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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
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14話︰意思無き侵略者

彼方が「光」に呑まれる……その時。


もう1つの世界でも、時は刻まれていた。


時刻は、午前4時少し回った頃。

居住区第52地区、その街の外周近くに存在する宿屋「緑禅りょくぜん」には、1室だけ明かりの灯る部屋があった。

かえでと名付けられたその部屋からは、カチカチという断続的な音と、稀に呟かれる言葉だけが聞こえてくる。



「…おい、お前なぁ」


「何か?」



寿健慈の声に、キーボードを叩く断続的な音を鳴らす逢里が画面に目を向けたまま応える。



「そろそろ寝ろよ…。この時間まで起きてんのはオジサンだけで十分なの。わかる?」


「はは。結局自分がおじさんって認めてるじゃないですか」


「ぐっ…。 これは言葉のあやってやつでだなぁ…」


「分かってますよ。 …それに、これが最後のページですから。これで終わりにします」


「……」



計画プロジェクトEvolutionエヴォリューション


それはSkuldという組織の掲げる、人類を文字通り進化させる、壮大なプロジェクトであった。

争いの”種”となる身分や貧富、肌色じんしゅや思想の違い。そして、その争いの道具となる兵器の撤廃。戦争という人間の同志討ちを根絶する。


そんな、言葉にすれば容易く、いざ行動で示すとなると手を焼く目標のため。

その為の「手段」を記したデータベースを……手段を講じる為の、「力」である2人へ向け、全てを託した。


本来は……この2人に加え。もう1人居たわけだが。



(しかしなぁ……)



「大量」という言葉では、到底著しきれない___そんな資料の山を渡したハズ……だった。



「……まあ、体を壊さん程度に頼むぞ。お前だって、この計画に必要な人員なんだからな?」



そう……心配と、感嘆の混じった言葉をかける事しかできなかった。



(俺でも目を通すのに、数日掛かったってのにな……)



そう思わせる要因___なぜなら、彼__幸坂逢里は、あの膨大な情報を、「既に7割ほど読み切っている」から。


彼の「能力」は、既に熟知している___と言っても、若干の差異はあろうが成り立つであろう。


と、



「ここまでの計画を練り込むのに……どれだけの時間が?そう簡単に出来るとは考えられないんですけど」



資料を読みふけっていたはずの逢里が、突如として口を開く。



「……そりゃあなぁ。お前がガキンチョの時から、議論はされてたからな。……あ、今もガキンチョか」


「あなたにだけは、言われたくないですけどね」



ハハハ。と、生意気な逢里おしえごへ不自然な笑みを返し。


そして……この場にいる、もう1人のメンバーへと目を向ける。



(もうぐっすりか。らしいと言えば、らしいが……)



湖富ことみ綾音あやね____彼女は、話を聞くや否や、「明日に備える」と言い、即座に床へついてしまった。


始めこそ動揺していたが、事態を飲み込んでからというのものはこれまで同様、冷静沈着な綾音へと戻ったようだった。



……彼女と同じく、彼方の身を案じていた逢里共々、今自分に出来ることは何か……と考えた末、このような行動を取っているわけで___


1人は、知識を付ける事を選び。もう1人は非常事態に対応できるよう、睡眠を取っている。



もう1人のメンバー____彼方が、



「必ず生きている」



__と。


そう信じて。



この任務の目的であり、討伐目的である……居住区付近に姿を見せた大型異進種___ 固体識別式コードネーム「ダウニーベアー」。


その姿を見た、偵察隊の一員は……こう、言った。



恐怖の体現、そのものだ。___と。



そんな化け物を「視認」し、生息座標を特定する。


表向きは、そんな文字列だった。


……しかし、実際の趣旨はそんなものではなく。


「狭間」という未知の環境に適応できる、新人類の「開発・発見」が目的である……という事を、健慈は知っていた。


というか、……知ってしまった。


……Skuld上層部は、既に情報を手にしている。


佐倉彼方、幸坂逢里、湖富綾音の3人が、あの事件の生存者であり、裏の主役であったことを。そして同時に、ある「力」を、手にしていることも。



五感発達オーバーフィル……思考直結ストレートアンス……記憶超管理スーパーメモリアル……)



各々に備わった、「異常」な力。それを本人達がどう使うは勝手だ……。


しかし……だからこそ。その一生を、無にすることは許されない。



(人の命を……それも教え子の命を、「開発材料」なんて言われたら……そりゃあ……な?)



寿健慈は自由人である___と、そう社会に認識されていようとも、決して……譲れないものがあった。



(……久し振りに、お前を使う事になるかもだな。……そうなったら、頼むぜ?)



壁に立て掛けた__自らの大剣に、そう思念を飛ばす。


あの日も、背中に吊るし。同じ時を歩み。そして、彼らと出会った。


3人を、救うと決めたから。


生かしてやると、自らが言ったから。



(…………)



あの日……あの時の、少年たちの瞳を思い出す。


恐怖と、罪悪と、悔恨と、悲観と、憎悪と。様々な色に染まったその瞳を。


いまだ、画面を見つめる続ける逢里と……。最奥の部屋で、1人眠りにつく綾音。


その、姿を見て。



Skuldの掲げた、計画エヴォリューションとは異なる……独自の計画を行動に移さんと___


そう……寿健慈は、決意を固めた。




佐倉彼方が姿を消し、はや2時間弱。


やがて紡がれる物語に足を踏み入れる人々は___



着実に、その数を増やしていた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




日が昇る。


昨日も。今日も。明日も。



……その陽光に瞳を刺され、意識が鮮明に巡り始める。



「…………」



寝る前に設定した空調のタイマーにより___温められた空気が、頬を撫でる。


布団から片脚を引き抜き、そこで辺りを見渡す。……と、



「……?」



自分の寝ている部屋の隣___彼方の荷物が置かれたその部屋に、巨大な塊を見つける。



「教官……」



文字通り「大」の字をえがき。ゴオゴオといびきを立てる巨体。


間違いなく……自分たちの、担任教師である。


___と言っても、ほとんど副担に任せきりで担任らしい事はしていないが。



(本当に仕事で忙しいのかしら……。担任__誰かと変わってもらえばいいのに)



そんな、常日頃思っている疑問を噛み締め。


ふと……あることに気づく。



(あれ……目覚まし……鳴ったっけ……?)



隣室で男2人は爆睡中。そして……自分もたった今、目が覚めた所である。


という事は……まだアラームを設定した時間になっていないのか___



すると……



(……まさか!)



ヒヤリ……と、悪寒が背筋を撫でる。


恐る恐る、壁に掛けられたアナログ時計に目をやる。


そして____



その「まさか」が、的中する。




「ああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」




時計の針は___


11:56を、指していた。



……注釈。


任務のブリーフィングは、12時からである。



「2人とも!早く起きて! 起きなさぁーーーーい!」



湖富綾音が、鬼の形相で2人を叩き起したその頃には……


既に規定時刻を、少しばかり超えていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「……爆ぜよ」



その言葉が耳に入った瞬間……本能的に、防御姿勢をとる。



「くっ!」



目の前を覆う閃光に、思わず顔を背ける。


全身で感じる、圧倒的な質量を前に___



「…………」



瞳を開ける。


……腕は、付いている。その先につく手も。そして、顔のパーツも何一つ欠けずに形を成している。



(なんだったんだ……?)



まだ、閃光に焼かれた視覚は機能していないようで、視界は黒い。


……質量は、確かに感じたはずだ。


なら、先ほどの魔法攻撃ビームは……一体……。



『……なんだ?擦りでもしたのか?』



もう何度目か、数えられない程の驚愕に囚われている彼方に、そんな声がかけられる。



「うぅ……?」



ようやく、視力が戻り始める。弱冠黒ずんではいるが、その顔が認識できるまでには回復したようだ。



「何だったんだ……今の……」



見据える女神は、鋭い眼光を宿していた。


それは、彼方____ではなく。その背後の空間へと向けられていた。


先ほどの物騒な言葉は、どうやら……自分に向けられたものでは無い___


そう少しばかり安堵したのか、神に振り回されっぱなしの彼方が、自身の背後に広がる光景を目にし。


こう____確信した。



(神様に……逆らうべきじゃない……。逆らったらダメ……絶対)



それも、そのはず。


広がる景色は___数秒前までなだらかな丘陵だったその場所は、根こそぎ___「無」へと、姿を変えていた。


宇宙空間のような……黒黒とした背景の中に、黒い輪廻の奔流が渦巻いている。



『また……来おったな……。こんな時に……』



歯噛みするウルドを他所に、うろたえる彼方が尋ねる。



「な……なにをしたんですか? これ……」



タメ口から律儀な敬語へとシフトチェンジした質問それに、冷えきった……そんな声が帰って来る。



『……簡潔に言うならば、「掃除」じゃ。……この世界を脅かす塵芥___悪しき人間により生み出された邪人形を、「分解」した』


「いや……やりすぎ感半端無いけど……」



そう茶化すしかない彼方だったが、魔法陣から何かが発射される前に、撃たれた存在ものを視認することは出来なかった。


つまり。



『奴らはいくらでも、どこでも「湧いて」くる。厄介極まりない……と。ほれ、また来おった』



無尽蔵に誕生する、無意思の侵略兵器___とでも言っておこうか。


彼女ウルドの言う通り、彼方から見て左手側。そこから、黒い頭巾を被った細身の人間___訂正し、人形が湧き出す。



「おいおいおい!数が洒落にならないんだが!?」


『……あの時と同じ___自らは決して表に出ず……駒のみを敵地へ送り込む。愚かな人間共め…… !』



出逢ってから1時間にも満たないであろうが、眼前で臨戦体制をとるウルドの顔に、これまでで1番深いシワが刻まれる。


その幼い顔立ちに、全くもってそぐわない___獰猛な憎悪を浮かべ……再び、周囲に展開された魔法陣が、光を放つ。



「どうするんだ? 戦うってんなら……手を貸すぜ?」



善意でそうは言ったものの、



(あ……俺丸腰じゃん ! )



そう手に汗握る思いで一歩下がらざるを得ない。



『案ずるな……妾を誰だと心得る? 時の最高権限を有する、時女神じゃぞ?』



より一層、獰猛さを増す女神。……次の瞬間_____



先程の数倍は有ろうかという光の奔流が、辺りを呑み込み……やがて……


全てが__終わった。



「おぉぉぉぉぉ…………」



喉から漏れるのは、そんな微弱な歓声のみ。


しかし。



『まだ……来ておるな』



その声で、再び身構えざるを得なくなる。



「今何人……いや、何体 ったんだよ……てか! まだ来んのか!?」


『人間に弄ばれるとは……神も、地に落ちたものじゃな』


「ボヤいてる場合じゃないでしょ!?」



そう突っ込むが、その間___間近まで接近した人形が、手に持つ棍棒を振り上げる。



「うおぉっ!危ねぇって!」


『そう思うなら退がっておれ! お前に死なれては困る!』



間一髪でそれを避けると同時に、再び閃光が舞い戻る。



『チッ……埒があかんな……』



そう、尚も現れ続ける機巧人形マシンドールを見て、ウルドが悪態をついた。



「やけに落ち着いてるけど!これ日常的いつもあることなの!?」


『この世界の時間軸で、週1回はあるな。ここまで大掛かりなのは久しぶりじゃが』



その間にも、魔法陣から光が放出され。その1回で、湧き出す人形達を2桁づつ屠っていく。



『そうじゃな……。半日もあれば、粗方落ち着くじゃろう。それまで体力気力が持つか?』


「そう見えるなら……眼科行った方がいいと思うぜ……」


『全く失礼なやつじゃな』



怒りの形相から一変、手を休めること無く殲滅活動を続けるウルド。


……その影に隠れながら、もう1度。辺りを……この世界を見渡す。


既に、先程までいた丘陵は原型をとどめていない____言うまでもなく、女神の放つ光線によって崩壊するからである。


しかし、虚空に消えて行く世界の欠片は、爆散や溶解、蒸発などとは違い、その欠片は光となり、自らを粉砕せしめた女神ウルドの元へ集まっていく。



「……なあ」


『見ての通り、妾は忙しい。……よって、くだらない質問で無ければ聴いてやろう』


「自信が無いから黙っときます……はい……」



神様って、永久機関なの?


という質問は、愚問か。……恐らく、彼女にとってみればそうであろう。


人に、


お前は不死身か?


と聞くようなものだ。これを聞くのは、また今度の機会にしよう。


……次があるかは分からないが。



『……えぇい!鬱陶しい!』



彼方への苛つきも込めてか……一層覇気を滾らせた叫びが轟く。


次の瞬間。


視界が、白く染まる。



取り敢えず、見たままを表現するなら___



全方位への、制圧_____ 過剰殺戮オーバーキル



その圧倒的な質量に叩かれ、四方にを成した人形達は、すらも残さず消滅する。



『……これで少しは落ち着いて話せるか。うん?……生きておるか?』



無様に尻餅をつく少年に、怒気とは裏腹の柔声やわねがかけられる。



「多分な……その心地しねぇけど」


『ならば……いいか? ここからの一言一句、1つとして聞き逃すでないぞ?』


「お……おう!」



抜けかけた腰を立て直し、空元気からげんきに応える。



『事態は真に切迫しておる。見ての通り、愚かな人間れんちゅうがいつこの世界を陥れてもおかしくはない。その抑止力として、時呑歯車タイムギア、そして魔神の力を取り戻すのじゃ。一刻も早く』



尚も、言葉は続く。



『お前の世界とこの世界は、時空鏡によって繋がっている。次からは、そこで会うことになるであろう……。事態が行き詰まった時、妾の名を呼ぶがいい_____』



そして、再び魔法陣を展開し始めるウルド。



その照準は、今度こそ___




俺____佐倉彼方へと、向けられていた。




『 行け 』




……これって、「逝け」……じゃないよな?



そんな思考と共に。佐倉彼方は___



光と共に世界はざまから、退場した。





coming soon……


ここまでお読み頂きありがとうございます<(_ _*)>


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