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相良編⑥

漸くこの話で本編の前までの回想が終わります。

長らくお待たせしました…orz

 6.




 俺のクォーターとしての最大の特徴。

 それは『亜麻色』と呼ばれるこの髪の色だ。

 最初からこんな色なら、陽毬さんも清明も何となく記憶の端くれにでも引っ掛かりそうなものだが、幼少期の俺の髪は茶系が強く、近い処で『琥珀色(アンバー)』といった感じの色だった。




「──────騙された。お前がまさか、あの時の交通遺児だったとはな」


 清明が眉の上辺りを片手で押さえながら、苦悩している。

 清明と俺の会社の中間地点に位置するカフェで、ヤツはそう切り出した。


「騙してない。陽毬さんとお前が気付かなかったから、あんな幼い頃の事、敢えて言う事でも無いだろうと判断しただけだ」

「それを『騙した』と言うんだ。厳しい事を言う様だが、俺のおかんをお前の過去の妄執に巻き込むな。

 あれ以上の女がお前の周りに溢れているだろうが」


 ここで不敵に微笑っては清明に不審を抱かせる。


「そうだな、清明。お前の言う通りだよ、今の状況は今迄のお詫びだと思って貰っていい。

 ちゃんと彼女の意思を尊重しながら、仕事や生活のフォローをするよ。後顧の憂いなく、安心して自分の家庭を大事にしてくれ」

「不思議だな。俺の耳にはその優しげな声に副音声が聞こえるぞ?」


 元々精悍な顔付きの清明が目力を入れると、かなり凶悪な人相になるんだなぁ、と他人事の様に思った。


「ほお?全くの気の所為だとは思うが、俺の副音声とやらは何と言ってるのかな?」

「そうだな」

 言うなりいきなり胸ぐらを掴まれそうになり、右腕で咄嗟にガードしつつ捻り、弾いて反動で出した右の拳を奴の眉間にぴたりと寸止めする。



 がしゃん!



「お客様、当店では揉め事はご遠慮下さい〜」

「「……すみません」」


 俺等は急遽近くの公園に移動、子供の目が無いのを確認し、井戸端会議中の奥様方には今からこいつと女を掛けた殴り合いをしますが、御迷惑はお掛けしませんから通報はご遠慮下さい、と懇願して拳を交えた。


うちのヒマに手を出すな!」

「煩えマザコン‼︎出したくてもガードが固すぎて俺は打ち上げられた亀同然だ!なんだアレは、オリハルコンか?ミスリルか⁉︎」


 公園の入口付近では奥様方がそんな彼等に生温かい視線を向けながら井戸端会議を続けていた。

「まあ、聞きました?奥様。あんないい男達がマザコンですってよ〜世も末だわァ」「何言ってるんだか!いよいよ熟女ブームが来たのよ!萌えるわ」


 男二人はそんな声も気にならない程目の前の敵に集中していた。


「俺はマザコンじゃねえッ!お前こそ何だ、ついこの前まであった、ヒマを追い込む為に敢えて拵えていたんだろう理性の柵がその目の中から消滅してんじゃねぇか!やべえ匂いがプンプンしやがる!とうとう!本能の奔流に!流されやがったな‼︎」

「スタッカート入れたみたいに区切るな!いや、待て清明‼︎血迷うな、達観しろ!どうせ直に陽毬さんの生理もあがる!俺もその時まで無茶しないと固く誓うッ!」

「……………」

「……………!」




 ガッ!ゴガッ!がガガガ!ドガッ!ズザーッ!




「お前ェ今の説明で、息子の俺が安心出来る要素が何処にあったんじゃあーッ!相良ァア‼︎」

「済まん、清明!口がウッカリ滑ったッ!」



 殴り合いは夕方カラスが鳴いて、迂闊に友情をボロボロに高め合うまで続いた。





  ☆



 まず、金を稼がないといけない。

 ホスト業は短期で稼ぐには程良い仕事だが、安定には程遠いモノだから。

 囲い込みには『大金』が必要。保険医のアドバイスで女心の方は大分学べたと思う。

 3Sやら仔犬系男子の生態やら自然なボディタッチなどは全て仕事で有り難く学ばさせて貰った。


 俺が目を付けたのは自己破産での競売物件だ。

 初心者が手を出せば100%失敗する、と言われる煩雑さ満載のジャンルだが、意外と農地なども売りに出されていて、建物付きで無ければ安価な代物だ。

 ツテでモデルハウスや展示場の解体時に出る新古品をタダ同然に入手する。

 そうして、不動産を動かす客とのパイプを元に『色々と』グレーな方法を使って資金を増やした。


 ある程度稼ぐと俺はその方法が廃れる前に素早く撤退し、次に人材と潤沢な資金の確保を狙ってブルームーンを造った。

 直々に教育を施し、将来彼女を囲い込む『檻』に出来そうな人柱は念入りにあちこちから集めた。

 4つ下の右京はその頃からの付き合いで、『うーん、何かその執念一周突き抜けて凄いですね。自分に無い情熱が羨ましいので近くで成り行き見ていたいです。俺にも手伝わせて下さい』と、付いてきた。物好きにも程がある。


 夜の商売が軌道に乗ると、昼間の顔も欲しくなる。この頃には二足の草鞋を履く余裕も生まれた。

 何か起業の切っ掛けが無いかと手元から探れば、携帯中毒が周りに溢れていた。

 その内、これ一台で何でも出来るようになればと言い出す連中も増えていたので、コンテンツを扱う会社を立ち上げ、その内素早くスマホのアプリに移行し新作無料ゲームやプリクラ感覚のカメラなどをSNSを使って拡散。順調に土台を作り上げた。

 社内でも頭角を現してきた者を楠木を介して纏め上げ、昼の仕事も多角的な経営が出来る様に手を打つ。


 そうして、全ての状況が整った、そんな時期に。

 まるで、待っていたかの様に彼女の夫の訃報が届いた。


 俺は思った。芹沢裕章(ひろあき)の仕事は終わったのだと。

 それは『彼女の夫の死』である事すら忘れ、彼が俺に陽毬さんを託したのだとすら思った。


 通夜に亜麻色は如何かと思い、黒色の鬘を付けて様子を見に行けば、そこにはテキパキと葬儀社の人間と打ち合わせをする彼女の姿があった。

 思わずほっとして、…それから、気付いた。


 陽毬さんはふとした瞬間に数秒フリーズしている。

 機械的に頭を下げ、手が小さく震えていた。


 ─────その度、すっ、と清明が場所を入れ替わり、彼女に代わって頭を下げて礼を告げていた。

 ノロノロと頭を上げた陽毬さんに自分の息子を抱かせたり、何気に肩に手を回したり…。

 泣かない彼女の受け皿にさり気なくなってやっていた。



 今は、出れない。



 そう痛烈に感じて、ブルームーンに向かった。

 あの様子で、彼女の中で『夫』がどれだけ大事な存在だったのかが理解出来てしまった。

 怯んだ訳じゃない。だが、いずれはあの人の孤独につけ込むにしても、それは今では無いという事は分かる。

 それは俺のなかの無けなしの、あの女性の夫への敬意だ。


 そして、それを悼むのは彼女の権利だと思うから。

 泣いてる陽毬さんを触らず、今まで通り影から彼女を護って。

 そして、貴女が大好きな桜の季節に逢いに行こう。




 ──────貴女はどんな顔をするだろうか?







『わたしをのんで』と怪しい薬。

 自分が出れる出口が無いなら、貴女はそれを飲むのかしら?


 チェシャ猫は笑う。

『アリス、君は“アリス”になるつもりかい?』


 私がアリスと呼ばれても、

 私はアリスで有り得ない。


 謎が謎呼ぶワンダーランド。

 君がクスリ決めなけりゃ、不思議な話は始まらないよ!


 .










いつも応援ありがとうございます。

次の回から本編の裏に入ります!

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