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ふりてんつもる(前編)  作者: ぱじゃまくんくん夫
第七章 新たなる舞台
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好事

挿絵(By みてみん)

 摂津池田は三ヶ月ぶりである。

 吹く風は冷たく、池田城の丘から続いて広がる山もすっかり枯れていた。

 それでいて空は澄んで青い。景色にはさびれた冬の輪郭がはっきりとあらわれている。

 夏空は霞むのに、山が枯れたあとの冬空はまばゆいだなんて、季節とは因果なもんだ。

 おれが目付役としてやって来ることは池田の連中にはすでに知らされてあった。

 城を訪ねると、八郎三郎が直々に面会するとのことだった。

「先だっては世話になった」

 と、頭を下げてきた。八郎三郎の骨太に頬の張った面構えは、以前より精悍になったようにも見える。

 なにかこう、威風をそなえたような。

「三好三人衆が堺の湊で暗躍しているとか」

 おれが直球で訊ねると、八郎三郎は「左様」とうなずき、濁りのない声で言う。

「乱波を放ったところ、阿波(四国の三好本拠地)からの兵を上陸させているらしく、どうやら浪人なども集めている。二万貫を要求されている堺の会合衆は織田殿に徹底抗戦の構えであり、連中も浪人集めに一役買っているのは間違いござらぬ」

 ともかくも、おれの住まいを城下に用意してくれているということなので、側仕えの奴に案内してもらう。

 クリツナに跨って仮住まいに向かうがてら、それとなく復興されている城下の町並みを眺めながら、おれは疑問に思う。

 三好三人衆が堺で反抗の狼煙を上げようとしているのを信長は知っている。じゃなければおれを池田に派遣しない。

 それなのに、軍勢は出さない。

 おれが信長と一緒に岐阜に戻ったときは、長ヒゲ佐久間も京都に残っていて、織田勢五千人はあった。

 しかし、先月にも長ヒゲ佐久間も岐阜に帰ったそうなのである。

 実のところ、マリオやサルも、兵卒たちを自領に戻しており、主だった家来しか身の回りに置いていないそうだった。

 もちろん、信長に無断でそうできるはずがない。むしろ、信長の命令でそうしたはずだ。

 どういうことだろう。

 仮住まいに到着すると、門構えからして一人で住むには大きすぎる屋敷だった。

 それにこの辺りは――。

 焼き払われたせいで真新しい建物に変わっているが、隣の屋敷、その門前には雑兵が一人立っている。

 おれは八郎三郎側仕えの家臣に訊ねた。

「こちらのお屋敷は荒木弥助殿のお宅じゃないですかね」

「ええ。左様でございます」

 好都合だ。あわびを食える。

 屋敷の内のあちこちを教えられたあと、明日から奉公人が来るからと言い残して側仕えの奴は帰った。

 鉢巻きがクリツナに水と餌をくれてやりながら言う。

「ずいぶんと立派な屋敷だな。岐阜の屋敷と同じぐらいじゃねえのか」

「そりゃそうだ。なにせおれは池田にとっちゃ功労者だぞ」

 メシを食い終えたクリツナが庭をうろうろと回って下調べをしているのをよそに、おれは広間に上がって、自由を味わいながら寝そべった。

 ヘタレと軒先を並べているんじゃ、ここは重臣の屋敷のはずだろうけれど、新木の香りに溢れている屋敷のどこもかしこもすっからかんで、人の住んでた気配もまるでない。

 不可思議になりながらも、出張先は思いがけずに新築の豪邸だ。

 口やかましい息子もいなければ、鬼神もいない。

 鬼神じゃないあずにゃんと離れ離れというのを差し引けば、長期出張も悪くはないもんである。

 サルを茶化そうとしていたものの、こうともなると、やっぱり、愛人の一人ぐらいは囲いたいものだ。

 これから先、おれは出張の連続になるやもしれん。

 愛人、ではなく、行く先々で現地妻を確保したっていいだろう。



 夕暮れ、ヘタレが女中たちに五人前の膳と酒を持たせてやって来た。

「や、簗田殿がお越しになられたと聞き、あわてて作らせました」

 おれを投獄した後ろめたさなのか、ヘタレの愛想笑いはぎこちない。

 もっとも、五十貫文をピンハネさせてもらったので、あの裏切り行為は意に介していない。

 むしろ、ヘタレから近づいてきてくれるならば、何かにかこつけてもっとカネを貰ってしまおうか。

「わざわざお心遣いありがとうございます。けれども、どうして五人分なんですか」

「拙者も同席させてもらおうかと。あと、簗田殿のご家来方々の分も」

「一人しか連れてきてませんよ。でも、もったいないからあっしが三人分いただきましょうかね」

 食い方が汚い鉢巻きを部屋に下がらせ、広間でヘタレに酌を注いでやる。ヘタレもおれの盃に酌を注いでくる。

 最初はぎこちなかったくせに、再会に慣れたのか、ヘタレはわりと自然ににこにことしており、愛想でやって来たというよりも、なんなんだろう、本当におれを待っていたようなふしである。

「明日は是非とも拙者宅の庵で盃を茶碗にしませぬか」

 おれはあわびに舌鼓を打ちながら、うなずく。

「だけど、あっしなんかにお点前を振る舞ってくれたところで恐縮ッスね。あっしは茶の湯の心なんてこれっぽちもわかりゃしませんよ。実はあっしの奥方が勝手に茶室を作っておりましてね」

 あずにゃんにいちいち手厳しく作法を学ばされているのを伝えると、ヘタレは逆に目を大きくして喜色をあらわした。

「それならば是非」

「ええ? あっしの何がいいんスか」

「何がいいって、うーん、そうですねえ、名器にお呼ばれしたところでしょうか。九十九髪茄子に。名刀も人を選んで渡っていくように、名だたる茶器も人を選んで渡っていくはずです――」

 酒が入ったからか、ヘタレは訳のわからないことを熱く語るのだった。

 弁舌は止まらなかった。おれはふむふむなるほどと適当に相槌を打つだけだった。

「茶の湯とは世界なのです。拙者は表現したいのです。拙者の世界を」

 ヘタレの語る情熱がいよいよやばくなってきて、おれは相槌も打たなくなって、膳のおかずに夢中でいた。

「いえ、表現ではなく、体現でしょうか。例えば、書き物などでは雨が降ったと書けば、読む者に雨が降っていると教えられましょうが、しかし、そればかりでは冷たい雨なのか、まとわりつく雨なのか、はたまたいついかなる心持ちの雨なのかわかりませぬ。茶の湯とて、どのような心持ちでもてなすつもりなのか、お客に何を伝えたいのか」

 味噌汁のぶりは引き締まった身から脂がじんわりと舌につたってきて、うまい。ぶつ切りのねぎにも魚の脂とほどよく薄味の汁が染み込んでいる。

 尾張の人間が作る味噌汁は濃い口ばかりだから、あっさりとしていて新鮮だ。

「しかし、お客にもそれがわかってもらわねば始まりませぬ。ゆえに、拙者は簗田殿はおわかりいただける御仁だと思うのです」

「ふんふん。なるほど」

 と、あまり聞いちゃいないが、適当にあしらっているだけだとヘタレに気づかれてしまうだろう、ヘタレが舌休めに盃の酒を舐めたところでおれは口を開いた。

「そうは言っても弥助殿。伝えようとするばかりのお心持ちでは押し付けがましくなってしまうこともあるんじゃないんですか。なにせ、空間という世界は生きているようで生きていませんから」

「生きているようで生きていない――、というと?」

「人がそこにいるから世界は生きているもんだとあっしは思うんですがね。しかし、人は一人じゃなく二人、二人じゃなく何百人、何万人ですから。それぞれの心持ちがあって空も風もさまざまな側面を見せてくるでしょう」

「ははあ」

「弥助殿が一つの世界を体現するとなって、もしもご自身の考えに凝り固まってしまえば、それは自己満足で終わってしまうかもしれません。もう一人、お客がいるのですから。押すばかりではなく、引くのも肝要じゃないですかね。さすれば、一人の世界ではなく、二人の世界が生きてくるのではないでしょうか」

 とどのつまり、最低限の作法ならまだしも、あずにゃんみたいに口うるさいのはご勘弁だし、心が乱れているだのと偉そうに口をつくのも本末転倒なのだ。

「しかし、簗田殿。拙者の招いた席に一歩踏みいれば、その世界なのです。いや、その世界を実感してもらうことこそ使命なのです」

「そういう堅苦しいのがいけないんだ。玉を磨きすぎて角が立ってしまうようなもんだ」

「堅苦しいのではありませぬ。緊張と緩和です。玉は磨かなければ石です。角が立つか断たないかまで磨かなければ輝きませぬ」

「ほほう。なるほど。そこまで言うんであれば、明日にでも見せてもらいましょうか」

「いや違う。簗田殿。そういう心持ちはよくない。見せてもらおうかではなく、招かれるかです」

「じゃあ、招かれましょう」

 ヘタレ弥助はご満悦そうにうなずきながら、酒を舐めた。

 そういう情熱を少しはべつのところに向けてもいいと思うんだが。




 翌日、城から身の回りの世話をするという奉公人が来たが、ジジイだった。

 チッ。おにゃの子を使わさないとは八郎三郎はわかってねえ。

 ヘタレ弥助の庵を訪ね、茶の湯賢人にお茶を振る舞われる。

 あずにゃんには茶碗を褒めろだとなんだのと言われていたが、おれは素人ながらにこうするべきだああするべきだと率直な意見を言う。

 ヘタレはなるほどと納得するときもあれば、いやそれは違うと反論するときもある。

 そうやって語り合っていると、不思議なもので、ただの茶碗もただの茶入れも、なんだか妙に味わい深いものに感じてきてしまう。

 それはともかく、おれは訊ねたいことがあった。

 座談にそれとなく区切りがつくと、おれは「ところで」と開口した。

「あっしが借りている屋敷はなんのために造られた屋敷なんスかね」

「ああ、あれは、建てている途中に住まう予定だった者がこれとなってしまい」

 と、ヘタレは手刀で自分の首を叩くのだった。

 八郎三郎に訳のわからぬ罪を着せられて誅殺されたらしい。というのも、八郎三郎の政敵に近い人物だったらしく。

「先ごろの降伏以来、おやかたは、池田の一族に分散されていた権力をご自身のものに集めようとしているのです。ただ、おかげさまで――」

 ヘタレ弥助やゼニゲバ瀬兵衛は降伏側に立っていたので、地位がそれなりに上がっていると言う。

 ともすれば、八郎三郎に権力が集約されていく以上、三好三人衆側に付くことはないかもしれない。

 ただ、おれが気がかりなのは、どうして信長が三好三人衆の動きをほっておいているかということだ。

 わざとそうしているような気がしてならない。

「弥助殿。あっしは思うんですがね、三好三人衆が堺で兵を集めているという話、うちのおやかた様は存じ上げているんですよ。それなのに畿内から大多数を引き払ってしまっている。もしも、三好三人衆が攻め入るとしたらどこだと思いますか」

「それは無論、京だと。公方様を殺すつもりでしょう」

「京はすっからかんです」

「織田殿があえてそうしていると?」

「あっしはそう思うんです。ただ、それをしたところでなんの利益があるのやら」

「利益と言えば、公方様に示しつけることでしょう。織田殿がいなければ公方様は成り立たないと」

「ははあ」

 茶室だと頭が冴え渡っている賢人弥助に感心した。

 違いない。信長がやりそうなことだ。三好方にあえて攻めさせ、公方を窮地に立たせ、いざというときに岐阜から乗り込んでくる腹づもりなのだろう。

 けれども、三好三人衆が京に攻め上がってからでは遅いんじゃないだろうか。軍勢を引き連れながらでは、岐阜からだと早くても四日か五日はかかる。

 摂津衆を当て込んでいるのか。

 ……。

 だから、おれを池田に派遣しやがったわけだ。

 よくもまあそんな危ない橋を渡らせくれるもんだ。

 摂津衆が三好方に付いてしまったらミイラ取りがミイラになっちまうじゃねえか。

 そう考えると寒気がしてきた。

「弥助殿。八郎三郎殿に進言してもらえませんか。三好方が動いたとき、いつなんどきでも京に駆け付けられる態勢を取っておくべきだと。もし、そうなれば、池田は公方様の覚えもめでたくなるはずです」

「なるほど」

 賢人弥助はすぐに理解して、さっそく城へと登っていった。

 おれは庵で待つ。

 ヘタレが城に行っているあいだに庵で待つというのは、投獄されたときを思い出させる。

 不安を覚えながら庭を眺めていると、人質がいた。庵に手招き、膝の上に確保する。

 八歳ぐらいの子供である。ヘタレの嫡男らしい。

「お前、なんていう名だ?」

「新五郎と申します」

 童顔のヘタレに似て可愛いやつだった。

 膝の上で置き物のようにおとなしい。茶碗の入った箱を終始じっと見つめてもいた。

「そんなに気になるか」

 新五郎は振り返ってくると、つぶらな瞳を無言で見せてくる。気になるということだった。

 おそらく、ヘタレのことだから茶器に触れるなと言い聞かせているのだろう。

 おれは新五郎を膝から下ろすと、にやにやとしながら茶碗の箱に手をかける。お父さんが秘密に興味があるのは子供の常だ。

「父上に叱られまする」

 と、不安げに眉をすぼめる。

「じゃあ、やめようか」

 すると、無言でおれを見つめてくる。

「おれはべつに見たからいいんだ」

 茶碗の箱から手を離すと新五郎は唇を尖らせる。

「ちょっとだけだぜ」

 新五郎がうなずいて、おれは箱から茶碗を出してきた。新五郎はじっとして茶碗を見つめ、おれに視線を向けてくる。

「お茶碗です」

「そうだよ。茶碗だよ」

 新五郎は小さな首をかしげた。茶碗を箱の中に戻していき、おれはおかしくて仕方ない。どうしてお父さんはこんなものを大切にしているのか不明なのだろう。

「にらめっこしようぜ」

 新五郎は頬をふくらませてくるが、まったくおもしろくない。

「鬼の顔をしてやる」

 おれがデザイアの顔真似をすると、新五郎はけらけらと笑い転げた。

 庭で足音がして、ヘタレ弥助が帰ってくると、新五郎はそそくさと姿勢を正し、庵に入ってきたヘタレに頭を下げる。

「お帰りなさいませ父上」

「なっ! 新五郎っ! 庵に入ったらいかんと申し付けたろうがっ!」

「いやいや、弥助殿。あっしが入れてしまったんです。庭で遊んでいたんで。今日だけは勘弁してやってください」

 ヘタレは不服そうであったが、しぶしぶうなずく。

 事の次第は整えておくという返事を八郎三郎から頂戴したと言ってきた。




 暮れにかけて、ほとんどの時間をヘタレ弥助か、もしくは息子の新五郎と過ごした。

 目付けらしい仕事もしなくちゃならんので、ヘタレの仲介で日に一度は池田一族の重責を担う連中と懇談し、北摂津の情報収集にも務めた。

 そうすると、意外と忙しくて、現地妻の調達にもなかなか乗り出せず、エロは年を越したらだなと思いつつ、大晦日ばかりは鉢巻きと二人きり、除夜の鐘を聞いた。

 三好方が進軍したとの一報が飛び込んできたのは年が明けて一月四日のことだった。

 軍勢は前日にはすでに堺を発っており、山崎を越えて市中を目前にしているとのことだった。

 一月五日の朝、待ってましたとばかりに池田勢は出陣し、おれも岐阜から持ってきていた甲冑を着込み、八郎三郎やヘタレ弥助ともども、クリツナの背中にまたがって上洛する。

 進軍途上、三好方が公方御所の本圀寺を攻め込んでいるという情報が入ってきて、足を早めた。

 夕刻、市中郊外までやって来ると、なんと、三好方が市中から桂川まで退いていた。

 後から聞いた話によれば、本圀寺は陥落寸前だったらしいが、摂津衆が駆け付けているという報告を受けて、後詰を恐れた三好三人衆が池田勢と対峙してきたのである。

 摂津池田の兵数は三千人ばかしで、対する三好三人衆は五千人ほどだった。

 目付け役のおれは兵隊を備えていないため観戦するだけだが、これはちょっとまずいかなと思った。

 が、その矢先、翌、一月六日には伊丹の伊丹大和守も軍勢を連れてやって来た。

 さらに本圀寺で三好三人衆の攻撃を持ちこたえていた手勢も合流してきて、桂川河岸で開始された戦闘は激戦であったが、兵数で上回っている幕府方が蹴散らして、三好三人衆は退却した。

 すると、翌、一月七日には信長が本圀寺に来たのだった。

 摂津池田に三好方布陣の一報が入ったのは一月四日であり、おそらく、岐阜への報告はその翌日か翌々日のはずだった。

 つまり、信長はおれが七日間かけてやって来た岐阜と京都の間を、一日か二日で来てしまったのだ。

 ましてや美濃と近江の国境、関ヶ原辺りが大雪だったため、強行軍に軍勢は付いてこれず、本圀寺に到着したときの信長に付き従ってこられたのは馬廻衆わずか十一騎だった。

 三好三人衆は信長が入洛したゆえに完全敗北を悟ったのだろう、畿内から四国へ退散したらしい。

 足利公方は信長の迅速な行動に感激したという話は、本圀寺で守備についていたという明智十兵衛から聞いた。

 アホくさ。

 信長の魂胆をなんとなく察していたおれは今回の茶番に付き合わされたわけである。

「貴様。わかったか」

 と、おれを呼び出した信長は得意げな顔をして言うのだった。

「池田がもっとも早かったのは貴様の差し金だろう」

「いや、まあ、三好方が怪しい真似をしているってのは伝え聞いていたんで、忠告しただけッス」

「フン」

 信長はそれきり何も語らなかったが、今回の茶番劇はただ単に信長が自分の行動を演出した以外にも、あらゆるところに狙いがあった。

 ひとつには、池田勢の対応だった。おれが信長の動きを(推測でしかなかったが)漏らしたことにより、八郎三郎は自分の基盤をより固めるために幕府方(織田方)をはっきりと表明したのだ。

 ここで足利幕臣としての手柄を立てるのは、池田八郎三郎ありと内外に誇れる。結果を残せば一族のうるさい連中も黙らせられる。

 はからずも、足利公方に危機意識を刷り込ませたい信長と、一族合議制の運営から脱却したいと考える八郎三郎の利害とが一致したのだった。

 それともう一つ、三好方の上陸を放っておいたのは、堺の会合衆に三好三人衆に加担していたという事実を作り上げるためだった。

 堺は、商人たちが支配している自治都市だ。建前としては非武装集団なのだから(浪人を雇って警備させているらしいが)、攻め入るとさすがにひんしゅくを買ってしまう。

 しかし、三好方が出撃してきたことによって、中立性のなさがはっきりと示されて、信長が攻め入る大義名分は出来上がったのだ。

 信長は三好三人衆が退散したあと、日も立たないうちに堺に最後通告を送った。従わなければ焼き討ちすると。

 そのいっぽうで、本圀寺が陥落寸前の危機だったのは、信長にとっても誤算だったらしい。

 足利義昭を本圀寺に住まわせるのはやめて、二条御所を防御力の高い城に建て替える計画を立てた。

 信長は尾張美濃や畿内の諸将へも大号令をかける。

 すっからかんだった京都は二条城建設のために大勢の武将、兵卒、人夫たちが集まって、にわかに賑わいを見せた。

 そこまではまあいい。

 おれは目付役を解かれ、土方に参加させられることになったのである。

 太郎が引き連れてきた沓掛勢ともども。

「遅くなりましたが、明けましておめでとうございます」

「おう……」

 せっかく自由を得られていたというのに、またぞろ口うるさい小僧の監視下に置かれてしまった。

 しかし、年始のいくさと、二条城建設のために人が集まっている状況は、おれにおもしろい話を転がり込ませてくれたのだった。

 池田勢とともに二条城建設に従事させられているヘタレ弥助が、おれの仮住まいの寺にふいとやって来て、人払いを願ってきたのち、小声で囁いてきたのである。

「じ、実は、拙者が茶の湯を師事している田中与四郎様から文が届きまして」

 ヘタレはおれにその手紙を見せてきてくれた。

 内容は、堺会合衆に突きつけられている最後通告を回避することはできないか、誰か織田の将に仲介してもらえないかということだった。

 ほほう……。

 なぜ、ヘタレがこの話をおれに持ってきたか。

 もちろん親しくしている織田の将というのはおれしかいないからだろうが、信長の動きをリークしたゆえ、おれが信長に近しい家臣だとヘタレは勘違いしたのだろう。

 堺と信長の仲介――。

 カネの匂いがぷんぷんと漂ってくる。

「そうッスね、どこまで出来るかはわかりませんが、とりあえずそのタナカさんとやらから話でも聞きましょうかね」

 うまく立ち回れば堺のビッグマネーを獲得できる。

 やはり持つべきものは友だ。


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