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第5章-8 強者

皆様のおかげで800万PV突破いたしました。

今後共よろしくお願いします。

 目の前の光景に崩れ落ちそうになるジン。

 俺はそんなジンの横に立ち肩を貸して支えていると、俺達の所に向かって山賊王が歩いてきた……その掲げる斧の先にガラットを突き刺したまま……


 近づいてくる山賊王を見て、怒りに体を震わせながら立ち上がり殺気を全身から放つジン。

 しかしこの時、俺には近寄ってくる山賊王の様子が少しおかしいように感じた。


「このクソ野郎が!今のはどう見てもやりすぎだろうが!」


 殺気を叩きつけるかのようなジンの声を聞いて、明らかに山賊王の足色が鈍っていた。

 そんな今にも山賊王に飛びかかりそうなジンを俺が羽交い締めにして止めると、山賊王は少し安心したかのようにまた歩き出した。


「放せっ、止めるなテンマ!」


「待てってジン。少し様子がおかしい!それによく見てみろ、ガラットの体から血が流れ出ていない(・・・・・・・・・)!」 


 俺の言葉を聞いてガラットを見つめるジン。

 もし山賊王がガラットの体を突き刺していたのなら、かなりの量の血が噴き出していないとおかしいはずだ。


 ジンが静かになったのを見て、山賊王は斧の先に引っ掛けていた(・・・・・・・)ガラットをゆっくりと場外へと下ろした。

 そして山賊王は審判の方を向いた。審判も山賊王の行動に驚いていたが、ガラットへと急いで近づいて来て、ガラットが生きているのを確認した。


「勝者、アムール!」 


 審判の宣言を聞いて控え室へと戻っていく山賊王。

 その姿に多くの観客達が呆気に取られていたが、審判は観客に向けて、『山賊王の最後の一撃はガラットの命を狙ったものではなく、ガラットを場外へと運び出し、安全にガラットを負かす為の行為であった』との見解を述べた。

 その審判の説明に観客達は納得し、山賊王の歩いて行った方に向かって拍手を贈り、ボロボロになるまで戦ったガラットへも拍手を送った。

 

 ジンはガラットの心臓が動いている事に安堵していたが、ガラットが死なないまでも大怪我をしているのを思い出して、背中に担いで医務室へと急ごうとしていた。


「まてジン。この場で応急処置だけやっておこう」


 俺の言葉を聞いて、ジンはガラットを背中から降ろして横に寝かせた


「『キュア』……『アクアヒール』」


 俺は魔法を二発続けて使い、ガラットの治療を行う。

 ガラットの体の傷はほとんど治ったが山賊王に転がされた時に頭でも打ったのか、今だに意識が戻っていない。

 魔法を使い終わったところで係員がタンカを運んできたので、ジンと俺とでガラットをタンカに乗せて医務室へと運んでもらった。

 医務室で待機していた医師の診断によれば、『ガラットは命に別状はない。怪我も魔法が効いているので大したことはないが、頭を打っているので念の為安静にしておかなければならない』との事で、現在医務室のベッドで寝かされている。


「ガラットが助かって良かった……しかし、山賊王の奴め……」


「ジン、ガラットの事で山賊王を恨むんじゃないよ……あれはあくまでも試合だったんだ。ルールの中で起こった事を言ってもしょうがないさ……」


 メナスがジンの肩を叩きながらなだめる。リーナはガラットの治療の手続き等でこの場を外していた。


「わかっているけどよぉ……」


「いいや、あんたは分かってないね。現に、テンマがあんたを止めなかったら、あんたは山賊王に飛びかかっていただろ?そうなったらあんたは失格になっていて、ガラットも恥をかく事になっただろうよ」


 メナスの言葉にジンは気まずそうにしている。


「まあ、それはともかくとして、テンマありがとう。あんたのおかげでガラットの怪我も大したことがないし、このバカ(ジン)の出場資格も取り消されずに済んだ……ほら、あんたも頭を下げな!」


「分かってるって……本当に済まなかったなテンマ。感謝しているよ」


 ジンはメナスに頭を押さえつけられながら俺に礼を言っている。


「まあ、それはいいんだけどさぁ……チーム戦は大丈夫なのか?」


 ジン達もチーム戦の本選に進んでおり、尚且つ『暁の剣』は元々定員割れで大会に参加している。

 なので、一人でも欠けるという事はかなりのハンデになってしまう。


「まあ、仕方がないさ。一応明日は丸々空いているから、それでどれだけガラットが回復できるかだな……最悪の場合はガラットは出さずに、俺とメナスとリーナで頑張ってみるさ」


 本来ならば個人戦に出場する者がいて、チーム戦にも参加するパーティーは、このような状況に備えて上限ギリギリの6人を用意するのだが、希にこのような事態に陥るチームも存在する。

 そんな時でもメンバーの追加、変更は認められていない為、『暁の剣』は厳しい戦いを強いられてしまう事になる。


「そこはテンマの心配するところじゃないさ……テンマは間違ってもこんな状態になるまで戦うんじゃないよ。私達だったら、例えメンバーが一人欠けたとしても大会に参加する事はできる。でも、眷属でメンバーを固めたテンマのチームでは、テンマのリタイヤは、即チーム戦のリタイアになるんだからね」


 メナスの言っている事はすなわち、『大会はあくまでも人の大会である為、眷属(魔物)のみの参加は認められていない』という訳であり、俺のチームに登録されている人は俺だけなので、俺が出られない事になると、チーム自体に参加資格が無くなってしまうのである。


「ああ、肝に銘じておくよ」


 そう話している内に、全部の一回戦が終了に近づいているようで、係員が俺を探しにやってきた。


「まもなくテンマ選手の出番がやってきます。控え室にお戻りください」


 俺は頷いて椅子から立ち上がり、控え室に戻る前にバッグからいくつかのポーションなどを取り出してメナスに渡した。


「もしガラットが目を覚ましたら飲ませてやってくれ」


「悪いね、テンマ」


 メナスは素直に受け取り、自分のバッグに直した。

 ジンは二回戦の最後の試合まで出番がないので、それまではここにいるそうだ。


 控え室に戻ってから少し体をほぐしていると、俺の出番が来たと係員が呼びに来た。

 俺の二回戦の相手は大柄な斧使いであり、前回の大会でも本選に進んだそうで、仮想山賊王としてはサイズ的にはいいのだが、相手は前回の大会でアッシュにボロ負けしたそうなので、いかんせん実力が違いすぎて参考になりそうにない。


 俺が闘技場に上がると相手はまだ姿を現しておらず、係員が慌てて呼びに行っていた。

 係員が相手の控え室に呼びに行ってからも直ぐにはやって来ず、闘技場に姿を現しても俺の所まで来るのに時間をかけていた。

 何をやっているのだろうかと思って相手を見てみると、どうやら俺をイラつかせる作戦のようだ。

 先ほどからニヤニヤと笑いながら俺の顔を見ている。


 前世で言うところの、『遅いぞ!武蔵!』の様な戦法をやりたいのだろうが、待たせすぎると審判の判断で負けとなるようなルールのある試合では効果があるとは到底思えない。

 しかも、俺をイラつかせるよりも前に観客をイラつかせてしまったようで、先程から大きなブーイングが起こっており、オッゴにとってアウェーのような雰囲気となっている。

 審判もオッゴがわざとに時間をかけている事が分かっているようで、若干イラついているようにも見えた。


「本選二回戦、第一試合、テンマ対オッゴ。試合開始!」


 オッゴと言われた男を改めて見てみると、身長は2mちょっとで体重はおそらく100kgを軽く超えているだろう。見るからに力自慢といった感じで、何の考えもなしに斧を大きく構えている。


 俺は剣を抜かずに、小手調べとばかりに相手の懐に潜り込んで左のボディーブローを放ってみた……ところ、オッゴの鳩尾のあたりにモロに入ってしまった。その結果、オッゴは口から泡を噴いて悶絶しながら倒れてしまった。

 そのままオッゴは立ち上がる事ができずに、審判の判断により負けを申告された……あれ?


 オッゴは負けを申告された後も立ち上がる事ができずに、最終的には係員に両脇を抱えられて退場していった……マジで?これで終わり?


 俺は呆然と立ち尽くしてしまい、その場で退場するオッゴをしばらく眺めていた。

 ちなみにオッゴが退場する際、観客達から会場が揺れたと錯覚するくらいの大きなブーイングが起こってしまい、係員が観客をなだめるのに四苦八苦していた。


 俺は審判に即されて大きなブーイングを背に控え室へと戻ったのだが、戻ってからも釈然としないままだったので、気分転換も兼ねてガラットの見舞いに行くと、ジンとメナスに、『もう終わったのか』と呆れられ、事の顛末を話すと爆笑された……爆笑していた二人は、医者と看護婦に怒られてしまい、何故か俺まで巻き込まれてしまった。


 二回戦第一試合が瞬殺というハプニング?はあったが、その後の試合は前年以上に盛り上がりを見せていた。

 俺の三回戦の相手も決まり、予想通り前回の三位入賞者であった。

 山賊王の試合もあっさりと終わった。対戦相手は何度か攻撃を凌いではいたが、攻撃を当てる事も出来ずに敗北していた。

 その次に勝ち上がったのは前回の優勝者で、相手をいたぶるような戦い方を終始続けており、観客の反応も良くはなかった。しかし、相手は前回も本選に進んでおり、その相手に対してダメージを受けずに勝っているのでそれなりに実力はあるのだろう。


 やがて、二回戦最後の試合の時がやって来て、そうとう気合の入っているジンが登場した。

 可哀想な事に、ジンの対戦相手は今回が大会初出場で本選へと進んだ人物であり、本来ならば次代のホープと言われてもいいような若者であったのだが、ガラットの敵を取ろうと、『打倒山賊王』に燃えるジンをどうにかするだけの力は持っていなかった。


 試合は開始当初から一方的な流れとなり、開始5分ほどで決着がついていた。

 終始ジンの攻撃を受け続ける事しかできなかったと若者は落ち込んでいたが、俺からすれば、『よくあの状態のジンの攻撃を5分間も耐え切ったな』といったものであり、試合を見ていた内の何人かも同じような感想を持っているみたいだった。


 ジンの試合で二回戦も全部終わり、残りの試合も半数になったところで試合は一時間の休憩となった。

 観客はこの時間を利用して昼食などを買いに行くのだが、選手としてはあまり食事を取る事は出来ない……普通ならば……


「テンマおかわり」


 何故かジンは俺の控え室にやって来て、俺の昼飯を集っていた。

 俺の昼飯は雑炊だ。屋敷に残っていた白菜や鶏肉を使って雑煮風に仕上げたスープに、以前炊いて保存していた白米をぶち込んで溶き卵を入れたもので、雑炊にしているので消化によく、鶏肉や卵が入っているので栄養価もバッチリになっている……はずだ、多分。


 参加選手の内、勝ち残っている者は観客席や会場の外に出る事ができないので、食べ物や飲み物は係員に伝えて持ってきてもらう事になっていた。

 しかし、係員から貰ったメニューの中にはあまり食べたいものが無かったので、控え室で許可をもらって作っている途中に、医務室を追い出されたジンがやって来て今の状況となっていた。


「ジン……いくら消化にいいって言っても、たくさん食べたら意味はないからな……」


「大丈夫だって!俺の試合は最後だから、消化するくらいの時間はあるさ!」


 俺の嫌味をものともせずに雑炊を掻き込むジン。ジンの登場で多めに作ったとは言え、このままでは俺の分がなくなりそうなので俺も食べる事にした。


 ジンは雑炊を食べ終わると横になって話しかけてきた。


「テンマは山賊王をどう見る?」


「ジンの言ったとおりに、俺達が思っているよりもだいぶ若そうだ。それにガラットとの戦いを見るに、奇襲や翻弄されることに慣れていないように見えた」


 俺の言葉を聞いてジンも頷いている。


「大体俺と同じ感想か……でも、俺の戦い方は、どっちかって言うと山賊王に近いからな……正面からの殴り合いになりそうだな」


 ジンはそう言っているが、元より正面からの乱打戦をやるつもりだったのだろう。奇襲や翻弄もやろうと思えば出来るであろうが、ジンがやってもガラットの様には戦えない。

 だったら自ずと戦法は決まってくる。

 無理にガラットのマネをするよりは、正面から殴り合った方が勝ち目が高いというわけだ。


「よっ、と……それじゃ俺はガラットの所に戻るわ。テンマ、ごちそうさん」


 ジンは勢いよく立ち上がると、片手を挙げて俺の控室から出て行った……俺の控室を散らかしたままで……

 取りあえず洗い物等は一纏めにしてバッグへと放り込み、わずかな時間でも寝ておこうと長椅子に横になった。

 体力的にはかなりの余裕があったのだが、思っていた以上に精神的な疲れがあったようで、すぐにウトウトとしてしまった。




 しばらくして、控室に誰かが近寄って来ている気配を感じ、俺は半分寝た状態から意識が完全に覚醒した。


「テンマ選手の出番が近づいてきていますので、準備をお願いします」


 近づいて来ていたのは係員だったようで、控室の扉をノックしてから用件を伝えて来た。


「分かりました」


「では、また十分ほどしてから呼びに来ますので、それまでに準備を終えてください」


 準備と言っても、愛用しているレザーアーマーなどはすぐに装備が終わるので、後は体をほぐしておくくらいしかやる事が無い。


 三回戦の相手は前回の三位入賞者。一応彼の試合はチェックしたんだが、その事で少し疑問が出来たが今考える事でもない。

 35歳の虎の獣人で名前はブランカ。戦い方はその見た目に反して、力押しよりも技で相手を圧倒する事を好むタイプである。

 彼の得意な武器は槍なのだが、一回戦と二回戦を彼は槍の穂先を木で出来たものに差し替えて戦っており、ここまで力を抑えた状態で勝ち抜いて来ている。

 俺はブランカに槍で戦ってみたいと一瞬思ったが、槍同士では俺が不利なだけなので今回は我慢することにした。


 小烏丸の感触を確かめていると、いつの間にか時間になっていたようで係員が迎えにやって来た……本来ならば係員は呼びかけるだけで迎えには来ないのだが、オッゴの時の様に観客が騒ぎだしたら大変なので迎えに来るように決まったそうだ。


 俺が闘技場に上がるのとほぼ同時に、反対側からもブランカがやって来た。

 ブランカは俺を見るなり、いきなり獰猛な表情になった。一瞬怒ったのかな?と思ったが、怒っているような雰囲気には見えず、むしろ楽しんでいるような雰囲気に見える。おそらくは興奮するとあのような顔つきになるのだろう。


 闘技場に上がって直ぐに立ち止まり、口元に小さな笑みを浮かべると、ブランカは槍の先に巻かれていた布をはぎ取った。布の下には白い金属で出来た穂先が差し込まれており、少し遠目で分かりづらいがおそらくはオリハルコンで出来た物のようだ。

 どうやらブランカは俺を強敵と認めたようで、今大会で初めて本気になったという事だろう。


 俺とブランカが闘技場の中央部まで来ると、審判が俺達の様子を見てから右手を上げようとしたが、ブランカが待ったをかけた。


「おい、テンマだったな。そんなちっぽけな武器でいいのか?俺に接近する前に串刺しになっちまうぞ?」


 ブランカは俺の武器を見ながら言っているが、あまり馬鹿にしているようには聞こえない。


「逆に聞くがそんな武器でいいのか?懐に潜り込まれたら邪魔だろ?」


 俺の返事に対して、ブランカは牙を覗かせながら笑っている。


「生意気な奴だな……大口をたたいた事を後悔するなよ!」


 審判が右手を上げる。


「後悔させてみろよ!」


 俺の言葉と同時に、審判が右手を振り下ろしながら審判が何か叫んでいた。

 俺とブランカは審判の言葉と同時に駆け出した。


 ブランカの槍の穂先は走りながらも俺の体に焦点を合わせている。

 対する俺は腰の小烏丸を抜かずに、ブランカの初撃を躱す事に集中している。 


 俺が槍の間合いに入った瞬間、ブランカの鋭い一撃が放たれた。

 思っていた以上の速度にレザーアーマーの胸部が軽くえぐられたが回避には成功し、俺はブランカの懐へと潜り込もうとした。

 だが、ブランカはそれを許さず、俺が回避した瞬間に槍を横薙ぎに切り替えた。

 槍は俺の脇の下辺りを通過していた為、俺は咄嗟に避ける事が出来ず、そのまま俺の体は横に飛ばされた。 

 ただ、槍と俺の体にあまり隙間が無かった為、あまりダメージは無かった。


 先ほどの一撃は躱した瞬間はブランカの全力の一撃だと思ったが、いきなり横薙ぎに変化したところを見ると、まだ槍の速度は上がりそうである。


 しっかりと着地は決めたが、ブランカと距離が出来てしまい仕切り直しの形となった。

 今度はあらかじめ刀を抜き、再度ブランカに向かって走る。

 ブランカは腰を落として槍を構え、突っ込んで来る俺に対して突きを連発してきた。

 

 速度は先ほどよりも遅いが、途切れなく放たれる突きは並の動体視力では追いきれないだろう。

 俺は槍を刀で防ぎながら接近を試みたが、ブランカは槍の速度に強弱を付けて俺を翻弄してくる。


 いずれブランカの突きも止まると思っていたのだが、速度が衰える様子が全く見えず、観客席からは一方的に俺が攻めあぐねているように見える展開となった。

 俺が距離を取るとブランカも距離を取る。

そして、俺が動き出すとブランカも動き出して槍の連撃を繰り出す。


 刀と槍のリーチの差で俺の攻撃がブランカへと届かないが、今の所ブランカの攻撃をまともに食らっていないので内容的には互角である。

 

「テンマ、そろそろ本気で行くぞ」


 ブランカが槍の連撃を繰り出しながらそんな事を言い出した。


「いつでもどーぞ。俺も本気を出すし」


 軽口を叩くように言ってみたが、内心ではあれが本気でなかった事に少々驚いていた。

 ブランカが本気を出すと言った直後、これまでの連撃に変化が起こった。

 これまでの連撃は単純な突きであったのが、変化後は突きに回転が加えられた。


 試しに回転が加えられた突きに対して刀で払おうとすると、刀が大きくはじかれてしまった。

 刀を手放す事だけはしなかったが、その代わり体勢を崩してしまい、危うくブランカの一撃を食らってしまう所だったが、間一髪で避ける事が出来た。

 しかし、ブランカの一撃がレザーアーマーに掠ってしまったようで、レザーアーマーの一部が削り取られており、使い物にならなくなってしまった。


「くっそ、もうこれ使い物にならねえじゃねえか……結構気に入っていたのに!」


 これまで愛用してきたレザーアーマーを外しながら愚痴をこぼしたが、目だけはブランカから外さなかった。

 ブランカも俺がアーマーを外し終わるまで、なぜか律儀に待っていた。 


「はっ、レザーアーマーだけで済んでよかったじゃねえか。本当は今ので決めるつもりだったのによ!」


 俺がレザーアーマーを外し終わるのを見て、ブランカは再度槍を構え直した。

 さすがに次に同じような一撃を食らうとヤバいので、今度は()を使って戦う事にした。


 ブランカの回転を加えた一撃は、確かに脅威ではあったが弱点が無い訳ではない。

 回転は腕を捻るようにして加えているようなので、腕が伸びきってしまうと一瞬だけ動きが止まってしまう。なのでブランカは腕を伸ばしきらない様に、最初の突きよりも射程を短くしており、間合いの不利は若干解消されていた。

 なので最初の頃よりは2~30cmくらいではあるが接近する事が出来るようになり、あと少しで一撃を加える事が出来るようになりそうであった。


 俺がタイミングを見計らってカウンターを仕掛けようとした瞬間、ブランカの一撃が突如として伸びて来た。

 その理由は単純で、突きに回転が無くなったのだ。ブランカは俺がタイミングを計っていたのに気付き、逆にタイミングを合わせて突きを伸ばしてきたのだった。


 俺のカウンターに対して、逆にカウンターを放ってきたブランカは不敵に笑っていたが、それこそ俺の待っていた一撃であった。

 ブランカ程の達人が、俺のカウンターに気が付かない訳がないと思っていたので、細かく動きを変えて踏み込んだら、案の定突きから回転が消えて射程を延ばしてきた。

 その回転が無くなってただの速い突きとなった一撃を俺は一歩踏み込んで穂先の根元を掴んだ。

 ブランカは突然の事に驚き、慌てて槍を引こうとしたが、次の瞬間にはそれは悪手だと気付いたようで槍を地面に叩きつけようと切り替えたが遅かった。


「ぐげぇええ……」


 俺はブランカの突きが変わった瞬間に刀を手放し腰から鞘を抜き、蹴りで鞘を押し込むようにして攻撃した。

 その結果、鞘には俺の蹴りの威力とブランカの槍を引く力も加わった状態で、ブランカの胸の辺りに突き刺さった。

 しかし、ブランカは咄嗟に鞘が当たる箇所に魔法を使い防御力を高めたみたいで、その一撃でブランカを沈めることは出来なかった。

 ブランカは槍を振るって俺を弾き飛ばし、強制的に距離を取った。

 槍を振るった時にわずかだがブランカの顔が歪んでいたので、全くダメージが無かったわけではないようだ。


 俺は手元から離れてしまった刀と鞘を自分の手に呼び寄せた(・・・・・・・・・・)

 呼び寄せた鞘は腰に挿し直し、刀を中段に構えてブランカと対峙する。


 観客席からは、俺の手元に急に現れた刀と鞘の存在に対しての驚きの歓声が聞こえていたが、今の俺にはあまり気にする余裕がなかった。

 なぜならば、先程からブランカが殺気を帯びだしたからだ。それもかなり濃厚な……


 これまで殺気を帯びる者と相対した事が無かったわけではないが、これほどまでの殺気を人間から向けられる(・・・・・・・・・)のは初めてだ。 

 

「テンマぁ……死んでも恨むなよぉ……」


 その言葉と同時にブランカの姿が消えた……正確には消えたように見えただが、俺が一瞬姿を見失ったのには変わりない。

 ブランカの姿を見失った直後、俺の左後ろから急激に殺気が膨れ上がり、俺を飲み込もうとしていた。

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