、声は出さなかった。
「まあ、ダレル氏も、この後お話はされるのでありましょうから、そこでご説明ください。我々は、海賊を逮捕する仕事があったが、これもまた、『白い巨人』に妨害された形で、成しえなかったのです。火星側が、あらゆるところで、策謀を巡らせていたことは明らかだ。」
大幅にざわついた。
「御静粛に願います。ああ、議長の権限で言いますが、第九惑星で秘密の事業を行っていたのは、確かに金星側であり、それは『光の人間』計画、と言われるものでありました。すでに言われたように、私が現場の責任者であった。これについては、後ほどお話します。それまでは、棚上げしておいていただきたい。では、どうぞ先を。」
「ふむ。閣下がそう言われるのならば、私は反対しないものでありますが。で、我々は、結局、成すすべなく、金星に帰りました。そこまでは、ワルツ司令も話された。さて、その後です。」
タンゴ司令は、一呼吸入れた。
「ビューナス様が滅亡なさったあと、ブリアニデス様が後をお継ぎになりましたが、火星の火山噴火事件や、金星の『ママ』システム不調の際には、最悪の事態も想定され、我々は常に臨戦態勢でした。そんな中で、「ホテル」騒動が起こり、この地球に出向いたわけです。慎重なワルツ司令は、なかなか積極的には動こうとしない。私は、やむおえず、最低限の攻撃をしたが、まあご承知の通りに、仲間とともに、生き恥をさらすことになりました。あまりこのあたりは、話したくありません。さらにまた、金星の最後に立ち会えなかったのはまさに痛恨の事態で、最悪の恥さらしであります。」
タンゴ司令は、ブスっとして、話を切り上げた。
「ええ、では、お約束の通り、質問を受け付けます。」
カタクリニウク議長が言った。
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深宇宙からやってきた「警察官」たちの一部は、第九惑星まで到達していた。
その軌道上にある金星の「宇宙ステーション」は、肝心の「光人間」化の機能は停止させていたが、致命的な損害を被っていたわけでも無く、食糧の自給も可能であり、常駐していた職員は、すでに覚悟を決めてここでの生活を始めていた。常駐していた彼らこそ、「光の人間」作戦の真の「生き証人」なのであり、多くのことを知っているのだが、なぜか地球に呼び出されてもいなかった。もっとも、ビュリアがこの人たちの事を忘れているはずもなかったが。その他の人々は、不覚にも見落としてしまっていたようだ。
小さな「警察官」は、この宇宙ステーションの職員への聞き取り調査を始めたのだ。
彼らは、最初に出会ったビュリアとアニーに対しては、その能力を発揮できなかった。
そのため、この太陽系の、主たる「存在」については、大きな疑問を抱いていたのだった。
肉体を持たない「意志だけ」の存在が、この太陽系を支配しているのではないか、と。
それは、ある意味非常に正確にこの太陽系の状況を掴んだことになる。
しかし、色々探っていると、どうやらここでは、肉体のある炭素系の生物が主体であるらしいという見方になってきていた。
その中でも、一定の文化レベルにまで達しているのは、「人間」という種らしかった。
彼らはこの種の生物が、他の太陽系にも存在していた事実を知っていた。
しかも、よく似ているし、偶然そうなったにしては、あまりに「出来すぎ」だった。
結論から言えば、そのすでに滅亡している、遥か彼方の種を、基本モデルとして「作成」されたことは、ほぼ間違いないという事になる。
だれが、そのようなことをしたのか?
それが、最初に出会ったビュリアとアニーなのではなかろうか。
彼らはそのような仮説を立てていた。
宇宙空間で出会った宇宙船を解析し、その宇宙船の乗員を尋問したり身体検査して得た仮説である。
そうして、ここで、その「まとまり」を見つけ出した。
ここでは、宇宙船以上の、その種の「生活」があった。
しかも、きわめて興味深い、「謎の」システムがあるらしいことも「発見」した。
彼らは、この種の生物の『脳』に入り込み、一定のコントロールをすることで、易々と相手から情報を得ることが可能だった。
ただし、彼らは警察官であって、そのことで相手を征服したり支配しようとする意図はない。
危害を加えることもしない。
もし「彼ら」が、宇宙や惑星などからの、何らかの自然攻撃を受けたりしたら、当然保護するし、ケガでもしていたら一定の回復処置も行うだろう。
警察官たちは、ここで次々に新しい事実を発見した。
さらにまた、この第九惑星上には、他にも極めて興味深い「状況」があることも分かった。
『同僚』の細胞を、大気中に、他でよりもはるかに多く発見したのだ。
またここには、この種族が「生活」できる施設がすでに作られていた。
ただし、まだ、この種族が作ったと思われる「機械式のロボット」しか居住していなかったが。
「間もなく、本体はここに移住して来るようだ。」
彼らは、そう推測した。
そうして、この太陽系では、長い間『女王』と呼ばれる何かが最高の地位にあり、『火星』では、『怪物ブリューリ』と呼ばれるものが、女王と共に支配をしていた、また『金星』には、『ビューナス』という支配者がいた。
問題は、その『怪物ブリューリ』である、と彼らは狙いをつけた。
さまざまな資料が、それこそ彼らが探し求めていた『同僚』ではないのか、と。
しかし、『同僚』は、そんな獰猛な怪物では、勿論なかったのだ。
極めて優秀な、聡明な警察官だったのだから。
そこが、どうも、上手く繋がらないのだ。
「捜査」の核心は、『火星』と『金星』にあると、彼らは「確信」した。
一方、宇宙ステーションに残っていた『光人間』たちは、じっと片隅に隠れて、「警察官」たちの動きを監視していた。
いまのところ、彼らはまだ「発見」されていなかったのだ。
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