未知の軍団
第二節 スカイアの血脈
「ロムよ。」
父は静かに、心の底にしまった書物を一枚一枚読み解くように話すのだ。
「我らの血族は古より、皇を守護する役目を担ってきた。1000年もの戦が終結し、皇がその威厳を不動のものとした時から、我一族は自ら望んで野に下った。全ては影から皇を守るためだった。」
決して表に出ることなく、民草として生業を持ち、人に悟られることなく隠した牙を磨き続ける。
この永遠に続く忠誠の証として、皇家より承った腕輪には、
“血脈に宿りし我等の力は、世界の乱れと共に、再び解き放たれるであろう”
と記されている。
15歳の誕生日に父は言った。
「さあ、はめるがいい。この腕輪を今度はお前が受け継ぐのだ。」
第三節 哀しき巨人
この巨人は何だ!?これは“世界が崩れる”前触れか?
森と大地の気が、やがて青白く渦巻く炎となり、巨人を覆った。
“…異界の者よ…”
心に響いた。誰かが俺に問いかけている。
「…お前か?」
眼前の巨人に話しかける。しかし警戒は解かない。
“…守り切れなかった…大切な…”
巨人の心にできた隙間から、悲しい苦悩が伝わる。
“…やってくる…”
力が尽きたのか、ガックリと膝を折り、崩れるように地面に倒れこんだ。
殺意は、既に消えていた。
「何が来ると言うのだ!?」
“…この世界も、やがて飲み込まれる…”
巨人は、もはや動かず、語らなかった。
相棒の姿が見えない。
「ハーネス!無事か!!」
オンオン!と返答する声が聞こえる。何かを見つけたのか?
鳴き声のする方へ行ってみると、土嚢の中に顔を突っ込んで、
懸命に前足で掘り返していた。
土嚢、か?いや違う。焼け爛れた屍の山だ!何重にも折り重なった肉塊の下を
夢中で掘り続けている。
“いた!助かる!”
骸の山の下から、彼らが自らを身代わりに守り抜いたそれは、まだ幼い少年であった。
第四節 英雄伝説
はるか昔、この皇国は一人の覇者により創造されたといわれる。
民は勤勉に働き、国は豊かで長く平和であった。
だが、遡ること666年前、どこから来たのか、未知の軍隊が突如として現れ、辺境の村々をことごとく侵略していった。彼らは赤茶けた肌を見慣れぬ鎧で覆い、鉄の獣を従えて雪崩の如く襲ってきたのだ。
姦し、略奪し、全てを破壊する。命を賭した皇軍の抵抗も虚しく、ついには皇都までも侵食された。
死ぬのか…
誰もが絶望し、死を覚悟した。
侵略者は僅かな望みをも断ち切らんがため、城を取り囲み攻め入ろうとしたその時、城門の前に、たった一人で現れたのだ、そう、あの方が。
「来るかね。」
薄い麻の衣を纏っただけで、鎧も武器も身につけてはいない若者だった。だがその一言は決して臆するものではなく、しかして威嚇でもない。
侵略者は一瞬迷い、問うた。
「貴様は死を受け入れたのか。それとも発狂しているのか。」
そして、ああ、この時、皇国の民は永久に忘れ得ない言葉を聞くことになるのだ!
「私は死を凌駕し、生を紡ぐ者である。」と!
若者が道端に累々と転がる骸を指し示し、息を吹きかけると、なんということ、見る間に精気を取り戻し、武器を携え立ち上がったではないか!
一塊の土を掴み木々に撒くやいなや、石も木も尽く獣に姿を変えた。
ほんの少し前までただ一人であったこの若者は、今や猛軍を率いる長と化していた。
侵略者は一転驚き、怯え、恐怖の虜となった。生き返った皇軍は、もはや負けることなどありはしない。一人残らず侵略者を駆逐し、皇都は再び平和を勝ちとった。
歴史上、この未知の侵略者が現れた事は、これが初めてではない。
2000年前より、少なくとも3度、同じように突如として出現し、圧倒的な力で攻め入ったと記録されている。
だがその3回とも不思議な力を持つ“誰か”が、侵略者を打ち負かした。
1回目は初老の男で、2回目は少女であったと伝わっている。
皇都の守護神とか、皇の化身との噂もあるが、その正体は未だ分かっていない。