第5章-6 スラリン無双
スラリンの変化、それはスラリンの巨大化だった。
それまでのスラリンは大体直径60~80cm程の大きさだったのだが、目の前のスラリンは目算で4mを軽く超えており、もしかすると5m近いかも知れない。
これには対戦相手達や観客のみならず、主であるはずの俺も驚いていた。
急いでスラリンのステータスを確認してみると……
名前…スラリン
年齢…9
種族…エンペラースライム
称号…テンマの眷属
となっている。
何やら種族がおかしいことになっている……キングを通り越してエンペラーって……
スライムが大きさによって種族名が変わると言うのは聞いていたが、変化する直前のスラリンは、いつもと変わらない、普通のスライムだったはずだ。
もし仮にいつの間にか種族が進化する条件を満たしていたとしても、ゲームではないのだからいきなり大きくなるなんて事が起こるはずはない……しかし、現実にはあるはずのない事が目の前で起こっている。
俺が混乱している間にも、スラリンは何事も無かったかのように動き出している。
まずスラリンは大きくなった体を対戦相手達を囲むように伸ばしていく。
次に伸ばして包囲した体から、いくつもの触手のようなものが生えてきた……その数は軽く見積もってもおよそ千本。この時点で対戦相手達は状況に気づき、防御体勢を取り始めた。
しかし、その防御体勢は少し遅かったようだ。
スラリンはいくつもの触手を対戦相手達に叩きつけ始めた。
見た感じ防具の上から叩いている事も関係しているようで、触手の一撃にはそれほどの威力は感じられない……だからといってダメージや衝撃が全く無い訳ではない。
始めの頃こそ対戦相手達も触手に対して攻撃を加えて、いくつかの触手を切り落とすことに成功していたが、それでも微々たるものである。しかもせっかく切り落とした触手は、まるで意思があるかのように本体に向かって這って行き取り込まれている。
そしていつしか防戦一方になり、スラリンの攻撃に対して攻撃を捨てて体を丸めるようにして防御に徹している。
それでもスラリンの攻撃は止まない。寧ろ、好機とばかりに勢いを増している。
どうやらスラリンは馬鹿にされた事を怒っているようだ。いつもは温和なスラリンがここまで怒ることも珍しい。どの言葉がスラリンの気に障ったのか分からないが、スラリンの攻撃はとてもえげつない。
その気になれば、あれくらいの相手だったら一撃で沈める事も可能なはずだが、今日のスラリンは相手が逃げ出す事ができないように取り囲み、わざとに威力を落とした攻撃を何百、何千と繰り出して相手が死なず気絶もしないような攻撃で苦しめている。
これが本当の一流の相手であったら難なく逃げる事も可能であったろうが、見掛け倒しの対戦相手達ではそんな芸当もできるはずもなく、一人また一人と戦意を喪失していく。
全員が武器を捨てて戦意を喪失したところでで、ようやく審判が止めに入ろうとした。
その動きを察知したスラリンは、審判が声を掛ける前に元の大きさへと戻り、俺とシロウマルの所へと戻ってきた。
「勝者、スラリン!」
審判は思わずといった感じに、俺のチーム名ではなくスラリンの名を叫んだ。
ちなみに、俺達のチーム名は『オラシオン』である。チーム名を考える時に、たまたま外に出していたタニカゼを見て、そんな名前の馬が活躍する小説があったな、と思い出したので付けてみた。ちなみにスペイン語で意味は『祈り』である。
俺達の所に帰ってきながらスラリンが元のサイズに戻っているのを見て、巨大化のカラクリがどういったものか判明した。
「スラリン。お前、体の中に新しいディメンションバッグを作って、バッグに自分の体を保存しているな」
スラリンは俺の魔力の影響なのか、空間魔法が使えるためディメンションバッグを作って自分の体内に隠し持っている。
そして今回は俺の知らない新しいバッグを作って、その中に自分の体の使わない分を切り離して保存しているのだろう。
先程の巨大化は、バッグから出した体を融合させた為に起こった現象なのだ。しかも、バッグはスラリンの体の中にあるので、体の中でバッグを開いて、体の中に切り離して保存していた体を出したため、急に大きく膨らんだように見えたのだろう。
俺の指摘にスラリンは体を縦に揺らして肯定した。なお、シロウマルは知っていたようで、驚いた様子はなかった。この様子ではソロモンも知っている可能性もあり、知らなかったのは俺だけの可能性が高い。
俺達は驚きすぎて静まり返っている観客を尻目にテントへと戻っていった。
俺達が居なくなったところでようやく観客達は我に返り、大歓声を響かせていた。
「それでスラリン。いつから皇帝様に進化していたんだ?」
俺はテントの中でスラリンを問い詰めた。現在のスラリンはステータスを確認すると、前のように種族が普通の『スライム』となっていた。
スラリンは俺に黙っていた事に対して、体全体を使って謝っている。
その後スラリンのジェスチャーで分かった事は、スラリンがエンペラーになったのはセイゲンのダンジョンを一人で攻略している時で、ダンジョン内の隠れ家で俺が訓練や研究をしている時にこっそりと抜け出して、同じスライムを捕食して回っていたそうだ。
俺に黙っていた理由は、前に一度スライムを取り込んだ時に、その様子を見ていた俺が気持ち悪そうにしていたので内緒にしていたらしい。
「まあ、それはいいんだが……一体どれくらいの数のスライムを取り込んだんだ?」
俺の質問にスラリンは少し考えて、体を横に揺らした。
「分からないほど捕食したのか……」
その答えに体を縦に揺らして肯定するスラリン。しかし、スラリンがエンペラーになった事で、戦力が上がった事は確かである。
一般的にスライムは、普通のスライムからビッグスライム、キングスライムと進化すると言われている。
エンペラースライムとはキングの上を行く進化だと思われる。
スライムの見分け方は、大きさが60cmくらいまでなら『スライム』、1m前後で『ビッグスライム』、2m以上でキングスライム、というのが一般的な見分け方だとされている。ただし、スライムの体は水分が多いので、状況によって大きさがかなり左右されるので判断のしにくいところもある。
そんな事を話している内に、もうすぐ全ての一回戦が終了しそうである。
そうなるとすぐに俺達の二回戦が始まる。
相手はテッドとライトのチームだ。今度はスラリンだけでなく、俺とシロウマルも参加する。
軽く体をほぐして待っていると、すぐに係員が呼びに来た。
係員に先導されて闘技場に上がると、観客から大きな声援で迎えられた。
その後すぐにテッド達もやってきたが、ほとんどの声援は俺達に向けられていたので、居心地の悪そうな顔をしている。
審判が両チームの状態を見てから試合開始を宣言した。二つのチームの陣形は、俺のチームが俺を中心にしたほぼ横並びの状態で、右手にスラリン、左手にシロウマルを配置し、俺との距離は二匹ともそれぞれ4m程離れている。
対してライトとテッドは、俺達と10m程離れた位置におり、二人は5m程離れて横並びになり互の眷属と一緒にいる。テッドは俺の右前でライトが左前だ。
最初に動いたのはライトのハードリンクス達だ。ハードリンクス達はシロウマルに向かって走り、左右を囲む形で牽制している。
それに対してスラリンが援護に向かおうとするが、テッドのサンダーバードが風魔法で牽制して近寄らせない。
その隙にライトとテッドが俺に向かってくる。
ライトは獣人の身体能力を活かすように片手剣を二刀流で扱い迫ってくる。テッドはライトの後ろから弓矢を番えている。
俺はバッグから練習用の棒を取り出してライト目掛けて突きを繰り出した。
ライトは俺が取り出した武器が棒であった事は予想していなかったようで、俺の突きを一発くらい動きを止めた。その隙に二発目の突きを繰り出すが、ライトは難なく避けると今度はテッドの放った矢が飛んできた。
矢は正確に俺の居た所と避けて下がった所に刺さり、俺とライトの距離はだいぶ開いてしまった。
シロウマルは二匹のハードリンクスの攻撃に翻弄されかけているが、元々の能力に差があるためこのまま放っておいても大丈夫だろう。
そしてスラリンの方は意外にも苦戦気味だった。スラリンは前の試合のようにエンペラー化していないのだが、それを差し引いても空を飛ぶ敵に対しての攻撃手段があまりなく、逆に相手の魔法が一方的にスラリンに当たっている状況だ。しかし、スラリンもただやられている訳ではないようだ。少しずつだがスラリンはサンダーバードに気づかれないようにシロウマルの方へと近づいている。
試合開始から5分くらいでスラリンが移動した距離は1mちょっとだが、シロウマルもスラリンの意図に気づいたようで、翻弄されている振りをしながらもスラリンに近づいている。
ライトとテッドは俺に集中している為、スラリン達の動きまでは気が回っていないようだ。
俺と二人のにらみ合いが続く中、ついにスラリンとシロウマルが動き出した。
二匹の距離が4m程まで近づいた時、シロウマルが突然横っ飛びをしてスラリンを踏みつけた。スラリンは踏みつけられた瞬間、まるでトランポリンのように弾み、シロウマルはテッドのサンダーバードに組み付いた。
スラリンは、シロウマルの横っ飛びに一瞬遅れて反応したハードリンクス達に向かって体当たりをして、ハードリンクス達を体で絡め取る。その際、スラリンは自分の体をバッグから出していきエンペラー化している。
わずか数秒で自分達の眷属がやられたのを見て、テッドとライトの動きが止まった。
その隙に俺はライトに詰めかけて足を払い転ばせて、首元を棒で押さえつけた。テッドに対しては左手を突き出して魔法をいつでも放てるようにしている。
「「降参だ」」
二人は同時に降参し、テッドは弓矢を床に捨てて両手を上げている。ライトも押さえつけられた状態から武器を手放した。
それを見て審判が俺達の勝ちを宣言した。
「勝者、チーム『オラシオン』!」
その言葉を聞いたスラリンとシロウマルは、すぐに押さえつけていた眷属達を開放した。
スラリンは解放する際に元の大きさに戻っている。
テッドやライト、ハードリンクス達に怪我は無かったが、空中から叩き落とされた形のサンダーバードは羽を痛めたみたいであったが、俺が少し回復魔法をかけると全快したようで、直ぐに空を飛んでいた。
対戦時間は短かったが、眷属が入り乱れて戦う様子に観客も満足したようで、俺達には盛大な拍手が送られた。
「やっぱり負けた……」
「テンマ一人にも勝てないのに……スラリン達までいりゃそうなるわな……」
テッドとライトはそう呟きながら俺と握手してテントへと戻っていった。
次は予選最終戦なので残りの試合を見てみようかと思ったが、予想以上に観客の歓声がすごくてテントでおとなしくしている事にした。
最終戦の相手を決める戦いは思った以上に時間がかかっているようで、テントの中にはだらけ切ったシロウマルと不思議な動きで踊っている?スラリンがいる。
スラリンの動きはもしかしたらストレッチかもしれないが、傍目からにはMPを吸い取る踊りにしか見えない。
そんな中、バッグからソロモンが顔を出したが、ソロモンには本戦の一回戦でデビューしてもらう予定なので、外に出るのは我慢してもらった。
その代わりとばかりにナミタロウが飛び出した。
「次はわいが戦うで~。いいよな、テンマ!」
あまりにも張り切っているので許可を出すと、ナミタロウはとても喜んでいた。
「よっしゃ!ヤルで~」
ナミタロウは尾っぽだけで立ち上がり、胸鰭をバタつかせている。
胸鰭の動きに合わせて、シュシュ、シュシュシュ、と口で言っているので、恐らくシャドーボクシングのつもりなのだろう……とてもそうは見えないがな。
それからおよそ10分後に係員が俺達のテントへとやって来た。
ナミタロウは係員の言葉を聞かずにテントから飛び出して、闘技場へと突進している。
いきなりテントからでかい魚が飛び出したものだから、観客達は驚き静まり返ったが、ナミタロウを俺の眷属と理解してからは歓声に変わった。
その声に応えるようにナミタロウは闘技場ではしゃぎまわっている。
俺は直ぐにナミタロウの後を追わずに、係員と少し話をしてから闘技場に上がった。
俺達が闘技場の中央付近に近づいたのを見て、ナミタロウも俺達の横側に並んだ。そして……
「対戦チームの棄権により、勝者、チーム『オラシオン』!」
との審判の声が会場に響いた。
「なんでや~~!わいの活躍はこれからやのに~~!」
審判の声に続き、ナミタロウの声も会場に響いた。そして、その声を聞いた会場に居たほとんどの人達から驚きの声が上がる。
「「「「「魚がしゃべったーーーー!!!!」」」」」
ハモる声、固まる人々、中には驚きすぎて腰を抜かしている人もいる。
審判も固まっている一人だ。本来ならば、勝利宣言の後で色々とやる事があると思うのだが、審判はナミタロウの声を一番間近で聞いており、驚きすぎて腰を抜かさなかっただけマシな状態だといえる。
ナミタロウはそんな観客達の反応を面白がり、わざと観客席の近くに行きパフォーマンスをしている。
ナミタロウが近づくたびにその付近から人が逃げ出して行き、さらにナミタロウが面白がって調子に乗るという連鎖反応が出来上がっていた。
しかし、このままではまずいので……
「ナミタロウ!ハウス!」
俺はバッグの口を開けてナミタロウを呼んだ。
「いやテンマ。わいは犬やないんやけど……」
「ナミタロウ!ハウス!」
「せやから……」
「ハウス!」
「わいは犬や……」
「ハウス!」
「………………」
「ハ・ウ・ス!」
「……はい」
俺が根気よく呼びかけると、ナミタロウは渋々とバッグに入っていった。
審判はそれを見てようやく再起動し、俺に注意をしてきた。
注意の後で次の本戦の事を教えてもらい解散となった……ちなみに注意とは、あのままナミタロウが暴れたままであったなら、最悪の場合、審判の指示に従わなかったとして失格になる事もありえた、というものだった。
幸いにして、俺が直ぐにナミタロウを止めたので注意のみで済んだ……この事は後でナミタロウとしっかりお話をしようと心に決めた。
テッド達との挨拶もそこそこに、俺はさっさと会場を後にした。理由は、今日は対策がない、からだ。
なので、今日は厄介事が起こる前に全速力で会場を後にした。
気配を消して会場を後にすると、案の定出入り口付近には人だかりが出来ていた。
俺達を待っているとは決まった訳ではないが、貴族関連と思われる者も確認できたので俺の判断は間違ってはなかったと思う。
屋敷に向かっている途中で、いくつかの臨時の試合会場の近くを通ったが、どれもまだ試合が続いているようで、時折大歓声が沸き起こっていた。
近くを通った会場は知り合いが戦っている所では無かったので立ち寄らなかったが、どの会場も大勢入っていたので何組か注目されているチームでも戦っていたのであろう。
そんな事を考えながら屋敷に着くと、すぐさま庭一面に結界を張り、ナミタロウを引きずり出した。
「ナミタロウ……わかっているよな?」
「すんませんでしたっーーー!」
俺の声を聞いたナミタロウは即座に土下座(と本人は言っている)を敢行し、許しを乞うてきた。
その後ナミタロウに説教をしていると、ちょうど説教が終わるタイミングで門が開いた。
屋敷の門は決められた者しか開けない仕様になっているので、恐らくはじいちゃん達だろう。
「わしらを置いて行くとはヒドイではないか!」
「お祝いに何か食べて行こうと思っていましたのに……」
門をくぐって文句を言っているのはじいちゃんとアイナだ。ジャンヌとアウラは二人の背後で息切れを起こしている。
「ぶはぁ、ハァハァハァ……よ、横っ腹が……」
「ハァハァハァハァハァ…………」
どうやら全力で走ってきたようで、アウラはお腹の側面を押さえて苦しんでおり、ジャンヌは喋る余裕が無いようだ。
「だらしないですね、全く。会場から走っただけでこれだなんて……」
アイナはほとんど息を乱しておらず、じいちゃんに至っては疲れた様子もない。
それに会場からこの屋敷までは10km以上はあるはずだ……普通なら走ってこれるだけでも十分だと思うのだが……
「お、お姉ちゃんは……ゴニョゴニョゴニョ(化物だから平気なだけでしょ)……」
前にひどい目にあったと言うのに懲りていないアウラ。できるだけの小声で言うだけ成長したとも言えなくはないが、アイナの身体能力を甘く見すぎだ。
案の定アイナには聞こえており、アウラは後ろ襟を掴まれて連行されていった。
「た、助け……」
アウラは俺に助けを求めようとしたが、アイナに猿轡を噛まされて声を出せなくなってしまった。
そんなアウラ達を見送りながら、じいちゃんに置いていった訳を説明した。
「そんなことがあったとはのう……大変じゃったな……」
どうやらじいちゃんも若い頃に経験したことがあったようで、直ぐに状況を把握した。
「ところで会場から走ってきたって聞いたけど……ジャンヌとか無理だったんじゃない?」
今だに息を乱して地面にヘタリ込んでいるジャンヌを見ながらじいちゃんに話しかけると、じいちゃんは気まずそうな顔をした。
「最初はジャンヌとアウラだけは馬車で返そうと思ったんじゃがの……アイナが「訓練にちょうどいいので二人に強化魔法をかけてください」と言うので魔法をかけて一緒に走らせたんじゃ……正直悪い事をしたと思っておる」
どうやら俺に置いて行かれた事で少し混乱状態になってしまい、アイナの提案にそのまま乗ってしまったそうだ。
そのままジャンヌを休ませる形で庭でのんびりしていると、門の方が少し騒がしくなった。
アウラの調教……を終えたアイナが様子を見に行くと、そこにいたのは三人娘達であった。
「テンマ~~」
「負けたよ~~」
「あのオーガおかしいよ~~」
三人娘は口々に対戦相手だったオーガ、ガリバーの異様さを口にしている。
「あのオーガにしてやられました……」
プリメラも肩を落としている。クリスさんは平気そうな顔をしているが、アイナにかなり悔しがっていると指摘されている。
「なんなのよあのオーガは……オーガって脳筋の代表格のはずでしょ?」
話を聞いてみると、どうやらみんなガリバーをただのオーガと思っていて油断したそうだ。
しかも対戦相手の『鬼兵隊』はガリバーだけでなく、他の四人もかなりの腕前だったそうで、最初から押されていたそうだ。
『鬼兵隊』の陣形は、横一列となりガリバーを中心に左右をそれぞれ二人の騎士達が固めるといったオーソドックスなものだったそうで、三人娘との相性が悪かったそうだ。
『グンジョーの華』はプリメラとクリスさんが壁役となって、三人娘が相手を翻弄しつつ仕留めていく、というスタイルだったそうだが、ガリバーだけで壁役の二人を押さえ込まれてしまい、三人娘は四人の騎士を相手にする羽目になったそうだ。
結果、相手の騎士を二人までは倒す事が出来たそうだが、数と実力が上の相手であった為に三人娘が最初にやられて三対二となってしまい、壁役の二人もそのまま押し切られてしまったそうだ。
「ただのオーガだったら、私とプリメラでどうとでもなったんだけどね……」
クリスさんはそう呟いた。どうやら二人はガリバーを挑発して攻撃が雑になったところでプリメラを三人娘の所に送り込もうと考えていたそうだが、ガリバーの攻撃は一向に雑にならずに、逆に粘るよな戦いをされてしまい三人娘の援護に行けなかったらしい。
さらに話を聞くと、驚いた事に『鬼兵隊』の六人目のメンバーはサモンス侯爵だそうだ。時々ガリバーに対して侯爵から指示が飛び、その度にガリバーの攻撃が変化したそうで、観客達も驚いていたとクリスさんは言った。
三人娘も負けた事にしばらく落ち込んではいたが、それでも予選の決勝まで行ったのだから上出来だ、と思うようにしたようで、表面的には平常通りに戻っていた。
夜に大会本部より配られてきた手紙で本選出場者を見てみると、『暁の剣』『鬼兵隊』『セイゲンテイマーズA』が予選を通過している。
俺の知り合いだけで本選出場者の四分の一を占めている事になる。
他の出場チームの名前は知らないが、簡単な紹介文で前回の優勝チームと準優勝チーム、前々回の準優勝チームなどの実績のあるチームも残っているので、気を引き締めて戦わないといけない。
戦力的には俺のチームが一番だという自信はあるが、経験では圧倒的に負けていると思うので、凡ミスで負けた、などとならないように気を付けなければならない……とりあえずはナミタロウの監視を強化する事にしようと思う。
明日は個人戦の本選があるので、まずは決勝を目指す事に集中しようと思う……できるなら山賊王とは決勝か一回戦で当たるのが望ましいところだが……神様に祈っても無駄なのは分かっているのでそんな事はせずに早く寝よう。
この時は気がつかなかったのだが、15歳での個人、チーム戦同時の本選出場は初の事であったらしい……これだったらシロウマルかスラリンのどちらかとペアに出場して、前代未聞の記録を樹立するのも面白かったかも知れない……とじいちゃん達の前で言ったら乾いた笑い声が屋敷に響くことになった。