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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第ニ章:世界と、セカイと、せかいと
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35話:再び


運命の糸は、人々をもうひとつの世界へと誘い。


出会いと、別れ。


分かれ道の狭間へと、時は流れ____

 

  虚無が広がる、宿舎があったはずの空間の先。

  それはまるで、この世のものが放つものでは無いような咆哮を轟かせ、その巨躯を持って大地を揺れ動かしながら、ゆっくり、ゆっくりと姫乃たちへと接近する。



「2人とも下がって下さいっ! あいつは並の異進種とは…!」



  ”異進種”という存在を目にするのは、これで二度目。

  そんな姫乃にも、その存在が放つ異様な気、そして世界そのものがまるで異なるという違和感。

  なにより、いつも温厚で物腰柔らかな芽愛が声を荒らげ、自分の後ろへ庇うよう手で制す姿を見て。その異進種がどんなモノで、どんな脅威を持つものなのか、容易に想像出来た。



「茂みの中へ…! 絶対に出てこないで下さい!」


「でも…」


「いいから!早くっ!」


「っ……!」



  身近にあった木の影に2人が移動したことを確認しつつも、芽愛は焦燥を滲ませながら、接近する巨大な獣へと鋭い視線を向ける。


(建物はどこへ消えたんだ…? ものの数十分でこんなにも景観が変わるのはおかしい… それに…あの異進種の大きさは……!)



『アァァァァァァァァア_______!!!』


「…あまり大きな声で鳴かないでよ。…お嬢様が、怖がるだろ?」



  両手の拳銃を静かに構えながら、姿をはっきりと視認できるまでに近付いてきた異進種目掛け、小さく呟く。



「何がなにやらさっぱりだけど…これだけは言えるね」



(帰ったら、ねーちゃんに絶対叱られるなぁ…)



  帰れたら、の話だけどね…と、自分の置かれた状態に苦笑いを浮かべながら。



「まずは…先制攻撃。コレは定石だよね」



  射程圏内に入った異進種へ向け、左右で僅かな差をつけ、引き金を引く。



「……」



  排出された薬莢が地に着く音を聞き、僅かに確かに命中したはずの異進種の姿を確認し___



「あちゃー…やっぱり効かないか…」



  人であれば、まず大腿に弾を受けた時点で歩行不能、そして動脈からの失血により死亡する。…まあ、ごく稀にそのまま追っかけてくる強面の人もいる訳だが__


  (…手持ちに対異進種用の武器でもあればだけど。生憎と…ね)


  勝てない相手との戦闘、自分にとってメリットにならない戦闘を避けるのも、また定石である。

  そんな思考の果て。静かに後退りながら、もう一度、発砲。



「…喉が抜けないなんて。…化け物だね」



  これ以上は弾の無駄でしかないな…と割り切り、茂みに片足が入った瞬間、急ぎ姫乃と結が隠れる茂みへと向かう。

  それを追うべく接近してくる異進種に、



「はい、お年玉」



  芽愛は、後ろ手にあるモノを転がし。

  数秒前まで自身が立っていた、森林と虚無の空間との境界線地帯に、爆炎が轟く。


(流石に少しは堪えるでしょ…いや、堪えてくれないとこまるけど)



  …が、その瞬間。



「きゃあっ!」


「うわわぁっ!?」


「__っ!!」



  姫乃と結が身を隠している木陰から、2人の悲鳴が聞こえる。


  (爆発に驚いて…? いや、その時間差でそれはおかしい。…やっぱり他にも異進種がっ…!)


  走りながらに2人を見つけ、その場所を挟むように2人に近付くルプス型の異進種を確認する。

  グルルル…と、如何にもな唸りをあげる異進種目掛け、射線を僅かにずらしながら後脚を狙い撃つ。



  「だーかーら! お嬢様を怖がらせるなっての!」



  音に気を引かれ、僅かに反応が遅れた異進種の脚が根元から吹き飛び、その血潮を僅かに頬に受けながら、守るべき人の元へと芽愛は降り立つ。さらにそのまま弱った異進種の脳天を撃ち抜き、もう一匹の方も有無を言わせぬ射撃で絶命させる。



「…ご無事ですか? お2人とも」


「は…はい… ありがとう…ございます」


「うん…大丈夫」



  芽愛の言葉に、目の前で行われた殺戮に動揺しつつも、それを上回る危機を脱した安堵感に緊張を緩ませながら、2人は答える。



「…この場所も危険です。直ぐに移動しましょう」


「移動って…どこへ?」


「…分かりません。人工物がある所まで…とにかく走ります」



  心身ともに疲れ果てた様子で項垂れる姫乃に、


(とは言え…なんも手立ても無しに走り回っても、ただ消耗するだけなのは確かだ。 どうする…どうしたら…)



「…っ! 芽愛、あれは……!」


「__!!」



  そんな思考すら巡らせる時間すら、彼らはくれないらしい。

  頬の汚れを袖で拭いながら見やった先には、新手の異進種たち。音と血の匂いに引かれ、やって来たのだろう。



「行きましょう。お二人は必ず元の世界に返して見せますから」


「…その時は、貴方も一緒ですよ。芽愛」



  傍に蟠る異進種の死体を横目に、木々の間を縫い獣道を走り抜ける。相変わらず辺りからは視線と物音がついてくるが、それを気にして立ち止まろうものなら、再び集まった異進種達の驚異に晒されるのは分かりきっている。

  だから、走る。

  走って、走って、ひたすら逃げる。



「……!」



  そして、”あの感覚”を体験した場所を通り越し、元の世界では北へと続いていた道へと入ったところで、芽愛がそれに気付く。


(道の両脇が木組みになってる…人工物だ…!)


  息を切らしながら必死に走る少女たちに脇目を振り、その道が続くままに走る。

  そして、少し傾斜のある道をそのままに進んだ先で。



「…! あの看板っ、昨日の…!」


「昨日の…?」



  姫乃と結が、小道の脇に立つ木星の看板を目にし、口を揃えて言う。



「昨日の夜、結と星を見に来たんです。そこにあった看板にも、これと同じ__”憩いの広場”と書かれていました」


「……」



  確かにその看板の先の道には、以前の道に比べ幅の広がった林道が繋がっている。…しかし。



「広場…? にしては木が詰まっている気がしますね」


「…うーん、夜来た時は開けてたんだけどな〜…」


「……」



  ”あの感覚”の後の世界は、どうやら元の世界とは色々な条件が異なっているらしい。


  地形は恐らく同じだろうとは思うが、人工物の類い__主に建物が存在しない。それに加え、痕跡そのものはあっても、未だ”人間”の姿を見ない。



「……」



  看板を超え、広場であった場所に立つ。不可思議な世界の想像も程々に辺りの警戒をする。

  しかし。辺りの森に意識を向ければ向けるほど、先程まで嫌という程向けられていた視線や物音が遠ざかり、やがて完全にそれらは消え失せる。



「もしかして__ここって本当に”憩い”の広場、だったりして…?」


「すごく…静かになりましたね」


「………」



  無音が司る空間の中で、芽愛は思う。

  __”静かさ”には、幾つかの種類があると。対照的な例を挙げるとすれば、静寂。完全な静寂。無音。

  そして、それに対する静けさは____



「不自然……だな……」



  風の音一つ、木の葉の揺れる僅かな擦り音すら無い、完全な静けさ。


  まるで、全ての生き物達が”何か”に怯え、息を潜めているかのような_____



「見られてる……さっきまでの雑魚とは違う………アあいつに……!!」



  広場の最深部___暗闇が蟠るその場所に、”それ”は居た。


  木々すら怯え、道を開けているかの様に空いた空間。

  その先に、黒檀の闇を宿した瞳を不気味に光らせながら佇む、大きな影。

  紛れもなく。先程の異進種__大熊である。


(あの爆発を耐えた…? なんて頑丈な__)


 

  絶望と苦笑が降り混ざった複雑な表情を浮かべながらも、芽愛は再び武器を取る。



「…2人は、ぼくの後ろへ」



  立ち塞がるように2人の前へ出た芽愛は、ぼくを見ろ!と言わんばかりの眼光で、異進種を睨みつける。


(射撃が効かない、爆発も効かないとなると___)



  逃げるのが最善。戦うな、逃げろ。



  頭の中で、自分を律する自分が声を上げる。



「……」



  …だが、いつもは無意識に従っている自分の声に、今は耳を借さない。深く。尚深く呼吸を整え、自分の鼓動すら意識から取り払う。


  そして、ゆっくりとその巨体を前進させる異進種に、何度目かの睨みを効かせながら。



「派手な戦闘は…好きじゃないんだけどね…」



  茂みで2人が息を潜めたのを確認し、両手の手のひらから伝わる、金属の硬質で冷たい感触だけを信じ。地を蹴る。



「___ッ!」



  対する異進種も同じく地を蹴り、木々と大地を揺るがす様な咆哮を轟かせながら、芽愛へと迫る。



「___ッ!」



  四足歩行から一転、芽愛を攻撃圏内に捉えた途端に上体を持ち上げる。芽愛の数倍はあろうかと言う巨躯をしならせ、大木のように太く強靭な前足を、僅かな弧を描くように距離を詰める芽愛の胴へ一撃を見舞うべく振り下ろされる。



「喰らうかぁぁっ__!!」



  それを軽快な動きで回避した芽愛は、接近した勢いそのままに異進種の右へと回り込み、その側面に続け様に引き金を引きまくる。



『…オオオオッ__!』



(やっぱり、頭部に当てれば少しは響く__ならっ!)


  体が大きい分、小回りが効かない大型の異進種は、複数人で面制圧しながらの戦闘がセオリー。


  残念ながら戦闘に参加出来る者は自分しかいないが、数の違いは、”手数”で補う__


  芽愛はそんな思考をすぐさま身体に反射させ、自分を追ってグルグルと巨躯を回転させる異進種を嘲笑うかのように、無慈悲に鉄の雨を見舞う。



「致命傷とまでは行かなくても、下準備ぐらいする時間は稼がさてもらうよ!」


『_______ッッ!!!』



  枕元を飛び回るハエを払うようや乱雑な攻撃を繰り出す熊を、速さで翻弄する。


  ”当たらなければ、どうと言う事は無い___”


  そんなセリフを、心の中で呟きながら。



「全部乗せ____喰らえェェッ___!」



  動きについて来られず背を向けたままの熊に、隙を見て起動させた時限式爆弾ボム__充填率をMAXに設定した”とっておき”を、一斉に投擲する。



「ッッ___!」



  瞬間、刹那に瞬いた閃光と共に、鼓膜を劈く轟音が鳴り響く。



『オオオオオッ…________』



  爆炎の中、大気を揺るがす轟音と混ざり合い、消えて行く大熊の叫び。


(…やったか…? 流石に…)

 

  芽愛の使う”神道家御用達”の爆弾は、一般的なものに改良が施されており、”爆発を起こす事”ではなく、対象となる人物、または異進種を”殺傷する事”に重きを置いて作られたもの。

  炸裂と同時に破片を撒き散らすだけではなく、細分化して鋭利になった破片一つ一つが高熱を帯び、”弾丸”と化したが対象に深いダメージを残すのだ。



「…ケホッ。…これで生きてたら、もうお手上げだね」



  厚い毛皮と強靭な肉体により、銃弾すら無効化する高い防御力も、流石にこの爆発は耐えられまい。

  そう、僅かに勝ち誇った芽愛が、踵を返そうとした時___



『ガアッ!』


「うわっ!?」



  渦巻く土埃の中__濁った視界に映ったのは、先程まで自分たちにしつこく付き纏っていた中型異進種、ルプス。



「この爆発の中から来るはずはない…! 広場の外から来たのかっ…!」



  近距離からの攻撃を受け流し、回避行動と同時にルプスの眉間に狙いを定め、撃ち抜く。…が、



「…一匹じゃない___お嬢様っ!」



  その後ろから迫るルプスの数は、一体や二体ではない。大熊は撃退したとは言え、ここまでの数を再び相手取るとなれば油断はできない。


(”アレ”を使わなくて正解だったな…)


  見える限りの異進種を撃ち殺し、姫乃と結が居るはずの茂みへと向かう。


「……」


  巨大な異進種、そして銃声や爆音。挙句の果てにはルプスの応酬。齢13の少女たちには、さぞ恐怖を刻みつけてしまったことだろう。

  …そんな状態から一秒でも早く脱却すべく、2人へと声をかけ___



「お二人とも、だいじょ___え…?」



  __ようとし、覗き込んだ茂みに2人の姿は無く。

  そこにあるのは、人では無い何かに踏まれた跡のある草花と、



「…私が来なけれは、こうなっていたのはお二人の方ですよ…?」


「え…? ねーちゃ__っ!?」



  馴染みのある声音と共に、声のした方向からは灰色の物体が飛んでくる。


  飛んできた”もの”に、殺意は感じなかった。そんな気の緩みからか、足を滑らせ避け損ない、下敷きになるように倒れる。



「これは……」



  自身にのしかかるように飛んできたそれは、心臓をひと突きにされ絶命した、ルプスの死体だった。


  無駄のない、その正確無慈悲な一撃を与えたのは、勿論__



「そろそろ、あなたの尻拭いにも飽き飽きしてきました。…いい加減、自立して下さい」


「ねーちゃん…」



  ルプスが飛んできた方向から、かさりと草木を鳴らしながら現れるのは、芽愛の双子の姉__神道芽衣。その後ろからは、芽愛の護る人でもある姫乃と、その友人である恋羽結。



「我々の任務は、異進種を倒すことでも、Skuldの為に動くことでもありません。お嬢様を護ることです。肝に銘じておきなさい」


「はい…ごめんなさい…」



  芽愛の言葉を聞き、はぁ…と小さく息を吐く芽衣。



「でも…芽愛が戦ってくれていたおかげで、私と結は怪我なくここまで来られたのです。…勿論、芽衣も」


「…当たり前です。身を呈してでも、お嬢様を御守りするのが私たちの任務ですから」



  肩よりも少し下あたりまで伸ばした金色の髪をふわりと揺らしながら、芽衣は済ました顔で告げる。



「…あ。 そう言えばねーちゃん。…この世界って__」


「…!」



  ようやく完全な形で警護される事になった姫乃と結を挟む様にして、辺りの警戒にあたる姉弟ふたり。静まり返った森の中で、芽愛の声が3人の鼓膜を震わせる。



「…少なくとも、元々私たちが居た世界とは別の世界__という認識で間違いは無いでしょう」


「やっぱりそうか。…ところで、ねーちゃんはどうやってここに?」


「先の仕事が終わり、合流しようと思った矢先、GPSの反応が消えてしまいまして。…仕方なく最後に反応があった付近を探していると、コレが落ちていました」



  すると芽衣は上着のポケットから、泥の付いたハンカチを取り出す。その隅には”HIMENO_SAKURA”の刺繍。紛れもなく、姫乃のものである。



「それは…結の泥を吹いた時の……」


「偶然とは言え、有益な判断材料になりました」



  取り出したそれを再び上着にしまい込み、芽衣は言葉を続ける。



「これを拾った後、道なりに進んでいると、これまで感じたことの無いような異様な感覚に襲われ。気が付くと、ここに」


「ねーちゃんも、帰り方とかは分からない?」


「こちらへ来て直ぐ、誰かの銃声と爆発音が聞こえてきまして。帰り道を考えている余裕はありませんでしたね」


「う……」


「帰り方が分からないのなら、調べるまでです。お二人が無事元の世界に戻れるよう、我々が……__っ!」



  背中越しに言葉を交わしていた2人の会話が、唐突に途切れる。そして__



「…早速、仕事のようですね」


「この気配__まさか…!」



  言葉は厳しくも、どこか温かみを感じさせていた声音から一変。

  森の一点へ視線を向け、緊張と警戒の織り成す冷たい声で、芽衣が言う。



「…お2人の側から離れない事。…いいですね?」


「りょーかい!」



  暗器を手に取る芽衣と、後方援護に回るべく銃を取る芽愛。そして、その2人に守られ、祈る様な気持ちで背後に立つ姫乃と結。


  4人の視線の先__


  その”絶望”は、三度姿を見せる。



「あの爆発で……そんな…!?」


「…あの熊は___」


「ねーちゃんも、資料で見たでしょ? …けど、大きさが全然違うんだよね」


「……」


「ねーちゃん?」



  押し黙る芽衣の、その50メートル程先で。


  足元の体毛を僅かに焼き焦がしながらも、全くの無傷で地を揺らす、その異進種。


  その姿を見て、芽衣は小さく。自らの耳にしか届かないような声で、呟く。




「…また、会いましたね。…今日は……今日こそは………殺して、差し上げます」




  その呟きを、聞いてか聞かずか。




『________ォォォォォォ!!!!!!』



  迫り来る大熊もまた、森を揺らす咆哮を放つのであった。








  coming soon…


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