物語のその後で①
随分、間が空きましたが需要が無いと思うんでw
①
「…何で弱ってんの?陽毬さん…」
おこたに半分入って伸びている私の横にタブレットが。
「…ショウちゃんには何故ノックも無しにオバたんの部屋に入室するのかとか、一々“弱って見える筈”の熟女を炬燵から引き摺り出してホールドする意味を小一時間ほど問い詰めてみたいとか、平日の昼に何やってんだ、商談絡みの食事会とかあんだろうよとか仕事しろよとか色々言いたい事はあるんだが、これはただの3D酔いです」
「それは、このオドロオドロしいゲームの所為ですか?」
「……剥き甘栗ってなんかクセになるよね」
「ご自分がアクションRPGに向いて無いって事分かっていますか?…特にホラー物に関しては、入り込み過ぎてプルプルするって…してんじゃん」
ぼろぼろ剥き甘栗を零しながら、何か介護を受け始めた私。
「くそう、方向音痴な自分が憎い」
「それで何故【鬼ごっこ】のゲームに手を出そうと」
「アレだ。ゆうつべの実況がカッコ良かったのよ。時計塔のホラーに手を出した時もそうだった。朝のゲーム番組でやってて、ロッカーとかあるのが似ててなあ〜。まあ、仲間がオンラインマッチングすんのが更にオモロイんだが」
何故か最後の一人になってしまい、必死に物陰に潜んでいると、結構な確率で【鬼】から同情を買い、クルクルと敵意がない事を回りながらアピられる。くっ、ありがとうございます。感謝の意を評して地面にスタンプ貼っときます。そして脱出ゲートまで【鬼】にお見送られる私。屈辱。
「なんと敬老精神に満ち溢れたゲーム…」
「いや、オンラインで年齢ばらすワケねーだろ…」
そしてゲームの結果が表示され、いいねを押しまくる画面にイケメンな鬼のハンドルネームが…
「あ」
「ほう」
“TAKAMICHI”
「…ちょッ…」
「マルチ戦でポイントを稼いでキャラを鍛え、その上でランクマッチに出ないで態々激弱わの陽毬さん最低ランクのハチクラスに合わせてきたか。その内フレンド申請が来るな」
そ、そういや最近頻繁に鬼に捕まっても、偶に神並みに上手い仲間の一人に凄ぇ救助と肉壁で庇われる気が…まさか、アレは貴道くんの逃げる側のキャラなのでわ。
「陽毬さん、元々野良(誰とも組まずに一人でプレイする事)で入るし、迂闊だからマッチングした相手のハンドルネームも確認しないよね、多分」
「…迂闊言うな…アレだ、ほら、あんまり画面の向こう側にはほぼほぼ興味無いっていうか…」
「そうだね、画面の向こう側よりは寧ろこちら側の俺に興味を向けて欲しいし。差しの入ったサーロイン的な肉々しい昼ご飯ご馳走するから行こう?ねぇ、いいでしょう?ねぇねぇ」
「はガァ!そんなぴちぴちしたほっぺで熟女にすりすりしないで‼︎やめてわんこ!そしてさりげなく長い脚で短い足をがっちりホールドしないで」
丸いゴム状のナニカを真空でピタリと内包した四角いパッケージを目の前でぶらぶらされた私は、美青年に犯されるか昼ご飯を外食するかの二択を迫られ、渋々着替えて連れ出された。
一応、何処にお呼ばれしてもいい服装をチョイスして、「はいよ」と第二秘書の住吉君の運転する国産高級車(レ、レクサスだと思う)に詰め込まれ、運ばれた先の料亭の個室にセッティングされた品の良いゴハンを戴く。
「そういえばショウちゃんは親御さんとはその後全く連絡取ってないの?」
熟女のご相伴に極上の笑みを浮かべている美青年にその行く末が不安になり、ふとこのやりたい放題のイケメンの親族はどうしてるんだろう、と気になった。
「まあ、一年に一度くらい海の向こうの親族も呼んで親族会込みなビジネスパーティを滞り無く催していますから経済的にも問題無い様ですよ。学生時の生活費の代償ですね、この会の出席が義務付けられているんで、安否確認くらいの気持ちで毎回参加していますが」
そういえばそろそろ今年の会のシーズンですね。そんな風に何気無い感じでサラリと流すと、デザートのマスクメロンをあ〜んしようと宝石の様な果実をフォークに刺して差し出した。
YOU、何の介護だよ?と某アイドル事務所の社長の様な脳内ツッコミを繰り出しながら、仰け反っても追い掛けてくる熟れた果実を仕方なく咀嚼する。
「正直、ビジネス絡みの縁談とか無理矢理仕込まれたりするんでいい加減嫌になってるんですよね。もうそろそろ義理も果たしたと思うんで、今年で最後にして後はバックレようかと」
「ほう」
「ヨメ予定の女性なら今現在全力で口説いていますし」
「ほうほう」
がっつり視線を絡ませてくる亜麻色の髪の美青年を明後日の方向に視線を逸らして必死に逸らす。
止めろや。熟女層にしか需要の無い話をこれ以上コアな展開にしたくないんだよ、私は。
体力の回復ですらビタミン剤に頼っている腰痛持ちを甘くみんなよ?あんだけ朝からヨーグルトやら怪しげな広告サプリを摂取していると言うのに!一体、何処にいるの?私の痩せ菌ちゃん。増殖してやられたらいっそ倍返して腸内フローラ‼︎
「ふう、余生の一個くらいくれてもいいのに陽毬さんのケチ」
「余生と言うモノは残念ながら一人に一つずつしかありません、大切にしてイノチ。いいじゃないのー誘われればこうしてちゃんとご飯も付き合うし、エチ以外なら遊びも三半規管の赦す限り、結構付き合ってあげてると思うんですが。年越ししたら五十歳になる熟女としては充分過ぎやしませんかね?」
「さっき言いました様にこれから煩い親類とも縁を切りますし、貴女一人を囲った処で何を言わせるつもりもありません。コンシェルジュ付きのマンションがいいですか?それとも御近所付き合いの薄い高級住宅街の瀟洒な一軒家とか。希望があるなら聞きますよ?」
香り高い玉露を戴きながら、ヤレヤレ顔文字の様に眉を下げる。
「さりげなく二択にすんな。イケメンパラダイスでポケットの駄菓子を強請られる生活に漸く慣れてきたんじゃ、こっちは」
「……誰ですか?陽毬さんが掃除に入る時は部屋から出る様に言ってあったんですがね」
コワイコワイ、背負っている花がいつの間にか黒百合だよ。笑顔なのに圧が凄い。何でマンツーマンだと思うんだ。確かにエプロンのポケットの中の話なんだけどさ。ガムとかフリスクとかんまい棒とかアーモンド一粒チョコとか、フローリング上をローリングして跪くんだよ。ホストがバレーボールのレシーバーにしか見えないのってイメージがズダボロだよ?それとも【ブルーノート】のキャストだけが特別なんか?手をいい笑顔で差し出すなよ、ついカムカムグミ乗せちゃったわ。オイオイ、ショウちゃんがあたりをつけ始めちゃったよ…ヤバイ、寮生生命の危険。話題を変えよう。
「そう言えば、お祖母様がベルギーの人って言ってたよね?」
「はい」
「そのパーティとか向こうの親族呼ぶって言ってたけど、一度くらい実際お会いした事はあるの?」
「いや、流石に高齢なんで御渡りは難しいみたいで。ただホント一回、俺の方から商談ついでにアポ取って会いに行きましたよ」
「おお、ショウちゃんにしては積極的」
「んん、流石にちょっとはこの容姿のルーツとか探ってみたい気持ちもありましたし。祖母はいい女性でしたよ、性格もさっぱりしてましたし」
そして、回想から顔をあげたイケメンはマジマジとこちらを見てきた。
「そう言えば、なんとなく受ける印象が陽毬さんに似ていましたね」
「この純ナマジャパニーズが富豪のベルギー夫人と比較になるかよ」
「いや、親の兄弟やら従兄弟やら居たんですが、勝手に傍に侍ってまして。その距離の近さに辟易してる雰囲気でした。こう、偶に嫌そうに杖でグィ〜っと彼等をおいやってる感じとかが」
「ははは、やめろ。海を渡ってもおまいの一族は筋金入りの熟女好きか。遺伝子の奇跡はもっと重要な処に使えよ、ゲノムの不思議が一気にゴシップレベルに」
乾いた笑いを上げると、構いもせずに『ふむ…』と口元に指を置いて何やら思案しているクォーターの美形。
「何なら一度一緒に出てみます?パーティ。服とか一式、ヘアメイクまでお世話しますから」
「やめろ、何のお披露目をするつもりだ」
企みを悟って、間髪入れずに断った。誰が行きたいんだその集まり。




