わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第九回
「色」はいつも同じには見えない。
トンネルの中を歩いていると、普段は青く見えているサンダルの鼻緒が、真っ白に見えたりもするが、これはトンネル内の照明に原因があるのだろう。
「真っ青」なはずの円形の宇宙船は、黒い影のまま、太陽の光がほとんど届かない太陽系の辺境をゆったりと移動していた。
『むむむ、こいつは大昔に見たことがあるわ。アニーさん、これは、いわゆる『正義の味方』の皆さんですわ。』
『え?『正義の味方』の皆さん、というのは?』
『まあ、単純に言えば、これは「パトロール・カー」ですの。いわゆる「パトカー」。遥か彼方の銀河系で構成されている警察機構のシンボルですの。文字通り、その、親玉ね。これが「警察本部」というわけ。』
『はあ、つまりアニーは知らない世界ですか。』
『まったく、その通り。しかし、よくここまで出張してきたわね。とっくの昔に滅亡しているはずだと思っていたけれどね。あの内部には、多数の子供の「パトカー」が収納されておりますの。』
『はあ、でも全く活動が認識されません。いくらガードしていても、多少は解るものですが・・・例えば出入り口の開閉とか。いったい、何しに来たのでしょうか?』
『まあ、警察が来るという事は、犯罪の捜査でしょうね。』
『はあ。ここまで、犯人が逃げたとかですか?』
『そうね。だぶん。まあ、せっかくだから、聞いて見ましょうよ。あなた呼び掛けて見てくださらない?考えられるすべての方法で。』
『了解。では電磁波、重力波、ねじれ波、タキオン、空間糸電話・・・・・・反応がありました。出します。言語データ交換。・・・・』
『こちら、第55銀河警察本部、第601班警部、2051であります。あなたは?』
『ビュリアよ。同行者はアニー。』
アニーは、おやっと思った。
『あなたたちは、肉体がない。光系統生物か?探査中。精神構造検出不能。本体意識も検出不能。コントロール不能。ただし、その一体は、「惑星系統コンピューターの疑似意思」と推測したが、前例がない。もう一体は、まったく検出不能。神様ですかな?』
『神様じゃあない。自分でも、自分が何か認識出来ない。よくあるケースよ。』
『あまりないケースですな。』
「あなたも、あまりないケースのようだけど。そこに何人いらっしゃるのかしら?』
『本官は、肉体及び精神構造を解体し、本船と一体化している。他に、いわゆる乗員はいないが、沢山の分身ならば、存在する。我々の系統は、すでにすべてが消滅したと考えられるが、本官は任務を遂行中。現在この太陽系の捜査を開始したところである。情報が欲しい。』
『何を捜査しているのですか?』
『端的に言って、人探しである。我々の同僚が、第三銀河時間「6020001052」をもって行方不明となった。消失場所は不明。以降連絡が取れず、行方不明である。犯罪に関わっている可能性もある。データ提供開始します。』
『データ提供、検索中ですが、これは既知のどの銀河でもないですね。時間がかかります。』
『・・・それはご苦労様です。もし、行方不明者に関する開示可能なデータを、アニーさんに提供していただけたら、調べてみましょう。』
『それは、助かります。あなたは、この太陽系の住民ですか?』
『そう。第三惑星。出身は第四惑星。でも、第三惑星は、まだ生命が進化中です。干渉は、ぜひ、しないでほしい。』
『それは、我らの役目ではない。あくまで、人探し。見つからなければ、そのまま通過する。軍事力は基本的に攻撃がない限り行使しない。』
『わかりました、第二惑星と第四惑星は、誤解から始まった間違いで、先般滅亡。データを差し上げましょう。アニーさん・・・』
『了解。ありがたい。これを踏まえ、慎重に行動します。誤った攻撃がないよう、配慮していただくことが、あなたには可能ですか?』
『まあ、わたくしは無役の市民ですが、リーダーに知人があるから、伝えましょう。』
『ありがとう、感謝する。あなたたちの、連絡先も教えてほしい。』
『どうぞ・・・』
「いやあ、何から何までご親切にありがとうございます。ほう、連絡先の、これは、ああなんと、お母上は温泉の女将さんですか。いやあ、久しぶりに入りたいですなあ、しかし、この体では無理ですなあ。ははは。では、ご迷惑がないように、静かに捜索します。何か情報があればコンタクトをしてほしいです。あなたに最初に出会えて、よかったです。』
『はい。わかりました。』
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『円形の宇宙船=遥か彼方の銀河の警察官さん』は、ゆっくりと太陽系の中に進行していった。
『あれ、大丈夫ですかね?なんか、裏の意識がありそうだったですが。しかも、かなりの攻撃力も持っていそうな感じですよ。しかし、何しろ内部がよくわからない。混沌とした状態です。』
『でしょうね。まあ、太陽を吹っ飛ばすくらいのパワーはあるわ。』
『はあ、この捜索中の警察官というのは、どうやら不定形生物です。でも・・・あらら、これはもしかして・・・』
『正解。ただし、その情報は、わたくしの許可がない限り絶対外部には持ち出し禁止。情報遮断命令。コード【ICBMなんてきらいよ。山手線は今日も満員だった。もう、野菜が高いわ。】確認。』
『コード確認しました。情報遮断。』
『やれやれねえ。【悪縁契り深し】か。出てゆくべきじゃあなかったかな。ま、仕方がないか。』
『は、なんですか?』
『いいの、帰ろう。会議が始まるわ。そうそう、「くまさん」、買ったげるわ。』
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会議のとりあえずの開催が宣言された。
「では、このあと、議長の選出を行います。選出までは、私『ダレル』が議事の進行を行います。まず議長に立候補する方がいらっしゃいますか?」
ざわざわとした。
「本部が用意されているはずの方でよいと思います。」
という発言が出た。
出どころは、ワルツ司令である。
少し笑い声もあった。
「ありがとうございます。では、本部がお願いした、議長と副議長に前に来ていただきましょう。ええ・・どうぞ・・・はい・・・・ええ、議長は、金星出身の『ガヤ・カタクリニウク』さん、副議長は火星の『リリカ』さんにお願いをいたしました。なお、カタクリニウクさんは、もと金星の情報局長さん、リリカさんは現、火星首相です。ご異議ある方は、挙手をしてご登壇ください。
こういう時には、異議は出ないのが一般的なのだろう。
しかし、挙手した人がいた。
会場がざわざわした。他でもない、ブル先生だったのだ。
「ええ、こんな発言をするのは遺憾ではありますが、状況が状況である。火星も金星も崩壊の憂き目にあった。その背後には、政治家たちのバカな行動があったことは容易に推察できる。お二人は非常に優秀な方ではあるが、その責任の一端を負うべき立場の方でもある。まず、是非公正な立場を貫くということを明確に公言してほしい。ならば異議は撤回する。」
「なるほど、では、そのあたりの決意表明を、まず、どうぞ。」
『なんのこっちゃ・・・』と思いながらダレルは考えた。『絶対、含みがあるに違いない。』
「ええ、ではまず私から。たしかに、私は、ビューナス様の側近として、それなりの立場にありました。当時は、立場上、金星中心の政策を行った。これは当然の事であります。しかし、今は民間人であり、しかも流浪の身であります。博士がおっしゃることは十分に心得たうえ、金星、火星そのほか、あらゆる立場に対し公平公正の精神を貫徹する考えであります。」
次いで、リリカが発言した。
「私は、現職の火星首相ですが、副議長としては、あらゆる方向に偏らない姿勢を堅持します。以上。」
「ええ、先生いかがですか?」
「まあ、いいでしょう。」
「では、他にありますか?ご異議なしですね。では、今後の議事進行は、お任せいたします。」
ダレルは、本部席に着席した。
カタクリニウクと、リリカ(本体)が、議長席と副議長席に着席した。
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女将さんは、少し遅れて会場に入った。
なにしろ、忙しいのである。
議長選出は、立ったまま聞いた。
それから、あらかじめ用意されていた前の方の席に案内された。
「主催者・共催者」
という看板が、横に立っている。
「まあまあ、ここまでしなくとも・・・」
ぶつぶつ言いながら席に着いた。
その隣に、空席があった。さらに隣には、「ババヌッキ社長」が、奥さんと子供さんと共に座っていた。
社長は、愛想よくうなずいて、ほほ笑んだ。
この微笑みこそ、「天使の微笑み」といわれて、関係者から、長く恐れられるものである。
ダレルの席にメモが入った。
『正体が確認できない人工天体が、太陽系に入りました。ビュリアさんからのメモも着いています。〈接触した。危険生物ではない。深宇宙の警察官さんです。手出し無用。〉とのこと。』
それは、例の秘書からのメモだった。
『了解。当面、手を出さない事。異変があったら伝えてほしい。ただし、近にいる監視船を派遣して、適度に離れたところに置くこと。相手には、事故がないようにするための措置だと通知すること。以上。』
ダレルはメモを送信した。




