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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
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24話:もうひとつの物語

彼方の残した、「知っている」という言葉は、一体何を示しているのか__?


そして物語は、もう一人の佐倉へ__



かつて "青い星、地球" などとと呼ばれたこの星は、もはやその名残すら残っていない。土地の9割が焦土と化した国。国民が離れ、国そのものがゴーストタウンとなった国。さらには、一見自然豊かに見えるものの、"負の遺産" により汚染され、人が住める環境ではなくなってしまった国、など。

 その姿は、見るも無残に変わり果ててしまった。


…そんな非情な世界を眺め、男はポツリと呟く。



『…歴史は繰り返す、繰り返される。私の、この手によって』



男は不敵に微笑みうつつから目を離すと、足早に、その場を後にした。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






 大戦時の戦火によって、地図から消えた都市は数知れない。その名前を書き連ねるだけで、数冊の本ができるほどだ。読んで時の如く、それが都市規模でも国家規模でもなく、世界規模、地球という惑星全域を巻き込み起こった "大戦" であると、暗黙の了解を敷いている。

 もちろんその中で、"防衛"に重きを置いたが故、戦火を免れた都市もいくつかあった。各大陸に数か所ずつ、戦を嫌った一般人たちが身を寄せ合い、来るべき終戦の日へ向け、復興のための力を蓄えていた。

 日本にも、大陸に在ったような規模でこそないものの、同じような都市が存在した。……しかし、その場所の存在は、後に世界七不思議ともいわれる"謎"を生むこととなる。


通称__"ステイ・タウン"


 大戦の戦火により、尊い多くの命が奪われ、各地が荒廃し焦土と化していた中。終戦後、戦前とさしも変わらぬ姿を留めていた、とある都市の事である。



「その都市が、東は東京、西が滋賀というわけだ。この2つの都市を中心として、戦後の日本は復興してきたんだ。……よし、ここまでで何か質問のある人はいる?」



 まだ二十代であろう男性教諭が、1つページをめくりながら言う。特になし、と言わんばかりの静かな雰囲気を感じ取ったのか、再び彼の口が開く。



「……それじゃあ次に進もう。東西に1箇所ずつ、不可思議な要所が出来たのには、いくつか説があるんだけれど、まずは一つ目。この2つの都市には名のある神様が祀られていて、その神様の力によって都市が守られた、っていう説」



 その仮説を聞いた途端、辺りのクラスメイト達がざわつき始める。しかし、その喧噪を予測していたかのように、かの男性教諭が語り始める。



「……けど、この説はあまりにも証拠がなさすぎる」



 思わず聞き入ってしまうような語りに、ざわめきから一遍、教室には静寂が訪れ、誰しもが彼の言葉に耳を傾け、



「…そして、二つ目。世間一般では、この説が有力視されているね」



 彼のために創られたのでは、と思うほどに似合う眼鏡を片手間に掛け直し、一瞬の間の後に彼は言った。



「なぜ、長年の戦火を耐えうる拠点が出来上がったのか。それも、二つ。 ……それは、いま日本の政権を握っていると言っても過言ではない__君たちの通う"鳳凰学園"の直系上位組織、 "Skuldスクルド" の本拠地があったからだ、という説。……ここまで、大丈夫かな?」



 重い響きのある声から若々しい声へと瞬時にシフトチェンジし、生徒たちの動向に気を配る教諭。すると、



「あ、あの…」


「ん、質問かな? いいぞ。どんどんしてくれたまえ」



 少し前に座るおさげも少女が、おどおどとした様子で口ごもる。が、しかしその様子に、待ってました!と言わんばかりに目を輝かせ対応する教諭の顔を見て緊張が解けたのか、少女はつまづきながらも話し出す。



「そ…その時代のスクルドも、今みたいにひとつになって…連携してたんでしょうか…? せ…戦時中の世の中で、離れた場所で…国をまとめるのは…効率が…悪いんじゃないかと思って………あ…あの…ご…ごめんなさい…」


「…ふむ。なかなかいい質問__え? な…なんで謝るの!?」



 質問を至って真面目な表情で聞いていた教諭だったが、途中、真面目に聞きすぎるあまり眼鏡の奥の瞳が眼光を宿し、無意識のうちに威圧を生んでしまう。



「僕は何も怒っていないから! 安心して!? ね!」



 完全に委縮してしまった少女に、慌てて弁解する教諭。前列の男子が笑い、それにつられるように輪が広がり、教室を柔らかな雰囲気が包み込む。

 十数秒間、そんな空気が流れた後、眼鏡を掛け直した男性教諭は咳払いをして続ける。



「すまない、さっきの質問に答えよう。…と言っても、これはノートには書かなくていいぞ。…きっと、試験にも出ないだろうし。どこか…そうだな、心の片隅にでも置いておいてくれ」



 そして、瞬きと同時に息を浅く吸い込み、



Skuldスクルドという組織は、22世紀の中頃、科学者たちが自分たちの発明や研究を行うため、独自の施設と概念をもって立ち上げた組織だった。けれど……一つにまとまっていた彼らを、戦争は…引き裂いてしまった。スクルドの研究者たちは、自分たちの研究を戦争終結のために使うべきなのか、それとも使うべきではないのか。その二つに分かれて争い。…そして、大戦末期。彼らは二つに分かれ、東と西、それぞれの勢力を持つことになったんだ」


「…えっ? それじゃあ今のスクルドというのは、そのうちの1つってことなんですか?」


「ふふ、察しがいいね。…まあ、どっちのSkuldかは…答えられないけどね」


「そ…それはどういう意味の…?」


「あ、教えられないって意味じゃなくて、僕もわからないんだ。ごめん」


「あっ、いえ…ありがとうございました」



 質問に答え切り、少女が礼と共に席に着いた瞬間、年季の入った心地の良い音色でチャイムが時を告げた。



 「おっと、もうこんな時間か。赤字で書いた箇所は重要事項だから、しっかりと覚えておいてね」



 驚いた様子の教諭はそうと言うと、手に持った教科書を音もなく閉じ、



「お疲れ様~! 時間ギリギリですまない。…あ、号令はいいよ。それじゃあまたね~!」 



 ぷらぷらと手を振りながら足早に教室を後にするその背を、名残惜しさを感じながらも見送る。



 そして__



「ふう……」



 楽しい授業だったな…と息をつきながら、50分間を振り返る。

 どうやらこの54区で行われる鳳凰祭という行事は、高等部の先輩が行う演習や中等部低学年の校外学習枠、そして新任教諭のデビューの場となっているようで、先ほどの広瀬ひろせ先生も今年になってから授業を持つことになった新任の先生らしい。けれど、授業を受けてみて改めて、経験だけが全てではないと実感することになった。鳳凰学園で受ける授業も駄目という訳ではないが、広瀬先生のそれはレベルが違った。内容の濃さもさることながら、生徒への気遣いや教養、常識に縛られすぎない柔軟さもあり、1日中受けて居たいほど、彼の授業に惚れこんでしまったのだ。

 


「新任の先生って、うちの学園で授業持つこと出来ないのかなあ…」



 そんな姫乃・・の、心に収まりきらない心の声が吐露される中、



「ひぃぃぃめのおぉぉぉん!!!」



 いつも通りの、無邪気極まりない声に振り向かされる。



「ゆ…結? どうしたの?」


「姫乃隊員、任務である!」


「えっ?えっ?」



 結が唐突に話をめるのは日常茶飯事だが、そのあまりの時限差異に戸惑う。



「次の演習見学、一番前の席を確保するのだっ!! さあ、早くっ!」


「えっ? ちょっと待って、まだ準備が……」



我先にと姫乃の袖をグイグイと引き、駆け出そうとする結を何とか押しとどめ、授業モード全開の机を片付ける。半分程まですり減った愛着のある消しゴムをしまったところで、



「うーーー、ひめのんっ! 速くしないとファンに取られちゃうよ! 急いでっ!」


「そんなに急がなくても…ファンって一体誰の…?」


「生で見れる機会なんて滅多にないんだから! 早く早くっ!」


 

 どちらかと言うと運動は苦手な方である姫乃にとって、体育祭や実技競技祭は珍しく気の引ける類に入る。結に付き合ってもらい、何とか運動嫌いを克服しようともしているが、彼女の基礎体力の高さもあり全くついていけず、結局トレーニングとして効果が出る前にダウンしてしまうのだ。

…と、参加するわけではないのだからそこまで気に病むこともないのだが、それをどこかで兄と比べている自分もいるわけで___



「準備できた? よし、GO_GO_!」


「あっ…あんまり早く走らないでぇ~!」 



 見学する演習のプログラムの載ったしおりを手に取り、結へと振り向いた__その瞬間。待ってましたと言わんばかりに手を取り、教室の机を縫うようにして走り出す結。それにひぃひぃ言いながら連れまわされるが、体勢を整え、ようやく前を見据えられるようになる。



「会場まで走って行っても良いかな? うるさいセンセーもいないことだしっ!」


「ふぇぇぇ~!」



 有無を言わせぬ結の猪突猛進だったが、その快進撃は予期せぬ出来事をもって……いや、ある程度予測できたかもしれないが、終わりを迎えることになる。

 姫乃の悲鳴を”悲痛”とするならば、結のそれは”断末魔”であろうか。



「ぐええっ!」


「えっ?」


  

 前を行きかうクラスメイトが居なくなった瞬間、行く先の扉がスーっと閉じ始め、勢い余った結はゴッ! という鈍い音を立て顔からぶつかり、そのまま倒れ伏す。ついでに、急停車した前の車に反応できず、後続車である姫乃も、結の後頭部におでこをぶつける。



「もぉ…そんなに走るからって…! ちょっと結! 大丈夫!?」


 

おでこをさすりながら顔を上げた姫乃の問いに、



「ひ…ひめのん……」


「ゆ…結…?」



 仰向けに倒れたまま、結は腕をゆっくり掲げると、



「わ…わしを置いて、先に行くのだ…」



額を真っ赤に腫らし、鼻からは赤い糸を引きながら結言ゆいごんを残す。それに、



「そんな……! あなたを置いて行くなんて、私にはできません!」


「馬鹿を言え、このケガでは足を引っ張ってしまう…」


「だめですっ! 私と一緒に___」



 相変わらず自分の世界を行く結の目から何かを感じた姫乃が話を紡ぎ、感動の寸劇が巻き起ころうとする。しかし、



「…私と一緒に、保健室に行きましょう」


「およ…?」



 突如真顔に戻った姫乃が、鼻を押さえながら立ち上がった結の腕をつかむ。想像していた返しと違うものだったのか、目を丸くする結に、



「さあ、行きましょう」


「えっ?」



 今度は姫乃が、無言の圧をもって結の手を引いて行く。その目的地は、もちろん__



「あの…ひめのん? 早くスタジアムにいかないと…席が…」


「何言ってるの、そんなに血だらけで行けないでしょ?」


「でもでもっ……!」



 必死に抵抗する結だが……そのさらに上を行く姫乃の圧により、無事保健室へと、送り届けられるのであった。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







居住区エリア第54区、関東大演習場。現存する中では日本最大の競技場で、主競技場の中に”東京ドーム”という、かつて存在した建造物が1ダースも収まってしまうほどの巨大施設だ。

 その中でいま姫乃がいるのは、毎年この時期に行われている”鳳凰学園高等部演習会”のメインフィールドの客席、その最前列である。



『B組第5、第6小隊! 各個散開し、敵左舷を潰せぇっ!』


『A組第3中隊、前へ! 敵部隊の進行を許すなッ!』



 隊列を成した高等部の生徒達は指揮官役を務める教師からの指令を受け、縦横無尽に競技場を走り回る。現在行われている演目は、模擬集団戦リミテッドウォーと呼ばれるクラス対抗の模擬戦闘訓練だ。”模擬”と付くだけあり、使用されるのはもちろん模造刀などの殺傷力の低い武器だが、それでも毎年、何人かの怪我人が出るらしい。



「やっぱり迫力が違うなぁ~! さっすが高等部!って感じだね」


「そうだね。…私たちも高校生になったら、あんなことするのかな…?」



 フィールドで繰り広げられている、重量級の生徒の突撃を複数人で押し返そうと奮戦する高等部の生徒たちの姿を見て、姫乃が遠い目でつぶやく。…が、手すりから身を乗り出さんばかりの勢いで試合展開にのめり込んでしまっている結には、姫乃の声はまるで届いていないらしい。



「結…盛り上がるのはいいけど、あんまりはしゃいでそこから落っこちないでね?」


「大丈夫だって~! 心配性だなぁ、ひめのんは~」



 それを聞いた姫乃は、結のおでこに張られた絆創膏をじぃーと見つめ、



「前例があるから言ってるんだけど?」


「あ…あはは……気を付けます…」



 ドキッとした表情で、先ほどの交通事故がよっぽど効いたのか、おとなしく席に着く結。それとほぼ同時に、試合を行っていた高等部1練生の勝負がつき、歓声や怒号が一同に静まり返る。先ほどの巨漢生徒が、大将__つまり担任の教師を指揮官席から突き落とし、乱戦を制したようだった。



「あんなに体がでっかいのに足速いなんて、すごいね~」


「向かってこられたら怖いけど、見ている分には爽快だね」



 そんな会話をしながら、来る途中で買った炭酸飲料で喉を潤した結は、今度はゴソゴソと鞄をあさり始める。そしてしばらくそうしたあと、そうかっ!と手をうち、



「な…何…?」



 不敵な笑みを浮かべながら、奇妙な声に困惑する姫乃に問いかける。



「ひめのん、例の巻物__秘伝の書は持っておるか?」


「…は?」


「そうか…。失くしたとあらば仕方ない。その身をもって、償ってもらおうかっ!」



 思わず聞き返した姫乃に、結は目を輝かせながらわきわきと指を動かしながら接近してくる。

 しかし、目的は”アレ”だ、と早々と予見した姫乃の手が咄嗟に動き、眼前まで迫った結の額を的確に打ち抜く。

 


「……えい」


「うにゃあっ!」



 それを受け結は、猫めいた悲鳴を上げ、おでこを押さえながら悶絶する。…これは完全に、クリティカルヒットしたみたいだ。



「うぅぅ…痛いよ…ひめのん…」


「だって、痛くしたもん」


「うぅぅ…」



 抱きつこうとした体勢のまま倒れこんできたため、結に必然的に膝枕をするような形になった姫乃だが、無念の唸りを上げるお触り常習犯の頭を撫でてあげながら、問いかける。



「それで、秘伝の巻物っていうのは?」


「…うにゅ?」



 膝上でリラックスし始めようとしていた結を起こす。すると、



「えぇっとね、演習の試合順が載ってるやつ。……あ、しおり!」


「…なんでその三文字が、結っていうフィルターを通すと分からなくなるんだろう……」


「時代が私に追い付いていないのかも?」



 その自信はどこから…?という疑問を飲み込み、姫乃は自らの鞄を探り、中からしおりの入ったクリアファイルを取り出す。



「ていうか…結、自分のはどうしちゃったの?」


「家出しちゃったみたい」


「…失くしたのね。まだ貰ってからそんなに時間経ってないのに…」


「そ、こ、で! ひめのんのターンなわけだよ~!」


「まったく…」



校外学習と言うと、大自然などの都会ではあまり見られないものを観に行く ”遠足” であったり、日頃目にするものが作られる工程を見学する ”社会科見学” 又は ”工場見学” と呼ばれたりもするものが多いだろう。 事実、小等部時代には牛乳工場を見学した記憶がある。

しかしこの鳳凰学園という学校では、まず第1に学習する事の前提が、一般の学生と大きく異なる。 兄である彼方や、その友達たちのように、学年が上がれば上がるほど危険と隣り合わせの現実を、目の当たりにすることになる。

異進種、と。 そう呼ばれる存在との交わり方が、この学園に入った時点で世間一般と比べ親密になる、ということだ。



「ほらひめのん、この人だよっ!」



結の声に、ふと我に返る。彼女の指差すオレンジ色の表紙が特徴的な、薄い冊子の中頃のページ。そこには、眠そうな顔で出場者名簿に映る、とある少年の顔写真が。



「…あれ? この人、どこかで…」



(私は、この人に会ったことがある。確かあの場所で…)

と、その答えが出る前に、結が抑揚の弾んだ声で解説を始める。



「この人こそ! 去年の新入生選定試験で次々と3年生を打ち破り、高等部次席の座を勝ち取った伝説の高等1年生! 天城あましろ二葉ふたば先輩なのだっ!」



誇らしげに言い放った結と、そして__




『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァア____!!!』




それと同時に湧き上がった大歓声が、会場スタジアムを包んでいった。






coming soon…


お読み頂き、ありがとうございます。


2018-2/15 描写を追加しました、

   



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