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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
15/67

12話前編︰時の女神/上

(ほんとに……好きだなぁ、アイス)


淡い緑色のパッケージ。「緑茶」と書かれたそれを6本、カゴへと落とす。


(今夜は何をご賞味かな?彼方くん)


丁度その時、自身を呼ぶ声が聞こえた。……気がした。


「あれ……?」


声のした方角へと足を向ける。だが、声のした冷凍庫前そのばしょには、その姿がない。


「彼方?どこ?」


深夜のコンビニ。静まり返った中、空調の音だけが「俺がBGMだ!」とでも言いたげに主張するが、気に留めない。


「ん?」


その時、床に落ちた小箱が目に入る。


「もー彼方、落としっぱなしは良くないでしょ。……彼方?」


見渡す店内には___整然と並べられた商品の群れと、旧式の空調機の放つ、異様なモーター音が響く……だけであった。


立ち込める湯気と混ぜるように、深く息を吐き出す。


「ふぅ……」


溢れんばかりに張った湯船に肩まで浸かり、体の重みを温水に預ける。

熱めに沸かした筈の湯は、時が経つにつれて冷め始め、今では熱いとは言えない温度まで下がりつつある。……だがそれも、浸かるには丁度良く、必然とも言える眠気が襲ってくる。


「…………っ」


それにより……カクリと首が倒れかけるが、何とかそれを食い止める。


(そろそろ……上がったほうがいいかな……)


まだ十分浸かっていられるが、待たせている男性陣のことを考えると、そうもいかない。


(流石に……そろそろ寝ないと。明日が辛くなるわ……)


湯舟から体を持ち上げる。すると髪から、体から、心地よい豊潤な香りが広がる。学園の自室から持ち込んだそれは、一般の学生では滅多に手が届かないであろう、お高めなシャンプーやボディソープの類い。

お金があると……こういう所で便利だなぁと、つくづく思う。まあ、養子に出された先が偶然にも富豪___実業家の家であるが故に出来ることだ。自分自信の力は何1つとして関与していない。


「ん___んん……。……よし!」


体を伸ばし、節々を伸縮させる。

木製の扉に手をかけ、覚悟を決め、開け放つ。


(うぅ……寒……)


空気の冷たさに打ちのめされるが、温めた身体が冷える前に付着した水滴を拭き取り、暖かな寝巻きに袖を通すべく、タオルを握る手を働かせる。

そして、長い髪を乾かすべくドライヤーを手に取るが、その前に……


「あ……先に、早く呼んであげないと」


外へ放出した2つの存在を呼び戻すべく、携帯端末を手に取る。

ゲートタワーで先に入浴……と言っても浴槽には浸かっていないであろうが、先に済ませた彼方と逢里には身勝手で凍えさせたことを、後で謝らなくてはならないであろう。


「あれ……着信?」


手に取った携帯には、SNSの通知ではなく、着信を知らせるランプが点滅している。


「どうしたんだろ……。あ…」


画面のロックを外したところで、再び着信が。

その先は逢里である。風呂が長すぎる、というお叱りの言葉だろうか……。


(彼方じゃあるまいし……)


恐る恐る、それに出る。


「も、もしもし?」


それに応えるのは、怒りに満ちた怒号……ではなく、至って普通の受け答え。だが、いつもよりか少し違う感情ものが込められているように感じる。


『お、やぁっと繋がった……』


「ごめんね。今出た所なの。もう帰ってきても良いよ?」


『いやー、そうしたいんだけどさ。彼方がいないんだよね』


どうやらまた、潜在能力ほうこうおんちを発揮しているらしい彼方。


「またぁ…?早く見つけてあげてよ……」


いつも通り、泣きそうな顔をして帰ってくる彼方を思い浮かべる。だが、


『ただの迷子なら良いんだけどね……。少し不自然なんだ、姿の消え方が』


こちらの和みを他所に、電話口から響く___焦りの含まれた声。


『さっきコンビニに寄ったんだけど、アイスの売り場に行ったっきり姿が見えなくなった』


彼方の事だ。逢里を放置し、一人帰路に着くとは考えにくい。


『それに、アイスの売り場に1つだけ……箱が落ちてたんだ。電話にも出ないし、それに店員曰いわく、僕が聞きに行くまで店から出た人はいないらしい』


「それって……」


『そう。彼方はコンビニからは出てない可能性が高い。出てないのに行方不明って。これ怪奇だよね』


まだ脳天気さが垣間見得る逢里。

しかし___綾音自身は、なにか不穏なものを感じてならなかった。


「取り敢えず逢里……貴方だけでも帰ってきて。外も寒いだろうし……」


『分かった。もうホテルに着くから。今行くよ』


そこで通話が途切れる。どこか落ち着かない中、様々な可能性を考える。


まず1つ目。拉致、誘拐の可能性。

この人口減の世の中、人攫いはそこそこの頻度で起きている。だが、これは余りにも可能性が低い。この街に入るには、あのゲートを超える必要があり、危険な人物・組織はまず侵入できない。

仮に出来たとしても、彼方ほどの身体能力を誇る人間をさらうには無理がある。もしできてと逢里が気付くだろうし、店員の目もある。とてもじゃないが無理な話だ。


次に迷子。これは一番可能性が高いが、コンビニの店舗内で迷子は有り得ない。すると必然的に屋外に限定されるが、店員の証言から外には出ていない可能性が高い。繋がらない電話の理由も、宿ここに向かう前には気温を調べていたし、その時見た画面では、まだバッテリーは80%ほど残っていた。ゲームか何かで消費したにしても、通話ができないほどにまで減っているとは考えにくいため、証明できない。次に……



ドンドンドン!



そこまで考えていると、扉が叩かれる。


「逢里……?」


やけに叩く音が大きかったが、それ程焦っているという証拠であろうか。

だが、それを気にする余裕はない。有無を言わず、扉を開ける。すると、


「きゃあ!」


大きな人影が、押し入ってくる。それとぶつかりそうになり……というか正面衝突し、悲鳴をあげる。


「え……教官?」


ぬぅと現れるそれは、こちらを一瞥するや否や呟く。


「湖富……か。佐倉と、幸坂は?」


「え……あ、逢里なら、もうそろそろ帰ってくる筈だけど……。彼方……は……」


その先の言葉は……続かなかった。


「彼方は?」


「…………」


その沈黙を慰めるように、健慈らしくない___紳士的な雰囲気の声が、1人には広い……和室に伝播つたわる。


「言いたくないなら……言わなくてもいい。事案は承知の上だしな。それに___」


チラリと、廊下の先へと視線を動かす健慈。


「あいつが、揃ってからじゃないとな」


「あい……つ?」


「そう、逢里あいつ


あいつ、こと。息を切らし、走り込んできた存在。


「あれ?教官?」


「よーう。幸坂。イケメンに会って早々悪いが、ゆっくりしてる暇はねえんだ」


自身をイケメン呼ばわりするそれに、若干身を引きながら応える逢里。


「何処にイケメンが居るんですか?全く検討が付きませんが……」


「まあまあ、硬いこたぁ言わずに。ささ、入った入った!」


「え?ちょ……」


その肩に手を回し室内へと連れ込もうとする。その途中。


「……俺にしちゃあ珍しく、真面目な話があるんだ。大人しく…聞いてくれ」


その顔、その眉間に___いつもは無い……深いシワが刻まれていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




声を、「感じ」る。


(やはりこの声は……聞こえている様じゃな)


どこか満足気な女性の声。それが鼓膜へ。いや、鼓膜は震えていないのだ。頭の中に直接響く___不快とも、爽快ともいえない感覚に陥る。


(どこからして……)


辺りを見渡す。だがそこに在るのは、黒い硝子がらすで出来たのような地面と___捻れたり途切れたりしながらどこまでも続く、歪んだ空間。


(あの時と同じだ……)


歪みと、捻じれ。それと声。それに何より___


(あれ……?)


関節と、身体中の筋肉を占拠した、重厚な鎖。それが……


「動……ける……」


脚。

一歩踏み出す度、しっかりと地を捉える。


腕。

腰に下げた剣帯に届く。無論、握りしめ振るうことも可能であろう。


瞳・瞼。開け放つことも、強く瞑る事も可能。


よって、体は神経の先々(さきざき)まで思い通りに駆動する事が確認出来た。

だが、それをを確認する間もなく……新たな御声みおんが、行く手を遮る。



(ほう……。この地で歩みを、進めることが出来るのか)



「な……!?」


声が……近い。深く…鮮明に、脳へと刻み込まれる。



(……ならば、話は早いな)



どうやら、話の意味を理解する時間は与えられていないようだ。


直後。



パリッ……ぺキッ



何処からともなく鳴り響く、破砕の前兆を示す音。

それを聞いてか聞かずか、焦りも動揺もない___無機質な声で、告げられる。



『動けば……死ぬ。心せよ』



その瞬間、世界が崩壊する、、


「なっ!?うぉぉぉお!」


四方の壁、もはやそう読んでいいかは分からないが、それを含むけしきが剥がれ落ち、


「動くなって無理だろぉ〜!!」


地面すらも、崩れ落ちる。



『お前の意思で無いのなら、問題あるまい』



「嘘だあぁぁぁぁあ!!!」


無責任な言葉の残響と共に、地に空いた風穴から暗闇___奈落の底へと、強制的に降下させられる。



「うおぉぉぉぉぉ!!!」



天地無用な錐揉み状態。今世紀最大の悲鳴をあげながら、それをたっぷりと数秒間味わう。そして……


「ちょ!ちょ!ちょ!待っ…ぶご!!」


光を見た瞬間。

硬質な硝子の上……では無く、緑の地表へと、叩き付けられる。


「………………」


恐らくあばら数本と鼻骨びこつ頭蓋ずがい、その他 数種類もろもろ。間違いなく粉砕されていた。

……これが現実であるのならば、だが。


(俺……生きてる……のか?)


その思考を読み取ったのか。……風の音だろうか。ザワザワと耳をくすぐる心地のいい音。その音に混じり、あの声が……伝わってくる。


『…痛みは……感じぬじゃろう?先に言うた通り、意思こころも、存在からだも、ここには存在しないのじゃからな』


その言葉の示す通り、体に感じたのは衝撃だけ。力を込めれば四肢は動くし、無論、呼吸もある。


「……ぶはっ!」


顔を上げる。すると、目を灼かれると思う程の___圧倒的なまでの光量と、深々(しんしん)と広がる___壮大な緑が、飛び込んで来る。



『ここが何処だか。お前には……わかるか?』



膝立ちで景色に見入る客人___彼方に、先程から1ミリの変化もない声音で語りかける、人影。


「何って……どっかの自然保護区か?」



『小さき器量はかりじゃな。これだから人間は……世界を壊し、己をも壊す』



その声音に、少しばかりの呆れが混ざる。……もしくは哀れみかもしれないが。



『……ここは人の器量はかりでは受けきれぬ、悠久の地。すなわち……』



声の主___放り出された丘陵地の、俺が投下された場所よりも少し左か。

その___雪のような純白の髪を風に任せ、こちらへと振り向く。



『人知が生まれる前の……けがれなき世界』



空と同じ、水色の瞳を輝かせながら、



『わらわの地へ、ようこそ。佐倉__彼方よ』



少女とも……女人ともとれる容姿をした、老人めいた__訂正し賢者めいた口調のそれは、どこか安堵ともとれる表情で、真っ直ぐ俺を見据え、こう___名乗った。




『わらわの名は、過去かこを司りし時の女神_____ウルド』




ウルドと名乗ったそれは、ゆっくりと芝生に跡を付け、こちらへと歩み寄ってくる。



『お前に___頼みがある。佐倉彼方よ』



「………………」


もう、何がなにやら理解が追いつかない。なぜ……名前を知られているのかすらも。

そんな呆け面に、声が掛かる。


『まだほとぼりが冷めぬか?どれ、冷ましてくれよう』


何かを行使しようと手を掲げるそれを、脳を体を精一杯駆動させて阻止する。


「待て待て待て!この数分でなんかろくな事にならないってのは理解したから……」


『そうか?では…良く聞け。頼みというのは……』


「だから待てって!」


なにぶん知欠ちけつな俺の脳には、寄せられる情報量が多過ぎた。

突然異世界へと誘われ、謎の声によって駆動した空間から落下し。今度はその声の主が、神様だ?


「冗談じゃないぞ!」


当然の如く、声を上げる。


「頼みがどうとか、この世界が何だとか、俺には関係無いだろ!?早く元の世界に戻してくれよ!」


その言葉に、眉間にシワを寄せ……口を開くのは、かの『神様』とやら。


『元の世界……か。そこが、お前にとって生きやすい場所なのか?』


「生きやすいとかそんなのは関係ない。ただ、俺を待ってる人がいる……だから帰るんだ!」


それに少し、目を細め、口ぶりを重くし、神は応える。


『……前に呼び寄せた男も、同じことを言っていた』


「前に来た……男?」


『その男は……ここを出てしばらく経った後___死んだ』


「な……脅迫してんのか!? それ」


『違うな。それがあの者の運命さだめだったのだ。折角の機会じゃからの……死因も、教えてやろう』


そう言うと、何処からともかく取り出した、分厚い本のページをめくり始める。


『……死因は、他の生物との接触___獣に、殺されおった。折角の、選別者だったというのにな』


「……他の生物って、まさか……」


選別者ゲスト、と言う聞き慣れない言葉には触れず……頭に残る、人間の欲望が生み出した存在だけを、台詞から切り取る。


『お前の思っている通り……人間が異進種と呼ぶ、それじゃ』


パタリとページを閉じ、宙に放る。するとそれはまた、何処かへ光となり消えていく。


『その反応。表情。……お前の帰る理由は、それか』


「…………」


そう……かもしれない。

過去にもやはり死を___悲劇をもたらしていたそれは、対処法が確率されてからというもの、犠牲者の数こそ大きく減少したが、それでも少なからず誰かを傷つけ、今でも悲しみを生み続ける存在___それが、異進種だ。

先日の通達にんむも、その悲劇を断ち切る為のものだった筈であり、だからこそ……!


「……そうだ。だからこそ……こんな所で時間を潰してる訳には行かない」


さぞかし逢里も、忽然と姿を消した相棒おれに驚いている事だろう。もちろん、宿で待っている、綾音も。

早い所帰らなければならない。眼前の、神とやらを退かして。

そう思い、強く発言しようとした___その時だった。


『ならばその憎悪の先……異進種創造の始事しじは、知っておるのか?』


これにより、思考が180度回頭する。興味か、はたまた運命さだめか。


「始…まり…?」


俺の記憶が正しければ、『異進種』とは___現存していた何らかの生命体が、何らかの人工的物質によって細胞、又は遺伝子が変異したもの、の事をいう。

形は元と変わらないものもいれば、先日のルプスの様に危険な方向に進化を遂げるものもいる。『負の遺産』とも呼ばれるそれが、初めて姿を現したのは大戦の収束と同時、今からおよそ100年前のことだ。


「戦争の原因なら…知ってる。国家同士の、兵器の奪い合いが発端なんだろ?」


それに、完全に呆れ声を出す女神。


『あぁ?何を言っておるのじゃ。兵器など二の次、三の次じゃ』


間違いなく、学園で叩き込まれた知識にはそうあったのだが。

では……何が……


「兵器じゃないなら___何が原因で、あんな戦争が?」


その戦争は、20世紀に起きた第1次、第2次世界大戦を遥かに凌ぐ規模であり、第3〜11次大戦と呼ばれている。

民間人を含め、死者、行方不明者総じておよそ50億。増えに増えた世界人口は、これによりその数を半数にまで減らし、尚も続いた残響___これまた負の遺産と呼ばれる大戦の残り香。撒かれた細菌、空間を占拠する放射能により、その最大100億を数えた人口は、今や20億……2割を下回っている。


そこまで人類を衰退させた、あの争乱。その__原点とは……




『……教えてやろう。元凶は、愚かな人の造りし、時渡りの絡繰カラクリ。その名を____タイムマシン……という。この発明が、1度は結託した人類を、再び変えてしまったのじゃ』




タイムマシン。過去や未来へと旅に出れる、空想の装置。


「タイム…マシンって……SFとかでよく見る、あれか!?」


『……そのSFとやらを、実現してしまったわけじゃ。不憫なものじゃ。自らが描いた空想ものがたりを、その手で生み出そうとはな』


国の最高機関である鳳凰学園の生徒である俺が知らない、という事は、少なくとも……日本では認知されていないことを示している。

本当にそんな物が在ったのならば……現在基準の人知を___遥かに超えている事となる。


「何で……公表されてないんだ?別に隠す必要もないだろ……」


『残念ながら……隠蔽、偽装は人の得意とするところじゃからの。都合の悪いものは表には出てこぬよ』


未知の領域に足を踏み入れている事に、興味と恐怖が沸き上がる。

それを見越したかの様に、更に言葉が続けられる。


『実際、世界は空想のように甘くはない。奪い合いに発展するのは必然というもの。それは正しい判断じゃろう』


神はそう言うが、存在するのならば、この目で______。

そんな、人らしい『欲望』が、沸き上がる。


「その……タイムマシンって奴は、今何処に?」


だが、愚問に均しいその問は……神の、怒りを買う。


『……それをわらわに聞くか?それを治める__このウルドに』


冷たく、反応を返される。


『時は、刻まれるから時刻となるのじゃ。その理念を覆すのであれば、たとえ世紀の発明でも、害虫に他ならん』


実際の所、彼女の存在そのものが『時』と結びついているのであれば、それは反旗を翻すに均しい___人為的な時間操作など、敵対するものに他ならないのであろう。先程よりも、更に深く刻まれたシワからそれを感じ取る。


「あ……あの……」


暫く嫌悪に眉を歪めていた女神だったが、少しの沈黙の後、何かを思い直したように深淵が息を潜める。


『……まあ良い、応えてやろう。こちらの頼みに、関係しないでもないからな』


「そうだ……頼みって一体、何だよ?」


『神』が『人』に頼む事……その真意。

その問いに女神は、視線を緑地の先へと向け直し、静かに___語り始めた。



『……この場所が___脅おびやかされようとしておるのじゃ。お主ら人と、その産物にな』



その声音には、怒りと……どこか悲しみが込められているように感じられた。


「俺に……どうしろと?」


『救うのじゃ。前世かこ___現世いまを……』


「だから……具体的には?どうすればいい?」


『そうじゃな……まず____』


その瞳と同じく色をした空を眺め、時の女神___ウルドは言った。



『知って貰わねばなるまいな。世界の___創意。其の全てを』



雄大な野山を___一迅の風が、吹き抜けていった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




眺めていた携帯端末から1つのアイコンが、前触れも無く消失する。


監視対象の位置情報を示すそれは、発信元の端末自体のバッテリーが無くなっても予備電源で起動し続ける、言わば半独立したシステムである。

しかし、それすらも信号を断った。という事は……


「まさか……な……」


寿健慈は寝床を這い出し……と言っても車のシートを倒しただけの無骨な産物であるが、それから起き上がり___足速に目的地へと急いだ。


しかし。


「どうやら1歩……。遅かったみたいだな……」


目の前に、大人しく座る人数は2人。本来3人である筈だが、この際、彼の適応力に縋る他あるまい。黒髪の少年……彼方の。


「まず1つ。これからする話の前提条件として、伝えなきゃならん事がある」


第一声。自分でも驚くほどの真面目声イケボであったそれは、やはり終始黙ってはいられない教え子たちに阻まれる。


「それって彼方の居場所!?それとも……」


「はぁ……これからって時に。落ち着けって……どうせ全部話すんだから」


うっ、と声を漏らす、教え子A。Aとは、綾音のA。


「いいか……?話を、始めるぞ」


話と言っても……何処から始めればいいのか。珍しく考える。


「……まだ……なの?」


流れる沈黙に、突っ込みが刺さる。


「だー!うっせえよ!こちとら神じゃねえんだ!脳ミソには限界があんの!」


「うるさいのはあんたでしょ……」


(相変わらずうっせえなぁこいつは……。ん……?…神?)


思いついたように、大声を出す。


「おー!ここから話そう!」


「だからうっさいのよ!」


巨大な手裏剣の如く射出される座布団を、顔で受け止める。


「そうだ。……お前等は___神を信じるか?」


それに、なんのこっちゃと首を傾げる教え子たち。


「それが……何か関係あるの?」


「ある。それが『鍵』と言ってもいい」


これには、先程から口をつぐんでいた教え子Aも口を開く。


(あ……こっちもAだったな……)


この場に、頭文字イニシャルAしか居ないことに今更気づく。……Kが、待ち遠しい。

そんな事を考える暇もなく、質問攻め___教師としては冥利に尽きる。


「鍵……とは?」


「今回の任務内容、それは異進種討伐が目的___じゃあない。その神と、対話するための__第1歩なんだ。」


「対……話……?」


「そう。……これを見てくれ。珍しく真面目に仕事したんだ、しっかり目に焼き付けてくれよ?」


取り出すのは、裏・特殊任務の指令書。


「これ……は?」


疑念と感嘆が混ざり合った__待ちに望んだ感想に、テンションが上がる。それに拍車をかけられ、語る舌にも力が入る。


「それに、こっちもな!」


ハードケースに収納されたPCも起動させ、ある図を表示する。そこまで来て、ある計画を実行する。メンタルケア、という名の。


「あ……!ちなみに、俺が居住区ここまで来た理由、分かる?」


「……そういつの間にか居たけど……何で来たのよ?送迎係?」


「そのゴミを見るみたいな目ぇやめろよ……男が逃げるぞ?」


「はぁ!?」


「まっ、目つきのこわーい鬼はそっとしといてやるとして___」


「全部解決したら……串刺しにしてやる……」


「隣ですごい怖いこと言ってる……」


光景を育んだ男は、思った。


(いい具合に……和んできたな。ここいらで本題……行くか)


あるフォルダを開き、画面いっぱいに図面を表示させる。


「まあ理由としては、俺自身の任務の為ってとこか。結局お前らも、巻き込んじまってるが………あれ?これがお偉いさん方の狙いか!」


「自問自答して無いで説明しなさいよ!この駄目教師ポンコツ!」


「いつまでも喧嘩してないで……話が中々進まない」


それに、スマンスマンと手を上げ応える。


「ま、完結に説明すると……さっき言った神との対話、それを可能にする『狭間』って奴が発見された。その調査の為、一級免許を持ってる教師陣にお声がかかった……って、なんだその顔は?」


目の前には唖然とした顔で座り込む、2人。


「いや……何の話だか全く……」


「あぁ?」


(あぁ……そうか。生徒は誰1人として、過去せかいを知らない……だったな)


「…………」


(こいつらなら……教えても……良いよな……?)


誰でも無い、自身の決断で決めたそれを、実行に移す。何度も言う。俺のいい所は、決断が早い事であると。


「……全部……話すぜ。この……世界の事。お前達に託された___未来の事を____」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




人が。神が。また1つ、未来を塗り替えてゆく。


解かれた糸が、再び結ばれる。



佐倉__彼方。


それを導きし、神。



幸坂__逢里。

湖富__綾音。


それを導きし、人。



そしてこの時_______


「…………」


更に3つの存在いとが、寄り集まろうとしていた。




coming soon……


お読み頂きありがとうございました。

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