わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第百四回
*********** ************
この星での時間ということがら自体が、金星や火星などのような、彼らの太陽系とは全く違うものらしいということは、一般の市民も、皆感じていた。
彼らの肉体の老化は、ごくわずかずつしか進行しないようだった。
金星の10年が、ここでは1000年くらいに相当しそうだ、と学者たちは数字をはじき出していた。
しかし、それが、物理的な時間の進行そのものなのか・・・・つまり、寿命が大幅に伸びているのか、それとも、そう認識しているだけのものなのか、については意見が分かれていた。
金星人全体が、夢を見ている状態だと主張する学者もいて、それを否定し去ってしまう根拠も見つからなかった。
物差し自体が、はっきりと定められない状態だった。
科学者たちは、総統とヘレナリアの了承のもとに、探査機を太陽や宇宙空間に向けて飛ばしていた。
彼らに見える限り、この宇宙で唯一の恒星である。
探査機は、太陽に近寄れるぎりぎりのところから観測を続けていたが、かつての金星人の太陽と、輝く仕組み自体は変わらないようだ。
表面の温度は7000度程度で、これもそう大きくは違わない。
大きさも、彼らの、元太陽とあまり違わない。
問題は、なんでこの星が出来たのかが、まったく推測できない事だった。
この太陽の周囲には、これまた、この惑星しかない。
空中都市が観測してきたデータからも、宇宙空間に星の材料のかけらが、ほぼ全く見当たらない。
この太陽と惑星以外に、彼らが認識可能な物質は、全く見当たらなかった。
「未来の女王様が、自らそのように、おつくりになったからですわ。」
と、ヘレナリアは言う。
金星人は、遥かな昔には宗教を持っていたが、それは時間の流れの中で消えて行き、『空中都市』の時代になってからは、ほぼ消滅していた。
「そおれはだなあ、・・・太古の宗教のようなものではないかなあ。自分には、よくは分からないが。」
ダンクは、ナナに向かってそう言った。
「さあ、どうかしら。そのお話し自体が、ここは『現実』ではないと言う、証拠かもしれないわね。」
「君は、『夢派』だったかな。」
「違います。『現実派』です。」
「じゃあ、そういう考えは出てこないだろ。」
「そうでもない。たしかに、この宇宙自体が、なにかの意志に基づいて設計され、作られたとしたら、多くの謎は解けてしまうかも、と。そう言ってるだけ。」
「本気で?」
「まあね。でも、ここから旅立てば、それも分かるかもしれない。」
「やはり、行くのかい?」
「軍人としてはそれが務めよね。ここには戦争はない。ヘレナリアがいる限り、武器は作れないから、起こる可能性もない。せいぜい喧嘩位い。天災も起きそうにない。通常の警備隊だけで十分。われわれの仕事はここにはない。」
「除隊したらいいさ、それだけだろう?」
「あなたは、残ることに方針転換したの?」
「いや。でも、ぼくは軍人だからじゃない。キッチンの事がひっかかるから、だけさ。」
「ほう・・のりちゃんが、行くと決めたから・・・じゃないの。」
「それは、まったく故なしとはしないが、よこしまな事は考えていないよ。」
「ごりっぱ。・・・あたしのことは、考えてくれないんだ。」
「はあ? なんだそれ・・・」
「いえ、いいのよ。・・あああ、時間が経たないと言うのも、もどかしいものよね。」
「そうか? まあ、しかし、出発の時期が決まりそうだと聞いた。もうすぐだよ。」
「うん・・・・まあね。」
********** **********
「秘術的な事柄は、ほぼ解明されました。ヘレナリアの協力もあり、必要なエネルギーは人工製造可能です。まったく、どうやったんだか、知りませんが。」
局長は、外を眺めながら答えた。
「ああ、まあ、ここでは、追及しない方が良いことだけは、学んだよ。総統に報告しよう。出発の時間は、すぐに決まることだろう。残る者は増えたかな。」
「そうですね。まだ決めかねている市民も多くいますが、これで、結論は出してもらわなければ。」
「うん。猶予時間は、もう、あまり長くは取らない。」
「はい、決まったらすぐに公表しなくては。」
「たった一度の、永遠の決定だよ。実験は、できないよ。」
「はい。そうですね。」
************ ************
「そこが決まったなら、じゃあ、あたしたちは、どうしてくれるの?」
ポプリスが尋ねた。
「わたくしは、その骨子を承認されたなら、それ以上口出しはしませんわ。北島以外に関しては。あとは、リリカさんと、ダレルさん次第で、もう、いいです。」
「えらく、物分かりが急に良くなったね。おかしな話だが。」
「ぼくのお話を聞いて、下さいよ。」
パル君が言った。
「ああ、ごめんごめん。なんだか、パル君の事は、勝手に決めちゃってるものね。」
ビュリアが、ほほ笑みながら言った。
「うん。ぼくは、まず、ウナがそれで良いと言ってくれること。それから、ビュリアさんにお願いがある。」
「うん。なあに。パル君。」
「もう、『人間を食べること』は、止めると、約束をしてください。宗教上『絶対に必要な場合』以外は。」
「パル君、その、宗教上『絶対に必要な場合』ってのは、なんだい?」
マヤコが尋ねた。
「うん。よくはわからないんだけど、なんとなく、そう思ったんだ。宗教的必要性ってことが、あるかもしれないなと、思っただけだよ。」
じつは、これは少し嘘だったのだ。
パル君は、誰も知らないことがらを、金星の『ママ』から聞かされていたからだ。
「またあ、パル君、ビュリアにそんなこと認めといたら、ろくなことないよ。」
女将さんが忠告した。
「この子の中には、女王様の分身が、まだ、残ってるんだ。なんとなあく、あいまいになってるけどもね。『絶対禁止』にしとくべきだと思う。」
「同感ですな。」
ダレルが言った。
「ええ、パル君、それはそのとおり、約束しますわ。間違いなく。」
「『絶対』を入れる方だろな?」
ダレルが念押しした。
「パル君が言う方向で。」
「なんでだよ。」
「『聖域』は、必要だからです。ただし、『タルレジャ教会』の権限が及ぶ範囲内だけは、ですわ。それ以外は、『絶対禁止』で当然、けっこうですわ。」
「気に入らない。」
ダレルが主張した。
「それを認めたら、あとは、すべて私たちに任せると?あなたは、一切口出ししないと?」
リリカが再確認した。
リリカは、それ以上の『強制』を、ビュリアにしてはいけないことを、パル君とは違って単独で見抜いていたからだが。
「はい、お約束いたしましょう。この地球の最後まで。」
「ふん。よくわからないけど、あたしたちのことは、結局どうなのさ?」
ポプリスが、すこし苛立ちながら追及した。
リリカ火星首相が答えたのだった。
「ダレルさんが同意するなら、『ド・カイヤ集団』が、合法的に地球の新王国に存在することは、認めたいと思います。ただし、ババヌッキ社長の傘下に入る事が前提です。」
「ふん。これ以上ごたごたしたくはない。いいだろう。ね、あんた。」
「まあ、よかろう。基本線は。それでよいと思う。」
キラール公が、また椅子にそっくりかえりながら答えた。
「他の方はいかがですか?・・・ブル先生は? ジュアル先生は?」
「そこは、ぼくの領域ではなさそうだ。しかし、意見をする権利は、この先も当然保持することが前提。ぼくだけじゃなく、ここにいる全員、また、王国民もだよ。あんたの言う宗教的『聖域』は当然認めたくはないが、今は、とにかく、みんなが生き延びなければならない。パル君に、君を監視・指導する権限を、与えたまえ。なら、ここでは、容認しよう。」
「ええ、同意いたますわ。」
「火星政府と地球と、その『王国』との関係性については、さらにしっかりと詰める必要があります。継続して話し合う事にしましょう。」
「それは、新王国の政府に任せます。ニコラニデスさま、いいですか?」
リリカが言った。
「ああ、もちろん、それで、良いでしょう。」
「あなたが、当分は、『タルレジャ王国』の指導者です。」
「最善を尽くします。民主制の確立を実行します。必ず。」
彼らは、総会に戻ることで、一致したのだった。
************ ************