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洋輔編⑦

只今、新入学のドタバタで入稿がずれ込んでおります。すみません、ちょこちょこ書いてたんですが間が空き過ぎました。忘れた方はお手隙の際に洋輔編を読み返して戴ければ幸いです。

 7.




「は?アンタこそアッタマいかれてんじゃないの⁉︎何でこんなババァにホスト達が構うって言う?モーソーもいい加減にしなよ!」

「あ?添い寝の事?真剣と書いてマジだぷー(まだ引っ張る)。疑うなら後ろのイケメンに問い質せよー。おばちゃん妄想なんかで管理人室の鍵をディンプルキーにお金出して変えようとしねえよー」


 欧米人みたいなリアクションで大袈裟に肩を竦めて首を左右に振った。


「うん、美智香ちゃん男メニュー見てたよな?アレに載ってたうちの店の売り上げ上位4人が寮生なんだけど、鍵の甘い管理人室に忍び込んでは代わる代わる陽毬さんを抱き枕にしてたみたいでさ。夜中にブッキングした時とかバトって怒られて追い出されたって愚痴ってた。で、困ったこの人は家主のマスターキーやピッキングに負けない鍵を取り付ける間、俺という安パイ(と固く信じていた)に頼ってドライな関係を迫ってきたんだけど、うっかり俺のツボを押してきたんでそれと人生を諦めて俺を貰って貰おうと誠意を見せている処かな」


 私はチャラいイケメンを振り返ると、美智香ちゃんの落とした鞄の上で敢えて地団駄を踏んだ。


「何すんのよ!それ、グッチのGGキャンバス────!」

「うっせー二百前後のリシャール 平気で二本もボトルキープしようとしたヤツが二十万程度のバッグでブツブツ言うな。そんな事より、洋輔さんや。誠意とやらの定義について膝を付き合わせてチョットお話し合いの機会を。是非とも私にあらゆる危険の無いオープンカフェとかで」

「うん、じゃあ部屋に戻ろう。セキュリティも外や寮より格段に上がるし、紅茶も珈琲もそこらの茶店には負けない品揃えだから。サイフォンもあるよ」


 獲物を逃がさない為にあらゆる貴重品やコスメの入っているであろう彼女のブランドバッグの紐部分をベースに陣取る野球選手並みに踏んで牽制しながら、おばたんはそっと寄り添ってきたホストに渾身のチョップを旋毛にカマす。


「オノレの耳は竹輪か⁉︎何を聞いとったんじゃ!私は終始一貫して『密室』を避けたい、って暗に示唆しているだろうが⁉︎私ゃ話が詰まるにつけて自分が詰んだよ、なんて安易なオチは許せないッ!そんなんならティーパックのレディグレイを淹れた保温ボトルでティータイムの方がマシだわ。

 ちょ、この利かん坊チルドレン共め!待っとれ小娘!後は『金』だったな?だったらそれでトドメ差したるわぁ‼︎」





 かちゃ。





「『ヘイ尻。相良さんちの省吾さん呼び出してー』」

『──────ストーカーのショウちゃんでお間違いはありませんか?

 では、【相良省吾】さんに電話を掛けます』

「…陽毬さん…電話帳上オーナーをどういう分類にしてるの?」


 明確な非難を無視して『尻』のニュアンスで反応する素敵サポートAIに電話を掛けさせると、即座に応答が来る。


「もし〜?ショウちゃん、突然だけど今大丈夫〜?」

『うん。どうしたの?陽毬さん。何処かの帰宅中の勘違いJKに道で絡まれでもした?』




 え?ストーカー?




 キョロキョロ辺りを見回して、私は虚空を仰いだ。




 え?興信所?

 はッ⁉︎まさか、衛星ではあるまいな…?




「…洋輔君居るから危険は無いから安心して。それより【陽毬さんがすげぇ大事な伝説級元ホストで現在は某会社代表】の相良さんにちょっとお伺いしたいんだけど、今、私の為に気軽に動かせるお金はいーかほーどぉー?」

『現金で今直ぐ?なら、大体三億ぐらいだけど。何処に持って来させればいいの?直ぐにジェラルミンケースに入れて銀行から警備会社の人間に運ばせるから。ああ、急がないなら有価証券とか処分すれば軽く国家予算くらいには…ナニ?事業でも起こしたいの?』


 宇宙そらを見据えながらも予めスピーカーにしておいた所為で張りのある美声が流れてJKが固まる。

 良くて数千万円だと思ってた私も程良く固まっていた。


 ハッ⁉︎あかん、大人気ない喧嘩の途中だった。


『物なら百貨店の担当呼び付けるから洋輔を足にして会社においで。それとも不動産?おねだりは珍しいから頑張っちゃうよー俺』


 いや、頑張る方向が天井知らず、ってどういう事だよ?

 億、って億って金は『宝くじ当たるかな〜』的なバラエティ番組でしか見た事無いよ!


「…いや、いいの。いいのよ、ショウちゃん。私はただ若さと親の金で『ウェーイ‼︎』って天下取ってる気になっているバカを仮面ライダーと一緒に成敗する将軍様並みに懲らしめたかっただけだから。だから、位置を特定しないで! ヘリも呼ばないで!婚姻届に受け取りのサインをさせないで‼︎ありがとう!く、楠木サァーン!後ろで控えているであろう秘書様ァ〜も、もしも話ですから!メインバンクに電話しないでえ‼︎」



 魂の叫びをカマして、疲れたアラフィフは踏んだJJキャンバスの紐上に頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「…ちょっと…ナニよ、アレ」

「…金だよ。ちょっと小娘を懲らしめようとして自称パトロンに電話しただけだ…」

「美智香ちゃん、言っとくけどパトロンて言っても省吾さんはブルーノートの現オーナーで過去には地域最大の大箱【GoLD】の元ナンバーだし、御歳30歳で熟女好きの爺さんなんかじゃないからね?現在は不動産運用のAthena(アテナ)の会社代表とITエンジニア派遣と携帯コンテンツの大手リ・リースのCEOを兼ねてる歴とした青年実業家だから」


 スイスイ、と携帯画面でブルーノートのナンバーと撮った擬態わんこオーナーの画像を呼び出して、洋輔はほら、とそれを見せる。


「な、ナニよこのものごっつイケメンはッ⁉︎コレがホントにさっきの携帯先のこのババアのパトロンだって言うの⁉︎」


 美智香ちゃん驚愕きょうがくの叫び。

 五月蝿うるせえ、JKムンク。ババアは自ら名乗る分はノーダメージだが、人様からそう呼ばれると壮絶ムカつくナマモノなんじゃ。


「うん、だから彼女そう言ってたろ?君が勝てる要素を全部潰してやるって。後さ、君が誇る『若さ』や『美貌(笑)』も食い飽きる程相手してきた俺達プロには別に特別なモノじゃないしな?逆に十年そこそこで右肩上がりに磨り減っていくもんを良くもまあそこまで前面に推せるよねー」


 呆然としている美貌(笑)のJKにチャラいイケメンが表面上優しく諭している。

 その後ろに音もなく高級車が止まって、中から王子ゆうし様がッ⁉︎

 ふぉッ!将軍様ひろつねが運転しておる‼︎


「ちょっと〜陽毬ちゃんに難癖付けてんの、ってこの青臭い化粧率120%JKなのー?」


 す・スゲぇ。王子、一発で見抜いた!私、良いところのお嬢OLかと思ったのに!


「ハッ、そのバッグ一つで陽毬ちゃんが恨みがましく絡まれても困るから、外商にコレ持ってここまでのルート追っかけて来させた。ハイハーイ、これいいでしょ?グレード一つ上げといたよ。クロエのマーシーとパラティ。ケチケチしないから欲しいなら両方持って行きなよ」


 オイ、そんな高そうなバッグを気軽に投げるな。そして、何故状況が筒抜けなんだ?


 え?え?と戸惑いながら見事にブランドバッグをキャッチした美智香ちゃんは一顧だにせず、王子ははにかみながら、私にもバッグをおずおずと差し出す。


「陽毬ちゃんは『赤いバッグが一つ欲しいな〜』って呟いてたよね?はい、これプレゼント。エルメスのバーキン。色はルージュビヴォワンヌ。ルージュクーが良かったんだけどあの店、ケリーにしかなかったんだ。あ、後コレもおまけね。個人的に好きそうかなーと…ミュウミュウのピンク色のマトラッセ。可愛いのも好きでしょう?」

「か、可愛い…」

「物欲に簡単に流される陽毬ちゃんこそ可愛さ爆裂。あ、ヒロさんはそこ、車停めらんないから〜俺置いてって先に帰って〜」


 物凄い『アシ』を気軽に足蹴にする王子を私は有無を言わせずもっちりボディを活かしたボディアタックで車の中に押し込み、上総たんに親指を立ててキラリと爽やかに見送った。

 これ以上面倒事を増やされてたまるか!との一心だったが、面罵されながらもバッグを離さない小娘を放ったらかしにしたまま追い込み漁に参戦していた洋輔君にも驚いた。


「──────すっかり毒気抜かれたわ。帰るか」

「うん、俺も早く帰ってあったかい部屋で陽毬さんの世話を焼くわ。後、隙を見て抱っこしよう」


 理解し難い単語が流れるように素敵イケメンの口から吐かれて数秒、時が凍る。


「アンタ達、気持ち悪いわ…こんなババアに大金おかね使って、機嫌取って。馬鹿じゃないの?可笑しいわよ!」


 漸く現実が戻ってきたのか、洋輔君が言った事が実際に目の当たりにしてアイデンティティの崩壊に直面した美智香ちゃんが真っ赤になって喚き出した。


 思いっきし踏んでたそれを彼女が持ってた新しいそれの上にぽんと乗せ、バッグONバッグにしてやると、


「仕方ないじゃなーい。コレも現実なんだもーん。今まで『お嬢ちゃん』が勝ち組だったのはそのスペックに誰かが立ち塞がる舞台を避けてたからでしょ?

 確かに上には上がいる。でも、寧ろ足を掬うモノは横からいきなり来るんだよ。

 何故ならマニアはいとも容易く集団を形成するモノなのだ。そして此度はそれに不覚にも私が引っ掛かったが、一般的に勝ち組らしいキミには全くカスリもしなかったという訳じゃよ。ふぉッふぉッふぉッ、さあ何となく突き付けられた事実に私が傷付いてきたからサッサと負け犬は尻尾を巻いて帰れ」


 しっし、と面倒臭そうに手を振ると、憎々しげに此方を睨み付けてくる。そんなに負けるのがイヤなのか。

 金持ちの矜持って分からない。


「ざけんじゃないわよ!アタシはアンタみたいなデブの弛み捲ったババアには負けてないッ‼︎幾ら顔が良いからってそんな金で買える男なんてこの先幾らでも手に入れられるんだから調子に乗るんじゃねーぞオバサン!」

「はっはっは!ババアがババアと罵られた処で全くのノーダメージ(嘘)‼︎本気で五月蝿え‼︎この全方位マルチコムスメが。パトロンから手を回させて親・会社・お前の私生活に興信所べったり張り付けさせて暴いたゴシップネタ文春(仮名)にでも突っ込んでやろうか!

 こちとら父親がウッカリ知らん所で勝手に死んで、四方八方に八つ当たりたい気持ちでダム決壊しそうなんじゃ‼︎やるならトコトンやんぞコラ?」

「どうしてアタシに当たる気満々なのよッ⁉︎」

「お前の言う『金で買える男』が金で買えない程可愛いから、万が一あっちに当たると多分、殊勝に当たられてくれるからそれに怯んで流されて私があっさり泥沼にハマるからだ!」


 指をビシィ!と差すと、その先で洋輔君が片手で口を覆って照れていた。

 イラッとして脳内素直に垂れ流した。しまった。ナニかを間違えた気がする。


「はッ!ババアの父親なら相当のジジイじゃない。どうせロクでもないジジイなんでしょう?そんなん『何も無くても』寿命じゃん!そんなジジイ、死んで『当たり前』よ」





 天啓。





【罰】なんかじゃ、ない。

 そんな年なんだから、死んで【当たり前】。

 勝手に生きて、勝手に死んだ。

 そんな親の人生まで無駄に背負い込まなくて、いい。


 その時、そんな風に私には聞こえた。


 そして、思わず笑いの衝動が溢れてくる。救いの手は、思わぬ形でやってくる。

 本当に人生は思いがけない。想い、描けない、モノだ。


「ウマい。美智香ちゃん、座布団一丁」

「は?」

「ああ…陽毬さんがうっかり自力で立ち直っちゃった。嬉しいけど、俺、一枚も噛んでないじゃん。何してくれてんの美智香ちゃん」


.

もー。明日は歓迎遠足なんスよー。もー。

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