第5章-10 VS前回大会優勝者
「よしっ!テンマ、今からあいつをボコりに行くぞ!」
控え室に戻って俺から事情を聞いたジンは、俺の話を聞き終わった後でそう言った。
俺が、ケイオスが犯すと言った相手にメナスとリーナも含まれているようだ、とポロっとこぼしたのがいけなかった。
ケイオスがいつ俺の取り巻き(ジャンヌや三人娘達)を見たのか分からないが、試合中に見つけたとしたら、その場(プリメラの手配した貴族席)にはメナスとリーナもちゃっかりいたので、二人が含まれている可能性が高い。
「待てって、そんなことしたら俺達が奴隷堕ちになってしまうだろうが……せめてバレないような作戦を考えてからでないと」
俺の言葉を聞いて、椅子に座り直し作戦を考えているジン。幸い準決勝の前に休憩時間が設けられており、30分程度は余裕がある。
俺は作戦を考え込むジンに対して、なんとなく気になった事を聞いてみた。
「やっぱりジンも、自分のパーティーメンバーの事になると目の色を変えるんだな」
「馬鹿なことを言うなよテンマ!当然のことだろうが!それが例えメナスのような凶暴で女と意識する事の出来ないやつだとしても、リーナのように天然でわけのわからん事を言って場を混乱させたり、ドジって迷惑をかけるやつだとしても、大切な仲間には違いないんだ!……まあ、メナスに関してはケイオスの馬鹿が相手にするのを嫌がるだろうけどな!」
少し調子に乗り始めたジンの背後を気にしながら、俺は反論することにした。
「いや、メナスは十分綺麗だと思うぞ。それにリーナも天然なところが可愛いとも言えるし……」
「テンマよ~俺の前で気を使わなくてもいいんだぜ?お前の周りには結構な美人が集まっているからな、正直言って、めちゃくちゃ羨ましいと常々思ってたんだ……俺の周りの女ってあの二人だけだしな」
ケイオスをボコりに行くと言った話から、何故か男子トーク?に発展させたジン。その背後には……
「悪かったね。凶暴で女と意識する事の出来ないやつで……」
口は笑っているが目は笑っておらず、その視線だけで人が殺せそうな程の凄まじいプレッシャーを放つメナスと、
「すいませんねぇ~天然ドジで迷惑ばかりかけてしまって……」
貴族令嬢らしい上品な笑顔で、どす黒いオーラをあたりに漂わせているリーナがいた。
「な、んで、ここに……控え室は選手以外立ち入り禁止のはずじゃあ……」
ジンの疑問には付き添っていた看護師の女性が答えた。
「え~っと……ガラットさんが目を覚ましたので、お医者様がジンさんを呼ぶように指示を出されたんですが、その時にメナスさん達も一緒に呼びに行くと言って……その……」
「私も一応チーム戦の選手だからねぇ……係員に掛け合ったのさ『ジンは馬鹿なので私達が行かないと何するかわらないから』と言ってねぇ……」
「私も実家の権力をちょっとだけ使いましたけどね」
その為、控え室の辺りまで、という条件付きで通行を許可されたそうだ。
「それじゃあ行くか!テンマ、早く行こうぜ!」
急いで立ち上がり部屋の外へ向かおうとするジンだが、メナスとリーナに肩を抑えられていた。
「それじゃあ、俺はそろそろウォーミングアップに行ってくるな!」
その場にジン達を残し、看護師の背中を押しながら控え室を出ていこうとすると……
「テンマ!ちょっと待ちな!」
ジンを折檻し始めたメナスに止められた。
俺はメナス達の悪口などは言っていないつもりだったが、急に声をかけられた事で心臓の鼓動が一瞬跳ね上がった。
「はいっ!なんでしょうか!」
無意識のうちに、敬語で直立不動の姿勢になった俺に対してメナスが口を開いた。
「分かっているとは思うけど……あの腐れ外道を殺さない程度に痛めつけるんだよ……でないと、あの外道は本当にあんたの連れに手を出すからね……いいかい、外道の精神と肉体に消える事のない恐怖しっかりと刻んでくるんだよ!」
「了解いたしましたっ!」
メナスのありがたいお言葉に、俺は敬礼をしながら控え室のドアを閉めた。
ドアを閉めた直後にジンの悲鳴が聞こえた気がするが、流石にメナス達もジンが試合に出ることができないくらいの折檻はしないと信じようと思う。
途中でガラットの様子を見に医務室へと寄ると、思っていた以上に元気なガラットがおり、ジンが折檻中なので3人は遅れそうだ、と告げると少し寂しそうな顔をしていた。
ジン達にウォーミングアップに行くと言ったが、実はそんな事をするための専用の場所は確保されていないので、試合場の近くの通路で体を動かすことにした。
丁度いい具合に体がほぐれてきたところで、係員からそろそろ開始時刻だと告げられ、軽く身なりを整えてから闘技台に上がった。
闘技台にケイオスはまだ来ておらず、少し待つ形となってしまったが、これは居た場所の違いで時間差ができただけのようだ。
その証拠に2~3分程で、反対側の入場口の所にケイオスが現れた。流石にオッゴのような真似はしないらしい。
しかし、俺が気になったのは観客の反応だ。俺が闘技台に上がった時は大きな歓声と拍手だけだったのだが、ケイオスが姿を見せると歓声に混じってかなりのブーイングが起こっていた。
ブーイングに関してケイオスは逆に楽しむかのように観客を煽り、ブーイングをわざと大きくさせていた。
「羨ましいだろう。これで観客達は俺の事を忘れない。時が経ち、皆がお前を忘れたとしても、この逆境の中優勝する俺を忘れる奴なんかいない。俺は歴史に名を刻むんだ!お前のような運に味方されただけの奴と違って!」
ブランカが戦うのを嫌がった理由がわかる。こいつはまごう事なき馬鹿だ。それもある意味歴史に名を残しそうな程の……
今のセリフを考えて覚えるのには、そこそこ頭を使ったと思われるが、そんな事の前に相手の力量ぐらい見極めろと言いたい。
少なくとも、俺が先程戦ったブランカの動きは、今大会で一番の速度と破壊力を持っていたと言っても過言ではないと思う。あの戦い方を初っ端からされていたら、不意を突かれて俺は負けていたかもしれない。
それほどの動きを見せたブランカを、この男は俺が運に味方されたから勝てた、と思っているらしい。
俺はその事を全て否定するつもりは無い。勝負に運はつき物だし、実際にはブランカの切り札を食らって、腕一本で済んだことは運が良かったのかもしれない。
しかし、そんなブランカを曲りなりにも俺は倒してこの場所にいるのだから、普通だったら警戒して対峙するのが当然であろう。
そんな事をしないこいつは、本当に歴史的な馬鹿だ。
これが昼行灯を装う演技なら大した物だが、そんなことはないと雰囲気でわかる。
なぜならば審判が試合開始の合図をしようとしているのに、先程からケイオスは観客を相手にする事ばかりを気にして、俺の事など完全に無視をしている。
「準決勝、試合開始!」
審判もふざけた態度のケイオスに腹を立てたのか、若干声が苛立っているように感じた。
しかしそれでもケイオスの意識は観客に向いていた。
なので……
「一つ……」
先程のブランカの技のように、強化魔法を使ってケイオスの懐に飛び込み、刀を首に突き付けた。
ケイオスは俺に気づくのが遅れて慌てて後方に飛んだが、飛ぶ直前に首に刀を軽く押しつけて薄皮一枚だけ切り裂いた。
後方に着地したケイオスが一瞬だけ首に意識をやった隙に今度はケイオスの背後に回り込み、先ほどと同じように刀を首に突き付ける。
「二つ……」
またも刀を首に軽く押し付けて薄皮一枚を切り裂く。
さすがのケイオスも今度は警戒し、距離を取っても傷に意識をやらなかったが、俺は同じ方法で距離を詰めた。
俺が距離を詰めると、ケイオスは咄嗟に首元をかばうような動きを見せたが、今度はガラ空きだった左脇を切っ先で軽く突いた。
「三つ……」
ケイオスはミスリルの鎧を装備しているのだが、いかに鎧といえども全身を隙間なくミスリルで覆っている訳ではなく、脇や関節等のつなぎ目の部分には丈夫な魔物の皮(ケイオスの場合は下級龍の素材)などが使われている。
しかし、いくら下級龍の素材であろうとも、俺の持つ古代龍の素材で出来た刀の鋭さには敵わず、切っ先はあっさりとケイオスの脇に刺さった。
「四つ……」
次は右の手首の血管の上辺りを刺す。
「五つ……」
今度は右膝の裏。
「六つ……」「七つ……」「八つ……」「九つ……」
左耳に軽く切れ込みを入れ、右のアキレス腱を刀で軽く撫で、腹部の鎧の隙間に切っ先を差し込み、右の頬に切り傷をつける。
「十……」
最後は眉間に5mm程切っ先を突き刺した。
一から十を数える間にかかった時間はおよそ三十秒。その間のケイオスは、俺の動きを満足に捉える事ができずにされるがままであった。
眉間に刀を突きつけた瞬間、尻餅をつき呆然とするケイオス。
尻餅をついた瞬間は何も感じなかったようだが、時間が経つにつれ刺された箇所や切られた箇所の痛みに気づいたようで、顔が真っ青に変化した。
しかし、そんなケイオスにも多少の戦意と意地は残っていたようで、自身の剣を杖がわりにして立ち上がった。
「くそ……くそ、クソクソクソクソッ!このクソガキがっ!俺様をなめんじゃねぇえええ!!!」
ケイオスは僅かに残っていた戦意に『怒り』という燃料を投下して、無理やりにでも自身を奮い立たせるようにして吼えた。
「ゴブリンみたいに吠えていないで、さっさとかかってこいよ、前回の優勝者さん」
吼えた後、後ろに跳んで距離を取ったケイオスに、俺は言葉の挑発だけでなく刀を鞘に収め、さらに観客からも見えるように腕を軽く前に出し、手招きをした。
この挑発行為にケイオスはブチ切れ、魔法を発動させた。
「死ね死ね死ね死ねぇえ!死ねや、クソガキっ!」
ケイオスが放った魔法はファイヤーボールの五連発。曲がりなりにも前回の優勝者だけあって、平均的な魔法使いを超える程度の速度と威力があった。
しかし……
「大した事ないな……」
俺はその場から一歩も動かずに、魔力を纏わせた手でファイヤーボールの軌道を逸らした。
逸らされた火の玉は俺の背後に着弾し、闘技台の表面に多少の燃え跡を残して鎮火した。
「なっ!ぐあっ!」
ケイオスが驚いた瞬間、俺の放った魔法が肩に当たりその衝撃で後ろに数歩よろめいた。
放った魔法は『エアブリット』で、本来なら並の鎧くらいは貫通できる程度の魔力を込めたのだが、ミスリルの鎧が持つ魔法への抵抗力のせいで、鎧の表面に少し傷が付くくらいまで威力を殺された。
しかし、エアブリットの衝撃までは殺す事はできなかったようだ。
体勢を立て直し唖然とするケイオス。そんなケイオスに俺は無言で左手を伸ばし、指をちょいちょいと曲げて『かかって来い』と挑発した。
俺の挑発に顔を真っ赤にしたケイオスは、先程と同じようにファイヤーボールを連発する。
今度のファイヤーボールも五連発だったが、先程とは少し違う点があった。それは、五連発を放った後間を置かずに、再度ファイヤーボールの五連発を放ってきたことだ。
最初の五連発は前と同じように軌道を逸らせたが、その次の五連発はファイヤーブリットで打ち抜いてやった。
火の玉よりも小さな火の弾で相殺される様を見て、ケイオスの表情が変わってきた。
先程までは怯えを怒りで隠したような感じであったが、徐々に怯えを隠しきれなくなり、半狂乱の様相になっていった。
「く、来るんじゃねぇえええーーー!」
ゆっくりと近づく俺に対して、無闇矢鱈にファイヤーボールを放ってくるケイオス。
俺はその全てをファイヤーブリットで相殺させていく。
最初は俺とケイオスの中間辺りで相殺されていた魔法も、徐々にケイオスの近くで相殺されていき、遂にはケイオスの目の前で魔法が消えていった。
この時の俺とケイオスの距離はおよそ15m。その時ケイオスがどこからかナイフを取り出し、俺に向かって投げつけてきた。
ケイオスはかなり焦っていたようで、ナイフは俺の1m程手前に落ちた。
俺はただのナイフのように見えていたので、ケイオスが手に持った時は特に気にしていなかったのだが、ナイフが落ちる直前に嫌な感じがして咄嗟に後ろに飛んだ。
俺の勘は正しかったようで、ナイフが下に落ちて刺さった瞬間に爆発を起こした。
爆発の直撃は受けなかったが、爆発の余波は躱せずに顔や腕に軽いやけどを負ってしまった。
ナイフは長さが30cm程であったのに、爆発の範囲は直径でおおよそ4~5mあり、もしも直撃していたならかなりの怪我を負うことになっていたであろう。
この状況に、観客席の一部から『アイテムの使用禁止』を叫ぶ声が聞こえ、審判が動こうとしたが、いくらか調子を取り戻したケイオスは、先程のナイフと同じような物をもう一つ取り出し頭上に掲げ、審判に見せつけるように叫んだ。
「これはナイフだぜ!ルール上ではナイフの使用は禁止されていないはずだ!」
審判の動きが一瞬止まったのを見て、ケイオスは手に持ったナイフを俺目掛けて投げつけてきた。
今度は真っ直ぐに俺に向かって飛んできたが、正直ただよければいいだけなので、先程までのファイヤーボールより楽だった。
ナイフを躱すと同時にケイオスへと向かって走り、腰に下げた刀を抜刀した。
居合い切りと胸を張れる技ではないが、高速で踏み込み、鞘からそれなりの速度で抜かれた刀はケイオスの腕を綺麗に切り飛ばした。
刀を抜いた瞬間、ケイオスはちょうどナイフを取り出したところで、切り飛ばされた腕にはナイフがしっかりと握られており、ケイオスの後方に落ちると同時にナイフが爆発を起こした。
「あらら、ああなってしまったら、腕の再生は難しいな。ご愁傷様」
切り飛ばされて爆発に巻き込まれたケイオスの腕はバラバラに飛び散っており、回復魔法でくっつけて元に戻すと言った治療が不可能になってしまった。
ここまで来ると腕を作るか、魔法で再生させなければならなくなる。しかし、そんな治療を施す事が出来る者はそうそう居らず、居たとしても莫大な治療費がかかるであろう。
この世界を隈無く探せば何人かは見つかるかもしれないが、少なくともこの国には居ないとされている。
「あがっ、があぁああああぁーーーーーー!!腕がぁあああああああーーーーーーーっ!!!」
自分の腕がバラバラに飛び散っているのを確認したケイオスは、認識してしまったがゆえに気づいてしまった痛みに耐えかねて叫びだした。
「痛がっているところ悪いんだが……試合はまだ終わっていないぜ!」
無くなった方の腕を押さえて膝をついたケイオスが、俺の言葉に反応して僅かに顔を上げた隙に、勢いよく顔面めがけて膝蹴りを放った。
俺の膝はケイオスの鼻の辺りに直撃して、ケイオスの体を勢いよく後方に転がした。
ケイオスの意識は膝蹴りを食らった瞬間に飛んでいたようだが、その事に審判が気が付く前にケイオスに追い付き、思いっきりケイオスの右膝を踏み砕いた。
右膝はグシャリという音を出し、その痛みでケイオスの意識が戻った。
意識の戻ったケイオスは痛みによって叫び声を上げていたが、この様子では後少しの痛みでも発狂死してしまいそうだったので、回復魔法の応用で痛覚を鈍らせた。
ケイオスの足を砕いた瞬間に審判が動き出したのを感じたので、急いで仕上げに入ることにした。
「二度と悪さをしようと思わないように、去勢しておかないと、なっ!」
ケイオスからちゃんと見えるように大きな動きで刀を上下に動かし、ケイオスの股間のすぐ下の辺りに突き刺した。
ザンッという音を立てて闘技台に刺さった刀を抜き、鞘に収めた後でケイオスの様子を確認すると、ケイオスは口から泡を吹いて気絶しており、股間の辺りからは液体が流れ出ていた。
俺はケイオスから離れて審判の勝利宣言を待ったのだが、審判はすぐには宣言をせずに、他の審判達を集めて話し合いをしていた。
話し合いの間にケイオスはその場で治療が開始され、係員により担架に乗せられて治療を受けながら運ばれていった。
その際、ケイオスの下半身の治療を担当していた係員が、とても嫌そうな顔をしていたのが見えて笑いそうになってしまった。
審判達の話し合いはしばらくの間続き、観客席からブーイングが起こり始めた頃、ようやく審判が解散して俺の勝利宣言がなされた。
「勝者、テンマ!」
その言葉を聞いてさっさと戻ろうと歩き出したのだが、背後では審判が観客席に向けて審議内容の説明を行っていた。
戻りながら聞いた内容では、今の試合において、ケイオスと俺の双方に反則行為があったのではないか、との疑惑が出た為、審判団で審議した結果、俺には反則とされる行為が無かったと判断された、との事だった。
俺のどの行為が反則行為に当たりそうになったのかな、と思いながら控え室に戻る途中で、係員に呼び止められて審判団の控え室へと連れて行かれた。
呼ばれた内容は先程の審議内容の詳細と謝罪、及び聞き取り調査であった。
審議内容の詳細については、俺の行為が審判の指示を無視した疑いがあったと言うものであったが、これについてはケイオスに膝蹴りを食らわせた時点で、審判が止めようと動いたのを無視した、と外部に居た審判の一人から見えた為に審議したと言われたが、闘技台に居た審判や他の審判が否定した為疑惑が晴れたそうだ。
ちなみにケイオスの反則行為は『武器や防具、及びバッグ等以外のアイテムの使用禁止』であり、これはケイオスが使った『爆発するナイフ』が正式に使い捨てのアイテムと判断された為、ケイオスは失格及び大会入賞資格の剥奪と決まったそうだ。
謝罪についてはケイオスがナイフを使った時点で、一旦試合を止めて審判団で審議するべきであった、との事だった。
聞き取り調査では、なぜ過剰とも言える程に攻撃を仕掛けたのか?と聞かれたので、理由としてケイオスの卑劣な行為(爆発するナイフを使った事)と自分の知り合いに危害を加えると脅迫された事を告げた。
特に脅迫内容を話す際にはそこそこ大げさにして、さらにケイオスが言った自分の知り合いの中には、公爵家令嬢や子爵家令嬢も含まれていた、と話したところ、審判団の顔がいきなり深刻なものになり、衛兵と審議の魔法が使える者が急遽呼ばれ、俺の言葉に嘘が無い事を確かめた後、ケイオスの所へと走っていった。
ちなみに審議の魔法は正確な事が分かるわけでは無く、せいぜい魔法をかけられた者が嘘をついているのかを判断するくらいしか出来ないので、あまり役に立たない事もあるが、今回の場合は俺の言っていた事をケイオスが否定したところ、魔法で嘘とバレた為お縄につく事となった。
ケイオスの罪状は今のところ『貴族に対しての侮辱罪』及び『貴族に対しての犯行予告』、おまけとして『俺への脅迫行為』があげられている。
しかし、ケイオスは叩けばまだまだ埃が出てくる、とケイオスを引っ張って(実際は担架にくくりつけて運んだ)行った衛兵達はかなり気合が入っていたので、今後はさらに罪状が増えるであろう。
俺には『ケイオスへの過剰な攻撃』への注意が行われる予定だったらしいのだが、一転して貴族への犯罪行為を未然に防いだとして審判達から感謝される事になった。
審判団の控え室から出たところで、ちょうど闘技場へと向かうジンと出くわした。どうやら試合が終わっても戻ってこない俺を心配して、わざわざ様子を見るために立ち寄ったそうだ。
「よっ!無事だったか、テンマ……まさか「やっぱり失格でした~」なんてオチはないよな?」
「ああ、流石にそれはない。逆にケイオスをボコった事を審判達から感謝されたさ」
「なんだそれは?」
理由の分からないといった感じのジンに、俺は先程の控え室での事を簡単に説明した。
「って事は、俺と山賊王の負けた方が三位決定か……」
「そうなるな。でもなジン、別に共倒れでもいいんだぞ?俺としてはそっちの方が楽だからな!」
「アホを言うな!そんな事になったら観客が暴徒と化すわっ!とにかくお前は首を洗って待っていろ!」
そう言って俺に背を向けて闘技場へと向かうジン。
しかし、その言葉が俺とジンが交わした最後の言葉になるとは、この時の俺は露程にも思っていなかったのだった。