表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/318

第5章-17 鬼の戦い方

投稿が遅れて申し訳ありません。

最近忙しくなってきており、思う様に書き進められませんでした。


あと、誤字脱字等の報告をしてくださった方へのお礼の返信が出来なくて申し訳ありませんでした。

 バッグからは、サイクロプス、トロール、そしてワイバーンが出て来た。

 しかも、通常のワイバーンは体長が3~4m程なのに対し、このワイバーンは5mを優に超えている。さらに普通体色はモスグリーンで、個体によっては薄い濃いなどの違いや、婚姻色で薄い赤色に代わる事もあるが、バッグから出て来たワイバーンの色は薄墨色である。

 その事からこのワイバーンが亜種か突然変異種のどちらかだと思われるが、俺には判断がつかない。


「ナミタロウ、あんなの見たことあるか?」

 

「わいに聞く前に、鑑定でもしいや……まあ、あそこまで大きくは無いけど、昔見た事あるな。あれは多分、突然変異種や」


 意外と博識なナミタロウに感心するが、ワイバーンとの距離がある為か鑑定が働かない。その事をナミタロウに話すと、ナミタロウはあきれていた。


「何やテンマ。十何年つこうてきて、未だに慣れてないんかい……いいか、鑑定を発動させながら、目に魔力を集中させる感じで目標を見るんや。そうやな……最初は望遠鏡なんかのピントを合わせるのに近いかもしれん。慣れたら、自分の目のみたいにピントを合わせる事が出来るようになるけどな」


 ナミタロウのアドバイス通りに鑑定をやってみると、最初の内はうまくいかなかったが、何度か試していくうちに感覚がつかめて来た。


名前……ワイバーン

種族……ワイバーン突然変異種


 簡単な鑑定結果だが、一応は成功した。成功して分かったが、あのテイマーはあまり自分の眷属に思い入れは無いようだ。名前がそのままワイバーンとなっている。つまりは普段から、ワイバーンと呼んでいると言う事だ。

 念の為、サイクロプスとトロールにも鑑定を使ってみたが結果は同じで、種族名がそのまま名前になっていた。


「あの男、もしもわいを捕まえていたら、名前に『鯉』ってつけるんやろうか?」


 ナミタロウの種族が鯉でいいのかはさておき、眷属を道具と思っているテイマーに多いタイプの人間ではありそうだ。


 観客達は新たな眷属の登場に大盛り上がりだ。ワイバーンは王都の様な大きな都市ならば、年に数回は眷属になっているモノや討伐された物を見かける事ができ、テイマーを目指す者の多くが一度はあこがれる魔物、と知られているのでソロモンの時ほど混乱は起こっていない。


 だが、このワイバーンの参戦で鬼兵隊は一気に不利になってしまった。

 サイクロプスとトロールのみならば、ガリバーと騎士達の連携の練度によっては、十分勝ち目があったのだが、そこに空中からの敵が増えてしまうと話が変わって来る。

 何せ鬼兵隊には空中戦が出来る者はおらず、下手をすれば一方的に空中からの攻撃を受けてしまう事になる。

 仮にも侯爵家の騎士なのだから、ある程度の攻撃魔法くらいは習得していると思うが、並の攻撃魔法で沈んでくれる程ワイバーンは弱くは無いし、騎士達の物理攻撃の範囲までワイバーンが降りてくれるとは思えない。

 

 見た感じでは、ガリバーの方がサイクロプスやトロールより強く賢そうだ。

 それでも、ガリバーだけでサイクロプスとトロールを圧倒できる程の差はないだろう。

 これが闘技場では無く障害物等のある野外で、尚且つ時間制限が無ければどうにかなるかもしれないのだが……


 鬼兵隊のリーダーであるサモンス侯爵も、闘技台にギリギリまで近づいて難しい顔をしている。

 そんな状態の中で、審判が試合開始の合図を出した。


 合図と同時にワイバーンが飛び立ち、サイクロプスとトロールが前に出て壁となった。

 相手のチームは基本的に陣形を変える事は無いようだ。前に見た陣形との違いは、戦士がいた位置の上空にワイバーンが陣取っているだけで、変則的な3-1-1という感じである。


 それに対して鬼兵隊はガリバーが先頭になり、その少し後ろに騎士達が二列に並んでいる。

 審判が離れたのを見て、鬼兵隊が陣形を保ったまま前進を始めた。


 相手チームは鬼兵隊を迎え撃つ形を取るようで、小手調べとばかりにワイバーンが火の玉を吐いた。

 その火の玉は直径が40cm程の大きさで、威力はそこそこありそうだが速度は少し遅く、続けて火の玉を吐くには数秒の時間がかかるようだ。


 鬼兵隊は一発目と二発目は左右に動いて躱したが、三発目は距離が近くなった為に直撃しそうになる。

 しかし、迫りくる火の玉をガリバーが棍棒で弾いて後ろにそらした。火の玉を弾いた棍棒は破片を撒き散らして壊れたかに見えたが、破片は表面のモノだけだったらしく、棍棒の半ばから先は太い金属の棒が露出していた。 

 どうやらガリバーの持っていた棍棒は、すべてが木で出来ていたわけでは無く、中に金属で出来た棒を芯にしていた物らしく、黒色の金属棒は魔鉄で出来た物かもしれない。


 そうしているうちにテイマーが指示を出したようで、サイクロプスとトロールがガリバーに襲い掛かった。おそらくは、頑丈な武器を持ったガリバーが自分に近づくのはまずいと考えたのだろう。

 もしかしたらあのテイマーは、ガリバー(眷属)が使う武器に金をかける筈が無い、とでも思っていたのかもしれない。

 何せあのテイマー自身、自分の眷属に武器を持たせていないのだ。道具(眷属)道具(武器)にまで金をかけるのは馬鹿らしい事だ、だから相手も金をかける筈が無い……とでも思っていたのかな?

 ナミタロウの言う様に、二流以下のテイマーだったらあり得るかもしれない話だ。


 しかも、襲い掛かったと言っても、二体の間に連携などという考えは無い様で、ただ腕を振り上げて向かって行っているだけである。どうやら、ちゃんとした指示を出せていないようだ。

 その為、サイクロプスと鈍足であるトロールとの間に距離が出来てしまっている。

 見方によっては、サイクロプス対鬼兵隊(一対五)にも見える。


 サイクロプスがガリバーに接近した瞬間、ガリバーの後ろから騎士達が左右に飛び出した。

 それにより、一瞬だけ騎士達に向いてしまった。

 

 ガリバーはサイクロプスの隙を見逃さず、強烈な体当たりを食らわせた。弾かれたサイクロプスは、後方にいたトロールを巻き込んで倒れた。

 起き上がるのにもたついている二体に対し、追い打ちをかけようとしたガリバーだったが、それは滑空してきたワイバーンに阻まれた。


 ワイバーンの吐く火の玉を棍棒で弾きながら攻撃をするガリバーだったが、ワイバーンはガリバーの攻撃が来る前に攻撃範囲から離脱してしまう。

 

 ガリバーの後ろから離れた騎士達は二人一組になり、魔法攻撃を行う者と相手の魔法を防御する者に分かれて相手との距離を詰めようとするが、テイマーと魔法使いの放つ攻撃魔法のせいであまり近付けないでいた。

 

 騎士達が手間取っているうちに、サイクロプスとトロールが体勢を立て直して騎士達に向かおうとするが、背中を向けた瞬間にガリバーがトロールに蹴りを食らわせた。

 動きの鈍いトロールはガリバーの接近に対処が遅れて派手に転がったが、思ったよりもダメージが少なかったようですぐに立ち上がった。


 一方サイクロプスの方はトロールが蹴られた瞬間、ガリバーに対し殴りかかった。

 ガリバーはサイクロプスの攻撃に反応し手で防御をしたが、殴られたタイミングが丁度片足立ちになった時だったのでガリバーも転がされてしまった。


 転がったガリバーに対し、サイクロプスは何度も踏みつけようとするが、ガリバーは転がりながら攻撃をかわし、転がる勢いのままに立ち上がった。

 しかし、その隙にワイバーンを騎士達に向かわせてしまい、騎士達が窮地に陥ってしまう。


 咄嗟にガリバーは転がされても手放さなかった棍棒を、ワイバーンへと投げつけた。

 ワイバーンは騎士達に火の玉を放っていた最中だった為、ガリバーに背を向けた状態であったので飛んでくる棍棒には気付いていないようだ。

 縦回転をしながら飛んで行く棍棒は、ワイバーンの尻尾の付け根辺りにぶつかり、大きな鈍い音を立てて命中した。

 

 突然の激痛にすさまじい声で悲鳴を上げるワイバーンだったが、バランスを崩しながらも何とか持ち直し墜落する事は無かった。

 しかし、先程までと違ってぎこちない動きで羽ばたいているので、けっこうなダメージを与えられたようだ。


 騎士達は少しの間相手チームに挟撃された形になったが、すぐにガリバーが対処したのでワイバーンの吐いた火の玉が少なかった。その為直撃を食らう事は無く、大したダメージを受けなかった。


 眷属同士の一連の攻防で、ワイバーンを含む相手側の眷属は揃ってガリバーに向かって行った為、ガリバーは三対一で戦う事になってしまった。しかし、この事は鬼兵隊には都合のいい展開となったので、騎士達はあえてガリバーの援護には向かわなかった。

 この事に焦ったテイマーは、サイクロプスだけでも呼び寄せようと声を出すが、両者に距離があった為、サイクロプスには命令が聞こえなかったようだ。


 その事に舌打ちをしながらも、テイマーは自分達に左右に挟みこむようにして向かってくる騎士達に、魔法使いと攻撃魔法を放っていく。

 だが、先程までと違い騎士達が二手に分かれた為、どうしても魔法攻撃の密度が下がってしまい、先ほどまでよりも速いペースで騎士達が迫って来ていた。


 騎士達にしても、ここが踏ん張り所だとわかっている為、多少のダメージなど気にせず強引に前に進んでいる。

 騎士達の剣は、着実にテイマー達に近づいていた。


 一方その頃、三対一となったガリバーは獅子奮迅の活躍を見せていた。

 ガリバーは三体同時に相手取るのではなく、攻撃をサイクロプスに集中させて、トロールに対しては攻撃を受けないよう気を付けながら、近づかれては離れ、離れられては近づき、を繰り返して常に自分を意識させる程度の距離を保っている。

 ワイバーンは完全にガリバーしか眼中に無い様で、今のところは騎士達に向かう様子は無く、距離に関してはあまり気にしていないようだ。

 しかも、ワイバーンは先ほどのガリバーの攻撃のせいで、最初の頃に比べると格段に速度が落ちている上、頭に血が上っているようで攻撃が雑になっていた。

 さすがに味方を巻き込んでまで火の玉を吐くような事はしていないが、それも時間の問題だと思われる。


 ガリバーに攻撃を集中させられているサイクロプスは、近距離でガリバーと殴り合いをしているが、技術に関してはガリバーが完全に上回っており、先程から有効打を与える事が出来ず、攻撃を受けてばかりでかなりのダメージが溜まっていた。


 サイクロプスがふらつき始め、三体の位置がほぼ直線上に重なった時、ガリバーが大きく動いた。

 ガリバーはふらつくサイクロプスを力いっぱいに殴って転がし、トロールに向かって走り、勢いをつけてジャンプしてトロールを踏みつけた。

 そして更にそこからもう一度ジャンプして、上空にいたワイバーンを殴りつけたのだ。


 ガリバーの拳はワイバーンの顔面を捉え、ワイバーンは悲鳴を上げながら墜落した。

 その後、きれいに着地したガリバーは騎士達の援護の為、転がってもがいている三体には目もくれずに走り出した。

 一瞬で眷属を倒されたテイマーは焦り、騎士達への攻撃を魔法使いに任せて、ガリバーに向かって攻撃を始めた。

 ガリバーに向かって石を飛ばすテイマーだったが、ガリバーは躱せるものは躱し、無理なものはダメージ覚悟で拳で叩き落とす、と言った具合にほとんど最短距離でテイマーに向かっている。

 さらにテイマーは、ガリバーの前方に『ストーンウォール』で厚さ20cm程の石の壁をいくつか作り、時間を稼ごうとしていたが、それもガリバーは拳で打ち砕いて行った。

 

 怒涛の進撃を見せるガリバーに、観客達は恐怖にも似た思いを抱きながら、それ以上の興奮に包まれていた。

 しかし、ガリバーとて無傷でいるわけでは無い。サイクロプスと殴り合いをし、ワイバーンの攻撃に気を配り、トロールを引き付けていたガリバーの体は傷つき精神は疲弊している。更に迫りくる石を殴り、壁を破壊してきた拳は血が噴き出しており見ていて痛々しい。

 もしガリバーに余裕があったのならば、テイマーの魔法を遠回りしてでも避けるなりしていただろう。殴りつけていたのは、ガリバー自身体力の限界が近いからに他ならない。

 ガリバーは焦っていたのだ。そして、その焦りは大きな隙を創り出していた。


 ガリバーがテイマーの作り出した最後の壁を打ち壊した瞬間、ガリバーが前のめりに吹き飛ばされた。その背中は火に包まれている。

 突然の出来事に、仲間の騎士達は驚き動きを乱した。


 倒れているガリバーに対して、火の玉が続けて迫って来る。

 ガリバーは転がりながら火の玉を躱しているが、何発かかすっており、確実に体力が削られていく。

 そんなガリバーの様子を確認しながら火の玉の主(ワイバーン)はゆっくりと立ち上がり、羽ばたき始めた。


 先ほどまで倒れていたのは演技だったのか、それとも回復速度が速いのかは分からないが、ここに来て厄介な敵が復活してしまった。

 上空に舞い上がったワイバーンは、ガリバー目掛けて滑空し体当たりをしている。

 ガリバーはすぐに立ち上がったが、その膝はガクガクと震えており、ワイバーンを躱す事が出来なかった。


 吹き飛ばされたガリバーの援護に向かおうと二人の騎士が動いたが、これは魔法使いの攻撃に阻まれてしまう。

 テイマーも他の騎士達に攻撃を始め、騎士達は完全に足止めを食らっていた。

 しかも、ガリバーに踏みつけられていたトロールが立ち上がり、地響きを立てながらガリバーに近づいている。さすがにサイクロプスは倒れたままだが、鬼兵隊の敗北が濃厚となって来た。


 騎士達は一瞬、ガリバーの援護に行くかテイマーを倒しに行くかと迷ってしまった為、行動が中途半端になった事で勢いがそがれており、ガリバーも満身創痍でワイバーンの猛攻にさらされて危険な状態になって来ていた。


その時、ワイバーンが大きく距離を取った。そして、トロールのタイミングに合わせて、ワイバーンが猛スピードで突っ込んでいった。

 ガリバーはワイバーンの意図に気付き、とっさに身を捻って避けようとしたが少しだけ遅かった。


 ワイバーンがガリバーにぶつかった瞬間、噛みつかれたガリバーの左腕が肩の辺りから引きちぎられ、鮮血と共に宙を舞った。

 悲鳴を上げるガリバーに対して間を置かずに、トロールが強烈な体当たりをかました。 


 ボロボロになって転がるガリバーを見て、観客席から悲鳴が上がった。

 ガリバーは肩の痛みのせいで気絶する事が出来ず、もだえ苦しんでいる。ガリバーの体からはかなりの血が出ており、このままでは失血死してしまうだろう。


 そんなガリバーに対し、ワイバーンが旋回して再度攻撃を仕掛けようとしていた。

 しかし、そこに審判が待ったをかけた。


「試合終了!勝者『デンドロバテス』!」


 これまでにないくらいに、大きな声を出して決着を宣言する審判。

 どうやら侯爵が降参を審判に告げたようだ。

 それを聞いたテイマーがワイバーンに攻撃の中止を命令したらしく、ワイバーンは急降下を止めて上空を旋回し始めた。

 しかし、またもトロールは命令を聞いていないようで、ガリバーに近寄っている。


 それを見た騎士達が走り出すが、距離的に間に合いそうにない。

 トロールがガリバーまで数mの距離まで近づいた瞬間、突然トロールが苦しみだした。

 よく見ると、トロールは首を抑えてテイマーの方を見ている。


「使ったんやな」


 トロールを見たナミタロウがそう呟いた。


「使った?」


「ああ、あれは奴隷の首輪と同じで、主の魔力に反応して首を絞めつける仕掛けがあった筈や。最も、奴隷の首輪と違って細かい設定が出来んでな、その都度魔力を流さんといけんけど、その苦しみを利用して言う事を利かせる仕組みにもなっていた筈やねん」


 奴隷の首輪は、通常の物は首にはめる前にある程度の設定(・・)(主に危害を加えるな、主の命令に服従しろ、等)ができ、それを破るか破りそうになった時に首が閉まる仕掛けになっているそうだが、トロール達に嵌められている首輪にはそれが無いそうだ。その代わりに、魔力を流した時の苦しみは強力で物理的にだけで無く、魔法の力でも首を絞めるので、流した魔力の量によっては即死もあり得るそうだ。


 テイマーは苦しんでいるトロールに対し、魔力を流したままで再度命令をした。

 命令を聞いたトロールは、這いつくばってガリバーから離れて行った。


 トロールが離れるのと入れ違いになって、サモンス侯爵がガリバーの所に走ってやって来た。

 サモンス侯爵はかなり慌てており、ガリバーにしがみついていた。

 侯爵の後ろから係員数人が大八車の様な物を引いて来て、ガリバーを乗せようとしているがなかなか乗せる事が出来ずにいた。


「ちょっと行ってくる」


 俺はナミタロウに後を任せて、バッグから薬を取り出しながら闘技台に向かった。


 途中で係員に止められたが、サモンス侯爵に手伝いを頼まれた、と言うとあっさりと通された。

 そのままガリバーの所まで走り、俺の登場に驚いた侯爵に軽く説明をして治療を開始した。


「ガリバーは助かりますか!」


 興奮している侯爵に、不敬だとは知りつつも半ば無視をする形で、騎士達に指示を出しながら治療を続けていく。

 

 まずはガリバーに魔法をかけ、痛覚を鈍らせてから傷口を見たが思った以上にひどかった。

 ワイバーンに噛まれ引きちぎられた事で、傷口がズタボロになり、さらに台の上を転がったのでかなり汚れていた。しかも、あのテイマーの使役しているワイバーンの口内が汚れていない筈は無いので、病原菌なども気にする必要がある。


 なので、まずは傷口を清潔な水(水魔法を使用)で洗い流し、目に見えるごみを取り除いた。

 そして、念の為毒消しの魔法と純度の高いアルコールで消毒をした。高純度のアルコールを使ったのは病原菌を殺菌する目的だったのだが、これが傷口にしみたらしくガリバーが少し暴れてしまったが、すぐに騎士達がガリバーを抑え込み、ガリバーもすぐに気が付いて我慢したので被害は無かった。


 次に同じく処置をしたちぎれた腕を肩に合わせ、位置を慎重に調整して魔法でつないでいく。

 なるべく内側の方から繋げていったつもりだが、傷口がズタボロで見えにくいので、最悪の場合は腕が動かなくなる事も考えたが、繋いだ後で指が動いていたので神経は繋がったようだ。


 後は清潔な布で肩が動かない様に固定して、骨折した時の様に布を使って首で腕を支えさせた。

 最後の仕上げとして、ガリバーの口に増血剤と病気への抵抗力を上げる薬、化膿止めと痛み止めを飲ませた。

 薬は自然由来の物で、何度か自分自身で試したことがあるので、薬の同時使用には問題が無い筈だ。


「取りあえず、これで今のところ命に別状はないと思います。ただ、ほとんど応急処置に近く、命を助ける事を最優先させたので、以前の様に腕が動かせなくなる事や、消毒はしましたが感染症にかかる可能性がある事だけは覚悟していてください」 


 治療を終えてそう説明しながら侯爵の方を向くと、ビックリするほどに涙をボロボロと流していた。


「ありがとう!本当にありがとう!このお礼は必ずするから!」


 俺の手をがっちりと握って、激しく上下に振りながら感謝の言葉を口にする侯爵。

 十数回程俺の手を振った後で、急いでガリバーの所へと戻って行った。

 ガリバーもだいぶ痛みがやわらいだようで、ある程度自力で動く事が出来ており、騎士達の助けを借りて大八車へと乗り込んでいた。

 侯爵は大八車を率先して引いて行こうとしたが騎士達に止められ、結局大八車は騎士達と係員が引いて行った。


 俺も侯爵達の後について出入り口付近まで行くと、審判の一人が申し訳なさそうな顔で話しかけて来た。


「申し訳ありませんが、テンマ選手はこの後すぐに試合になりますので、ここでお待ちください」


 どうやらガリバーの治療は俺の独断での事となるので、余計な休憩時間などを取らせるわけにはいかないので、ここでナミタロウ達が来るのを待っていてほしいとの事だそうだ。

 俺としてはそんなに疲れた訳でも無いので、審判の判断に文句は無いのだが、審判達は気にしているようだった。


 なので審判に、当然の判断だから気にしてはいない、と告げてマジックバックを預けた。

 ナミタロウ達を待っていると相手チームが先に来て台に上がり、その後すぐにナミタロウ達もやって来た。


「テンマ、お疲れさん。ガリバー助かってよかったなぁ。ここはガリバーの敵討ちの為にも、勝たんとな!」


 張り切るナミタロウを先頭に俺達は相手チームと向かい合い、審判の合図を待った。

この世界での回復系統について質問がありましたので、書いておきます。


この世界では回復魔法と回復薬が出てきています。


回復魔法には、傷を治す魔法、解毒の魔法、消毒の魔法などを設定していますが、体力を回復させる魔法は作っていません。

ただし、傷や毒を治した際に、体力が回復したように錯覚する事はあります。

例えば、重い荷物を降ろす(傷を治す)と、体が軽く(楽に)感じるけれど体力は回復していない、みたいな感じです。

解毒・消毒魔法は、毒や細菌などを魔法で取り除いたり消したりする感じです。


回復薬は、多種多様な物があり効き目もピンキリです。

現実に存在する薬を参考にしたりしています。

こちらは体力や魔力を少し回復させたり、回復を促進させる効果を持つものがあります。厳密には回復と言うか補充に近い感じですが……


自分の中では、魔法を外科治療で薬は内科治療、と言った感じで分けています。

ただ当たり前の事ですが、両方とも使い手・作り手の技量や知識に大きく左右されます。


それと大会の救護班についてですが、回復魔法や治療の腕は平均以上はありますが、テンマより下です。


この世界の医療の知識は現代と比べ遅れており(魔法に頼る事が多い為)、テンマは前世のテレビや本(マンガなどを含む)での知識とこの世界シーリアやマーリンの知識の両方を持っているので、自分で思っている以上に(知らない内に)腕の良い医者(・・)(と呼ばれてもいいくらいの存在)になっています。


救護班の中では、作中に出て来た医者が一番腕がいいのですが、魔法よりは薬の調合の方が得意な人物で、この章が終わっても再登場させるつもりです。


大会での治療については、敗者は出来るだけの治療をして、勝者は命に別状がない限りは応急処置までです。

ただ、治療不可能の場合などは金銭での保障などもあります(例外として、ルール違反での怪我などは保証しない場合アリ)。


今のところの設定ではこんな感じです。これからも基本的にこの設定で行くつもりですが、変更・追加する場合もあります。
















最後に「異世界転生の冒険者」の書籍化の話が進んでいます。

まだ本格的な打ち合わせも書籍化作業にも入っておらず、出版元を明かす事は出来ないのですが……


このようなお話が来たのも、皆さまが「異世界転生の冒険者」を読んでくださったからです。

本当にありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ