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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
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4話:桜色の夢

日々の時間を共にし。


「楽しい」と、心から思える日々を過ごす。


そんな「日常」がやって来たのは、いつなのだろうか。


少女はそんなことを思いながら、隣で寝息をたてる黒髪の少年と、その奥で文庫本を黙読する焦茶髪の少年の二人を、横目で眺めていた。


「…………」




静寂の中、記憶が蘇る。


9年前、自分達の運命を変えたあの日。


数世紀続いた大戦が終結し、半世紀____50年がたった日本で、一見平和に見える日々を送っていたあの日。


実の両親の転勤から、その勤め先となった小等学校に転入する事となった少女は、独特な雰囲気を持つ少年達と出会った、


黒。そしてもう一方は自分よりも濃い、茶色の髪。

性格は対照的で、デコボココンビといったところ。だが……そのデコボコが、丁度良く噛み合っているようにも思える。


それを見ていると……どこか眩しく、その自由気ままな生き方に、「夢を見る」という事を教わった気がした。


だから、あの日。初夏のカラッとしたあの日。



「何の……話をしてるの?」



こんな言葉だっただろうか。2人に、話しかけたのだった。


何かを語り合っているように見えた2人のは、ゲームやら嫌いな教師の話をして盛り上がっている他の同級生に比べ、よっぽど大人びたものに聞こえた。


突然のコンタクトに、一瞬。戸惑ったようなそぶりを見せた少年たちだったが、



「そうだ!この子に聞いてみようぜ!」



などと、逆に話に取り込まれた。



「あの木……桜って言うらしいんだけど、ホントは花が咲くらしいんだ。知ってた?」


「……えっ?知らなかった……」



桜の木は、これまで何度も見る機会があった。しかし、本で見たような満開の花は、見たことがなかった。


何のことやらと、疑問符をお返しする。



「な?やっぱりそうだって。咲くわけナイナイ!」


  

反応に困っている綾音の顔を見て、黒髪の少年が対面する少年へ、はぁ……と首を傾げる。



「まあ……確かにそう思ってる人は多いだろうけど」



そう、諭すように話し始める、茶髪の少年。



「今はもちろん咲かないんだけど……大戦の前、変異する前は花が咲いてたらしいんだ。しかも、種類によっては食用の実なんかもなってたらしい」


「だから……それは本で読んだってだけなんだろ?どこにも保証はないわけで」


「いつかは咲いたらいいなぁって言っただけじゃん。ムキになるなって」


「別に?なってませんけど?」



花が、咲く。


そう、茶髪の少年は言った。



「じゃあ僕の目が黒いうちに花が咲いたらアイスを……あれ?どうかしたの?」



話を聞き……黙る綾音を見て、茶髪の少年が心配そうに一言。



「……ううん。何でもないの。ただ……」


「……ただ?」



花が、咲く。


その言葉に、「未来」を感じた。とでも言っておこうか。


停滞する日々を抜け出し、前に進め。


そう、教えられた気がした。



「……綺麗な花。見れたら良いなって。そう……思っただけ」



 本の中の物語に当たり前に登場する___そんな綺麗な花が、生まれた時から何故か、この世界には存在しなかった。


その疑問を祓い、生きる中で答えを見つける。


「桜」という名の木が魅せる。大輪の桜花。


存在するのであれば、その姿を、美徳を。



この目で、「見たい」。



それが当たり前に存在する世界を



この手で、「創りたい」。



……そんな思いが、湧き上がった。


しかし……それを言葉にしてしまい、沈黙が流れている事に気付く。



「……あ、ごめんね。何でも……ないの」



すると……「彼方」、と呼ばれた方の少年が、どこか申し訳なさ無さそうな顔で口を開く。



「いや……別に謝ることじゃなくね?それに、俺もそう思ってたって言うか……なんて言うか」


「黒に同じく」


「随分と省略したなお前……」



 軽く流されると思っていた、自分の言葉。それに、思いもしなかった応えが帰ってくる。

1人だけに留まらず、2人分も。


黒と呼ばれた少年が、「俺を色で呼ぶな!」と抗議し。読んだ方の少年を、「真っ茶っ茶!真っ茶茶!」と、連呼する。



「本……当……? 変な子って……思わなかった?」



出会い頭で「変な子」認定されれば、これからの人間関係に響く。

そうなっていない事を祈りながら、ポソっと一言。


……すると、



「いやぁ……変な子、ここにいるし」


「うっせぇチョコ髪!ようやくの自己主張がそれか!」


「じゃあもっとしてあげようか?真っ黒黒助」



再び始まる、罵倒合戦。


それを、また無言で眺めているほかない。



(この2人は……そんな事……思ってない……のかな? ……いや、思ってない……。そんな、小さな次元じゃない)



目の前で繰り広げられる、ボキャブラリーに富んだ蔑み合い。

それからは、過去見てきたような___非情極まりないものとはかけ離れた、どこか暖かみのあるものだった。



「あ、まだ名前聞いてなかったね。君、同じクラスだよね?」


「どっかの誰かさんが突っかかってくるから……ねぇ?(チラり)」


「で、教えて貰ってもいいかな?」


「無視すんな!」



非常にシュールなこと運びだが、応える。



「……私の名前は、綾音。……湖富ことみ綾音あやね。宜しく。……ホントに、面白いわね。2人の会話」


「会話になってるか怪しいけどね。彼方、頭悪いし」


「ほぼ初対面の人の前で俺をdisり続けるな!」



ニヤニヤしながら友人を嘲笑する少年と、それに落胆したのか机にダラリと突っ伏す少年。


少しの間を置き。2人が名乗る。



「僕は、幸坂こうさか逢里あいり。よろしく。それでこの黒いヤツが……」


「名前ぐらい言わせろって……。俺は、佐倉さくら彼方かなた、宜しくな」


「……うん!」



_______________。






記憶がここまでであるならば、ほのぼのとした__出会いの物語。


そう、銘打つ事も出来たであろう。



しかし____





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





意識が、現実へと引き戻される。


まるで……記憶自体が、蘇るのを拒絶するかのようなタイミング。



(あれから……色んな事……あったなぁ……)



その先の記憶は、思い出さない方がいい。


そう、自分に言い聞かせる。



「すぴー。すぴー。」



ふと、隣の席に目をやる。


そこでは相変わらず黒髪の少年が寝息を立てている。


その姿を見ていると、あの時と同じ。暖かなものが、じわりと心に湧いてくる。



「まだ……夢は、見続けられてるのかな……」



思わず、そんな事を口ずさむ。


寝ている彼方に届いたのかは分からないが、その代わり、奥に座る少年がこちらを向いて言う。


 

「夢って言葉が出てるうちは、大丈夫なんじゃない?」


「……そう……かな?」


「そうだと思うよ。……夢とか、希望とか。見てない人は居ないんじゃないかな。僕だって、まだ覚えてるんだし」


「……うん」



頷き、寝息を立てるその背中に目をやる。



「彼方は……悩みとか、あるのかな?」


「無いように見えて、結構考え事してるんだよね。彼方は。まぁ……大概がアイスの事だけど」


「はは……」


「すぴぃー。」



話のネタにされているとも知らず。眠りこける彼方。



(それにしても……)



静かだかなぁ……と、辺りを見渡す。


自分を含む、今この場にいる3人に配られた資料。


そこにあった、【特殊指令】の文字。


それと共に、特殊指令の内容を説明するから再集合しろ! という文面も記載されており、3人でこれからの動きを話し合い、朝会が終わったのち集合するように手はずを整えた。


しかし……。


珍しく男性陣が遅刻しないと思いきや、来てみるといつまで経っても教師の1人も現れない。



「もうここに来て1時間以上経ってるわよね?」


「だね。小説2冊読み終わった」


「相変わらず速いわね……」



逢里の隠れ速読スキルはさておき、これからどうしたものか。


取り敢えず……この茶髪少年と語り合うぐらいしか、もうやる事が無い。



(こんな事なら……ワークの数冊も持ってくるんだったなぁ……)



特に成績に不安がある訳では無いが、留年という崖を淵スレスレで歩く彼方に、何かしら教えてやるくらいの事は出来たであろう。


1度部屋に戻った時に取るチャンスはあったはずだが、易々とそれを逃してしまった訳だ。



「すぴぃー。」


「…………」



隣で馬鹿みたいに眠るその黒髪に、無性に八つ当たり……いや、ここは「イタズラ」、という事にしておこう。


とにかく、(悪戯)それがしたくなった。



「それにしても……」



ぐに。


脇腹をつまむ。



「よく、こんなに寝てられるわよね。目が腐らないのかしら」


「まあ……原因は、大体分かるけどね」



3冊目に手をかけ始めた逢里が応える。


どうやら彼の目と耳は各々制御系が違うらしく、読書に集中しているように見えても、滞りなくこちらの話を聞いている。



「あれは凄かったね。一騎当千、孤軍奮闘! って感じで」

 

「普段から勉強しとけばいいのに……まったく……」



そう言いながらも、眠る彼方への攻撃を、「つまむ」という技から、「つつく」という技にシフトチェンジしながら続ける。


彼方がここまで眠りこけているには、昨日行われた……身体技能試験が深く関係している。


本来、1人辺り3種目の競技に参加すれば良いのだが、それでは点数が足りない! と、全種目出場するという…………



「凄かったけど……馬鹿よね……」


「はは。同感」



半ば自暴自棄になったかのような活動量だったが、それでも終始エース張りの活躍をした彼方。

知力では底辺にも等しいが、体力面で右に出るものは居ないのではないだろうか。



「文武両道って言葉、彼方には理解でないみたいだね……ふぁ」



〆に持ってこいな台詞だったが、決め際にあくびが混ざり台無しになる。



「逢里も眠そうだけど……また遅くまで読書でもしてたの?」


「まあ……そんなとこだね」



そう言いつつ、既に3割ほどを読み終えた文庫に栞を挟み、それパタリと閉じる逢里。



「流石に……寝れる時に寝といた方がいいかな。なんか……明日から、まともに寝れない気がするし」


「それで資料収集とかの屋内任務インドアなやつだったら笑いものね。全部あなたにやって貰って……私もたまには寝坊でもしようかしら」


「じゃあ彼方に全部任せて僕も寝てよっと。せいぜい頑張りたまえよ少年」


「ふふ。……ふぁ……ふむぐ!」



台無しとか言っておきながら、今度は自分が欠伸それをかました。



「あれ?綾音も寝不足?」


「う……別に……」



 室温の高さと、異性にあくびの擬音を聞き取られたことで顔が熱くなるのを感じながら、現在の状況になった経緯を思い出す。



「ごっ、ごほん! それはそうと……待機って、一体いつまでなのかしらねー」



 思い出した経緯それで、痴態を覆い隠すように質問を作る。



「うーん。この学校、時間にルーズな教師が多いからね。想像の範疇には収まらない……。……じゃあ、僕は寝ることにするから宜しくね。彼方と同類になるのは癪だけど……good night……てまだ昼前か」



自問自答を子守唄に、彼方と同じく机に突っ伏し、臨戦体制ならぬ臨睡りんすい体制を整える逢里。



「ちょっと!あなたが寝たら話し相手が居なくなるじゃない!」


「夢でまた会えるさぁ……」



さらりと文句を残し、生存者が1人脱落する。



「もう……」



しかし。


誰しも、睡魔には抗えないものだ。口を開かなくなった途端、猛烈な睡魔が綾音を襲う。



「はぁ……」


(たまには昼寝もいいかな……)



だが、そこは女性らしく机には突っ伏さない。


壁際に座ったことが幸いし、そこに身を預ける形で瞳を閉じる。



(そう言えば……初夢見てないなぁ……)



意識が薄れ始める。この際、死にそうな訳では無いが。



(…………おやすみなさい)



誰に言ったわけでもなく、挨拶をする。



そして_____




ギギギギギギギ!!!




謎の轟音によって、わずか数秒の 「お昼寝」 が終了した。



……文字通りの、強制終了であった。





coming soon……


お読み頂きありがとうございました。

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