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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
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34話:絶望の音


ある少女が”彼氏”にゲンコツを貰い、泣き笑いの様な表情をうかべながら、その”彼”の傍らに寄り添い座っている。至って、普通に。


…相変わらず、腕を抱いたままではあるが。



「…コホン。…ええと、取り敢えず落ち着いたってことで。少し情報共有の時間を取りたいと思うんですが__」


「…俺とコイツの時間を使うに相応しい情報なら、聞いて行こう」


「何様だお前」


「……」


「無視すんじゃねぇ…っ!」


「恐らく、ですが。…お二人の知りたい異進種__あの大熊の情報について。補足程度に、加えることが出来るかと」


「……」



二葉が、席から立たない。すなわちそれは”聞いていく”という意思の表れだと受け取り、司会進行を務める逢里は話を続ける。



「まず、彼方と綾音も知らない僕の秘密を一つ__」


「…誰もお前の性癖なんて知りたくねーんだけど」


「はいそこ、黙って聞く!」


「はいはい」



昼のピークタイムを抜け、空席が目立ち始めた食事処に陣取り、場が設けられた。



「……」



事の発端は、行き過ぎた行為をするなと月夜を叱りつけていた二葉。そして、その場にいた逢里の端末に、同じ人物から同時にメッセージが届いた事だった。



「昨日の夜、僕が2人と別行動__まあ、部屋が違う建物だったからその辺は同等だけど。…騒動があった時、僕は”某”髭の先生に頼まれて、別の”仕事”をしていたんだ。…それが、コレ」



逢里がポケットからUSB端子を取り出し、皆が囲む机の真ん中にトンと置く。



「…盗撮でもしてたのか、お前?」


「なんで君は僕をやましい事をしている人にしたがるわけ!?」


「いいから話進めなさいよ…」



戯れが始まるすんでのところで、適切なツッコミが入る。



「…で、これで何をしてたかって言うと! コレ!」



今度は自分の端末を見せ、有無を言わせんと文字列を指差す。



「…文字が小さい。見にくい」


「先輩…そんなおじいちゃんみたいな事言わないで下さいよ…」


「…!」



ツッコミに疲れた逢里が業を煮やしていると、そのおじいちゃんが何かに気付く。



「熊の情報でも見つけたのか?」


「……」



いつにも増して難し気な顔をする二葉に、彼方が問う。

すると、二葉は珍しく焦燥を匂わせる声音で言う。



「…やはりここ一帯は危険指定地区にされていたか。…ではなぜ、非武装の生徒が…? …いや、問題はそこではないか…」


「俺たちは戦えるぞ? ほら」



外した剣帯を指先でコンコンとつついてみせる彼方に、二葉は言葉を重ねるように言う。



「…お前の事を言っている訳ではない。…昨晩、お前の妹の姿を見た。北にあるキャンプ場でな」


「なっ…姫乃が…?」



それを聞き、目の色を変え立ち上がる彼方。



「なんで…? 何をしに…姫乃が…?」


「…恐らく野営訓練だろう。テントが幾つも張ってあった」


「今も居るのか? 姫乃は」


「…それは知らん。警戒のために通りかかっただけだからな。…だが、お前の妹は友人とキャンプを抜け出し遊び回っていたからな。無事__ではあるだろうな」


「それは…何時ぐらいだ…?」


「夜中だ。…恐らく、丑三つ時」


「……」


「…北側は居住地が近い。異進種が簡単に近寄るとは思えない。…それに、俺は一晩中北側の森にいた。いらん心配だ」


「…そうか」



一度は昂りを見せた彼方だったが、二葉の言葉を聞き腰を下ろす。



「…このエリア全体が危険指定地域に指定されていること。それと、恐らくこの情報は一部の人間にしか公にされてない。僕達が知らないってことは、他の生徒知らない可能性高い。__って言うのが、昨日僕が手に入れた情報のひとつ。あと、あの熊の情報なんだけど__」



スクロールされる画面に、異進種のFrom__つまり、どこで初めに確認されたか、が明記される欄が拡大表示される。



「この熊、初回の確認場所が東京都・エリア新宿になってるんだ。…ちょっと普通じゃ考えられないよね。この発生場所」


「…仮に、都会に入って行ったとして。…ここまで都心に入るのは…異常だな」



そもそも、大都会新宿に大型の異進種__それも後に危険指定されるような個体が発生したとして、その発生を伝える報道が一切無く。しかも発生条件が”自然発生”となっている。



「そもそも自然発生って言うのは、異進種が外から入ってくるんじゃなくて、その場で生まれたってことだよね〜? なら、発見されたビル__建物の中に、異進化前の熊さんが飼われてたってこと? 動物園でもあるの? そこ」



二葉の腕を自分の腕と絡めたまま、のんびりとした声音で月夜が言う。



「複数の商社が入った複合ビルの地下施設__としか書かれてないんですよ。…これが事実なのか、それとも記述ミスなのか。…どちらにせよ、この事例は”何か”がおかしい」



真実は、いつ何時もただひとつ。


始まるべくして始まり、なるべくして成り、終わるべくして終わる。



『…………』



そんな簡単な仕組みで流れる時の中。


”それ” は停滞する時の狭間で、人の運命を静かに見守る。



「……?」


「かなくん…? どうしたの〜?」


「あ…いや、なんか誰かに見られているような気がして…」


「…弱いもの程、自意識過剰だからな」


「すました顔でムカつく…!」



『…………』



流れる時の中__


その先の絶望を知った時、人はどんな顔で、どんな気持ちで、絶望へ向かっていくのか。


すごく、興味がある。






**********






「……」



もしもこれが漫画のひとコマで、佐倉彼方と言う人物が描写するのであれば。



「そわそわ…そわそわ…」


「…なんだよ」


「効果音つけてみた」


「やめろ、ウザイ」


「りょーかい」



先輩2人組を交えた情報交換は、結局、本当に互いが知っていることを吐露しただけの時間になった。

3人寄らば文殊の知恵なんて言葉があるが、結局、5人集まっても謎は深まるばかりで。


時間ばかり使っても埒が明かないと、中等部の3人__彼方、逢里、綾音は、任務の時間が近付いたこともあり、またいずれ場を設ける、ということで決着させた。メッセージアプリで、この5人の謎の集会場が設立されたりもしたが、取り敢えず話は付いた、という格好だ。



「もう少しで終わりなんだから、落ち着きなって」


「…そう言われてもな、もし姫乃に何かあったらって思うと、なんかこう__ムズムズする!」


「うわぁ…シスコンだ…」


「言ってろ!」



そんなやり取りの最中、準備良く設定していたらしいアラーム音が彼方の端末から鳴る。



「よし終わった! それじゃあ俺は旅に出る! 探さなくていいよ!」


「頼まれても探してあげなーい」



じゃあな〜…と手を振り、彼方は話にあったキャンプ場のある方面へとかけて行く。



「…それじゃあ、僕達はどうする?」


「私は、もう少しこの辺りを見回ってるわ。…昨日のことがあるし」


「真面目だね。そんな綾音を尻目に、僕は宿舎でお昼寝してまーす」


「最っっ高に怠惰ね」


「最高の褒め言葉ってやつ?それ」



そう笑い合う2人の別れ際、幾度目かの音が逢里__そして綾音の端末から流れる。



「健慈からだ」


「なんか最近…その音が不幸へ繋がってる気がするのよね」


「確かに」



そう言いつつ、2人はメッセージの内容を確認する。


それは__



「な……」


「えっ…!? ちょっとやめてよ!」



先んじて内容を見た逢里の反応を見て、すっかり鋭利になった綾音の精神感覚器が、その声から異常事態を感じ取る。



「これって……」


「……っ!」



それは、”健慈から”、ではなく。



「全国的に…異進種が発生…? 日本だけじゃなくて…世界中で…?」


「…既にJFの部隊が出撃済み…? そんな…こんなタイミングで…?」



健慈が担当する、鳳凰学園の生徒へ向けた連絡網。

その名義で、恐らく、全生徒へ向け発信されたものだろう。



「……」



端末を、無言でポケットにしまい込む逢里。その意図を、綾音も勘づく。



「もし彼方が、姫乃ちゃんを探して森に入ったとしたら…」


「そもそもこの辺りは危険指定区域なんだ。ここに居るだけでも危ないはず。…深い森に入るとなると___」



彼方が走り去った後を見て、逢里は



「追いかけよう。彼方を」


「…うん!」



その時の空は、まるでこの世で起こること全てを見透かしているかのように、青く__蒼く__




『………』




どこまでも、澄み渡っていた。






***************






「ひーめのん!」


「…結? どうしました?」



鳳凰祭の最終日__


昨晩、学園のアイドルたる高等部の生徒2人、天城二葉と童野月夜との偶然の出会いからおよそ半日。未だ興奮冷めやらぬ結が、キャンプ明けの点呼を終えた姫乃に、昨夜のテンションそのままで話しかける。



「出発まで折角の自由時間なんだし、森の方まで散歩に行かない?」


「え…またですか…?」


「”また”ってなに〜?”また”って〜?」



平時は10時前には就寝してしまう姫乃は、昨晩の夜更かしのせいで、寝不足気味。

いつもは一度で開く瞼が、芽衣に声をかけてもらうまで、二度も閉じてしまった。



「夜の森と昼の森、同じ森でも全然空気が違うんだよ?」


「うう……分かりました。…その代わり、帰りのバスのトランプはお休みさせてくださいね」


「え〜? 仕方ないな〜」



あの2人に会ってから、ずっと結はあの調子だ。

どこか上の空で、それでいて、生きているのがすごく楽しそうで___



「何処かに行かれるのですか?」



背後からの声に振り向くと、そこには金色の髪を揺らし、歩み寄ってくる従者たちの姿が。



「少し、結と森を歩いてこようと思うのですが…」


「そうでしたか。…申し訳ありませんが、私は少しばかり席を外させて頂きます。彼方様のことで、確かめておきたい事がありまして」


「…! …そうですか、よろしくお願いします」


「勿論、芽愛は滞りなく御同行致しますので」



すると、くぁぁ…と子猫のような欠伸をしながら、芽衣の横を通り芽愛がトコトコとやってくる。



「微力ながら…ふぁ…ご一緒しますぅ…」


「まずは目を覚ましなさい」


「うぎっ!? あぃっ!頑張りましゅ!」



芽衣に足を踏みつけられた芽愛が奇怪な声で宣誓し、それを聞いた芽衣は一礼の後にその場を離れていく。



「あっ、結! 待ってください…!」



すると、既に準備万端と言わんばかりに飛び跳ねながら、散歩道へと繋がる林道の入口で待つ結を見つけ。手を振る少女の元へ、芽愛を引き連れた姫乃は小走りに走り寄るのだった。






*****






「な…なんか怖そうな顔の人……いっぱい…」


「…あの制服は…警備員の方でしょうか?」



昨晩は宿舎の北側を散策し、憩いの広場という場所で満天の星空を堪能した。

ちょうどテントに戻った少しあとぐらいから降り始めた雨のせいで足元が悪いが、そのタイミングを考えても、あの空を見れたのはすごく運が良かったのだと感じる。



「…でも、なんでこんなに物々しいの…? なんかフェンスがあるよ…?」


「あぁ……そう言えば、昨日の夜に異進種が出た見たいですよ、お嬢様」


「それで、警備の方が多いですね」



10歩あるけばエンカウントするような密度で警備員がひしめく光景を、昨晩、二葉と月夜から隠れたのと同じような低木に身を潜め、見つめる。



「…芽愛、今森に入っても大丈夫なのでしょうか…?」


「異進種は北西方面に逃げたみたいです。あまり深くまで進まなければ、大丈夫だと思いますけど」



それを聞いてか聞かずか。いつの間にか木々の隙間を縫って小道へと続く獣道を見つけたらしい結が、姫乃を手招きする。

規制線の張られた場所から、少し戻った東側の細道。そこから森へと入ると、昨晩通ったような整えられた散歩道へと抜け。これまた先んじて道へと飛び出した結が、年相応と無邪気な足取りではしゃぐ。



「さあ大冒険の始まり始まり〜!」


「…! 酷くぬかるんでますね…こんな所で走るのだけは…って結!?」


「森の中からなら、あの立ち入り禁止ゾーンの向こう側に出れるかもしれないよ!」


「あっ…! 言った側から…もう!」


緩やかな弧を描き、100メートルほど駆け抜けていく結。

芽愛と共に小走りで追いかけるが、ペシャッという水音の後、再び見つけた時結の姿は見るも無残なものに変わっていた。



「もう…結ったら一体どこまで……って結っ!? 大丈夫ですか…?」


「えへへ…地面が柔らかかったから怪我はしてないよ…」


「傷の代わりに泥が付けられてますよ…」



体中を泥だらけにして、真っ白の歯だけを白いままに、結は笑ってみせる。



「…くすっ」



そして、立ち上がった結を見て。姫乃と、その後ろで立つ芽愛までが頬を緩ませる。



「えっ? 私のカッコ、そんなに面白い?」


「結が倒れた跡がっ…綺麗な…人型になっていて……」


「…あ、ホントだっ!ぷっ!変なの!」



姫乃に助け起こした結も、自らが生み出した跡をみて、3人で揃って暫く笑い合う。



「偶然が生んだ産物__ですね」


「ひめのんがこんなに笑ってるところ、初めて見たな…」


「…!」


「今年はいい事あるよっ。…きっと!」


「そうですね…。そうなるように、頑張りましょう」



…と言っても、流石にこんなにドロドロになっては、森林の散歩などままならない。

始めは複雑な表情を作っていた結も、芽愛も含めた2人の説得により、一度バスまで戻り、出直すことに話がまとまった。



「30秒で着替えて、また探検に出発だよっ!」


「今度は走らないで下さいね…」



そして、来た道を引き返すべく、振り返る___



「___!」



__その瞬間。


下降するエレベーターに乗っているかのような浮遊感と、大気が無くなったのような圧迫感。そして___



「かっ……あぁっ___!?」


「ぐぅっ……!」


「これ…は__!?」



視界が歪み、世界が割れ。あらゆるものの存在が、霞んでいく。



「ゆっ…結っ!」



揺れ動く視界の中、互いの存在を輪郭だけでしか認識出来ないような霞を超え。



「ひめ…のん…!」



咄嗟に握り合った手の温もりだけが意識を繋ぎ、光となって世界を呑み込む____





*****






生まれて初めて、朝日を浴びたような___


自らの肺に、初めて大気を受け入れた時のような___


そんな、世界が生まれ変わるかのような感覚から解かれ。


瞼を閉じていても瞳を焼く程の光が収まるのを感じ取り、3人は目を開ける。




「今のは____うっ…」



目を開くと、そこには見知った森の風景。


しかし、大きく大気を呼吸器に入れた瞬間。腐敗した生塵芥と、饐えた古い油とが混ざりあったような__不快な臭気が鼻を突く。



「なに…この臭い…!」


「……っ!! お嬢様! あれ…」



思わず鼻を覆う姫乃に、2人を守るように立ち上がり、辺りを警戒し始めた芽愛が何かを指差し言う。



「…これ…は…?」


「あれ…? さっき私が転んだ跡……どこに行っちゃったの?」



まず目に入るのは、先程結が転び、人型の跡が残っているはずの泥道。

…しかし、そこには一直線の道が続くのみで、所々に水たまりはあれども、何かが転んでつけたような跡は存在しなかった。無論、人型など何処にもない。ないのだが…



「一体…何が起きて…? …えっ…きゃあっ!?」



立ち上がった姫乃の足元には、並び立つ少女2人がすっぽりと入るほどの大きさの凹みがあった。



「動物の…足…跡…?」


「この大きさは……まずい……」



その先端には鋭い爪痕も併せ持ち、持ち主がかなりの巨躯であることを容易に想像させる。



「……! 何か…近づいて…」



抱き合うように身を寄せ合い、怯える姫乃と結。

その後ろでホルスターから愛銃を抜き、戦闘態勢を取る芽愛の耳に、地響きのような音が拾われる。



「…お二人とも、絶対にぼくから離れないで下さいね。…間違いない、異進種がいます!」


「そんな…まだ建物からはさほど離れていないはずじゃ…!?」



そんな姫乃たちを嘲笑うかのように、辺りから気配と物音が近づく。



「さっきの変な感覚…もしかして、ここは異世界!? 私たち、異世界転生しちゃったの!?」


「…あながち、それは間違いと言いきれないかも知れませんね」



景色こそ変わらないが、先程までとの”世界”と、明らかに世界の存在感が違う。


浮ついている、あるいは違和感がある。


そんな言葉で表現しきれないほど、この世界は違っている。違いすぎている。



「…私達は…どう…なるの…?」


「ひめのん…」



握った手のひらから伝わる不安と恐怖の感情に、結は繋がれた手に込める力を僅かに強める。



「…ここがぼくたちの世界なのか。或いは…結さんの言う通り、異世界なのか。…確かめてみる価値は…ありそうですね」


「え…?」



両手の内__右手に握った拳銃をくるくると回しながらホルスターに戻した芽愛は、代わりに携帯端末をポケットから取り出し、地図を表示させる。



「…やっぱり。表示される地形は同じ__なら!」



端末をポケットに戻し、姫乃の手を取った芽愛が言う。



「元来た道を辿れば、帰れるかも知れません。行きましょう!」



手を引かれるがまま走り出す姫乃と、それに続く結。


パキリ、パキリ。


その初動を感じ取ったかのように、辺に取り巻く気配も動き出し、芽愛は歯噛みする。



(くそ…やっぱり見られてる…)



人に見られている時の感覚と、他の”何か”に見られている時の感覚は、やはり違う。


言葉で比喩たとえるのなら、そう___


見られている、では無く。



(狙われている…!)



走りながら思考を凝らし、荒くなる呼吸に合わせて肺に入り込んでくる不快な臭いのついた大気に嫌悪感を抱きながらも、その場所___

獣道に続く、木々の僅かな切れ目のある場所を目指し、駆け抜ける。



「ここだっ!…止まらないで! 走り抜けて下さい!」


「はぁっ…はあっ…!」



運動が大の苦手である姫乃に、無理を強いているこの状況。そして、



(僕がついていながらっ…! こんな事に巻き込んで…!)



どんなに悔いても悔やまれない、自分への怒りが入り交じった感情を燃やしながら。


走り、走り、走り抜けた先____



「…開けたっ!」



芽愛の声に、転ばないことだけを考え、足元に向けていた視線を上げた姫乃。そして、背後から迫る不気味な存在感に背筋を削られ続け、やっとの思いで細道を抜け、その感覚から解かれた結がその先を見つめる。


だが___



「………」



辿り着いた場所。


その空間は、”無”だった。



「…そんなっ! Skuldの施設は…皆はどこに…!?」



来る前は邪魔な程の居た警備員、そして、その人々に守られていたはずの建物すら。その場所には、存在しなかった。



「…結?」


「だめ…! ここはっ…!」



木々の並び立つ空間から一転、まるで別の空間同士を繋ぐ”狭間”のような空間。

その場から一歩進んだ結が、姫乃を押し留めるように抱き竦める。



「…なんだ…この…殺気は……」



虚無となった空間を前に二丁目の拳銃を手に取り、完全武装した芽愛も、姫乃と結を庇うように陣取る。



「………」



音も、風も。


何も無い空間の先。


不気味な静寂の中、空間から放たれる圧だけが存在感を放ち。



「何も…起きない…?」



芽愛が呟く__と、同時に。

現世に存在する、どんな生物が放つものとも異なる唸りをあげ。


霧のように霞んだ”空白”の先___



ユラリ。



そんな比喩が似合う、怠慢な動作で。それは姿を現す。



「…アイツ…は……!」



芽愛の瞳に映る、その姿。


それは____




『グオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッ____________!!!!!』




情報収集の最中。あるページで見つけた、大量殺人の申し子__危険指定種のそれと、全くの同一であった。



(そんな…バカな…! 資料と…全然違うじゃないか…!)



自らの後ろで、声にならない悲鳴をあげる少女たち。

その悲愴な視線と、ある”一部”の情報が全く異なる、異進種からの眼光。



「くそ……」



板挟みの重圧と、自らに課した責任の重み。


そんな、小さな人間の思いを、まるで気にすること無く。



静かな森に。重厚な咆哮が、今一度響き渡った。







coming soon…


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