表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第ニ章:世界と、セカイと、せかいと
53/67

47話:風の正体

 


『ぐっ·····! この·····歪みはっ·····!?』



  世界を繋ぐ銀鏡に映る影が、突如として波打つように乱れる。

  同時に巻き起こった激しい揺れが狭間を揺れ動かし、青かった空に亀裂が走る。



『·····これは·····あの時と同じ·····!? まさかっ―――――』




  次元·····変動·····!




  そう、言葉にならないコトバで呟いたウルドは―――――



『···············』



  ただ静かに、眉を顰めるのであった―――――






 **********






「あとは·····任せて。コイツをやるのは、僕らの仕事だから」


「·····!」



  そう呟いた少年の背が、重力に引かれてぐらりと傾く。


  ·····否。引かれていたのは、少年(芽愛)の方だった。



「芽愛ッ!?」


「芽愛ちゃん!!」



  糸が切れたように倒れ込む少年に、2人の少女が手を差し伸べようと動き出す。しかし、恐怖に萎縮した手脚は彼女たちの意に反し、動作がワンテンポ遅れる。

  だが―――――



「·····大丈夫。·····ゆっくり、休んでいてね」


「··········?」



  その身体が大地にぶつかる瞬間、背後から伸ばされた暖かな腕が芽愛を受け止る。



「あ·····綾音·····さん·····?」


「お姉ちゃぁぁ〰️ん!!!」


「えぇっ·····? ちょっ·····!?」



  芽愛を抱きとめた姫乃の視線の先で、結はやってきた綾音の胸に顔をうずめる。



『――――――ッッッ!!!』



  その時、思いのままに攻撃できない憤りが頂点に達したルプスが、怒りの咆哮と共に逢里へと肉薄する。



「少しだけ待っててね。すぐ、終わらせるから―――――」


「あっ·····あのっ!!」



  結の背中から回していた手をゆっくりと離し。

  鞘を取り払った薙刀を握り締め逢里の元へ駆け出そうとした綾音を、姫乃が呼び止める。

  そして、長い髪で優美な曲線を描き振り向いた少女―――――綾音に、縋るような声音で言った。



「お兄ちゃん··········お兄ちゃん達がっ··········!!」


「··········」



  その声に少しだけ言葉を詰まらせた綾音はだったが、僅かな沈黙の後―――彼女は2人の少女の頬に優しく触れると、どこか遠いところを見るような瞳で、こう言ったのだった。



「彼方たちは大丈夫。·····だって向こうには、私たちよりもずっと強い·····あの人たちが言っているはずだから」






 ***********





「クソっ!クソっ·····! くっそぉぉおおおッッッ!!!」


『――――――――ッッッッッッッ!!!!!』



  狭く入り組んだ木々の間を、縫うようにして走り抜ける黒髪の少年。


  ―――そして、その少年の背を追い、通る場所全ての木々を薙ぎ倒しながら進む巨大な獣。



「·····ッッ!!」



  無差別かつ無慈悲な、絶対的な殺意。

  荒れ狂う嵐のように襲いくる大熊の攻撃を、彼方は瞬時に方向と手段を決めて掻い潜る。



(何か·····攻撃の糸口は·····ッ!)



  この異進種と自分とでは、”個”の力が違い過ぎる。回避だけならまだしも、防御は重量差から良策では無く、かと言って防御が出来なければ、反撃の一手を講じる隙を作ることさえままならない。

  改めて”神道芽衣”と言う人物が持っていた戦闘力が如何程のものだったのか、思い知らされる。



(コイツの相手をしながら·····ッ! 戦線の組み立てを考えてたってんだから·····)



  相手にしたくない子だ·····と心の中で思いつつ、回避した体勢の視野の中に、横凪に倒れたままの少女の姿を捉える。



「あいつなら··········こう·····! する·····っ!!!」



  そう小さく口にした言葉を、彼方は瞬時に体で体現する。

  背後に迫った大木を気配で確認し、思いっきり体をよじる。



「·····ッ!」



  そして、身を掠めて背後に消えた丸太のような大熊の腕は木の幹に半ばにまでめり込み、少しの間巨躯を拘束する天然の手枷となる。



「·····これで·····少しは·····っ!」



  地形や気候など、その時々の状況に応じた戦略。それは対人戦だけでなく、対異進種戦闘においても有効であると、改めて認識させられる。



「芽衣·····ッ!」


「··········」



  大熊の動きを見て、暫くは戦線復帰が難しいと判断した彼方は、全力疾走で少女の元へと走り寄る。



「··········っ!!芽衣、大丈夫か!? 芽衣ッ!」



  呼びかけに答えることも無く、それでいて身動き一つしない彼女の口元には、紅い跡がついている。

  内蔵のどこからかの出血―――――紛れもなく血液であるそれを目にし尚のこと焦燥する彼方だったが、肩を叩こうとその身に手を伸ばした瞬間、不意にその口が動き出す。



「·····触ら·····ないで·····下さいますか··········?」


「うぉあっ!?」


「···············」



  ゆっくりと瞼をあけた芽衣は、唐突に話し出した自分―――――死んだ者、という概念を押し付けられたことに僅かな憤りを混じえた表情で、小さく咳き込んだ。







  to be continued·····


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ