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ふりてんつもる(前編)  作者: ぱじゃまくんくん夫
第一章 いざ、戦国
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チンコ土下座

 溺死寸前からなんとか生還して川べりに上がってきたら、おれを川に投げ飛ばした変態クソボケ野郎は焚き火なんか初めちゃっていて、火の前にふんどし一丁のままであぐらをかいて、串刺しの魚まで焼いちゃっている途中だった。

 変態クソボケはびしょ濡れのおれをニヤニヤ笑いながら眺め見てき、

「イチモツはよく洗えただろう」

 と、言ってきた。

 クソが。

 一度は溺れ死ぬかと思ったおれは、もう開き直っていた。寒くて寒くて、本当はおれも一緒に焚き火にあたりたいところだったが、傍若無人のクソボケがむかつきすぎるので、無視して素通りしようとした。

 そうしたら、

 キラッ

 と、一瞬の素早さでおれの首根っこに刀が添えられていた。あわわ。おれは硬直し、もうひとたび小便漏らしそうだった。刀を振り向けてきたのは五人の和服どもの一人であった。

「おやかた様の問いに答えぬとは、呉牛、覚悟あってか」

 こいつ、すっげえ冷たい目だった。絶対おれより若いくせに、刀の恐怖よりも、こいつの目のほうがおれを硬直させた。

「まあ、座れ」

 変態クソボケがそう言うと、おれは冷たい目の若者に濡れた髪の毛を鷲掴みにされ、ぐぬぬ、そのまま押し座らされた。

 クッソう。

「病むぞ。脱げ」

 すると、また違う和服の奴が「脱げっ」と怒鳴り散らしてきながらおれのスウェットを引っ掴み、「あ、あ、はいぃっ」と、おれは情っさけない声を出しながら、おもむろにスウェットを脱いで、その下のシャツも、ズボンも、んで、「すべて脱げっ!」と、再度怒鳴られ、ううっ、おれは泣く泣く素っ裸になり、冷たさのせいでお粗末に小さくなっているチンコを両手で隠しつつの正座という辱めを受けた。

 こんなの、こんなの、高校のときにDQNたちにボコられたときよりもひどいわい。あんときも土下座させられたけれど、素っ裸にまではされなかったしぃ。

 串刺しの魚を火にあぶりつつ、超絶DQNの親玉の変態野郎は、

「して、貴様、何者だ」

 と、切れ長の瞼の中で瞳を横目にしてきながら言った。おれと同じぐらいか、もう少し若いか、年齢の近さが余計、過去のDQNを思い起こさせる。

 おれはチンコ土下座の格好で、寒さと恐ろしさで唇をぶるぶる震わせつつ、

「あ、あ、あっしは、ただ、ただ、未来から来ただけなんス」

 と、もう白状した。タイムスリップしただなんて絶対に信用されねえだろうけど、だって、殺される確率が高いだろ、これって。殺されるぐらいなら、白状しちまったほうがマシだ。

「なにい」

 案の定、DQNの親玉は薄ら笑いだった。

「気狂いか」

「ほ、ほ、ホントなんスから。どどど、どうせ、信用してくんないでしょうけど、本当なんスから。だって、だって、あっしがいた時代はこんな何もない時代じゃなかったんスから。刀なんか振り回してないし、建物だってもっとでかいの建っているし、パンツだって。ほ、ほらっ、あっしはふんどしなんて締めてなかったじゃないッスかっ。ほらっ」

 おれはびちょびちょのパンツを手に取り、DQNの親玉の前に掲げてみせた。そうしたら、DQNの親玉、急に眉毛を釣り上げて、途端に右ストレートをおれの頬に飛ばしてきた。

 ぐうう……。ほっぺたおさえてぶっ倒れるおれ。和服どもが全員、刀の先っぽをおれに向けてくる。

「汚ねえもん近づけやがって。調子に乗るな、この野良牛めが」

 ぐぐぐ……。ひでえ、ひどすぎる。調子になんか乗ってねえし。

 んでもって、DQNの親分は、急に焼き魚にかぶりつくと、ぐちゃぐちゃ口の中を鳴らしながら、ベッ、と、口の中のものをおれに向かって吐き出してきやがった。

 ううっ。ひでえよお。

「確かに貴様の身なりは妙なもんだ。もしや、貴様はまことに後世から来たのかもしれん。だが、それがどうした。貴様が股ぐらに身につけていたものはいまだ乾かねえが、俺のふんどしはすでに乾いているだろうが」

 は、はいっ? お、おっしゃっている、い、い、い、意味がわからん。

「それに貴様が後世の者であろうと現世の者であろうと下郎に変わりはねえ。貴様のその物言い、怖気づきよう、見てくれ巨体の肥え太りした体、足の先から髪の先まで下郎よ」

 DQNの親分は何かが気に食わなかったらしくて、おれを罵るだけ罵ると、焼き魚をばくばくと食べ始めた。

 和服どもは無言のままおれに刀を向けてきている。

「とはいえ、貴様のような気狂いなどなかなかお目に掛かれねえものだ。貴様がまことに後世から来たのなら申してみろ。後世の者どもがもっともよく知る人物とは何者だ」

 な、なんか、何を言っているのかよくわからんが、多分、日本史上、一番の有名人は誰だってことだろう。

「当ててやろう、源右大将か、平大相国、貴様が言うはおおかたその辺りじゃねえのか?」

 DQNの親玉は魚をむしゃむしゃ骨まで食いつつ、にやつきながらおれをじいっと見つめてきた。おれを試すような具合で。

 だが、試されるも何も、ミナモトノウダイショウとかタイラノダイショーコクとかそんな訳のわからねえ奴のはずねえだろうが。未来人のおれがまったく知らねえ野郎を挙げてくるとは、こいつらよっぽどの古代人だ。バカが。無教養民どもが。野蛮人が。

「ざ、残念スけど、今言った人たちはあっしは知らねえッス。てか、一番の有名人は織田信長ッス。あ、あなたたちは、し、知らないでしょうけど」

 多分だ、おれが今、タイムスリップしてきた時代は、信長が誕生する前の時代だ。あずにゃんが織田カズサノスケ様が領、尾張清洲とか言っていたからな。織田カズサノスケってのは信長の先祖なわけだ。で、目の前のこいつは織田カズサノスケの領地でチンピラしている連中ってことだ。

 しかし、おれが日本で一番の有名人を言った途端、DQNの目つきが怒気混じりの疑惑の色に変わった。

「信長だと」

「この下郎めっ!」

 と、急に叫んだのは和服どもの一人であった。一挙に五本の刀が振り上がった。お、おれは訳がわからず瞳孔開きっぱなし。まさか、織田カズサノスケってのは信長と敵対している奴で、こいつらはカズサノスケの子分ってことで、おれはうっかり敵の野郎を一番って言っちゃったんじゃ。

「まあ、待て」

 そう言って、DQNの親分はにやにやと笑い始めながら和服どもを制した。焼き魚を頬張り、また、ブッ、と、おれの顔に吹き飛ばしてきた。

 クッソ……。

「いかなる存念か、笑わせるじゃねえか。ならば、なにゆえ、信長が名を馳せるのだ。申してみい」

「い、いや、あ、あなたたちが信長の敵だったら、あ、あ、あっしが間違ってました! す、すいやせんっ!」

「ごちゃごちゃ言ってねえで申せいっ!」

 DQNの親玉、ブチギレて一喝。チンコ土下座のおれは、さらにチンコを縮ませて、唇も肩もぶるぶる。

「あ、あ、あ、あ、あの、いや、いや、その、な、なんて言えばいいか、て、テンカフブ、て、て、天下布武なんス」

「なんだあ、それはあ」

「て、て、天下、と、とーいつ」

「何が言いてえ。貴様は信長が天下を統一するとでも言いてえのか、あーっ?」

「そ、そ、そうかもしんないッスけど、わ、わ、わかんないッス。天下統一するのは、やっぱり、あの、信長じゃなくって、織田カズサノスケさんかもしんないッスし。あ、そうッス、カズサノスケさんッス。やっぱりそうッス」

「こやつ……、おやかた様、正真正銘の気狂いです。斬り捨ててしまいましょう」

 ひっ、ひっ、ひいいいいいいいっっっっっっ!

 一にも二にも斬り捨てるって、どんだけ野蛮なんだよ、この世界!

「フン」

 DQNの親玉は冷ややかな目でおれを見下ろしつつ立ち上がった。そうして、テメエの左手を和服の一人に差し出した。そしたら和服の一人が鞘におさまった刀を出してきて、DQNの親玉は、静かに、鬼気迫りつつも、ぬうっと刀を鞘から抜き出してき、

「この下郎め」

 ぶわっ、と、刀をおれの首めがけて振り下ろしてきた。

 ああっ……。

 死んだ……。

 あ、いや、刀は首の皮一枚で止まっていて、そこには刺すような痛さとともにゆっくりと伝っていくテメエの血液の温かさ、刀の柄を握りしめるDQNの親玉は涙目のおれをじいっと覗き下ろしてき、にやっと笑った。

「おもしろい。ならば、この織田上総介信長に毎朝毎晩、その大法螺を聞かせてみやがれ」

 えっ……。

「おい、俺の浴衣をこの野良牛にくれてやれ」

「は、ハッ」

 えっ……。

「まあ、今日からこやつは俺の飼い牛だがな」

 キャッキャッキャッ! と、甲高く笑いながらDQNの親玉は川べりの土手を上がっていき、いそいそとそのあとを付いていく和服ども、ただし、五人のうちの一人がおれに服を差し出してきて、

「下郎ごときがおやかた様の衣服を頂戴するなど勿体なきこと。後生大事にせい」

 受け取った着物ってか、浴衣? なのかは、模様が散りばめられている。

 家紋……。

 あの、ゲームとかドラマとかでよく見かけるあの家紋。

 信長の……。

 て、て、てか、ヤバすぎてマジで涙が出てきた。恐怖から救われた安心感と、気分をころころ変えるDQNの親玉のすさまじさに。

 てか、まさか、あの変態DQN野郎が信長だったなんて。織田カズサノスケって信長のことだったなんて。


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