突発的に番外編:【魔女の一撃】
腰痛記念です。何でやねん。いや、転んでもタダで起きたくなかった!症状は先週の私です。今週の私は寝起きは普通に出来ています。ただ、見えない何者かが錐状の物で左の腰を突いているだけです。
『腰痛の為、3日間のナンバー及び諸々役員等への面会禁止』
と、デカデカと書かれたホワイトボートが寮の管理人室のドアにぶら下げられていた。
それを見た主に貴道がドアの前で青い顔をして佇んでいる。
此度ばかりは窓も厳重に施錠されており、食事も出前等なら専用の開閉口からやり取りされるだけだ。
朝はダイニングの料理人が心配して朝食を差し入れている様だが、やはり開閉口でのやり取りで、食器は食洗機で洗ってから返されている。
腰痛はかなり酷い様だ。
直ぐにそれは相良に伝わり、昼間の仕事中にも関わらず、スマホに連絡が入った。
「…うぃーす。どーした?ショウちゃん」
『どーした、は俺の台詞ですよ。腰痛って聞いたんですが、酷いんですか?』
「うむゅ。何故か寝てる時に捻ったらしいんじゃが、一度寝たら起きるのに1時間半程掛かる程度じゃよ…以前やった時は裕章さんが晩飯に二千円も掛けやがって締め上げた事を懐かしく思い出すよ。くるくると走馬灯的に。寧ろ死ぬのか?私。後、出前開閉口にフルーツ籠を捻じ込むのをやめてくれる様に貴道君に言ってくれるかしら、ショウちゃん。ミチミチになって逆に出すのに力、要るから。ふんむ、と引っ張るの、腰が悪化するから」
余程痛いのか、ノンブレスで此処まで言うと、
はあはあ、と荒い息遣いになっている。
「とにかく、見舞いとか良いから。来られても持て成せないし逆に気を遣うわ。安静にしとけば二、三日でせめて整体に行くぐらい出来ると思うからね。来ないでね?フリじゃ無いから!本当に来ないでね⁉︎」
ツーツーツー…
切れていた。途端にスマホに『楠木さん』と表示され、ペケぺんぺんぺんぺんぺん、と間抜けな着信音が鳴る。
『…申し訳ありません、陽毬様』
「楠木さぁんッ!逃したんですねーッ‼︎」
『捕獲レベルが通話を切った途端に35から百万飛んで3と跳ね上がりまして。腰痛でお疲れの処、誠に申し訳無く思っています。後日、フェルビナク成分過多の湿布を差し入れますので』
「いや、ハゲ辛兄さんどころの騒ぎじゃねぇよ‼︎回収!ルナティック人狼回収して下さい‼︎う、動けないんですよう。サバンナですっ転ぶガゼルの子供並みに危険なんですようッ!」
陽毬は左の腰に力を込めた!誰でも良い!オラに力をくれッ!クレヨンのチョコビ待ち尻をやたら出す子供以外‼︎
『実は今日はどうしても外せない商談が接待込みで控えていまして…相良が捕まらないとなると、私が出るしかありません。実際、其方で問答している時間も無いのです』
「じゃあ、邪魔を!ホラす、住吉さんとか」
『住吉が例えドア一枚隔てた場所にいたとしても、相良なら事を起こすに躊躇するタマでは無く…。済みません陽毬様。此方としても強姦ならともかく傷害で訴えられる様なケースは避けたい処なのですが…。腕の良い整体師の派遣し、一本一万超えのドリンクをダースで持たせますから。─────頃合いを見計らって』
ナニ、淡々と上司の情事を匂わせてんだァ!
(多分、眼鏡とかクイッと持ち上げて)
「問題なのは刑罰の種類じゃないでしょが!しかも強姦より傷害の方が天秤重いんデスか?それは周囲一円におけるアラフィフに対する揉み消しの塩梅でしょうか?こちとらクシャミをするのもチョーびくびくな腰の痛みに耐えてるんですよ?
何スか『頃合い』て。耐久か!鈴鹿か⁉︎痛ッ!イタタタ!ぶり返した!これで24時間て耐えられん耐えられる訳が無かろう⁉︎処女か?処女膜て、そういやバレーやってたら血が出なかったわ私‼︎そんなオバちゃんの若かりし日の痛々しい暴露は置いといて。困ります!御社のCEOでしょう‼︎どうにかしてぇええええ‼︎」
僅かに躊躇う雰囲気がして、
「では、篠崎に連絡をしておきます」
ツーツーツー……
「使えねえッ‼︎‼︎」ペシ!(スマホを放る)
右京を寄越した処でどうなるものか。
ブルーノートの超バーテンダーで相良のプライベート秘書である。
先が言われなくても聞かれなくても分かっているでは無いか!
コンコン☆
「陽毬さん、大丈夫ですか?今、楠木秘書から連絡が入ったのですが、省吾さん対策を頼まれまして。マスターキーでお邪魔しますが、宜しいでしょうか?」
え?
「ち、力になってくれるの?右京君!」
「勿論です。さ、あの人が光の速さで到着する前にやるべき事を済ませておきましょう!」
誤解してた!ゴメンね、ありがと〜〜‼︎
「パジャマだけど、どうぞ!」
「はい、早速失礼しますね」
ガチャ!「こちらですね」「静かに、腰の辛いご婦人が居ますから」「はい、おい慎重に入れろ」どかどかどか。
「陽毬さん、ちょっと動かしますよ?」
布団派の陽毬が乗った敷布団毎、隅に引っ張り寄せられ、最高級のマットレスが運び込まれた。顎が外れたままの熟女をおよそに、あっという間にキングサイズの寝具が整えられる。
「お風呂も今、溜めておきました。運動前に温めて置いた方が宜しいでしょうから、到着されたらお伝えして─────」
「右京君や」
「はい」
「あれはナンダイ?」
「衝撃を和らげる為の寝具です。お風呂も炭酸入浴剤二個入れときました。後、シーツの替えはこちらに。横の陽毬さんのふかふかパジャマも前開きのモノを新調しています。カシ・ウエアという、フォーシーズンズやリッツカールトン、ハレクラニ等の高級ホテルやスパで使用、販売されているセレブ御用達のルームウェアブランドの物です。アカデミー賞やグラミー賞のギフトにも選ばれているので品質は安心して下さい」
「それは寧ろ誕生日に欲しかったわ」
「じゃ、寧ろそれで」
「オイ簡単にやっつけるなや」
「滅相も無い。お食事の方も簡単に摘める物を台所にご用意しております。後、痛み止めとお水は手の届くこちらに。多分痛み止め成分の入った湿布は」
ガチャ、バタン!
「陽毬さんッ!無事か⁉︎」
勝訴の紙の様に『ハゲしく辛い痛み』で有名な湿布を山の様に抱えて飛び込んできたのは養子どころか余生を寄越せとかき口説く、亜麻色の髪の美青年だった!
「大文字で『帰れ!』」
「酷いッ‼︎心配して駆け来た義理の息子(予定)に何て言い草⁉︎」
寝ながら大の男二人を怒鳴りつけるのに苦労したが、びしぃ!と入り口を指し示す。
「そんな契約した覚えも記憶も無いわ!だけどねショウちゃん、やっと私今日寝返りがスムーズに出来る様になったの。これで床擦れの心配が無くなったわ!それに後で楠木さんがマッサージの先生を寄越して下さるんですって。良い秘書さんを持ってショウちゃんは幸せね。ママ、鼻が高いわ!だから、右京君を持って帰れ‼︎後、湿布は全部置いて行け‼︎」
「はいはい、邪魔者は直ぐに出て行きますよ」
「単体で帰らないでぇ‼︎」
「あ、右京。一薫は諦めた様だがナンバーの邪魔が入らない様に釘を刺して置いてくれ」
「もう手は打っています。それより省吾さん、陽毬さんは病人な上、処女膜再生する程のブランクがありますからね?殊更優しく扱うんですよ?」
「ああ、右足が曲がれば充分だ。あんな上等の打ち上げられたマグロ、中落ちだって無駄にする気は無い」
きらーん!捕食者の目がギラギラと光っている。そいで脚ならぬ腰を挫いたガゼルはプルプルしている。
うっかり左に力が入って、うォ!とか女らしい悲鳴が出なかった辺りで右京の退室の気配がした。
「さて、陽毬さん?ふかふかのお布団に移りましょう?」
「ングググ…」
「暴れないでね?危ないから」
「いた、イタタタッ!夢にまでみたお姫様抱っこが!身体介護‼︎貴様、ヘルパー二級は獲得済みなのか⁉︎いや、ねぇよ‼︎こんなあからさまに全体重を逃さない移動方!んぐ、てあっう!きひゃあ!ててッ」
「もー!喋って変な所に力入れるからそうなるんですよ〜」
掛け布団を退かされ、そっと驚く程沈み込む、それでいてしっかりとした寝心地の寝具に陽毬は寝かされた。
ちょっぴり奥の方に。えっ?と振り返ると靴下を脱いだ相良がそっと背中に寄り添う様に入って来る。
咎め立て様としたが、グキっと嫌な音がした。はぐ!と口が開いて、20秒くらい掛けて小ちゃく纏まっていく陽毬(もうすぐ50歳)。
「【手当て】とは病気やけがの処置をすることをいうのですが、俗説で「手を当てる」という意味だと信じている人が多い様ですね。けど、気の達人でもあるまいし、医者が病人やけが人に「手を当てて」いるだけで治るようなら治療なんて要りませんよね?ここでいう「手当て」は人手やお金を割り当ててものごとを処理することだと考える方が妥当です。
というわけで「手当て」は、前もって準備しておく事を言うらしいですよ?」
お灸で炙られた後で美青年の手でしっかりと腰を揉み込まれ、ベペン!と湿布が貼られている情けない熟女は泣いていた。
「ううう〜〜。長々とウンチク垂れられているが、これは折檻の一つなのか〜果たして生肌をここぞとばかり触りまくられた苦情をセクハラと罵って良いのか〜でも、気持ちE〜〜ついでにお尻まで揉み込まれた気がするんだけど許せるくらい上手い〜〜」
「大丈夫ですよ〜上手いのはそれだけじゃ無いですからね〜。あ、お風呂入りますか?介助しますよ?手取り足取り腰取りに」
「湿布貼る前に言え〜〜勿体無いわ〜!あーそこよそこそこ!うんうん、確かに余波で左脚まで痺れキテる。んだが、内腿は未達だ!尻側からさりげに揉みこもうとすんな…あ、やめて、色気むんむんで密着しないで。更にさりげに覆い被さろうとするな。背中!背中密着に関しては妥協すっから、おばたんを洗いもせずに食べようとしないでぇ〜⁉︎」
「洗って良いんですか?」
「ラス○ル〜〜!ラ○カル〜ぅ!どっかの誰かがベルばらのオス○ルと間違えそうになったアライグマ様ッ!この不届き者に角砂糖を‼︎」
「安心して下さい。隅々洗ってあげますよ?何なら中も捻り込む様に擦り洗いで」
「んが!ここムーンライト?ムーンライト送りなの?ふわッニーオーイを嗅ーぐーなーッ‼︎」
沈み込む様なフワモコな布団の中でエエ歳した男女が組んず解れつ。
「卑怯、ここに極まれり!熟女が違う意味でも『ああん、痛い!そこ、もっとゆっくりィ』とか言われたら萎えるでしょ⁉︎萎える…な、萎えると言って⁉︎」
「───────あっははは、可愛いなぁ陽毬さんは。そんなん乗り越えて快感を覚える程でなくては貴女は手に入れられないでしょう?
大丈夫、大丈夫。それに今なら、充分な言い訳をあげられますから」
「?」
つつー、と脇腹から腰に指を滑らせ、痛む部分を優しく大きな男の掌で温める。
「『動けなかった』んだから、『しょうがない』んですよ」
悪魔の囁きが、耳に息を吹きかけて忍び込む。背中を抱き込まれている為、後ろから逞しい太腿が大事な所を刺激する様にグイ、と閉じられた両の脚に割り込んで来た。
「身体が辛い時に若い男に献身的に看病されて、給餌もされて、求められて拒める女性は少ないでしょう。『なるべくしてそうなった』んですから『仕方ない』でしょう?」
「…………」
「もう諦めてくれませんか?」
「…………シリアスに言いながら、乳を揉むなよ」
ガックリ、と項垂れながら、もう陽毬は好きに揉ませていた。いや、そこは好きにさせちゃあいかんだろう、というのは分かっていたのだが、まだかろうじてモコパジャマの上からだったので、中のブラキャミのカップが邪魔をして決定的な移行を妨げていたから。
「はああ〜、究極に危機ィだけど、マジで今、衝撃食らったら死ヌから!ホント、君達男は生理痛もなった事が無いから好機に見えるのかもしれないけどね?ふ、うっ!ふぁっ、はっはぁ、ああ〜(何てこった!ゆっくり撫で回した掌で乳首探し当てやがった!)はぐっ!ここで一回でも誘惑に負けてやっちゃったら、なし崩しに運ばれて愛の巣に引きずり込まれちゃうんでわ?そしてキミ、私の外界との接触を絶たせて肉体年齢を目眩く愛欲に満ちた性活で目隠しをする気では無かろうな?」
「おっぱい、直に揉んでいいですか?」
「当たりか!そして良い訳が無かろう!オマケに無駄に良い声出すなよ…昔の中国の人!誰か私の倫理観を救助求む〜もう何だろう頭ン中がソフトクリーム化して私が必死に守ってきたモノが自分でも分からなくなってきています。だって、耳に良い声はそれだけで逝っちゃいそうだから‼︎逝くと言えば裕章さん、脳内でサムズアップしてないで助言を、あっあっあ、ひあ!ショウちゃん、リズミカルにおっぱい揉みながら首のリンパ腺攻めるのやめてえ」
「──────俺の嫉妬心と欲望を無駄に煽るから手加減する気が無くなってきました」
福がありそうな柔らかな耳朶をカリカリコリコリと甘噛みすれば、腕の中の体温が上がっていくのが分かる。
「何が貴女をそうまで禁欲させるんです。こういう事が嫌いでは無いのは溶け具合でも分かるのに。それとも、亡くなった方に操立てですか?」
「おうよ!ホントの事別に隠してないけど言うわ。もうこの身体ならどこもかしこもOKサイン出しとる!しょうがないじゃん!処女じゃ無いんだし‼︎イケメン大好物だし、ショウちゃん声も顔も極上だし!禁欲長いしおっぱい揉むの上手いし‼︎『じゃあさ、1回やろう。清明にはナイショにしてね ♪』て喉元過ぎれば鼻まできてるわ。逆に鼻血吹きそうよ!裕章さんなんて、裕章さんなんて、偶にしたら柔かったのよ⁈清明作った時はまだ硬かったのにィ!因みにショウちゃんのお尻に当たってるー!パジャマ捲らないで〜〜直に舐められたら昇天するう」
熟女が腰痛を堪えて両手で忍び込む相良の手をガードしつつ、モコな前裾を押さえていると、美青年は大仰な溜息と共に空いた背中をがばっと捲られ、「ひあ!」という色気のない悲鳴と共に素早くブラキャミの脇から手を差し込んだ。
「もち肌ですね、陽毬さんは」
「……言いたい事はそれだけか」
「いえ、念願果たせて思春期の童貞並みに興奮して挿れる前に暴発しそう」
「……熟女だから、と言って、ふう。あからさまに、下品、だな、オイ」
「いえ、凄いチャンスなんでこちらのリードで進めたいのですが、陽毬さんも息が上がっているのを知って本能に歯止めが効かなくて」
「そこは欲棒をコントロールしろや、人類」
指先が、
「俺のは硬度と角度と太さ、結構自信ありますけど、お試ししませんか?」
ピンポイントを攻めてきた!
「ひぃああああアアあああ〜っ‼︎」
溜めていた渾身の力を振り絞って、沈む最高級の布団から転がり出るアラフィフ!
八割方堕としたと思っていた砦から、反撃食らって呆然とする省吾。
しかし、それから腰を傷めている熟女は動けなかった。最早、此処まで。
「ぐ、あ!─────痛たタタタッ!ショウちゃん、クスリ、ヤク持ってきてー!死ヌ‼︎」
数秒の後、大慌てで右京を呼び付け医者を掻っ攫う様に往診させた相良は「ヤンギャーアあああ〜っ‼︎」と何処ぞの怪獣を思わせる様な叫びを放つ陽毬を寝ずに看病する羽目に陥った。
陽毬は一日にして堕ちず。
おしまい。
「俺がそんなにいやですか?」
亜麻色の髪の美青年はやさぐれてヤクルトを呷る。アレだ、嫌がらせだ。
「おしまいにさせろや」
陽毬は極細ストローで楠木秘書の差し入れを啜る。はあ、と溜息を一つ吐くと、ついでにハクションとクシャミをして、腰に響いたのかちょっぴり泣いている。
「ぐすん、痛た…あのなぁ、トラウマの根幹に根付く女なんて手に入れたら、ショウちゃんの事だ。大事に仕舞い込んで離さないだろう?
それは、精神的に良くない事だ。…いてッ!あうッ‼︎…うぅ、トラウマはな、乗り越えるものだ。だから、『母親』なら演ってやれる。だけど、『ショウちゃんの子を産む奥さん』には、もうどうなってもなれないよ?アイタタ…若いんだ、キラキラと今からの人生だわ。存分に色々な形の幸せを試していってよ。そして乗り越えて、笑ってよ。
昔、泣いてたあの子の涙を受け止めて、抱きしめたのは私。─────だから、今度はあの子に笑顔をくれる女性に向かって、その背を押してあげたいんだ」
相良は整体師から習ったツボを押した。
「アイやあああアアあああぁ────ッ‼︎」
悶絶する陽毬!悪魔の如きイイ笑顔で極上の男が微笑んでいる。
「子供なら、孤児院から容姿の優れた養子を二十人ほど迎えて全員『檻』のメンバーにしましょう」
「やめろ!おのれ日本と若者の将来を何と心得る‼︎」
あんぎゃあ!と叫びつつ、陽毬は突っ込んだ。
くそうコイツは何を言ったら、愛想を尽かせてくれるんだ…。
このままではただ熟女好きな集団が膨れ上がるだけだ!そして寿命的に私が先に死ぬ‼︎
罪悪感ハンパねえ‼︎それはそうと、力任せにグリグリしないで、そこのツボ!
「はあはあ!そう、そうだ!現『檻』メンバーですら制覇してない私に二十人もの逆ハー熟せる筈ないから〜まあ、上総君が愛車を売ったくらいの額の指輪持って婚姻届持参して来たりとか、王子が女装して女友達として買い物付き合ったり、貴道君が営業モードのままデートしたり、洋輔君が献身的に看病してくれたり、遼君がワンコよろしく鎖に繋がれて頭をナデナデさせてくれるとこまでに万が一にも行ったら、逆ハー達成記念にショウちゃんの言う事を何でも一つだけ聞くわ〜〜」
陽毬は指を折りながら、実現不可能を無い頭で捻り出した。
「…………」
「…無理強いはノーカン」
真顔になった相良の美しい顔が悪辣に、凄艶にゾッとする笑顔を浮かべる。
いやん…こういうの欲しかったのと違う。
「言質は取りましたよ?」
自爆。
やめろ、おい、やめろ。
そんな微笑み、背中押したりしたくねえ!
タイミング良く朝チュンと共に、釣りの大物誤情報(騙して船に乗せた上での)を流されていた上総君や遠方に住む母親の危篤を知らされた(此方も誤情報な上、和解に至ったので恨まない)王子やら、妹さんが突然帰国に至っての住む場所探しているとか間違った伝達うけた貴道君、陽毬がたっての希望で看病して欲しいと要請(嘘は言ってない)を請けた洋輔君とか次々にこの部屋に飛び込んでくる。
そして──────
「陽毬、くれた黒のチョーカーに金の輪っか付いてるんだけど…。袋の中に、細い鎖のリードみたいなの入ってたんだけど…なあ…こういうの、趣味か?」
そう思うんなら、何で装着している?
そして何故、恥じらいながらリードの先を私に渡すんだ?
「撫でたい、て聞いたから」
ふ、ぐあ!何────突然の、デレ!キタ、コレキタよ‼︎熟女のハートど真ん中じゃよ!
ニヤニヤしてる。ショウちゃんが嫌な笑顔を浮かべているよ⁉︎だから、そういうのじゃ無いんだって!
この後の展開は皆様もご想像の通りですが、ヒロイン(´゜ω゜):;*の胸焼け具合でどうかお察し下さいませ。
突発的に起こる腰痛を【魔女の一撃】と呼ぶんだって。
こんな逆ハー、魔女だって星すら砕くビームの一つくらい落としたくなるじゃない。
アラフィフの、好きなものに囲まれて老後を暮らしたい、って細やかな夢。
まさかここまでデッカく神様が明後日の方向に叶えてくれるなんて誰が思うの?
熟女は思う。
叶え過ぎです、神様。もうこの先は看板が落下して圧死か、マンホールに落ちてハードモード異世界転移しか思い付きません。
熟女は願う。
そのお怒りは神様に向けて下さい。どうしても私に、というのなら生理痛は我慢しますから、生理あがらせないで。…生で突っ込まれそうでコワイから。
ストレスストレス、心因性の疲労が蓄積されている彼女は世に願う。
一人で泣けないパーソナルスペースで、タイプの違うイケメンが私を呼んで笑顔で食卓を囲んでいる。
それはこの世のオカンの夢であり、それは世界のおばさんの至福であるから。
涙が出そうになる度、笑顔を浮かべるのはデフォルトで。そんな事を『私』とするのが『幸せ』だと言い切るこの子達が不憫で。
うっかり泣くと背中から抱き込まれて、寝室に運び込まれてしまうから言えないけれど、
この一撃は私を楽にする。
誰にも言えない呟きは、泡と溶けていく。
『魔女さん、ありがとう』
.
次回は普通に貴道のデート編です。




