第5章-20 決戦前の出来事~ストーカーとの邂逅編~
今年最初の投稿です。
今年もよろしくお願いします。
因みに、少し前に去年最後の投稿をしています。
休養日二日目。明日には大会の決勝が控えているので、普通ならばその準備に費やすはずであるが、俺は朝から台所に立っていた。
「おそらく失敗はしていないと思うけど……よし!ちゃんと固まっているな」
俺は台所に設置した冷蔵庫型の魔道具(俺製、じいちゃん&アイナ監修)から、一枚の琥珀色をした板状の物を取り出して触って確かめた。
「後は肝心の味だけど……」
まな板の上に置いた板状の物を、格子状になっている溝に包丁を当てて割っていく。その内の一つを口に入れて味を確かめた。
「うん、成功だ!この様子なら、他の味も大丈夫そうだな」
俺が作っていたのは飴だ。昨日の屋台で、水あめを売っている所があったので大量に買い、手軽にエネルギー補給が出来る携帯食として改良してみたのだ。
因みにこの世界では、飴と言ったら水あめの事を指し、固まっている飴玉は見かけた事が無く、じいちゃん達も聞いた事が無いそうだ。
なので、前世でよく食べていた飴を思い出しながら作ってみたのだ。幸い、その材料は簡単なものだったので覚えていたが、それに手を加えてみたので成功するか少し不安があった。
材料には買ってきた水あめと砂糖、蜂蜜少々にレモン汁で、これらを鍋に入れて煮詰めていき、焦がさないように気を付けて、火から外した後でしゃもじで練りながら粗熱を取り、バットに流し込んで冷蔵庫で固める。これを基本の味として、その他にレーズンやレモンの皮を刻んだ物、岩塩を少し混ぜた物等、中身を変えて数種類作ってみた。
「狩りの時なんかにもってこいだな。今度、暇な時にでも量産しよ!」
俺は次々と飴の板を割っていき、種類ごとに瓶に詰めてバッグに仕舞った。
飴をバッグに仕舞っている時、背後に気配を感じたので振り返ると、そこにはスラリンがおり、こちらを見ていた。どうやら珍しく食べ物に興味を示したようだ。
俺の足元までやって来たスラリンは、床にまな板の上からこぼれた飴の欠片が落ちていることに気付くと、触手を伸ばして欠片を拾い、体内に取り込んだ。
「うまいかスラリン?」
俺の言葉に返事を返すように、スラリンは体を縦に弾ませている、どうやら、俺の作った飴をスラリンは気に入ったようだ。
珍しくスラリンがねだるので、飴を各種半分ずつ程分けて渡すと、スラリンは一度に食べずに体内にあるマジックバッグに仕舞いこんだ。
この時、シロウマルとソロモンが珍しく食べ物に反応しないと思ったら、二匹はまだぐっすりと寝ていた。
おそらく、強い匂いがしなかったので気が付かなかったようだ。
飴を楽しんでいるスラリンに留守番を頼み、俺はケリーの工房へと向かった。
未だに屋敷の近くにやじ馬が居るが、俺に話しかけてこようとする者はいないので、ジャガイモか何かだと思って無視しておこう。
ちなみに、今日は朝から昨日のストーカー三人組が居たが、やはり俺に話しかけてこないのでこれも無視をした。
ケリーの工房に着くと、まだドアに鍵がかかっていたので、預かっていた鍵を使って中に入った。
中ではケリーを始め、スタッフの女性ドワーフ達が床で熟睡しており、俺が入って来た事に気が付いていない様だ。
俺はまず最初にケリーの確認をし、安全そうなので声を掛けて起こした。
「うぅ~……おはようテンマ……そこに置いてあるぞ……」
ケリーは半分寝ているような反応で、アダマンティンの剣を指さした。剣の柄の部分には、シロウマルの毛を編んで作った純白の縄が巻かれており、見た感じでは悪い所が無いように思える。
「少し、裏の方で感触を確かめて来るな」
俺は剣を持ち、ケリーにそう告げた。ケリーは胡坐をかいた状態で船を漕ぎ、手を幽霊の様に振っていた。多分聞こえてはいないだろう。
俺は工房の裏庭で剣を振り、柄の感触を確かめてみたが、結果は上々であった。シロウマルの毛は本来つるつるしており、縄にしても滑ってしまうのではないかと思っていたが、ケリー達は毛を結んで繋げた時に、わざと結び目を大きくしたようで、その結び目が滑り止めとなっていた。
「なかなかによく出来ているだろう?」
剣を振っている俺の後ろから、ケリーがあくびをしながらやって来た。
「ああ、上出来だ!」
元々全体が黒く、武骨な印象を受けそうな剣であったが、刀身の側面に掘られたドラゴンと純白の縄のおかげで芸術品、もしくは儀礼用と言ってもおかしくは無い感じに仕上がっている。
「ありがとうケリー。それで料金はいくらだ?」
俺はバッグから財布を取り出したが、ケリーは首を横に振った。
「いらん、いらん。元々剣の調整と彫金の代金は大公様に多めに貰っているし、縄にしても素材はテンマ持ちで、私達は毛を編んだくらいだ。だから、手間賃は大公様に貰った料金に含まれているようなものさ!」
どうやらアーネスト様は、俺が無理を言った時の為に多めの料金を払っていたそうなので、縄を編んだのは調整の内だとケリーは考えている様だ。
「それに、テンマには差し入れを沢山貰ったからね。新しい技術がうまくいき、うまい物が食べれて、料金も前払いで多めに貰っている……これ以上貰ったら過分すぎる」
そう笑うケリーに、代金を払うのは良くないと思い、俺は財布をバッグに仕舞った。
「しっかし、シロウマルの毛はかなり良質の素材だな!滑らかで綺麗で頑丈で、おまけに各種耐性まで備えている。その縄、火で燃やそうとしても、なかなか燃えないぞ」
各種耐性(この場合は、火、水、風、土、雷、氷の魔法耐性の事を言い、他にも毒や麻痺なども含む事がある)を備えていると言うのは、単一の素材ではなかなか珍しい。特に体毛などの素材は、基本的に火に弱い事が多いが、シロウマルの毛は火にも耐えるというのだ。
「そいつはすごいな……シロウマルが魔法防御が高いというのは知っていたが、毛にも耐性がついていたのは知らなかった」
シロウマルが並の魔法を食らっても、あまり気にしていないのは気付いていたが、その理由の一つが体毛にあったというのは驚きだ。てっきり、シロウマルの身体能力や生命力の高さが原因なのかと思っていた。
シロウマルの体毛についての考察はそれくらいにして、俺達は剣の最後の微調整に入った。
微調整と言っても、主に柄の部分の調整のみであり、あまり時間はかからなかった。
「これで終了っと!」
ケリーに柄の縄を結び直してもらい、俺が使いやすい太さに調整した。
「これで、大公様の依頼の半分は終了だな!」
「依頼の半分?」
ケリーが言った意味がいまいち分からず、俺は首を傾げながら聞き返した。
「そうさ、まだ依頼は完全に終わっていないよ。これは大会用の調整だ。大会が終わった後も使えるように、試合後の研ぎが残っているのさ。だから、大会が終わった後で、うちの工房に持ってくるんだよ!」
そう言って、ケリーは俺の背中を思いっきり叩いた。
女性と言っても、そこはドワーフの鍛冶職人。ケリーの力は、一流の冒険者と比較しても遜色のない物なので、俺の体は軽く飛んだ。
「それじゃあな。忘れずに剣を持ってくるんだぞ!私はもう一度寝る」
あくびをしながらケリーは工房へと戻り、自分が寝ていた布団に潜り込んだ。
俺は鍵を返そうかと思っていたのだが、ケリーが早くもいびきを始めたので、仕方なくケリーの代わりに戸締りをしてから店を出た。
そのまま散歩代わりに、屋台を冷やかしながら歩き続けたのだが、またも俺の後をストーカー三人組がついて来ている。
無視するのもいい加減疲れてきたので、細長い裏路地に誘い込んだ。
三人組は、何の疑いも持たずに裏路地までついて来た。
「こんにちは」
裏路地の入口から少し入った所で待ちかまえ、三人組に声を掛けた。すると、三人組は驚いたようで反射的に逃げようとする。
「ああ、逃げないでくださいね。あなた達の正体は大体掴んでいます。さすがに、貴族様がストーカー行為に勤しむのはどうかと思いますが……国王陛下には黙っておきますので、このような事はお止め下さい。近々正式にお会いする機会があると思いますので、それまでご機嫌よう」
相手が言葉を発する前に一気に捲し立て、俺は壁を蹴りながら、建物の屋根の上へと飛び上がった。
これが知らない貴族であったなら、王様達に報告するところだが、彼らにとって幸いなのは俺に危害を加えようとしたわけでは無く、また、彼らの身内に俺の知り合いがいた事だろう。
数日もすれば王城でパーティーが開かれる予定である。それに大会で入賞(三位以上)が確定している俺は、特別に招待される事になっているので、その時にでも会う機会はあるだろう。
もう一度俺は、ポカンと口を開けている三人組を見てからその場を去った。
屋根の上を気付かれない様に飛び跳ね、人気の無い裏路地に降りると、大きく息を吐いて呼吸を整えた。
「少し気障ったらしかったかな?」
三人の虚を突く為とはいえ、似合わない事はするもんじゃないなと少し後悔した。……少なくとも、単独でやるとダメージが意外に大きい。
念の為、『探索』を使って三人組を探ってみると、先程別れた所から動いていなかった。
俺は、そのまま彼らから離れるような道を選んで屋敷へと帰った。
———SIDE三人組———
「おい……また声を掛けそびれてるじゃないか」
「このヘタレ」
三人組の内、二人が一番大柄な男をなじっている。
大柄な男は頭を掻きながら唸り声を出し、大きな体を小さくするようにしゃがみ込んだ。
「……しょうがないだろうが……俺がしくじったら、家の領地はまた下降線をたどる事になるかもしれないんだぞ……」
外見に似合わない声を出してボソボソと話す男に、他の二人はあきれ顔であった。
「いや、今更それは無いからな。父上から聞いた話では、彼はそれほど根に持っていないみたいだ」
「僕もそう聞いたね。でも、リオンが……と言うか、僕達が後をつけていた事を知って、態度を変える可能性はあるね」
三人の中で一番小柄な(と言っても、平均くらいの身長はあるが)男がそう言うと、リオンと呼ばれた男は勢いよく立ち上がった。
「それって、お前等のせいでもあるんじゃねぇか!」
リオンは大きな怒鳴り声を出すが、二人は少しも気にしてはいない。どうやらいつもの事の様だ。
「それは無いな。私達はちゃんとお前に忠告はした。忠告を聞かずにビビッて、ヘタレて、躊躇したのはお前だ」
「アルバートの言う通りだね。僕達は最低限以上の協力はしたよ。その先はリオンの責任だよ。僕達は関係が無い」
「ぐぬぅ~~」
唸り声を上げながら二人を睨むリオン。しかし、二人は全く効果は無く、涼やかな顔をしている。
もしこの光景を見知らぬ第三者が見たのなら、叫び声を上げながら衛兵を呼ぶだろう。それくらいリオンの顔には迫力があった……貴族とは到底思えぬほどに。
「な、なあ、アルバート。やっぱりお前の……」
「断る!あいつには何の関係も無い事だ!」
被せ気味に、にべも無く断るアルバート。
「ならカイン!お前の……」
「絶対に無理!喧嘩を売るようなものだ!」
カインと呼ばれた男も、リオンが言い終わる前に断る。最も、こちらはアルバートと違い、冷や汗を掻きながらの反対だ。
「まあ、彼は近々正式に会う機会がある、と言ったんだ。と言う事は彼はまだ、リオンの話を聞く気がある、と言う事……だろ?多分」
「おい、アルバート!疑問形で言うなよ!」
「まあ、彼が話を聞いたとしても、協力するかは別だけどね」
カインの言葉を聞いて、体がプルプルと震え出したリオン。そして……
「それもこれも、くそ親父のせいだぁ~~~~~~~」
空に向かって大声で吠えた。
「だが、彼の気を悪くしたとしたら、それはリオンのせいだからな」
アルバートの言葉を聞いて、がっくりと地面に崩れ落ちるリオン。
それから数分後、彼らには衛兵の職務質問が待っていた。