第5章-2 テンマの特技?
ドヤ顔の人物はポドロから視線を外し、俺達の方へと歩いてきた。
「お久しぶりです、サモンス侯爵様」
周囲にも聞こえるように、『侯爵様』という部分はワザと声を大きくした。
「いやいや、久しぶりにテンマ殿を見かけたと思って近づいたら……随分とまあ、たちの悪い輩に絡まれておいでですなぁ……貴族に絡まれるのは、テンマ殿の得意技ですかな?」
サモンス侯爵は、ポドロを相手にしていた時とは打って変わって、随分と砕けた感じで話しかけてくる。
それを見た周囲の人々は、「どこぞの大貴族の子息か?」などとヒソヒソと話している。
その頃のポドロはと言うと、完全にサモンス侯爵の言葉と迫力に飲まれていて、どういった行動を取っていいのかわからない様子であった。
そして、そんな隙を見逃す侯爵ではなく、さらに追い打ちを掛けるべく、再度ポドロと向き合った。
「それで、先程の返答はいかに?もし、貴殿の言う通り内務卿がテンマ殿の……国民の財産を奪うような発言をしたのならば、これは由々しき問題である!即刻、国王陛下にお知らせして、ダラーム公爵を諌めてもらわないといけない!」
サモンス侯爵は、大げさな身振りで周囲にも聞こえるようにしている。
その様子を見ていたポドロは、先程より顔を真っ青してフラつき、引き連れていた男達に支えられながら口を開いた。
「い、言い間違えただけだ……こ、この件は私の独断である……いえ、あります。公爵様は何の関係もな……ありません……」
顔を真っ青にしながらも、悔しそうにそう言うポドロ。
それを聞いたサモンス侯爵は先程までとは違い、険しい表情を作った。
「では、貴殿はダラーム公爵の名を語り、一冒険者の財産である奴隷を奪い取ろうとしたのだな!この事はサモンス侯爵の名において、正式に国王陛下に報告させてもらう!ポドロ・イル・クロライド準子爵がダラーム公爵の名前を出して、冒険者の奴隷を奪い取ろうとした、と!沙汰があるまで、貴殿は大人しくしているのだな!もし、沙汰が出る前に王都を離れるような真似をした場合、最悪、国家反逆罪も覚悟せよ!」
侯爵は周囲に宣言するかのごとく声を上げた。
国家反逆罪と聞き、ポドロは驚愕の表情を浮かべ、その後で憤怒の表情へと変化したが反論する事は無く、男達に肩を借りながらこの場を後にした。
「改めまして、お久しぶりですサモンス侯爵様。そしてありがとうございます」
ポドロが視界から消え、さらに隠れている様子もない事を確認してから、俺は改めて侯爵に挨拶した。
「いえいえ、礼にはお呼びません。寧ろ改革派を牽制できた事で、こちらがお礼を言いたいくらいですよ」
侯爵は顔の前で手を横に振りながらそんな事を言っている。
「ですよね。近くに隠れて、こちらに出てくるタイミングを図っていたようですしね」
俺の言葉に侯爵は少し気まずいようで、俺から目線をそらして斜め上を向いた。
「あ~……気付いていましたか……申し訳ない。滅多に無いくらいのいいタイミングだったので、これを利用しない手はないと思いまして……」
少し焦り気味に言い訳をする侯爵だが、俺は全然気にしてはいなかった。寧ろ逆の立場だったら、俺も同じ事をする自信がある。
「いえ、全然気にしていません。王族派からすれば当然の事です。寧ろ侯爵様のおかげで、今後はジャンヌの事で改革派がチョッカイをかけてくる事が減るでしょうし」
なんにせよ、サモンス侯爵のした事で面倒事が一つ減った事は確かだ。おそらく今回の事で、改革派内のポドロの信頼が(あるのかは分からないが)地に落ちた事は確かだろうし、うまく行けばポドロは貴族としての権力を失うかも知れない。ただ、あいつからはレギルと同じような匂いを感じる……かなりの小物臭だ。
窮鼠猫を噛むという言葉のように、全てを失った小物が暴走すると、かなり厄介な事になりそうな気もする……小物過ぎて気がつかない内に近くまで来て、面倒くさい嫌がらせをやられた挙句、面倒くさい後始末をやらされる、みたいな感じで……フラグかな、これって?
そんなアホな事を考えているが、実際にポドロはレギルよりは、(悪)知恵が回りそうなので一応気をつけておいて、後で皆にも注意するように言っておこう。
侯爵も同じような事を考えたようで、『中途半端な小物は質が悪いな』などと呟いている。
「とにかく、国王陛下への報告は私がしておきましょう……ところで、テンマ殿は大会に参加されるんですよね?」
「ええ、個人とチーム戦に出ますが……それが何か?」
俺の言葉を聞いて、侯爵は肩を落とした。
「チームでも出ますか……いや、我が家の騎士団からも、ガリバーを軸にしたチームが出場する予定でしてね……テンマ殿のチームと早々と当たらない事を祈りますよ……本当に」
侯爵の騎士団が早々と敗退するのは体面上良くないようだ。何故、参加するのか?と侯爵に聞くと、思っていなかった言葉が帰ってきた。
「いえね、ガリバーを自慢したいんですよ。家のガリバーはそんじょそこらの『脳筋オーガ』では無いぞ!とね」
名誉では無く、自分の眷属の自慢の為に参加するなど、サモンス侯爵もかなりの『親バカ』のようだ。
しかし、テイマーが大会に参加する時は、大なり小なり自分の眷属を自慢したいという気持ちがあると俺は思っている。実際に、俺もそんな側面が無いかと聞かれたら、無いとは言わないだろう。
「あ~ガリバーは賢いですからね。オーガの性格を知っている者が見たら、あの賢さはオーガにしては異常と思いますよ。俺も驚きましたし」
オーガという魔物は、俺の中では三大脳筋に認定されている。一つ目がゴブリン、二つ目がオーク、そして三つ目がオーガだ。ただ個体別に見たら、そこまで脳筋では無い、と言う個体もいるが、種として平均的に見た場合、大体の冒険者の賛同が得られると思う。
それくらいオーガは脳筋だ。
「ですが、申し訳ありません、侯爵様。今回の大会の話題は、家のソロモンがいただきます」
いかにガリバーが珍しい『知能の高いオーガ』だとしても、ドラゴンであるソロモンにはかなわないだろう。
「くぅ~……せめてテンマ殿の出番の前に、ガリバーの出番がありますように!」
反論できない、といった様子で、空に向けて祈りだした。
「そう言えば侯爵様。最近、侯爵様の書いた本を王城の書庫で読みまして、『召喚術』を覚えましたよ」
「えっ!本当ですかっ!あれは召喚魔法の入門書だったんですが、家の息子達は覚える事ができなかったんですよ……なんとか長男の方にはマンツーマンで覚えさせる事が出来ましたが……あの本だけで覚えたと言うのは、テンマ殿が初めてですよ!」
侯爵の言い方ではあの本が不良品の様に聞こえるが、それは間違いである。寧ろ、入門書としては分かり易い部類の本であったと思う……ただ、問題なのは召喚魔法の適性が無い者が多いと言うだけで……
その事を教えると、侯爵は気がつかなかった、と目を丸くしていた。
召喚魔法は使い手がほとんどいない。現在の王国で使い手は十人もいないそうで、サモンス家の血が流れていない使い手は、今のところ俺くらいだそうだ。歴代でもサモンス家関係以外の使い手は、確認されているのは五人程だという。
召喚魔法は、サモンス侯爵の先祖が開発したとされており、その功績が認められてサモンス家が貴族の位をいただいた、と本には書いてあった。
召喚魔法には、実のところ二種類しか魔法が存在しない。
一つ目は召喚。これは物を呼び出す魔法で、自分のオリジナルで認識できる目印を付けた物を召喚する魔法であり、ゲームや小説みたいに召喚獣を呼び出す事はできない(ゴーレムのような無生物は例外)。
二つ目は遠隔瞬間移動。こちらは特定の位置に物を送ったり、目印を付けた物を取り寄せたりすることができる。
この二つには共通点も多いが、違いとしてはサモンは自分の認識できる位置に、アポーツは自分の手元付近に召喚する事ができ、サモンは召喚するだけだがアポーツは送り返すこともできる点である。
それだけならサモンの方がアポーツより劣っているように感じるが、サモンは自分の魔力が許す限り、召喚する物の大きさに制限はないが、アポーツはあまり大きすぎると召喚する事も送る事もできない……目安としては自分と同程度の大きさくらいが限界である
「私に娘がいたらテンマ殿に縁談を申し込むんですがねぇ……」
「いたとしても、ゲイリーと義兄弟になるのは抵抗があるんですが……」
抵抗があるどころか、断固として反対するだろう……主に向こうが……
俺の言葉を聞いて侯爵は苦笑いを浮かべているが、特に反論は無かった。
「では、そろそろ失礼します。今回は間に入っていただきありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ……今思いついたのですが、テンマ殿についていけば、馬鹿な貴族がまた釣れるんじゃないですかね」
侯爵は冗談で言っているが、俺としてはこれまでの経験上、そんな事は無い、とは言い切れない自分がいる。
そのまま侯爵と別れて俺達は付近を散歩をする事にした……闘技場には防犯や不正防止の為、関係者以外の立ち入りが禁止されていたからだ。
皆で屋台などを巡り、買い食いや冷やかしなどを繰り返しているうちに、俺の最近行きつけの店の近くまで来ている事に気がついた。
「すまないけど、少し顔を見せに行ってくる」
俺は皆に断りを入れて一人で行こうとしたが、皆付いてくる気のようなので一緒に向かう事にした。
皆と共に向かった店は、最近の流行も取り入れつつも古き良き伝統を守っているような店で、俺が王都で一番気に入っている店でもあった。
「こんにちは~、近くまで来たんで寄ってみました」
いつものようにその店のドアをくぐると、中で俺達を迎えてくれたのは……
「おう!テンマじゃないか!いらっしゃい!」
アイナやクリスさんはこの店の事を知っていたようで驚く素振りは無かったが、ジャンヌやアウラ、三人娘にプリメラは俺の行きつけの店としか聞いていなかったので、中を見てかなり驚いていた……最も、驚いたのは店の商品にではなく、店の商品を扱っている人にだ。
「なんだ?嬢ちゃん達は、女の私がこんなのを作っているのが珍しいのか?」
そう言って女性が片手で持ち上げたのは、軽く見積もっても30kgはするであろう大きな盾だった。
その盾は、ジャンヌがすっぽりと隠れてしまいそうな大きさだが、女性は鼻歌交じりに盾を持ち上げたまま色々と細かい調整をしている。
実は彼女はドワーフなのだ。ただし、普通の女性ドワーフよりも背が高く(160cmを少し超えており、女性ドワーフとしては長身の部類に入る)、ぱっと見では普通の人族の女性に見える。
最も、男性のドワーフであったとしても、30kgの大きな盾を片手で軽々と持ち上げたまま調整を行うなど、そう簡単に出来る事では無いので、ジャンヌ達が驚くのも無理はない。
「これでいいか……おいっ、これをしまっておけ、明日の朝一番で取りに来るはずだ!」
女性が部屋の奥に声をかけると、奥から二人の女性ドワーフがやって来て盾を回収していった。
「んで、テンマ。そんなに女を侍らせてどうしたんだい?それに、アイナやクリスまでいるじゃないか……男日照りで年下に手を出したのか?」
女性が汗を拭きながら俺の前にやって来て、ついでとばかりにアイナとクリスさんをからかっている。
その様子から察するに、二人は女性と仲がいいようだ。
俺はジャンヌ達を紹介すると、女性もジャンヌ達に自己紹介を始めた。
「初めまして、私はケリー。判りにくいかもしれないが、これでも純粋なドワーフさ!」
自己紹介が終わったところで、ケリーは俺を手招きした。
「しかし、テンマはいいところに来た。頼まれていた物の内の一つが、少し前に出来上がったところだ」
そう言って俺を、建物の奥の方にある工房へと案内した。
ジャンヌ達も勝手についてきていたが、ケリーは気にした様子はなく、何も言わなかった。
「ほれ、これが頼まれていた物だ。超特急で仕上げたが、当然手抜きは一切していないぜ!」
そこにあったのは、ふた振りの剣であった……いや、剣と称したが、剣にしてはサイズが大きすぎる上に、普通の剣には必ずあるはずの柄の部分が無く、代わりに丸い球状の物体がくっついている。
「これは私の知っている限りでは最大級の剣だよ。正直言って、まともな人間ならばこんな剣は注文しないし、造りもしないだろうね……それだけ常識はずれの一品だよ」
ケリーはとても満足そうに笑っている。
その剣の長さは2m、幅は50cm程で、一番厚い所は15cmくらいある。
見た目は、根元から剣先までがほぼ同じ幅で、剣の先が尖っておらず剣先は刃が弧を描くように造られていた。
剣の幅が根元から先までほとんど変わらないので、遠心力がつきやすいように、剣先の方が少し厚めになっている。
無論この剣は、俺自身が手に持って使うものではない。俺の切り札の一つでもある、『巨人の守護者』に装備させる為の剣である。
セイゲンのダンジョン内では使う事が無かったギガントだが、以前より何か武器を装備させる事はできないものかと考えていたのだが、大きさが問題となり造る事ができなかった。
王都に来て以来、暇を見つけては武器屋や鍛冶師を訪ねて歩き、造ってくれる職人を探したのだが、誰も相手にしてはくれず、くわしい話も聞いてもらえない有様だったのだ。
こちらとしても、そんな職人に頼むくらいなら自分でどうにかしようと思い始めた頃に、たまたまケリーの事を知り、試しに相談してみたところ、
「造る事は可能だが、お前自身が使う事の出来ない武器を造る気は無い!」
との事なので、実際にギガントを見てもらい、俺が依頼する品を使う事が出来ると理解してもらい、注文を受け付けてくれた。
それ以来ちょくちょく様子を見に来ている。
俺がケリーに注文をしたのは全部で四つ。その内の二つがギガントの剣であり、残りはハルバードに大身槍の柄を短くしたような武器だ。
通常の大身槍は、穂先が普通の槍の倍程の大きさの物を呼び、前世の天下三名槍と呼ばれている物と同種の武器のことである。ただし、今回俺が注文したのは、穂先が150cm、柄が100cmと大身槍と言うには歪なバランスの物を注文した。言ってみれば、大身槍を参考にした剣、とでも言えばいいだろうか?
この世界においては、このように歪なバランスを持つ武器を扱う者は、実のところかなり居る。なぜなら前世と違いこの世界には魔法などが存在するからだ。
使いづらいバランスの物でも、魔法や道具で自身の身体能力を強化したり、武器自身に魔法をかけて扱いやすくしたりする為、一風変わった武器などそこら中に存在する。
なので、ケリーも俺の注文に疑問を持つことは無かった……寧ろ、喜んで作成すると張り切っていた。なぜなら、武器の形よりも武器に使う素材が特殊だったからだ。
「しっかし、『ヒヒイロカネ』や『ミスリル』、おまけに『オリハルコン』を使った武器をこの手で作れるとは思わなかった」
そう、実は今回注文した武器の素材は、ギガントの剣を除いて、『ファンタジー世界における、最高(最硬)クラスの素材ベスト3(テンマ調べ)』をふんだんに使った贅沢過ぎる武器なのだ!(ギガントの剣の素材については、全て魔鉄を使用している)
ミスリルは俺が持っていた物とケリーが商売用に取っておいた物を使用し、ヒヒイロカネとオリハルコンについては、王家から報酬として頂いたものだ。
その報酬とは、主に財務卿の奥さん……ミザリアさんの治療代とティーダとルナを助けた事や、かなり前に王様を助けた事への対価の一部だそうだ。
ちなみに、ヒヒイロカネは『硬度においてオリハルコンより多少劣るが、魔力の触媒としては勝る』金属であり、硬度や触媒としてはミスリルよりも上の希少金属である。
素材にミスリルまで使った理由は、ヒヒイロカネとオリハルコンだけでは武器を二つ作るには量が足りなかったので、嵩増しをする為に使用したのだ……最も、最初にケリーとの打ち合わせの時に『足りない分はミスリルで補って』と言ったら、ケリーは口に含んでいた酒を毒霧のように吹き出してしまった。
金属の比率は、ミスリル・三、ヒヒイロカネ・四、オリハルコン・三、で作ってもらうのだが、三種類全てを混ぜ合わせて合金を作ることは無理との事だったので、混ぜ合わせる事が可能なミスリルとヒヒイロカネで合金を作り、オリハルコンを武器の芯にしてそれ以外に合金を使用する事にした。
「残りの二つは素材が素材だけに、どう考えても大会中には間に合いそうにない……すまないな」
ケリーは頭を下げて謝ってくるが、元から大会でこれらの武器を使用する気は無かったので、その事を告げ、ケリーが満足出来る仕上がりにしてくれ、と頼んでおいた。
「と、ところでテンマさん……あの大きな剣をチーム戦で使用するのですか?」
プリメラが恐る恐る聞いてくる。恐らく、あの剣の一撃を対戦相手が食らった場合の事を想像しているらしく、若干顔を青ざめさせている。
「いや、さすがにあれは使えないだろう……そもそも、ギガント自体を大会で使う予定は無いよ。あれはあくまで『ギガントの強化』が目的だからね」
俺自身がまだギガントを完全に操ることが出来ていないので、ギガントの手の部分を剣に変えたほうが今の状態では戦果が高いと考えた上での装備なのだ。
無論対人戦でも使えるが、ギガントは対集団戦、さらに言えば密集戦での戦いで最も効果を発揮すると考えているので、チーム戦くらいの人数ではその真価を半分も発揮することはできないだろう……最も、その半分でも並の相手にはオーバーキルになるだろうがな。
「忘れてた!テンマ、チーム組もうよ!」
リリーが思い出したように口にしたが、残念ながら俺のチームはもう決まっており、すでに俺をリーダーとして登録しているのでリリー達と組むことはできない。
その事を教えると、リリー達は残念そうにしていた。
「そうなると、残りのメンバーはどうしましょうか?」
プリメラの言葉に、リリー達は唸り声を上げている。残りのメンバーに俺を俺を当てにしていた為に、チームに空きが出来てしまった。リリー達もメンバーが足りない状態で勝つ事ができる程の実力があるわけでは無いと理解しているようで、真剣に考え込んでいた。
「条件付きでいいなら、私が出てもいいけど?」
そんなリリー達に、救いの手を差し伸べたのはクリスさんだった。
「騎士団の者が大会に参加する時は、騎士団の仕事が免除される場合があるの。急な事だから確実に参加できるとは言い切れないけど……それでもいいならメンバーの当てにしていいわよ」
との言葉に、リリー達よりもプリメラが喜んだ。
「クリス様がご一緒してくださるならば、とても心強いです!」
あまりの喜びように驚き、プリメラに理由を聞くと、どうやらクリスさんは女性騎士の中ではかなりの有名人であり、多くの女性騎士達からは目標とされているとの事だった。
「騎士になって早々に近衛に任命され、尚且つ陛下の護衛として抜擢されたクリス様は、女性騎士の憧れであり目標なのですよ!」
興奮気味のプリメラを見て、ドヤ顔でこちらを見てくるクリスさん。
「でも、男にはモテませんけどね」
そんなクリスさんに、アイナが余計な一言を言った。
「んなっ!それはアイナも同じじゃないのよ!」
「私は良くお声をかけられますよ。貴族の方に」
「あなたに声をかけてくる貴族なんて、ろくなのがいないじゃないのよ!」
「それでも声をかけられるだけましです」
だんだんとヒートアップする二人。俺はどちらも同じようなものだろ、と思ったが口にはせずに、我関せずを心がけていた。
だが、ここには空気の読めない者がいた。
「モテないのと変なのにしか声をかけられないのはどっちもどっちじゃないかな……」
ポツリと呟いたのはアウラだ。そして、そんな時に限って二人の感覚は研ぎ澄まされており、アウラの小さな声もちゃんと拾っていた。
「アウラ、それはどういう事なのかしら?」
「ちょっと外でお話しましょうか」
「えっ、えっ、ちょっと待って!」
それまで言い争っていた二人は、とても息のあったコンビネーションでアウラを追い詰め、ふたり仲良く挟み込むようにアウラの片手をそれぞれ脇にはさみ、外へと連れ去っていった。
「アイナ、クリスさん!」
「テ、テンマ様、助け……」
「先に帰ってますので、ごゆっくりどうぞ!」
俺の言葉に二人はこちらを向かずに頷き、店の外へと歩いて行った……その時に、俺に助けを求めるようなアウラの声が聞こえたが、あえて聞こえていないふりをした。
「それじゃあ、帰ろうか。ケリーまた来るよ」
「おう、またなテンマ!品物は大会が終わるまでには作り上げるからな!」
ケリーに別れを告げて、俺達は屋敷に戻る事にした。
その道中、広場にある市場の近くを通りかかると、何やら妙な賑わいを見せている店があった。
「あそこは魚屋のはずだったけど……何なんだ、あの人だかりは?」
その人だかりの中からは、何やら金属を叩きつけるような音が鳴り響いており、その音が鳴る度に歓声や悲鳴が上がっている。
「すいません。これは何のイベントですか?」
俺は近くにいた男性に声をかけると、男性は何やら興奮している感じで答えた。
「珍しい魚の解体に挑戦しているんだぜ!しかも、その魚がかなりでかい上に、ウロコが恐ろしく硬いらしく、さっきから失敗続きなんで、ついには腕に自信のあるやつがやってみろ!って店主が挑戦者を募っているんだ。おまけに賭けまで開催しているし」
俺達はその『でかい魚』とやらをひと目見ようと人だかりの中心に近づいてみると……
「ナミタロウかよ……そりゃ硬いわな……」
まな板代わりの台の上に横になっている『でかい魚』は、俺にとってはある意味同郷の『転生魚』だった……