わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第百回
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ヘレナリアは、こう続けた。
「おふたりは、未来の『地球』の歴史にとって、非常に有用な存在になる、と未来の女王様からお伺いしております。ただし・・・・・・」
「ただし?」
「未来は一つではありません。無数の未来があります。でも、遡れる過去は、常に一つの流れだけなのです。ほかの流れの未来に、すぐに飛び乗ることはできません・・・でした。一旦ある地点まで引き返し、そこから再出発なのです。けれども、その時点で、すでにほかの未来が出来ています。元に戻るのは非常に困難です。でも、そこを、自在にコントロールし、移動可能にした人物が未来にいます。いえ、可能にする人物が未来において現れた、というべきでしょうか。」
「未来形と過去形がごっちゃになってますけど。」
のりちゃんが小さく自信なさげな感じで言った。
「はい、そうです。未来において起こった大きな出来事が、過去に影響を与えるのです。しかし、それは別の過去であることが多いのですが。その別の過去も、自分の過去としてしまうのです。別の流れを作ってしまうのです。」
「はあ・・・・なんのことやら。」
「それは・・・・、恐ろしい事ですか?」
「もちろん、そうです。通常過去と未来は、一本の線でつながるもので、その流れる方向は、常に一方向であるというのが常識です。未来に行くことは可能ですが、過去に戻ることは出来ないというのが、また常識なのです。」
ヘレナリアが空をなぞると、空間に、一本の線が描かれた。
「こうした、感じです。しかし、この線からは、多数の未来が生まれ、木の幹から枝が伸びるように分かれてゆきます。ほらね。」
一本の太い線から、多くの細い線が枝分かれしてゆく。
「でも、もともと、この木はたくさん生えています。」
太い線が、無数に現れた。
「それぞれから、無数の未来が生まれます。」
「はあ・・・・・・見た目、確かにすごいですな。」
おやじさんが感動したように言った。
「でも、それぞれの幹も枝も、まったく交差はしません。でも、ここに、枝の途中から、こっちの木の枝に接続できれば、別の未来に行きますよね。」
「まあね。見た目そうですなあ。」
「ええ、でも、この無数の樹々の森の根がある場所を、その全てを通過するような『面』でつないでしまったら、どうなるか・・・・・」
「そんな面はできないでしょう。すべてがつながっているなんて。きっと。」
「そうです。そうです。これらの宇宙は、かつて、それぞれが積み重なった薄い膜の上に並んでると考えられました。でも、これらの宇宙空間をいくつか抜き出して、根本のある空間を自在に操って、必要なすべてを別の領域に並べ、同じ壁に、床に、埋め込んでしまったら、いいのです。宇宙空間を改変するのです。編集と言ってもいいでしょう。歴史の変革も可能です。恐るべき虐殺事件などだけを、取り除くことも出来るようになるでしょう。」
「できないですよ。そんなこと。虐殺や戦争は哀しいけれど、事実は消せない。歴史が変わってしまうでしょう?」
「そう、まず、それは人類にはできなかったことなのです。でも、やれる存在が現れた。未来においてですよ。その任意の過去と未来と現在を一枚の単独の壁、あるいは膜とか、床、と言ってもいいけれど、にするのです。もちろん、宇宙はそれですべてではありません。残っている無数の過去や未来が圧倒的に多数あるけれど、その存在が任意に選んだものが、すべて同じ歴史に並ぶのです。消すことも、並び変えることも、可能になるでしょう。」
「さっぱり、わかりませんですわ。たとえ可能でも、きっと間違いだと思いますわ。」
「でも、他にも良いことがあります。外から見たら、とても、ねらい安くなる。その広い面に到達したら、あとそのうえのどこにでも行ける。まあ、それなりの乗り物ならば、ですが。」
「じゃあ、元の火星に帰れる?」
「はい。ただし、未来の火星に、ですよ。お二人にはやるべきことがある。」
「はあ・・・・・・なんですか?」
「それは、最終的には、向こうで、女王さまに聞いてください。わたくしは、そこまでには絡んでないのです。」
「その存在って、女王さまの事ですか?」
「いいえ違います。女王様は、もともとこの宇宙内の、そうした物理的制約には、一切束縛はされないのです。ただ、すべてを見ているのでもありません。だから、女王さまは、ここをおつくりになって、宇宙に放ったあとは、ここにはまったく関与なさっていません。ここは、あなた方がいた宇宙とは、なんの関りあいもありませんし、そのすべての壁、あるいは、膜、床、にも含まれていない。任意の壁を作ったのは、まず、ある天才少年です。シモンズという方です。そうして、それとは関係なしに、キッチンさんが別の技術を作ったのです。彼は、その壁の上の、ある、特定のポイントを追い掛ける技術を、おそらくは、偶然にみつけたのでしょう。この、たまたまの一致が、仕組まれたものかどうかは知りませんよ。たぶん、そうかもしれないですが。まあ、それも、向こうでお聞きくださいませ。これには、かなりの部分の、推測も含まれておりますが、まず間違いは、ないと思います。あなたがたの技術者の皆さんは、まもなく、キッチンさんと同じ技術にたどり着きそうです。でも、あなたが行かなければ、キッチンさんも、きっと、たどり着けない。なぜなら、キッチンさんの狙いはあなたであり、あなたが、目標なのです。彼は、きっと、間違いを犯したのですね。あなたが、ここにいるとは思わなかった。目標設定をこの宇宙外にしたのでしょう。あなたは、それが正しかった事にしなければならないのです。ここに残ったら、全ての意味はなくなるでしょう。金星のほかの方々も、元の宇宙には戻れなくなるのです。」
「まったく、わかりませんですわ。もし・・・・全然あてはずれだったら?」
、
「どこか、よその宇宙に行くかもしれませんし、空間に押しつぶされるかもしれません。もしも、そうなったら、永遠に宇宙か、宇宙の狭間か、を彷徨います。女王様が見つけてくださらない限りは、です。まあ、いざとなれば、その可能性は、あるでしょう。」
「見つけてくれる、方の可能性ですか?」
「まあ、そうです。」
「いやあ、やっぱり、あたしはわからないですよ。ここで、料理してたほうが良い。」
おやじさんは、引っ込んでしまった。
「過去が、未来に、つながるのですね。」
「はい、そうです。」
「戦争になりますか?」
「さああて、そこは、わたくしにはわかりません。しかし、女王様は、そうしたことも見越していらっしゃるに違いないです。戦争がある方向に見越していらっしゃる可能性も、ないとは言えませんけれども。」
「あたしは、キッチンさんに会える?」
「そのためには、行くしかありません。」
のりちゃんは、うつむいてしまった。
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「ねぇねぇ、やましんさん、これ、分かって書いてるのお?」
幸子さんが、嫌な事を聞いてきました。
「分かっていないと思えば、分かっておらず、また、分かっていると言っても、まだ誰も分かっておりませんのであります、はい。」
「なんだ、それ? まあいいや、大宴会予行演習が中止になって、さみしいでしょう?」
「いいえ、いいえ、皆さんお忙しいのですからね。やましんのみ、暇。それだけは真実なのです。」
「はあ、幸子も暇ですよお。」
「はあ、幸子さんは、幽霊だからね。」
「幽霊だって、暇とは限らないのです。とくにこの時期は。帰省してお池に来る人も多少は、増えるはずだしなあ。最近、来ないけど。」
「ああ、それは、まあ、失礼。」
「大宴会予行演習は、12月になってすぐすると、女王さまから伝言でした。」
「やはりやるのか・・・」
「もちろん。『おーるすたー夢の狂演』だそうです。」
「は?」
「それと、大筋のストリーとは違う、日常の女王さまの活躍を描いた、別バージョンも書いてほしいとおっしゃっていました。これも、伝言です。」
「新たな注文ですか?」
「はい、もちろん、無報酬で。あ、お饅頭は、幸子が供給します。どうせ、やましんさんは、お暇でしょう、と、女王さまは、おっしゃっていました。あ、これは、言っちゃいけない、ことだったかな・・・」
「むむむ・・・・まあ、考えます。はい・・・、」
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