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相良編④

読んで戴き、ありがとうございます!

4.




それから俺は寝ても覚めても『あの女性ひと』の事を考える様になった。


ストーカーの心理とはこういうものなのかもしれない。自分でも一途に執念深く、闇が深いと何となく分かっていた。

だからといって止められるものでも無かったが。


陽毬さんは既に結婚している。

ちゃんと家族もある。アラサーなら両親も居るだろう。

そんな中から彼女を切り離すのは難しい。

何より俺は彼女を一つも損なわずに大事に護りたかった。




「省吾!こっちだッ‼︎」


クラスで体育の時間でサッカーの試合中。

ツートップの片割れだった俺は、ドリブルで上がってきたクラスメイトの声でパスを出した。


途端に足元が掬われ、衝撃と共にホイッスルが高く響いた。

「─────やべ、ショウごめん」

「いや、俺も避け損ねたから」


まさか犯罪めいたそれを延々考えていた所為とは言えず、足を摩っていると担任が慌てて保健室に行く様に言ってくれた。

俺は足を軽く引いて校庭を後にした。


足首に冷たい湿布と包帯が手際よく巻かれていく。


「相良でも怪我するんだねぇ…」

蓮っ葉な感じのする保険医がニヤニヤしながら手当をしてくれた。


「先生、『相良でも』ってどういう意味よ?」

「あんた、ソツがない様に見えるからさ」


『可哀想な子』であるらしい俺をこの保険医は結構シニカルに捉えていたらしい。

酒見さけみ悦子えつこ27歳崖っぷち。結構面白い人物であった。


「─────酒見先生、女の人の弱点って何だと思いますか?」

「─────何だよ、改まって」


俺は誓いに基づき、遠大な計画を立てる必要を感じていた。

だが、まずその基礎となる部分を埋める必要があったのだ。


「知りたいんです。ホントの処を」

「相良あんた────今から夢破れてどうすんの?

しかも、『女の人』ってナニ?年上?悪い事は言わないから、『女の子』くらいにしときなさいよ〜」

「いえ、是非アラサーの先生に聞きたいんです」


一発、殴られた。そして、手当をエンドレス。


「ナニ、あんた大人の女に惚れてんの?小学生のクセして。ああ、私はダメよ。幾らあんたがイイ男予備軍だって下手に手を出したら免職だから、免職コワイ」

「やめてクサイ。俺にも選ぶ権利と拒む権利と日本国憲法がある。

つか、保体の遠藤先生好きなんだろ?未成年への淫行で免職したら、会えなくなる処じゃないよね?─────付き合えるまでクラス巻き込んで協力してあげるから、そっちもマジで力貸して」




あああああんたは悪魔か!

──────と、真っ赤な顔で罵られたが、その後、アラサー保険医は蚊の鳴くような声で「よろしくお願いします…」と、白旗を上げた。







酒見保険医はそれからちょくちょく時間を割いて色々相談に乗ってくれた。


「まず、あんたの狙う相手の年齢と家庭環境。後、出来れば性格も」

「29歳結婚してる。俺と同い年の息子が一人。性格は基本お人好し。一見肝っ玉母ちゃんなんだけど…何だろ…不思議な感じなんだ。言葉がスッと心臓まで入ってくる。俺を…助けてくれた唯一の女性ひとだよ」


「わあ…19も違う女に岡惚れだよ〜ドン引きぃコワイこの小学生ィ」

片頬引攣らせて、大きく仰け反るアラサーに俺は冷たい視線を送る。

「遠藤先生な、日曜日俺と委員長乗せて学級新聞の取材に行くぜ?えっこセンセー来る?なんなら助手席空かせてやろうか?」

「いいですね!相良君、ゼヒ‼︎処で貴方様がその素晴らしい女性を落とすのに全力を尽くしたいのですが、最終目的(どうなりたいか)何年計画(どれだけかけるか)を教えて下さいませ」


保険医はネコの所謂『ゴメン寝』のポーズを取ってひれ伏した。


「俺は彼女を髪の一本まで自分のモノにしたい。そして捕まえたら、決して逃さず、どろっとろになるまで甘やかして、心も身体も傷一つ付けず俺の手で護りたい」

「──────(お前はホントに小学生か)」

「時間は俺がその力を手に入れるまで、かな」

「──────(それ、ハゲ山に植樹して伐採を待つ様なもんですよね。ああ!すんませんすんません‼︎陽毬さんとやら…最悪、拉致監禁だけは避けさせますから、どうか私の幸せの礎になって下さい)」



『先ず、女の幸せは大きく分けて二つあるの。

一つは精神的な幸せ。これは分かるわよね?

愛する人に愛される喜びってヤツよ。もう一つが物理的な幸せ。まあ、ぶっちゃけお金ね』


それを聞いて、俺はその日父親の実家に行って家に戻った父親を呼び出した。

そして、出来る限り奨学金制度を利用出来るまでのレベルになるから、高校大学と学費以外を出せと迫った。

鼻で嘲笑っていた父親あいつも報道にあの事故の真実をタレ込むと告げれば、黙り込んで渋々要求を飲んだ。




『後は性格と性質を知るべきね。混同されがちだけどこれは全然別個のものよ?

そして、あんたが魂レベルで年上狙うなら重要な事なの。

小学生には難しいだろうけど、良く聞いて今、理解できなくても絶対覚えておきなさい。

先ず《性格》これは本人が一から作り上げたモノよ。言動・矜持きょうじ・物の考え方などね。これは精神的な幸せに通じるわ。

逆に物理的に影響するのが《性質》ね。明るい人間が実はインドアなんて、ザラにあるわ。

本質・嗜好しこう忌避きひ傾向。要は何が好きで何がキライ?何が絶対許せないか、って話。これを踏まえないと囲い込みは失敗するわ』



保険医には度々相談を持ち込み、後、陽毬さん達親子の様子をイベント毎にビデオに撮って貰ったりした。

ちゃんと無邪気装って周囲を巻き込み、愛しの遠藤先生とは結婚までナビゲートした。

世の中持ちつ持たれつだ。


学歴は目的を叶える為の道具ツールだ。

あるに越した事はない。

合間に幾人もの女と付き合って、その思考形態(かんがえかた)や自尊心の擽り方、壊し方を学んだ。

保険医はその後も様々なアドバイスをくれながら『神様、スミマセン』と時々泣いていた。


そうして大学に通う頃には、今の俺の『カタチ』が出来上がっていた。






寮の陽毬さんの部屋を訪ねると、珍しく鍵が開いていた。


迷わず開けて覗いてみると、インターホンにも気づかない程、携帯ゲーム機に夢中になっている陽毬さんが居た。

耳にヘッドフォン。合間に遊ぶビーズ細工の材料。異世界逆ハー小説。


やっているのは乙女ゲームと見た。



あ、身悶えている。

好きな声優のキャラ攻略中かな?

誰だろう。山○宏一か最近好きな小山力○か、はたまた渋く大塚明○…古くから好きな井○和彦かもな。


噛み締めてるなぁ〜〜お、声が腰にキタのか。


分かり易いなぁ、陽毬さん。

集中し過ぎて貴道が後ろに立って居るのにも気付かない。

いそいそと彼女にお茶淹れてるのにな……。


はっ、と俺に気付いたのも貴道だし。

困った様に陽毬さんのベッドを指差す。


…………勇士がすやすや寝ていた。



そして、やっぱり窓が開いていた………。





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