57話:家族のカタチ-2
「もしもし、そこのかわい子ちゃん」
「……ふえ? …え、わたし?」
こうして恋羽結が ナンパされたのは、3日間に及んだ補習を終え、息抜きにたぴおかを買いに出かけ、その帰路でのことである。
「あの…知らない人について行っちゃダメだよって…ひめのんに言われたので……失礼します……」
とはいえ、声をかけてきたのは怪しい男ではなく女性。それも、綺麗な着物を着た。
「怪しい人じゃないんよ〜。うちはおねーさんに”ひめのん”に渡して欲しいものがあって声かけたんよ」
珍しくテンション⤵︎⤵︎⤵︎な結に、女は続ける。
「”ひめのん”って、姫乃ちゃんのことやろ?」
「んん…? ひめのんは…ひめのんだけど…」
「まあまあ、細かいことは気にせんといて。…それじゃ、おおきに〜」
スタスタと立ち去る後ろ姿を、しばらくボーっと見ていた結。やがてふと我に返ると、握らされた茶封筒とその背とを交互に流し見て――――
(あの人…どこかで見た気がするけど……)
ちゅるちゅるとタピオカミルクティーを含みながら、
(…誰だったっけ? あの人……)
すっかり暗闇に落ちた街で、首を傾げるのであった。
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「……で、今に至る…と」
「うん。そーゆーことー」
特徴的な方言と結が目にしたと言う姿から、話を聞いた4人は何となくその女性像が想像できた。
「…で、その手紙っていうのが、これっ!」
結はポーチから封筒を取り出すと、それを彼方へと差し出す。
「普通の封筒だね」
タピオカミルクティーのおかげで、すっかり元気を取り戻した結はさておき。特に映えない外見に逢里が呟く。
「こういうのにイタズラ仕込むのは大体お前だろ」
「今日のは逢里ブランドじゃないから大丈夫だよ」
「勝手にブランドを作るな」
あれやこれやと言う間に、封筒の中からは一通の手紙が姿を現す。しかし、次の瞬間。綴られた文章を見た彼方と姫乃の表情が曇る。
「差出人、彼方たちのお父さんじゃない。…本社って…あの大きなビルのことよね?」
「うん…」
文章を要約すると、直接話したいことがあるから、彼方と姫乃の2人で指定した日時に本社へ来るように、とあった。
「…なんか回りくどいことする人多いよね。僕らの回りって」
「教官を初めとして、ね。…めんどくさい人ばっかりよね」
ついでに標的にされた寿健慈がどこかでくしゃみをしたような気がしたが、そんなことを誰が気にするわけもなく。
「…ま、呼ばれたもんは仕方ないな。…姫乃は明日、大丈夫なのか?」
「は…はい。学園の仕事は休みですし、芽衣と芽愛には事を伝えておきます」
「…そっか」
無言の時間が、暫し続き。
「でも、外出できる時間は決められているでしょ? 姫乃さんはともかく、あなたたちは毎日のように外出してるんだから許可が降りるかどうか……」
「僕はいいけどさ、彼方歩き回ってばっかりで怪我治ってないじゃん? …本当に大丈夫なの?」
「まあ……全力で走ったりしなければ」
「それは大丈夫じゃない」
彼方の怪我が治りきっていないのもあるが、皆の話し合いの結果、1人だけでいる時に狭間へ入り込んでしまわないように、と予防の意味も含め、複数で行動する様に決めたのだが。…彼方がアイスの買い出しに行く度に逢里の外出許可も同時に取らなくてはいけないのが、もどかしくもなり始めた今日この頃である。
「…恐らく、そのあたりの手回しは御父様がしているはずです。外出許可というより、私とお兄ちゃんにとってみれば、強制と言った方が近いですし」
「ご親切に車なんかも寄越したりしてな」
不可抗力とは言え休みが続いているため、学園には短期で帰省する生徒も出ている。方向性は少し違うかもしれないが、実質的にはそうなるのだろうか。
「取り敢えず、俺と姫乃は向こうに行ってくるよ。どうせ大した用事じゃないだろうし」
「そんなことないでしょ…一応2人とも怪我してたんだし。…お見舞いみたいな感じじゃない?」
「患者の方から来させる見舞いがあるかって」
すると、確かに…と笑う逢里の横で、綾音が心配そうな目で彼方を見ながら言った。
「…ねえ、私たちもついて行こうか?」
「えっ?」
「…なんか、嫌な予感がするのよね。……彼方=問題行動みたいな先入観があるからかもしれないけど…」
「あながち間違ってはいなけど。…間違ってはいないけどさ!」
「今回は行先も目的もはっきりしていますし、いくらお兄ちゃんでも危険の犯しようがないと思います。…たぶん…」
「そこは断言しよう!? 姫乃さん!?」
このまま行くとまた小隊活動並の大移動になりそうだったが、その流れを一蹴するような音が部屋に鳴り響いた。
「ん…? 綾音、電話鳴ってない?」
「……嫌な予感」
この時間の着信と言うだけで面倒臭いのだが、案の定、その”予感”は、的中する――――
to be continued…
 




