13話:自覚の無い ”能力”
1人と1神が対話を成す時。
どんな物語が、紡がれるのか。
____長き旅路の幕が、開こうとしていた。
世界を、救え。
タイムマシンのパーツである、「時の歯車」。それと共に、世界の何処かへと散った魔神たちを保護せよ。
「…………」
 
そんな話が、脳内でグルグルと回転する。
(ぅぅぅぅぅ……)
そんな少年の思考を悟るわけもなく。
 
『頼みは、受けてくれるか?』
対面する神が、話を切り出す。
「…………」
人間の中でも、特異な体質を持つ者。
___ 選別者、と呼ばれる存在。佐倉彼方。
その異質の存在へと語り掛けるのは、長い白髪を肩まで垂らし、眼前に広がる壮大な空と同じ色の瞳を持つ___時の女神、ウルド。
……それが、ゆっくりと話し出す。
『思い悩むのも分かるが……。お前以外に、頼む宛がないのじゃ』
「……ゲスト、って奴だから?俺が」
 
それに、間入れず首を縦に振るウルド。
『そうじゃ』
「…………」
選ばれた___というなら……仕方が無いのか。
その理由となる、「選別者」たる体質。
しかし、それを持っている……という自覚は、微塵たりとも無い。ゼロ。皆無。
「俺の他に……誰かいないの?ゲスト……」
 
居るのならば、挙手を求む。
……そう、救いようのない冗句を並び立てる。 が、
『今のところ、お前以外に確認出来ていないな。……何せ先も言ったように、魔神無き今そちらの世界に介入する力が妾にはない』
それを聞き、はぁ……と肩を垂れる彼方。
「それもさっき聞いたよ……。その為にも、魔神を探し当てなきゃいけないんだろ? てか、それが目的なら、なんか目印になるような物とかって付いてないの? 魔神に」
『む……?目印か……そうじゃな……』
「散らばった」と言えど……それが、地球上のどの場所に行ってしまったかは、定かでない。
捜索範囲を狭めない事には、探し当てるには困難を極めることとなる。
……その、手段がないものか。彼方は少しばかり熱の冷めた脳で考えていた。
それに、同じく冷静な返答がもたらされる。
 
『……あるには、ある』
マジか……! というふうに顔を上げる彼方。しかし、コンマ数秒後、その表情が曇る。
「それ……俺でも分かる?……神基準の目印とかさっぱりなんだけど……」
『まぁ……お前ならば気付くであろう。問題ない』
「悪い予感しかしねぇ……」
問題ない……大丈夫……と言われても……
狭間に入場した際___高所からの落下により……それなりの恐怖は刻み込まれたわけであり。
 
(実に不安だ……)
それに加え。唯でさえ頭が弱い彼方に次々と突き立てられる進出単語の嵐。
『まあ聞くがよい。魔神が、その力を行使する為に必要なもの。器と呼ばれるそれを用意し。それによって魔神たちの……おい、これまでの話は理解したであろうな?』
「……生憎、記憶力に自信はございません」
『はぁ……本当にお前で正解だったのだろうか……。いくら時空書の導きとはいえ……少しばかり不安だな』
 
(また……新しい言葉がおいでなさった……)
途切れることなく、次々出てくる新出単語に、彼方の頭はパンク間近まで追い込まれる。
「ため息疲れてもな……。でも、その器ってのはちゃんと理解したぜ?……50%位」
『半数程ではないか……。まあよい。話を続けるぞ。その器の存在を囮に、魔神たちを呼び寄せる。その容量が大きければ大きい程、それを求め向こうからやって来る』
「色々わからんがついて行ってるぜ……」
『顔が引き攣っておるぞ』
「う……」
その心配には、素直に甘えておく。
全体としてスペックの足りない脳をフル稼働させ、整理整頓を図る。
その中で生まれた、なかなか重要であろうこんな質問。
「……肝心の「器」って、誰?」
 
その問に、 「無」 とも言える表情で答える「神」。
『……お前じゃ』
 
それを聞き。一拍置いて、素っ頓狂な声がなだらかな丘陵に木霊する。
「……はぁぁぁぁあ!?」
『じゃ〜か〜ら、お・ま・え・じゃ。聞こえんのか?』
「いや……そういう訳じゃ……」
当然のように指を刺され。さらに難聴まで疑われる彼方に、次なる言葉が告げられる。
『お前にその意思が無くとも。必然的にそうなるのじゃ。体に魔神を宿すという事は、この狭間に常に身を置いている状態と何ら変わり無い。常人には、到底務まらん事じゃ』
「…………」
しかし。彼方本人にその自覚はない。
自分が特別であるということや、この場所が危険であるという認識も。これっぽっちと存在しない。
「危険な場所に見えないけどな……ここ」
 
そう言い、空を見渡す。
その間、風が髪を揺らし、陽の光は瞳に差し込み、土のなんとも言えない香りが鼻腔を刺激する。
全くと言っていい程、恐怖を感じない世界。
「俺が……この世界で無事に生きてられるって、確信でもあったのか?」
『無かったな。「運」というやつじゃ』
「おいおいおい!?」
『お前は1度、この世界に足を踏み入れておるからの。その可能性に掛けてみた、とでも言っておこうか。人間的に言えば、「賭け」と言ったものじゃな』
運が良かったと言われればそれまでだが、一歩間違えていたら死んでいた。
そう考えると、ゾワゾワと寒気が立ち込めてきたので、考えるのをやめる。
しかし。
そんな彼方には1ミリの配慮もする気がないのか、またもや女神が話し出す。
『お前をこの世界に招いたのには、2つの理由があるのじゃ。1つは先刻まで話しておった頼みの話。そしてもう1つが、これじゃ』
 
これまでの体験から嫌な予感を感じ取った彼方は、猛ダッシュで逃げ出したい衝動に駆られる。
 
しかし、至って普通の……小冊子を懐から取り出す、という女神の一連の動作を見て、踏みとどまる。
 
「……ん?それって……」
『これを、お前に渡そうと思ってな』
 
それは、彼女の手から離れた瞬間。謎の力によって浮遊し、彼方の手の中へと落ちる。
 
「俺……今、初めて神様の力信じたかもしれねぇ」
『鈍感にも程があるぞ……』
「俺じゃ無くても普通そうだって……。常識の範疇超えてるからね?」
 
しかし、これで健慈の言う___お偉いさん方の怒り、とやらは回避できたであろう。
1度は失ったと思った小冊子。「生徒証」が、ご帰還なされたのだから。
「……にしても、どこにあったんだ?これ……」
『礼の一つもないのかお前は……』
 
どもども!と、表面だけの感謝に目を細める女神だったが、そこは心の広い神様である。
何とか自制したようで、それ以上は何も言わなかった。
彼方自身の予想では、線路近郊での戦闘中にポケットから吹き飛んでいった(ポケット入れていたのが間違い)……と結論付けた、この一件。しかし、
『お前と初めてあった時。時刻を鑑賞ていた時だったか。どこから入り込んだか知らんが、入り込んだ小虫を、外に放り出したろうに。その時じゃ』
「小虫って……あぁ俺か」
 
どこまでも鈍感な彼方に興味を削がれなくなったのか。全く無関心な声で、こう続ける。
『そうじゃな。あの時、唯の人間なら一瞬で灰に成っていたのにも関わらず、お前は体の自由を失っただけで済んだ。そこを見込んだのは、間違いなかったようじゃな』
「運とか言ってたの何処のどいつだよ……」
「この妾じゃが?」
(言うてお前も鈍感なんじゃ……)
という思想はともかく。
 
「……で、俺が器になるってのは……何すればいいの?」
『簡単な事じゃ。彼等とコンタクトが取れ次第、その身体を提供しろ』
「んな……ビル建てるから立ち退けみたいな言い方……」
『資質が見込まれれば、強力な護神となろうな。裏を返せば、最凶の悪鬼でもあるわけだが……… ! 』
 
理論も糞もない説明に凍りつく彼方だったが、その硬直を溶かす出来事が。
「え…?」
何かを感じ取ったかのように肩を震わせる女神。
『……時間が、無いようじゃな』
そう言うと、何やら巨大な魔法陣のようなものを描き出す女神。
「……おいおいおい!俺の物覚えが悪いからってそれは流石にやり過ぎ……」
わかり易く取り乱す彼方に、冷たく___一言。
『……爆ぜよ』
____爆雷が、鳴り響いた。
coming soon……
お読み頂きありがとうございました。
 




