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初めての死

読んでいて胸糞悪くなった方は、すぐにページを閉じて下さい。

このでかい外人の名前はマイケルって言うらしい。

なんかすんげーありきたりな名前だ。

俺は本名を教えるのを躊躇した。

ゲームで本当の名前を名乗るとかしたことないし。

だから、テキトウに、、、、シュウって答えた。


「なぁ、シュウ。お前は普段何をしているんだ?仕事か?それとも学生か?」


うぜぇぇぇ。

なんだコイツ。

まじ外人ってどこまでフレンドリーなんだよ。

てか、仕事とか学生とか、そんなのいいたくねーよ。

ニートですから!!


「ん?あ、ま、まぁ、普段は仕事してるよ・・・け、警備員の仕事をね・・・あははは」


嘘は言ってない。そう、断言できる。

24時間自宅を警備してる俺は、プロの警備員である!


「おー!警備員なのか!じゃあバッドガイが出てきても、シュウに任せれば安心だな!」


いやいやいや、無理無理無理。

てか、バッドガイってそこは英語なのかよっ。


「お、おう。任せろ。マイケルは、普段何してるんだ?」


そう俺が言った瞬間。


僕は刺されました。


最初に感じたのは、痛みではなく、衝撃だった。

突然、わき腹を殴られたように感じた。

んで、前によろめいて転ぶと、俺に向かってマイケルは言った。


「俺は人を殺してるんだよ、シュウ」


はい?嫌、まじで意味わかんねぇーから!

どういうこと?

てか、いてぇ!なんだこれ!腹がいてぇ!


殴られたわき腹に手をやると、べっとりと赤いものがついていた。

それは、俺の血そのものだった。


「おい!なんだよ!どういうことだよ!」


喚く俺。

笑う、マイケル。


いや、ギャグとかそういうのじゃないです。まじで。


血がどばどば出てきた。信じられないくらい。

血って暖かいんだな。初めてしったよ。


マイケルの方を見ると、まじで怖かった。

さっきまでのフレンドリーな顔つきが消えて、完全に眼光見開いて、笑ってるんだもん。

引くよ。完全に引くよ。

あの顔、今も夢にでてくるもん。


「これだから、初心者狩はやめられないんだよ!お前みたいなマヌケを殺してストレス解消さ!」


そう言って、マイケルは俺に襲い掛かってきた。

俺は怖くて怖くて、どうにも出来なかった。

腰が抜けるってああいうことなんだぁって思った。

立てずに震える俺に向かって、マイケルは何度も手に持つナイフを振りかざしてきた。

一回、二回、三回、四回、五回、六回くらいまでは何とか覚えてる。

でも、それ以上はもう分からない。

それでたぶん、俺は初めて死んだんだ。



目を覚ますと、液晶画面には GAME OVER の文字。

放心状態の俺は、その場でションベンを漏らした。

糞ももらした。

そして、ゲロを吐いた。

穴から全部出し切った。


そして、泣きながら深夜の家の階段を下りると、服のままシャワーを頭からかけた。

何がなんだか、分からなかった。


いや、何となく自分に起こった事は理解できるけど、それを認めるのが怖かったんだと思う。


一時間くらい、

延々とシャワーをあびながら泣いていた二十八歳と二ヶ月の夜。


少しづつ気持ちが落ち着いてきた俺は、びしょ濡れになった服を脱ぎながら、マイケルに刺されたわき腹を恐る恐る見た。

本当に、この時は怖かった。

自分の身体がどうなっているのかわからなかったから。


傷はなかった。それどころか、血の一滴さえもついちゃいない。

現実か?これは現実なのか!?

俺は混乱した。

あのナイフの痛みは、紛れもなく本物だ。

リアル。そう確かに感じた。

自分の身体に入り込む金属の質感は冷たかった。

傷口からあふれ出る大量の血は暖かかった。

どっちも確かに感じたあの感覚は、絶対に本物だ。間違いない。


ぬれた服を洗濯機へ叩き込むと、俺は素っ裸のまま自分の部屋に戻った。


部屋は地獄のような状態だった。

ションベンと糞が混ざり合い、絶妙のハーモニーをかもし出している。

俺の昨日くったカレーライスは、ゲロとなってもろに散乱していた。


そんな時にまず心配したのは、パソコンだった。

これがなくちゃ生きていけない。ゲーム廃人となった人間の悲しい性だ。

何とかPCは守られた。

ゲロを吐く瞬間、とっさに口を覆った右手に俺は今でも感謝している。


ただでさえ汚い部屋が、三大汚物のお陰で見事に美フォーアフター。

トイレからトイレットペーパーをとってきた俺は、ぐるぐる巻きにした右手で、せっせと糞を集め始めた。

そしてそれをビニール袋へ入れる。


この作業を何度か繰り返していくうちに、俺は悟りを開いた。


糞を糞だと思わず、ションベンをションベンだと思わず、そしてゲロをゲロだと思わなくなったのだ。

この時ほど、人間の適応能力の高さを感じた出来事はない。


全てを片付け終えると、部屋には異臭だけが残っていた。

窓を開けようにも冬だったため外は寒い。

俺は仕方なく、素っ裸で布団にくるまり、窓を開け放って寝ることにした。


でも、寝れるわけなかったんだよな。やっぱり。

布団に包まると、俺は震えながら号泣してた。

あれ、俺の涙ってまだ空っぽじゃなかったんだって思った。

シャワーを浴びている時に散々泣いたはずなのに、まだ泣けた。どんどん零れて出てきたんだ。

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