貴道編⑥
短いです。手抜きでは無いですよ?
6.
ヒロさんは寝起きを叩き起こされたにも関わらず、上機嫌で陽毬さんを迎えに来た。
「夜中に俺を迎えに起こすとは、俺の巣に引っ張り込んでも構わない、とゆー前振りかな?」
はっはっは、と闊達に笑いながら、シャツの胸元をセクシーに開けた彼の美丈夫は、大股で素早く歩み寄り、熟女を捕獲していた。何という早業だ。
「か、上総くん!非番だったの?ブハっ、ナニその格好ォ‼︎良いのよ、おばちゃんならタクシーで帰りますからッ‼︎右京君!右京君!陽毬さんにタクシーいっちょー!」
「要らん」
陽毬さんの挙げた手を取って自分のシャツの合わせ目に捩じ込むヒロさんにお客どころか、居合わせたキャストが溢れ溢れる色気に鼻血を吹いた。
「ふにゃあああああああ─────ッ‼︎」
陽毬さん店を慮ったの控えめな悲鳴が辺りを席巻する。
喧しそうに眉根を寄せた彼は此方にちらりと流し目を寄越すと、間髪入れず、ぶちゅー!と俺がカマした卓チューを上回る接吻で口を塞いだ。
しかも、長い。
そして咀嚼する様な音がし始めた。
抵抗していた陽毬さんの腕からだらり、と力が抜け、ぴちゃぴちゃと濡れた音が…。
ぷす。
「痛て」
ヒロさんの背中にアイスピックの先が刺さっていた。
「やり過ぎです」
篠崎が笑顔で尖りモノの柄をグリグリと左右に動かす。
「そういう事を店でやると陽毬さんが今後顔出しし難くなるでしょう?そんなプレイをオープンしたくば他の『姫』様方相手にお願いします。イベントに組み込みますから。陽毬さん限定なら持ち帰ってからやりなさい。はぁ…勿体無い」
「そんなもんか?」
「まあ、概ね」
違うだろう、それは。
あ、ヒロさんの腕の中でぴくぴく痙攣していた陽毬さんが『はっ!』と我に返った。
「た、貴道君?一体、今私の身に何が起こったのかしら?何かその…アリス・イ◯・ワンダーランドな非日常的旋風が一瞬、竜巻的に巻き起こった気がしたんだけど?」
陽毬さんは自己保身の為か刹那の記憶を失っていた。俺に視線を据えたまま、自分の腰を抱いたヒロさんの、ボタン4つまで外された白いブランドシャツのそれを無意識に首元まで詰めようとしている。
「何でもない。大丈夫だ、貴女は丁度今、俺と明日、ドライブデートに行く約束をした所でヒロさんに捕まったんだ。それは覚えている?」
「捕まったのは。……え?私、明日貴道君とお出かけする事が決定したの?」
「え?良いなぁ!俺も混ぜ「上総さんは明日エースの姫と店外デートでしたよね?極太な御方ですのでご機嫌を損ねない様にお願いします(by右京)」…はい」
「そんな約束…「美味い酒を樽から飲ませてくれる酒蔵も寄るよ?」…した気がバンバンするね、うん」
にやり。(但し、その場の男三人ポーカーフェイスの為、心情風景)
「じゃあそういう事で、ヒロさん?陽毬さん、9時には寮に帰して欲しいんですが」
「う〜〜ん、分かった。まあ、色々解しても一回はいけるか」
「上総さんは姫方に本カノ営業するタイプじゃ無いですから、時間が足らずに物足りないからと言って他所で済ます心配はしてませんけどね?無駄に精力あるんですから、それで気合い入れて明日は御方に気怠い所など見せないで下さいよ?後、貪り過ぎて二度寝もいけませんからね」
淡々と男ばかりで話を進めていると、間に挟まった熟女が苦虫を噛み潰した様な顔をして、四面楚歌ならぬ魔の三面鏡な囲いを脱出しようと藻搔いていた。
「おら、陽毬ちゃん?何処に行こうってんだ。
No.1が態々非番にも関わらず、プライベートと睡眠を犠牲にして迎えに来て差し上げてるんだぞ?」
「何を恩着せがましく部分慇懃無礼なのさ⁉︎
『解す』とか『貪る』とか不穏なワードを聞き流す程、私ゃ典型的ヒロイン必須な性的鈍感じゃあねーわ!様々に嫌な予感しかしない!」
「十年以上、お扱いになってない器官は退化していないとも限りませんし、準備は入念に施すべきだと思いますよ?幸い上総さんは奉仕もお嫌いじゃありませんし。ぐちゃぐちゃになるまで手を入れて貰うと宜しいでしょう」
「う、右京君ッ!何気に失礼ぶっ込んでキタ⁉︎大人しく寝るという選択肢も入れてよ‼︎」
俺は陽毬さんの肩をぽん、と叩いた。
「大丈夫。貴女の『世界』が広がりを見せれば、より一層俺達を受け入れ易くなるだろう。
冒険心は幾つになっても忘れるな」
陽毬さんの目が点になった。
「──────はっ⁉︎何かいい事言ってるテイスト‼︎違うッ‼︎いやぁ違うからッ⁉︎秘宝求めたり『海賊王』とかは私、これっぽっちも目指してないからァアアア‼︎」
俺は楽しげに美丈夫に連行されていく陽毬さんを見送りながら、明日のデートコースに想いを馳せた。
「仕事もして下さい」
篠崎が直ぐ後ろに立っていて。
アイスピックは地味に痛いのだと知った日だった。
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6/12 ちょっぴり言葉の座りが悪い場面を修正致しました。




