第5章-13 いきなりの告知
タニカゼを走らせて、およそ一時間半ほどで俺達は屋敷に着く事が出来た。
ジン達は、じいちゃんと会う事に緊張しているみたいだが、俺の予想では、そろそろもっと緊張する人物が来ると睨んでいる。
相変わらず屋敷の前には人通りが多かったが、俺が馬車を近づけると快く道をあけてくれたので、逆恨みなどの質の悪い者達は今日はいないようだ。
「開門!」
俺が門の前で命令を出すと、門のそばから二体のゴーレムが生えて来て、門を開けて馬車を誘導してくれる。
そのまま玄関の前まで馬車を進めると、馬車置き場の所に家の物ではない、見慣れた地味な馬車があった。どうやら俺の予想が当たったようだ。
「ただいま」
俺が玄関のドアの前に立つと、それに合わせたようにドアが開いた。
「お帰りなさいませ、テンマ様」
そこには綺麗なお辞儀と共に出迎えたアウラ……の姉がいた。
その姉が頭を上げた頃、慌ててこちらにやって来る妹の姿が見えた。
「お、お帰りなさいませ、テンマ様!」
「ただいま。それとアイナ。今日は四人お客さんを連れて来たから、食事と宿泊の準備をお願い」
「畏まりました。アウラ、お客様を応接間にご案内してちょうだい。それとテンマ様、お客様がマーリン様とお待ちです」
アイナの対応に、アウラの存在が薄くなる。最近では、片手間にこの屋敷のメイド長の様な事もしているので、ついついアイナに物事を頼んでしまう癖がついてしまった。
「分かった。場所はじいちゃんの部屋?」
俺の質問にアイナは頷いた。
この時期に家に来て、じいちゃんの部屋で待つような人物でパッと思いつくのは二人。その内、親の方はさすがに周囲(特に奥さん)が黙っていないと思うので、息子の方だろう……などと思いながらじいちゃんの部屋に行くと……
「よう!」
筋肉質の男がそこにいた。しかも予想通り息子の方だ。
「やっぱり息子の方だった」
俺の言葉に首をかしげる軍務卿。じいちゃんの方は、俺のその言葉だけで全てを察したようで、笑ってライル様に教えていた。
三人でひとしきり笑ったところで、ライル様に相談事があるのを思い出した。
「ライル様はシャドウ・クリムゾンをご存知ですか?」
俺の言葉にライル様とじいちゃんの目が鋭くなり、俺を睨むように見つめて来た。
「テンマ……何があったのじゃ?」
「その名前をわざわざ俺の前で出すと言う事は、興味半分という訳ではあるまい。何か情報を掴んだか?」
二人の反応に少し驚きながらも、俺はリーナがそれらしき人物を目撃した事を話した。
「なる程な……事情は分かったが、それらしい奴がいた、と言うのを又聞きしただけでは、おいそれと騎士達を動かすわけにもいかない。悪いが、そのリーナとやらを呼んでくれ」
その言葉を聞いて、俺はリーナを呼びに応接間へ行くと、そこにはかなりリラックスした状態の、暁の剣のメンバーがいた。そばにはスラリン達もおり、おやつをねだっている(ただし、狼と龍の二匹のみ)。
「リーナ、悪いけど来てくれないか?」
「私ですか?分かりました」
自分だけが呼ばれた事に少し疑問を抱いたようだが、リーナは何も聞かずに俺の後をついて来た。
「連れてきました」
俺が使った言葉に違和感を感じたようであったが、俺は不思議そうにしているリーナを無視して、部屋の中へ通した。
「何か用があるとお聞きしたんですけど……ライル様!失礼しました!」
じいちゃんに気を取られて、ライル様に気が付くのが遅れたリーナは、気が付くや否や即座に膝をつき、頭を下げた。
「ここは公式の場ではないのだ、楽にしてくれ。それよりもテンマから聞いたのだが、シャドウ・クリムゾンの残党らしき者を見たそうだな……間違いないか?」
「は、はい!少し距離がありましたが、聞いていた特徴と同じような者を見かけまして、あちらも私と目が合うと、不自然な感じで細い路地へと入って行きました……ただ、確実にシャドウ・クリムゾンのメンバーだ、とは言い切れませんが……」
リーナは話し終えた後も緊張しっぱなしで、未だに膝をついたまま頭を下げている。
ライル様はリーナの話を聞き終えた後も、腕を組んで難しい顔をしている。何か考え事をしているようだ。
「ライル様、何か問題でもありましたか?」
俺の言葉を聞いて、ようやくライル様は口を開いた。
「いや、そうではない。これはここだけの話にしておいてほしいのだが、実のところ、ここ一ヶ月の間に、王都から近い町や村でそれらしき者達を見た、と言う報が何度か入ってきているのだ。これは一度、ちゃんと捜索をするべきであろうな」
そうライル様が真面目な顔で話している最中に、窓から家の門の前に一台の豪華な馬車が止まるのが見えた。
その馬車は門番のゴーレムに止められる事無く門を通り、屋敷の玄関へと向かってきている。
「どうやら、ライル様にお客様が来たようです」
どんな人が来たのか想像がついた俺は、ライル様にそう告げた。
「はぁ?俺に客?……まさか!」
慌ててライル様が玄関へと走っていく。部屋に残された俺達もライル様を追いかけて行くと、ちょうど玄関に待機していたアイナがドアを開けようとしているところであった。
アイナがドアを開ける直前に、ライル様は速攻で身だしなみを整えて直立不動になり、かなり気まずそうな顔をしている。
俺達がライル様の隣に到着すると、開けられた玄関の前に馬車が止まり、女性が降りて来た。
「やっぱりここに居たのね、ライル」
にこやかに、しかし、鋭いプレッシャーを含んだ声を聴いて、ライル様のみならず、その場にいたすべての人間が冷や汗をかいた。
「いや、母上。これには訳が……」
「なんでしょうか?それは、王族の仕事よりも大切ですか?」
鋭さを増す声に、いよいよ危なくなってきたライル様は、あろうことか俺をマリア様の目の前に出した。
「実は、テンマから防犯上、見過ごす事の出来ない話を聞きまして、対策を取ろうとしていた所なのです!」
「まあ、そうなのテンマ……いや、そんな事より、決勝進出おめでとうテンマ」
そう言いながら抱きついてくるマリア様。俺をひとしきり抱きしめた後、後ろにいたリーナに気が付いた。
「そちらは確か、トリニート子爵家の……」
「は、はい!リーナと申します。ただ、トリニート家からは離れているので、今は名乗ってません」
「そう……で、テンマとの関係は?」
鋭さを増した視線に、リーナはきっぱりと……
「友人です!」
そう言い切った。その言葉にマリア様は笑顔になり、リーナに向けられていたプレッシャーが弱くなって行く。
「そういえば、あなたもチーム戦に登録していたわね。がんばってね……ライル、行きますよ!それと、テンマを口実にした事については、陛下の前でくわしく聞きますからね。アイナ、今日は帰って来なくていいわ」
「畏まりました」
そう言って、ライル様を回収して行くマリア様。ライル様は俺を使った言い訳がばれている事を理解して、顔を青くしながらも大人しくマリア様の後をついて行った。
「では、夕食にしましょうか」
ドアを閉めたアイナが、何事も無かったかのように台所へと向かっていった。
じいちゃんとリーナを連れて応接間に行くと、そこには息を殺す様に静かにしている三人がおり、ジャンヌとアウラはその横で苦笑いをしていた。
「何やってるんだ、三人とも?」
「いや、だってよ……『ライル様』とか『マリア様』とか聞こえて来たと思ったら、いきなりすげえプレッシャーを感じたんだぜ……そりゃ、静かに様子を見るのが普通だろ」
ジンの言葉に頷くメナスとガラット。因みに、ジャンヌとアウラが苦笑いをしているのは、二人はあのような事になれている為、三人の反応を見て、自分達の感覚がどれだけズレているかを感じてしまったからだそうだ。
それ以降は大きなハプニングなどは無く。久々に騒がしい食事となった。食事の初めの頃などは、『賢者マーリン』に緊張気味だった四人も、軽く酒が入り(じいちゃんも)、さらにナミタロウの乱入で緊張が解けたようで、色々と俺の話や大会の話で盛り上がっていた。
夜はジンとガラットはさすがに早く寝たようだが、メナスとリーナは家の女性陣と夜遅くまでガールズトークを繰り広げていた。
翌朝、気配を感じて庭に出てみると、そこにはジンとガラットがいた。
「よう!」
「朝練か?」
声を掛けて来る二人に挨拶を返しながら、俺は二人の状態を見て、だいぶ回復している事を確認した。
「この様子なら、明日までには何とか戦える状態にまでは回復するな」
俺の言葉に頷く二人。完全に回復する事は無く、下手すれば一方的にやられるだけかもしれないが、それでも棄権する、もしくは女性陣だけに負担をかけるという、最悪のケースは回避できそうである。
「正直、一回戦を勝ち上がれるかも分からん状態だが、少なくとも舞台には上がれそうだ」
「ああ、ジンの言う通りだ。本選の賞金も、出場しない事には貰えないからな」
ガラットの言う賞金とは、本選出場者に贈られる参加賞の様なものだ。金額的には1万Gだが、王都での宿泊費や生活費を考えると、少しでも貰えるものは貰っておきたいと言う事だ。
さらに、もし勝ち上がる事が出来たなら、それにプラスして賞金が貰える。
暁の剣は、ジンの個人戦三位の賞金があるとはいえ、怪我や武器の破損もあるので、そこまでの儲けが出たわけでは無い。
それにもしかしたら、大会の後で開催されるオークションで、掘り出し物があるかもしれないので、出来るだけの余裕を持ちたいと思っているようだ。
「まあ、最悪の場合、王都付近で冒険者活動をやればいいだけの話だがな!」
パーティーとして本選出場し、個人でもガラットが本選出場、ジンが三位に入賞している暁の剣の評価はかなり上がっているだろう。その事を考えれば、相場より割のいい仕事を回してもらえるのはほぼ確実である。
「でも、あんまり無理はするなよ……さすがに二人が死ぬと寝覚めが悪い」
「「縁起でもない事を言うな!」」
二人は声を揃えて叫ぶと、少し疲れたのか肩で息をしていた。
「大丈夫か?無理するなよ」
「誰のせいだよ、全く」
「ジン、言っても無駄だ。テンマは楽しんでいやがる」
ガラットの言葉通り、一通り楽しんだ俺は、近くに腰かけた二人と入れ替わりに朝練を開始した。
最初に体をほぐして、庭を軽く走り、素振り、自己流の型、魔力のコントロール練習、最後に整理体操……といった流れで朝練を終えた。
途中からは回復したジンとガラットや、起きて来たメナスとリーナも加わり、にぎやかな朝練となった。
朝練を終わるタイミングで、ジャンヌとアウラを引き連れたアイナがタオルと水筒を持ってきてくれたので、少し休憩してから朝食となった。
「そういえば、今日の試合は誰も見に行かないのか?」
俺の素朴な質問に、皆首を横に振った。
どうやら、誰も知り合いの出ていない試合には興味が無いようだ。
「大体、ペア戦なんて個人やチームに比べると、見劣りする選手が多いと言われているからな」
ジンの言葉に、メナスが補足を入れた。
「大体冒険者としてやっていく奴は、個人で動くかパーティーを組むもんだろ?だから、二人だけで活動している奴なんて、兄弟か恋人、夫婦辺りが多いんだ。それに試合日程が中日に来るもんだから、個人に出る奴やチームに出る奴は敬遠する傾向にあるんだ。その結果として、有名な奴が出場するのが少なくなる」
「まあ、中にはペアの大会にしか出ない、実力のある人もいるんですけどね」
リーナがフォローを入れていたが、個人やチームに比べて、いささか盛り上がりに欠けるのは事実のようだ。
「だからねらい目だ……っていう考え方をする奴らも毎年いるんだが、そんな奴らは大抵、ペアの本選常連組にやられるのがオチだがな」
ペアは大会に毎年の様に出場している者達がほとんど本選に進むそうで、今回の大会も本選初出場のペアはいなかったそうだ。
「なら、今日のところは、みんな大人しくしているという事か……どうせだったら、ジン達は今日も泊まっていくといい」
「それはありがたいが、宿に顔くらいは出さないといけないからな」
ジンがそう言うので宿の名前を聞くと、その名前にじいちゃんが反応した。
「おお、そこならわしが話をしておこう。そこの主人はわしらの同郷じゃからの」
俺も驚いた事だが、そこはククリ村で宿屋をしていた人の店だそうだ。
そんなわけでじいちゃんは食事の後、メナスとリーナを連れてその宿屋へと向かって行く事になった。
同行者がメナスとリーナなのは、まだ完全に治っていないジンとガラットを連れて行くわけにもいかず、さらに二人が借りている女子部屋にじいちゃんが入る訳にもいかないので、一緒に行く事になったのだ。
「取り合えず、二人は食事が終わったら薬を飲んで安静にしておこうか」
そう言って二人に薬を渡した。
ついでとばかりにジャンヌに薬の補充分を渡すと、ジャンヌから少し話があると言われ、部屋に行く事になった。
「で、何があったんだ?」
ジャンヌの部屋に入ると、そこにはアウラとアイナがおり、俺を逃がさないといった感じで囲まれてしまった。
「実はいつもの薬の事なの……」
ジャンヌが俺が渡した薬の小瓶を出しながら話し始めた。
「この薬……何なの?この薬を飲み始めてから、体の調子が良くなるだけじゃなくて、魔力まで上がっている感じなの……これって、普通の薬じゃないわよね?」
ジャンヌの言葉に対して、俺がどのように誤魔化そうかと考えていたら、アイナがその様子を見て口を開いた。
「テンマ様、私達はこの薬の材料の正体を知っています。なので、正直に答えてください。何なんですか、この薬は?」
アイナの言葉を聞いて、誤魔化す事は無理のようだと悟る。だから、正直に話す事にした。
「この薬の正体は、俺の血を原料としたポーションだよ」
「それをこの二人に使った理由は?」
俺の答えを聞いても、顔色を変えないアイナ。逆に、ジャンヌとアウラは微妙な顔をしている。
「単純に、俺の血を使った薬がジャンヌには必要だったからだ。アイナなら知っていると思うが、魔力の高い生き物の血は、時として薬になると言う事を……ジャンヌの薬に俺の血を使ったのはそう言う事だ」
ところどころ誤魔化してはいるが、血の効果については本当の事だ。いわば、スッポンの血を飲むのに近い感じだと思えばいいかもしれない。
「なる程、そういう理由でしたか……でも、アウラにも必要だったんですか?」
「いや、アウラはジャンヌのおまけだ」
「ひどっ!」
すかさずリアクションを入れたアウラだったが、俺とアイナは完全に無視をしておいた。
「では、なぜこの薬で、ジャンヌとアウラの魔力が強くなったんですか?」
「多分、俺の魔力が強かったせいだろう。稀に、魔力の強い魔物の血肉を摂取したところ魔力が上がった、なんて話を聞いた事が無いか?」
こういった事は、前世の伝説や伝承にもある。例えば、龍の血を浴びて不死身になった、とか、人魚の肉を食べて長命になった、とかいう話と同じである。
ただ、魔物と呼ばれるファンタジーの生き物と魔力や魔法が実際に存在するこの世界では、魔物を食べて一時的、もしくは半永久的に力が増したというのは、しっかりと確認されている現象である。ただ、本当に稀な話ではあるのだが……
「俺の血が二人の体質に合ったと言う事だと思う。ただ、飲み過ぎると逆に毒にもなりかねないから、そろそろやめさせようとは思っていたけどね」
「そうでしたか……分かりました。ただ、この話は絶対に誰にもしないでください。ジャンヌとアウラもよ。もし話が広がってしまったら、よからぬ事を考える者が絶対に現れるますから」
アイナの言葉に無言で頷くジャンヌとアウラ。俺としても、そんな面倒な事に巻き込まれたくは無いので、素直に頷いた。
名前…ジャンヌ
年齢…14
種族…人族
称号…聖女・元子爵令嬢・テンマの奴隷
HP…3000
MP…12000
筋力…C-
防御力…C-
速力…C+
魔力…A+
精神力…C+
成長力…A+
運…B
スキル…光魔法6・生命力増強5・魔力増強5・忍耐5・水魔法4・剣術4・異常耐性4・回復力増強4・火魔法3・土魔法3・棒術3・成長力増強3
加護…愛の女神の加護・大地の女神の加護・生命の女神の加護
名前…アウラ
年齢…16
種族…人族
称号…メイド・テンマの奴隷
HP…5500
MP…6500
筋力…C+
防御力…C+
速力…C+
魔力…B
精神力…B
成長力…A
運…B
スキル…料理9・忍耐7・槍術5・火魔法4・水魔法4・弓術4・剣術4・格闘術4・異常耐性4・光魔法3・土魔法2
二人のステータスにも、若干の成長がみられる。魔力なんかは俺の血の影響だとしても、筋力や忍耐が上がっているのは、確実にアイナのしごきによるものであると思われる。
この話も終わるとやる事が無くなり、暇な時間が出来てしまった。
どのようにして過ごそうかと考えていると、誰かが門の前まで来ているようで、門番ゴーレムの一体がこちらにやって来た。
ゴーレムにはアイナが付いて行ったので、部屋に戻って武器でも磨こうと用意していたら、アイナが俺を呼びに来た。
どうやら、先程門の前に居たのは俺の客だったようなので、応接間へと行くと、そこにいたのは見覚えのない女性だった。
「どちら様ですか?」
取り合えず聞いてみると、大会の係員との事だった。何やら、急遽知らせる事が出来たのでやってきたそうだ。
俺が向かいの席に座ると、少し遅れてジン達も部屋に入ってきた。メナスとリーナも一緒であった。どうやら宿屋に行く直前にアイナに声を掛けられたようだ。
「それで知らせとは?」
「は、はい!実は急な事ではありますが、ルールの一部変更が決まりました!」
「「「「「はぁ?」」」」」
緊張した面持ちで答える女性係員に対し、いきなりの決定に驚いた俺達は揃って声を上げた。
それに驚き、若干怯える女性係員。しかし、詳しく話をしようと、緊張しながら話し始めた。
「ル、ルールの変更点は、『使用する武器・防具の事前の申請』と『大会専用のマジックバッグの貸し出し』です。ケイオス選手の反則行為が悪質であった為、事前に持ち込む武器や防具の把握をしておこうと決まりまして……」
「いきなりだね……確かに、大会のルールにはザルな所があったけど、大会中に変更する事でもないだろう?」
メナスの指摘に身を小さくする女性係員。確かに急すぎるし、今やっても混乱を招くだけだと思う。
「決定の経緯については、私は下っ端なのでよく分かりません。他にも『武器や防具の制限』といった話も出ていたそうですが、これはさすがに無理だと外されたようです。今回の審判の対応の遅れから、申請以外の武器の使用は反則負けにして、なるべく試合をスムーズに運べるようにするそうです」
「でも、それだと切り札なんかの意味が無くなってしまうんじゃないか?」
ジンの言葉に頷く俺達。
「それについては、大会関係者が外部に漏らさない、と言う事を信じてもらうしかありません」
「信じろと言われてもなぁ……今日の参加者達は何て言っているんだ?」
ガラットの質問に対し、女性係員は少し困ったような顔になった。
「最初は反発が強かったです。ただ、少し強引に検査をさせていただくと、半数近くの選手が、規定に引っかかりそうな物を持っていました」
「具体的には?」
リーナの質問に、女性係員はメモを取り出して確認しながら例を挙げた。
「え~っと、一番多かったのが魔力回復などのポーション類、その中には小瓶に小分けされた物や丸薬タイプの物もありました。次に多かったのが、耐性を上げる薬ですね。これも小瓶や丸薬タイプが持ち込まれていました。後は使い捨てタイプの障壁型のアイテムなんかも確認されてます」
それら全てのアイテムが、試合中に使われる目的の物では無いと思う。だが、丸薬タイプなどは審判に気付かれずに使う事も可能なので、ルールを変更する意味はあるかもしれないと思った。
「可能な限り違反行為を無くすために、他のルールに関しても選手になるべく支障が出ない範囲で対応していくそうです。申し訳ありませんが、ご協力をお願いします」
そう言って頭を下げる女性係員。実際に検査をしてみて、使用目的の怪しいアイテムが出てきた以上、仕方が無いところがあるのかもしれない。
「まあ、理由は分かりましたし、協力も出来る範囲でしたいと思います。ですが、公平性だけは皆が分かる形で示してください」
俺の言葉にジン達も同意した。その様子を見て、女性係員は安堵したようだ。
「ありがとうございます!公平性に関しては今の所、騎士団などにも協力を要請しまして了承をいただいております。でも、よかったぁ。テンマ選手の賛成を得る事が出来て!」
来た時と違い、少し浮かれ気味の女性係員。それについて理由を尋ねると、意外な顔をされた。
「へっ?だって、テンマ選手は今大会で一番の注目選手と言ってもおかしくないんですよ。そんな選手が賛成に回ったと聞いたら、自分もと同意する選手が出てきやすくなるはずだと上から言われてましたから!」
そんな事を言いながら、女性係員は半分スキップするかのような軽い足取りで帰って行った。
「俺って、いつの間にそんなに影響力が大きくなったわけ?」
何気なくこぼした疑問に、その場にいた皆が、まるでおかしなモノを見るような目で俺を見ている。
「……何だよ?」
俺の反応を見て、ジンが肩に手を置いて来た。そして何も言わずに部屋に戻って行くジン。それを見て、それぞれ動き出した。
「テンマ……自分の活躍は、どう考えても異常やからな!」
いつの間にか近づいていたナミタロウがそう言って笑っている。
……胸びれを使って、サムズアップのようなポーズを取ろうとしているのが少しムカつく。
その後は少しモヤモヤしながら、明日の大会の準備を進める事になった。
本文に加えようと思ってやめたシーン。
アイナ「ただいま戻りました」
マリア「お帰りなさい。さっそくで悪いけど、報告をお願い」
アイナ「はい。今回もテンマ様の周りに、新たな女性は現れておりません。帰りも暁の剣の方達とご一緒であったので、道中でも女性の影は無いと思われます」
マリア「そう、それは良かったわ……でも、今後はテンマを狙ってくる虫が増えると思うから、怪しい事はすぐに報告しなさい」
アイナ「畏まりました……それと、アウラが最近さらにポンコツになった気がするのですが……どうしたらいいのでしょうか?」
マリア「あなた、本当に妹に対して厳しいわね……人は厳しいだけじゃ成長しないわよ」
アイナ「確かにそうですね。飴とムチが調教の基本と言う事を忘れていました」
マリア「…………」
こんな感じでした。
ルール改正についてはいきなりな感じですが、元々どこかで変えるつもりでしたし、完璧なルールなどは無く、その時々によって変わっていくものだと思い、作中に書きました。
第5章はかなりの長編になりそうなので、最後まで飽きずにお付き合いください。
今後ともよろしくお願いします。