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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
24/67

20話:疑惑


目が覚める。


安眠とは程遠い寝入りだったが、なぜか随分と体が軽くなったような気がする。



「……」



瞼を閉じたまま、深く息を吸い込む。すると医療施設特有とも言える、消毒液やそこいらの匂いが鼻を突く。


加えて、空調機器の音であろうか。グオングオンというモーター音が、寝起きの鼓膜を震わせる。



(そうか…逢里とぶつかって…そのまま…)



そう思いつつ、肌に触れる質感や意識を失う前の情景を重ね合わせ、今の状況を推測する。そして、出た結論。



(毛布…? 治療室にでも寝かされてんのか…)



そう認識すると同時に、同室で繰り広げられているらしい会話が耳へと届く。



「…脳震盪の方はともかくとして、この神経系の異常は普通じゃ考えられない。狭間の環境が人体に及ぼす影響……甘く考え過ぎていたな…」



そう呟く声は、紛れもなく健慈のもの。


あの女将が言っていた通り、やはりこの病院に居たらしい。


そうすると、綾音やぶつかったはずの逢里も近くに居るのだろうか?



「自分を責めるのはええけど…。このままあんさんが目え覚まさんとなると…あの子らに、どう説明す付けるおつもりで?」



そして続いたこの声。眠りにつく前散々振り回された、あの声である。


他でもない、若女将の声。



(…そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな)



「説明も何も、詫びるしかないだろうな…。事を隠してたのは俺のミスだ。…このままじゃ俺も割り切れねぇ」


「とにかく…あんさんが目を覚ましてくれるのを祈るしかない…ゆう事やな」



どうやら健慈は俺が倒れた事で気を揉んでしまっているらしい。


今そんなに心配するなら日頃からもっと気を配れ、という話ではあるが。



「はぁ…。死んでも死にきれねぇって…この事かね…?」


「まあ教え子が死んでもうたらそうもなりますわな…。自分の責任なら、尚更のこと…」



ただ脳震盪で教え子が倒れたにしては、若干オーバーなリアクションな気もするが…。


しかし…それを抑え、ある違和感に駆られる。



(なんで…健慈が狭間の事を…知ってんだ?)



話が、噛み合わない。


女神との会話で常時遅れをとっていた事と比べれば、よっぽど小さな事である。…が、いまいち…納得がいかない。



(………)



昨晩から数時間前にかけ、俺が身を置いていた「狭間」という空間。


それは、中で出会った女神曰く。「人の生まれる前」の空間であるらしい。


昨日、ルプスとの交戦後の事。健慈を追って森に入り道に迷った俺を路頭に迷わせたあの光景が、「タイムスリップ」であるのならば、少しは理解出来なくもない。


しかし、その光景___歪む視界と、崩れる地面。それに加えて女神との遭遇もそうだが、無論…この事実を知っているのは直接見て聞いた俺だけである。


車の中で3人には弁解したものの、真面目に取り合って貰えているかは定かではない。


健慈や、その話に同調しているであろう女将が、知る余地もない。



(まぁ…何にせよ…)



起き無いことには、何も始まらないであろう。


無気力にベットへと体重を預けていた身体に、ぐっと力を込める。


その意志に応えるように、全身が活動しようと熱を帯びるのを感じる。


起こそうと捩った身体にズシリと掛る体重は、いつしかの朝とどこか似ている気がした。



「ふぁ…」



欠伸という名の吐息を漏らすと同時に、その目を開ける。


随分と繊細にものが捉えられる気がするが、それは気にせず。先程まで声のしていた方向へと、目をやってみる。


その先では、その俺の起床に気付いた男がゆっくりとこちらへ振り向く所であった。



「…おは。ヒゲの先生」



そんな俺の目覚めの挨拶が、この男の振り向くと同時に罵倒や叱咤を込めた挨拶に変換され帰ってくる___


と、そう思っていた矢先の事。



「なっ…かっ、彼方!?」


「おっ、おう…。…どした?」



その視線がぶつかった男の目は、蔑みではない、なにかの感情によって見開かれていた。



「な…なっ…おっ、お前…なんで!?」


「な…なんだよ? んな怖い顔して…あ、また迷子になってすいませんでし…」



座っていたパイプ椅子から高速で立ち上がり、これまた恐ろしい速度でベット上で腰掛ける俺へと距離を詰めてくる。


そして、その髭の質感がハッキリと分かる距離までズイッと顔を近づけ、俺の誠心誠意込めて放った謝罪を打ち消し、こう言った。



「いっ…生きてるのか!? お前!?」


「…は?」



息を荒らげ、今にも吐血しそうな勢いで呼吸し続ける健慈。それと反して、俺は気の抜けた声を出すにとどまる。



「いや…どう見ても生きてるだろ…?」



助けを求めるように女将の方を見るが、そちらの御仁もどこか死人を見るように、揺らぐ瞳で俺を見ている。



「な…なんだよ!? 生きてちゃ悪いってか!? …そりゃあ流石に傷つく…」


「その節は間違いなくお前みたいだな…彼方…」


「だっ…だからそうだっつってんだろ? 頭…大丈夫か?」



狂ったかもしれん…と、呟きながら後退する健慈。


しかし、先程の残り火はまだ燻っているようで、



「…脳神経電磁パルスと脊椎伝搬が無くなったら人は生きてられるのか…? …いや…もしこれが夢なら…ん? そうだ! お前俺の頬をひっぱたけ! そうすりゃこの悪い夢も覚め…あれ…? 死人が生き返るってのは悪い夢か…? なら覚めなくても…」



高速で何やら詠唱している健慈へ、今度はこちら側から近づく。


そして…



「…覚めてもらわなきゃ困るんだよ。 …取り敢えず、くらいやがれっ!」



パァン!!!



精魂込めて打ち出した平手打ちが、教え子を夢の中で殺処分しようとした教師を打ち付ける。椅子から転げ落ちた当事者だったが、自分で殴ってくれと言ってたんだから、本望であろう。



「…おぉう…この痛み……そして教師を躊躇いなく打つその捻じ曲がった根性……間違いなく…佐倉…彼方…」



一言多い教師をドSな視線で睨みつけながら、



「そうだ! ようやく覚めたか…この髭面教師クソヒゲ!」



こんな捨て台詞を吐いてやる。


沈黙に伏した健慈と、それを情けない者を見る目で介抱する女将。そして今さっき目覚めた俺の佇む、この部屋。


ぐるりと辺りを見渡すが、どうやらかなりお金のかかった部屋のようだ。中には、CT__レントゲンを撮るような、巨大極まりない機材まで完備されている。



「…俺…そんな重症…? …自覚の無い病…? やばない…?」



呟いたその言葉に返事をくれたのは、未だ地に伏したままの健慈でも、それを早々と見捨てた女将でもなく。



「…彼方っ!」



勢いよく開かれた扉から顔を出した、



「え? あ…綾音?」



気を失う前にも確かに聞いた__俺がいつも心配をかけている1人であろう、長い茶髪を揺らす少女であった。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







少年と少女がふたたび相見える、その少し前の事。



「……」


「綾音」


「……」


「綾音」


「えっ?」



肩をトントンとつつかれ、ようやくその声に気付く。どうやら耳に、かなりの精神を削がれていたようだ。



「なんか…出来の悪いスパイみたいな格好だったね」



振り向いたその先で待っていた少年が、口を開く。



「し、仕方ないでしょ!? 部屋に入るなって言われてるんだから!」



入れないならば、扉の隙間から漏れ出るどんな音も聞き取ってやろう!


…と、聞き耳を立てていた先程までの状況に、当然の如く突っ込まれる。



「そんな事は良いのよ! それより彼方がまだ…」


「…とにかく、まずは落ち着きなって。はい、お茶」


「あ…うん。ありがと…」



大人しくそれを受け取り、集中し渇ききった喉へと中身を流し込む。



「で、何か聞けた?」


「…健慈が昨日言ってた、狭間って所…。私たちが思ってた以上に危険な所みたい」


「うん…いつも人一倍タフな彼方がああなると、認めざるを得ない…」



暗く、重々しい空気が流れる。


昼間行われていた会議は結局、侵入者のおかげで多々の資料を配ったところでお開きとなり、今回の任務目的であった巨大異進種が生息する地域に入ってから、直接行動指令を受けることに決まった。


…まあ終盤、彼方を警備の手から解放するため抜け出してしまったため、その概要は後から健慈に聞いたものではあるが。



「でも…あの彼方を連れ回してた女の人は何者なのかしら? 結局部屋に入れないせいで詳しく分からず仕舞いだし……当の彼方があんな状態じゃ…」


「あの人は昨日泊まった宿の女将さん、だと思うけど…」


「それは着物で何となく察しがついてたけど……なんでその人が、彼方を連れて来るわけ? そこが理解出来ないんだけど」


「うーん…」



実際の所、理解も想像も出来なかった。一旅館の女将が、彼方をここに連れてくるという名目で、尚且つ小型爆弾まで使って強行的に潜入してくる理由が。…ついでに言えば、あの女将の本当の職業も。



「少なくとも…あの人の正体だけは暴いてみせる…!」


「そんなに怒らなくても…てか誰に怒ってるの…」


「怒ってない!」



絶対怒ってるよ…という逢里の呟きを聞かなかったことにして、再び、病室から何か情報を聞き取れないかと足を向ける事にする。



「彼方…」



座っていたベンチから歩いていく途中、そんな呟きが零れる。


胸の空白、虚無。


そんな言葉で表せる事に気付いた、佐倉彼方という人間が欠けて出来る、心の穴。


…もしくは、今言葉を交わしていた幸坂逢里という人間が居なくても、この穴は出来てしまうものなのだろうか。


いつも面倒を起こし、世話の焼けるやつ。そう思っていた人間が、いざ居なくなった時に出来る、この穴。


それは、その人が帰ってきた時、しっかりと塞がれるのであろうか。


そんな毒にも薬にもならない事に、思いを馳せていた…その時。



「…えっ?」



パァン! という銃声めいた音が、目前に迫った医務室から響く。



「綾音! 今の音は…」



逢里の質問への答えにもなる言葉を、扉を開け、叫んだ。



「彼方っ!」


「…え? あ、綾音?」



いつもと何ひとつ変わらない__その拍子抜けするような驚き顔を浮かべるその姿が、そこにはあった。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







「良かった…彼方…目が覚めて…!」


「あ…あぁ。…何か心配かけたみたいで、ゴメンな」


「…ううん。無事だっだけで嬉しいから…大丈夫」



そんな心暖まる再会の儀式に、一歩遅れて参加する。



「やあ彼方。…元気そうで何よりだね」


「おっ、逢里〜。ぶつかった時の怪我…大丈夫か?」


「ははっ。さっきまでぶっ倒れてた君に心配されるようじゃ、僕もまだまだだね」


「その口振りからするに、問題ないみたいだな」



事を遡れば、小1時間ほど前。会議室から彼方を迎えに行こうと廊下を走っていたら、その本人である彼方と正面衝突した。…という訳だ。


おかげさまで右肩をしたたか打ち付けることとなったが、もう随分と痛みも取れ、調子も戻りつつある。



「ふぅ。これで、日常いつもの状態に戻ったわけね。随分おかしな状況にはなっちゃったけど…」



先程までの、焦り1色だった顔色から一変。いつもの調子に戻ったように見える綾音だったが、彼方から対面へと見るものを変え、声を極限まで低くして言う。



「それで…これはどういう状況なの?」



その冷ややかな視線が、なぜだかは知らないが床に伏せた体勢である健慈へ向け注がれる。



「…見ての通りって答えじゃ…駄目かね…?」


「挑発、と。そう受け取っても良いと?」



コキりと拳を鳴らす綾音に、露骨に狼狽える教師。



「分かった分かったって…! ったく、俺の教え子は教師を敬おうって気は無いのかね…」



体を起こしながら言う健慈に、



「されるような基質を、あなた自身が持っていないのが悪いんだと思いますけど」



そんな冷酷極まりない事実ツッコミを吐き捨てる綾音。


それに盛大なため息をついて応えた健慈は、慌ただし部屋の隅にあるソファーへと転がっていく。


そして、その巨躯をスプリングへと沈めた、その瞬間。



「はいは~い! ほんならここで全員揃ったみたいやし、言いたい事言っておいた方が良いんとちゃいますか~?」



突然、丸椅子に腰を下ろしていた着物姿の女性が声を上げる。



「いろいろと噛み合わんこともあるみたいやし。なぁお髭さん?」


「その呼び方どうにかしろ…。馬鹿にされてるようにしか聞こえねぇぞ…」


「聞こえるんやのうて、馬鹿にされとるんやで?」


「そりゃどうも…」



悪態を付きつつも、展開について行けない少年少女たちに向け、お髭さんが言う。



「まあ彼方も起きた事だ。お前たちも色々言いたいこともあるみたいだしな…」


「そうよ、腐る程あるわ。ただの派遣任務がこんなややこしくなるなんて思いもしなかったし…」



ため息が入り混じる状況の中、ただ1人。黒髪の少年が口を開く。



「じゃあ俺からお髭さんに質問。10個ぐらい」


「1個にしろクソ坊主」



チッ、と舌打ちで応えた彼方が、話し始める。



「取り敢えずさ、この場におっそろしく違和感ある人が居るじゃん? その人の詳細を教えてもらいたいんだけど…」


「…と、言いますと?」



それを聞いた自分を含む子ども三人衆の視線が、1人の女性へと向く。必然であり当たり前の事ではあるが。



「あら、わての事かいな? せやなぁ…わては一介の若女将や。あ、忘れんといてや、女将やからな!」


「まだそれ言うか!?」



彼方の的確なツッコミが刺さる。流石、日頃僕や綾音に鍛えられている事だけある。



「…頼む、ちょっと黙っててくれると有難い」


「あら。大阪人を黙らせるなんて性根が座っとるやないか」



健慈が干乾ひからびた笑顔を浮かべ、続ける。



「まあ…当然出るだろうと思ってはいたが…。…簡単に説明するなら、こいつはSkuldの構成員ってとこだ。俺の直轄の部下って訳じゃないが運良く近くに居たもんでな。力を貸してもらった」


「すると…ただの変な人ってわけじゃないのね?」


「ああ。正真正銘Skuldのメンバー、それも俺の派閥のな」


「……俺のってなんだよ」


「まあ、そこは置いとけ。…大人の話だ。…それで、このオバサンの話はもういいか? まだ他に質問はあんだろ?」


「コラ! 誰がオバハンやて!?」



後でしばいたるわ。…という物騒な言の香を残す元女将はさておき、綾音が続く質問を述べる。



「じゃあ…私からも…」


「ん、じゃあ湖富」


「その…彼方は本当に大丈夫なの? 本人的に、じゃなくて…医者の見解的な意味で」



それにビクッと肩を震わせるのは、当の本人。彼方。



「あの…さっきから気になってたけど…もしかして俺って相当重傷だった…? 手術受けたとか…?」


「んなわけねえだろ…と、言いたいところではあるがな…」



ゴクリ…と、誰もが唾液を飲み込むような緊迫感の中、話は続く。



「本来なら、手術でも治らないほどの損傷があった。お前の身体には」


「…ど、どゆ事?」


「さっきこのオバサンと話してた内容ぉっ! …少しは耳に入ってたんだろ?」


「…あぁ、寝ぼけてたけど…若干は」



途中、オバサン呼ばわりされた女将に足を踏まれた健慈だったが、何とか話を繋ぎきる。



「それじゃあまず、前提条件として聞いておくが…彼方。お前は、狭間っていう言葉を知ってるか?」



それに応える彼方は、一瞬驚いたような顔を見せたが、直ぐにこう答えた。



「…知ってるってかって…さっきまで多分そこに居たぞ? 俺」


「はぁ!?」



それにまたもや驚愕の唸りをあげる健慈。



「うーん。…そうなると話はスムーズに進む…。つまり、話をまとめるとまず幸坂とお前が廊下でぶつかり、お前は当たりどころが悪く脳震盪で倒れた。そして運び込まれた治療室でCTスキャンやその他諸々の検査をしたわけだが……」



うつむき加減で話していたその顔を上げ、続ける。



「検査の結果、気を失った理由は脳震盪だけじゃなかったんだ。…いや、強いて言うなら、脳震盪じゃなかった…」


「それが…なんだってんだよ?」



僅かな沈黙を置き、再び聞こえてきたその言葉に、耳を疑う事となる。




「…お前の全神経は、全て焼き切れたように活動をやめていた。…生命維持ギリギリのラインを下回って尚、脳波信号のやり取りをしていななかった。…していなかったんだ。…医者がなぜ生きているか分からないって、断言するほど」



「は…? じゃあ俺が生きてんのは…」


「ああ…奇跡と言っていいだろうよ。俺が驚いたのも無理はないと、思って欲しいもんだな」



息を飲んだ彼方の両肩を、綾音がガクガクと揺すり、



「…ちょっ、ちょっと! 本当に大丈夫なの!? 彼方!」


「だっ大丈夫…大丈夫なはず…だよな!?」


「えぇ? 僕に聞かれてもなぁ…」



ぐりんと振り向いた彼方に同意を求められるが、医学に心得のない自分には判断しかねる。


しかし…彼方が生きていたということが、少なからず自分や綾音、そして健慈や見ず知らずであったはずの女将にも安堵を与えている、という事には何ら変わりない。



「医学的には、植物状態の更に悪い症状…無機化と呼ぶ状態だったらしい。狭間に引きずり込まれた人間、もしくは入りかけてしまった人間が陥る__人であり、人でなくなった状態。それが、今の日本に数十人単位で存在している。…その1人にならなくて良かったぜ…」


「…急死に一生…ってやつ?」


「お、言葉の使い方があってる…死にかけて頭の回転良くなったか?」


「ちょっと馬鹿教師! 縁起でも無いこと言わないの!」


「おぉ…珍しく綾音が優しい…」



綾音の援護射撃に感動する彼方が何とか健慈の言葉の網を掻い潜った所で、話の流れに乗り、健慈へと疑惑の目を向ける。



「とまあ…彼方も無事だったわけですし。女将さんの言った通り、僕にも色々と聞きたいことがありましてね」


「えっ? 俺? …そうか、んじゃ俺が分かる範囲で答え…」



そう言葉を濁そうとする健慈を、今度はきつく締まった顔で睨みつける綾音。


その眼光に恐れ入ったのか、本人はお手上げと言わんばかりに無言で頷く。



「聞きたいことは沢山ありますが、まず…」



それに続く言葉は、場の空気に変化をもたらす。




「…今、こうして彼方が生きている理由。…それは、あの事件と…なんらかの関係があるんじゃないんですか?」




綾音の、そして彼方の顔までが、引き攣るのが分かった。恐らく、言った自分も随分と怖い顔をしているであろうが。



「…その可能性は、十分にある…と思う。何せ、狭間に指一本でも入った人間はさっき言った通り、死ぬか無機化しているかのどっちかだからな。…生きてんのは本当に奇跡だ」



その健慈の言葉を口を挟むのは、その対面のベットに腰掛ける、黒髪の少年。



「…そういや、さっきから聞いてて思ったけど…何でお前ら全員狭間って言葉を知ってんの? 不思議で不思議でしょうがないんだけど…」


「何でって…あ、お前は昨日迷子ったんだっけな」


「迷子ってか…だから俺は女神様に幽閉されてだな…」


「…め…女神様?」



それに綾音が疑念の声を出す。


自分も知らない単語に脳が汚染されかけているが、首を傾げる彼方に、健慈が何やら鞄を放る。


それを顔面でキャッチした彼方は、ふごっ! という声の後、



「…ん? なんだこれ?」


「昨日お前が居ない間に、こいつら説明したんだよ。お前の言う女神様ってのは、時間を司る神様だろ?」


「え? んな事まで知ってんの!?」



反応から質問の応えを滲み出させながら、中身を漁り始める。


絶対スパイには向かない性質の持ち主である彼方であるが、そのおかげもあり、彼の嘘はいとも簡単に看破できる。


今は、そんな事しないであろうが。



「お前はまずそれでも読んでろ。分からん漢字は湖富にでも聞いとけ」


「ちょっ…なんで私!?」


「優等生なんだから頼むぜ。もう1人の成績優秀者は質問中だからな。…そうだろ?」


「え…ああ、そうでしたね」



彼方の横槍で中断させられていたが、そうだ。


今回彼方が生存できた理由が、あの事件と関係しているのか。という案件であった。



「で、もし仮にその答えが黒だった場合…何か、言いたいことでもあるのか?」


「はい」


「即答だな…」


「今回の出来事がそれと関係があるとなると、昨日聞いた計画プロジェクトと相まって、僕たちが何かしらの思惑に嵌っているのではないか…と、考えた訳なんですが…」



それを聞き、口をへの字に曲げ頭を抱える健慈。



「…はぁ、お前はどこまで勘が働くんだ? 流石に怖いぞ…」


「その言い草だと、何か心当たりが? それにこれは勘ではなく、しっかり考えて出した答えでありましてね」


「はは…知ってるよ」


「……」



世の理には、しっかりと起承転結がある。


殺人事件の犯人には、例え理不尽な物だとしても同期__原因があるように。


誰かの手のひらで、踊らされているのではないか。


そう思うのにも、しっかりと理由があっての事だ。全ての事が、理にかなっている。



「僕たち3人がこの場所に呼ばれ、そしてその中の1人である彼方が行方不明になり。その、度何かしらの手段によって僕たちの元に帰ってくる。挙句の果てに、死んでもおかしくない状況を自力で打開。…余りにも出来すぎていて、それでいて滞りなく事が運んで行く。何か、裏があるように思えて仕方がありません。…答えてください、教官」



口数の減った教師は、深く考え込んだ素振りを見せる。そして、



「Skuldの打ち立てた、Evolutionエヴォリューション。その計画の中にいる。…その答えじゃ、不満か?」


「はい、不満です」


「はぁ…手を焼くねえ、まったく」


「手を焼かされたくなければ、早々に答えるのが得策では?」


「はっ、それもそうだな」


「……」


「ん? これエヴォリューション…あぁ、これか。…長え単語」



資料を綾音に解読してもらいながら読み進めていたであろう彼方が、空気を読まず一言。


…しかし、綾音に「黙って読みなさい!」と引っぱたかれ、それ以上は口を開かなくなった。



「……」



そんな光景を横目に、健慈へと向き直る。




「何か心当たりがあるなら、教えて下さい。…僕たちがここに呼ばれた、本当の理由を。そして、貴方・・計画・・の事を…!」



「………」




押し黙ったままの健慈を見据えたまま、続ける。



「正直に言うならば、この任務。僕たちの力は必要ないはずなんだ。…いや、僕たちでは力不足のはずなんだ。それは僕だけじゃなく綾音や彼方も感じてる。…中等部の生徒に危険度リスクBの討伐は荷が重すぎるんだ」


「……」


「なら…何か、僕たちが必要な理由が、僕たちを招集しなければならなかった理由があるんでしょう?」


「……」


「…教官!」



長らく、口を閉ざしたままの健慈。


床の1点を見つめていたその瞳が、小さく揺らぐ。



「…そうだな。じゃあ…移動の準備をしろ」


「な!? 話はまだ終わって…」


「…ここは耳が多い。分かれ」


「そんなに…言い難いことなの? 今答えちゃえば良いじゃない。折角全員居るのに…」



彼方へ、大体の事の流れを伝え終わったらしい綾音が、口を開く。



「はぁ…」



そして、健慈がため息をついたその瞬間。その手が、自らの懐へと伸びる。



「なっ…! お前っ!?」



それを見た彼方が血相を変え、声を上げる。




「…言ったろ? ここじゃあ耳が、多すぎるんだよ」




引き抜かれたその手に握られた、黒い物体は。


片手で照準かまえられたその先へ向かい、乾いた音を響かせた。



…後に残るのは、ガラスの破砕音。


それと____






coming soon……


お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m


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