わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第十一 回
深宇宙から現れた『宇宙警察』は、精力的に太陽系内の捜索を行っていた。
アニーが言う通りに、『母船』、つまり『警察本部』から派遣された『捜査員』は、二億人をはるかに超えていた。
それぞれが、小さな宇宙船であり、個人であり、全体でもあった。
太陽系内には、火星と金星からビジネスで出かけていた人間などが、結構たくさん存在している。
宇宙船も、思ったよりも多く飛んでいたのだ。
母星の崩壊で、多くの人々等が、今後のよりどころを一体どうするかについて、それぞれが大変に悩んでいた。
しかし、まったく、どことも連絡が取れずに、完全に孤立しているものは、自ら進んで、そうなっている場合を除けば、ほぼいなかった。
捜査員たちは、そうした人間やアンドロイドやロボットを見つけては、同僚の居場所を尋ね、探して歩いた。彼らは、光速にほぼ近い速度で、動き回っていたのだ。
実際に彼らは、ビュリアが想像したとおりに、微かな証拠は、すでに見つけていたのだ。
明らかに、同僚はこの太陽系に来ていた。
けれど、連絡を取ることはもとより、はっきりとした足取りは、まだ皆目掴めてはいなかった。
それでも、彼らは、遥か彼方の第九惑星で、思わぬ情報を手に入れかけていた。
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「では、次に、ジュアル博士、お願いいたします。」
カタクリニウク議長が指名した。
「ええ、ご指名によりまして、お話しを申し上げます。ブル先生からは、常識に反するご説明もあり、みなさん多少は驚かれたと思います。」
講演の内容は、火星標準語、金星標準語、代表的なその他の言語に、すぐに通訳されている。
聴衆は、希望の言語を選んで、自由に聞くことができた。
「金星や火星の生命は、ほとんど自律的に生まれたと我々は考えており、それはこの地球に於いて、事実上証明されてきました。しかしながら、『文明』については、『女王様』によって、かつて、その端緒が開かれたことは、現在では、すでに大方、疑う余地がなくなっております。これは、火星もまた、同様なのです。しかし、金星は、太陽に近すぎて、そのままの状態では、長く生命や文明を維持することは困難であることは、これまた明らかでありました。そこで、女王様は、我々人類にはとうてい構築不可応なシステムを金星に配備しました。これが『ママ』であります。我々は、『ママ』によって、守られてきたのであります。けれども、私は・・・これは、実はまだ単なる仮説ですが、「火星」も、『ママ』が守っていたのではないかと考えるようになってきておりました。」
「うそだろー!」
「まさか。」
「うぎゃー」
など、様々な反応があって、会場はざわついた。
「これは、まったくの仮説です。しかし、やはり太陽との関係を考えると、現在まで火星が安定した、人類の生存可能状態であり続けていたこは、むしろ不思議なのです。内的な状況だけではなく、例えば、多くの天体との衝突事故もありました。とっくに火星は壊滅していてよかったはずなのです。つまり、だれかが意識的に守っていたとしか思えないのです。しかし火星には、『ママ』に当たるようなシステムの存在が直接は確認できない。女王様が直に管理していたのかも、しれません。ところが、私が計算したところでは『ママ』システムには、金星の管理だけでは、有り余る余力があり、どこかにその力が使用されていたとしか思えない『ふし』があるのです。そこは火星のために使われていたのではないか、と思うのであります。これは何が言いたいか、というと、我々金星と火星は、もともと切っても切れない関係にあるもので、このような形で文明が同時に消滅に至ったのは、非常に皮肉な言い方ではございますが、当然と言えば当然だったのではないかと、思うのです。』
また、ざわざわした。
『ただし、誤解をして頂いてはいけません。必然であったなどとは言っておりません。結局今回の事態を招いたのは、いったい何だったのか? 我々は、実は、まったく分かっていない、ということを知るべきなのであります。この会議は、未来の構築が目的ではあるものの、そのためには、なぜこうなったかについての、一定の総括が、どうしても求められるのであります。責任のなすり合いではないのです。いまさら責任者を絞首刑にしても、仕方がないが、まずは、事実を知りたいので、あります。」
大きな拍手が湧いた。
「まあ、当然そう言われるよなあ。仕方がない、もう、連絡しとこうかな。」
ダレルは、そう思った。
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「どっちが言うのかな、と思っていたのですが、ジュアル先生に任せたのか。」
ビュリアが言った。
『これはしかし、圧倒的な多くの人の意思です。』
「あたりまえよ。これなくしては、先に進めないものね。ここを乗り切るのが、ダレルとリリカさんの実力なのよ。」
『あなたの、では無くて、ですか?』
「そうそう。」
『でも、明らかに、もう、呼ばれそうですよ。すぐに。ほら電話が来てますよ。』
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『もしもし、はろー。ダレルです。』
「はいはい、わたくしですよ。」
ビュリアが電話に出た。
『すぐ来る準備をしていてください。明日、朝一番には、ここに居るように。』
「まあまあ、気の早い。あなた先に何とかしなさい。」
『そりゃあ、この後すぐ指名されるでしょうよ。あなたの登場を明日にすることは可能だが、あさってにはならないですよ。』
「まあまあ。実はね、今晩この後すぐに呼ばれておりますのよ。お母様から。なんでも、特別パーティーだとか。あのマヤコって方、お母様の知り合いだったんですって。」
『はあ、今夜すぐって、そりゃあいくらなんでも、間に合うのかな。だってまだ、地球の反対側の島にいるんだろう?』
「まあ、ばかにして、後ろを御覧なさいませ。」
『はあ?』
ダレルは席から、後方を振り返った。
カーテンの後ろに壁が見えている。その壁に、突然小さなドアが開いた。
そのドアの隙間から、真っ白な腕だけが出て来て、手を振っている。
『見えたあ?』
「はあ、見えました。怖いですよ。甘く見てました。しかし、今夜はここには来ないのですね?」
『はいはい、そうですよ。まずは温泉、入ってからね。明日は朝から、そこにいてあげるわ。』
「そうですか。まあ、よかった。」
『じゃあ、頑張ってね。またあとでね!』
手が引っ込み、ドアは、ぱたりと閉まって、跡形もなくなった。
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「さて、それでは、ジュアル先生からご提案がありましたので、ここで金星側、火星側から、それぞれ一体何が起こったのかについて、直接の担当であった方からお伺いしたい。」
再度大きな拍手が起こった。
「とはいいましても、特に金星側は、非常に苦しい事態であると思います。ブリアニデス総督、現職情報局長、首相、各大臣、多くの方が姿をなくしてしまった。ここに、金星の現職閣僚の方あるいは各次官クラスの方が、いらっしゃいますかな?」
反応がなかった。
「ふむ。軍の最上級の方は?」
「指令が二人いらっしゃいますが・・・」
声が飛んだ。
「なるほど、お立ち下さいますか。ああ。ワルツ司令と、タンゴ司令ですね。では、お知りになる範囲の事だけで結構ですから、今回の壊滅に当たって起こっていたことを、是非お話しください。まず、上官はワルツさんですかな。」
議長の求めに従って、ワルツ指令が壇上に上がった。
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